ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲(シェーンベルク編曲)
南国のばら(シェーンベルク編曲)
酒、女、歌(ベルク編曲)
宝石のワルツ(ウェーベルン編曲)
室内楽:ボストン交響楽団室内アンサンブル
ジョーゼフ・シルヴァースタイン(第1ヴァイオリン) マックス・ホバート(第2ヴァイオリン)
バートン・ファイン(ヴィオラ)
ジェール・エスキン(チェロ)
ジェローム・ローズン(ハルモニウム)
ギルバート・カリッシュ(ピアノ)
ドリオ・アントニー・ドワイアー(フルート)
ハロルド・ライト(クラリネット)
録音:1977年4月3日、ボストン、シンフォニー・ホール
LP:ポリドール(ドイツ・グラモフォン) 2530 977(MG1194)
これは、大変愉快なLPレコードだ。というのは、あのヨハン・シュトラウスのワルツの名曲を、何とシェーンベルク、ベルク、ウェーベルンの3人の新ウィーン楽派の作曲家達が編曲をした曲を、ボストン交響楽団のメンバーが演奏したものだからだ。新ウィーン楽派とは、主に1900年代初頭にかけて、ウィーンで活躍した作曲家の集団で、先生役のシェーンベルク (1874年―1951年)と、ウェーベルン(1883年―1945年)およびベルク(1885年―1935年)の2人の弟子の3人を中心とした作曲家集団のことをいう。彼らは、無調音楽や十二音技法などの現代音楽を確立したことで知られる。一見すると、ワルツ王ヨハン・シュトラウスと新ウィーン楽派とは、水と油の関係のように感じられるが、意外や意外、シェーンベルクは、ヨハン・シュトラウスをはじめ、オッフェンバッハ、ガーシュインなどの新しい傾向の曲を高く評価していたのだという。当時、新ウィーン楽派は、従来からクラシック音楽の主流を占めていた権威主義的な傾向を厳しく批判していた。一方、ヨハン・シュトラウスの曲はというと、大衆に根差した音楽であり、決して権威主義的な曲ではない、というところを、どうも評価したようである。シェーンベルクは、現代音楽の普及団体「ウィーン私的演奏協会」の会長を務めていたが、ここでの演奏会では、しばしば自分達が編曲した曲を演奏し、さらに、その編曲した楽譜を販売していたというから、なかなかのものである。このLPレコードの石田一志氏のライナーノートによると、ベルク編曲の「酒、女、歌」が5,000クローネ、ウェーベルン編曲の「宝石のワルツ」が7,000クローネ、シェーンベルク編曲の「南国のばら」が1万7,000クローネで売られたという(ちなみに現在はというと、1クローネ=23円)。私は、このLPレコードの最初のシェーンベルク編曲の「皇帝円舞曲」を最初に聴いたときは、大いに驚いたことを思い出す。ヨハン・シュトラウスの曲には違いないのであるが、そこは、それ、シェーンベルク流のワルツに巧みに仕上がっていることには唖然とする。これはシェーンベルクの歌曲「月に憑かれたピエロ」の手引書のような役割を持った編曲ではないかと石田一志氏は指摘する。一度、これらの編曲を聴かれることをお勧めする。現代音楽への見方が変わるかもしれないのである。(LPC)