★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇イエルク・デムス&バリリ四重奏団員のブラームス:ピアノ四重奏曲第1番/第3番

2023-10-19 09:38:09 | 室内楽曲


ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番/第3番

ピアノ:イエルク・デムス

弦楽三重奏:バリリ四重奏団員
       
        ワルター・バリリ(ヴァイオリン)
         ルドルフ・シュトレング(ヴィオラ)
        エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)

LP:東芝EMI(ウェストミンスター名盤シリーズ) IWB‐60025

 ブラームスは、生涯に歌劇を一曲なりとも書かなかった。書かなかったという意味は、書こうとしても書けなかったのか、そもそも最初から書く意志がなかったのであろうか?多分、華やかな歌劇場の雰囲気は、自分の性分に合わないと頭から考えていたのではなかろうか。大学祝典序曲などは、ブラームスにしては、比較的歌劇的な要素の多い曲だが、このほかの曲でで歌劇を連想させ作品は思い至らない。これに対して、室内楽については、ブラームスは強烈な執着心を持って作曲し、名曲を数多く遺している。室内楽は、自分の心の内面との対話といった趣が強く、歌劇とは正反対な性格を有している。つまり、室内楽こそブラームスが本当に作曲したかったジャンルであり、こここそがブラームスの奥座敷であると言ってもいい。その奥座敷のそのまた奥に位置づけられるのが、今回のLPレコードのピアノ四重奏曲第1番/第3番であろう。室内楽が好きな人にとっては、誠に聴き応えがする曲であり、ここにこそブラームスの本音が語られているということを聴き取ることができる。ピアノ四重奏曲の第1番と第3番では性格が異なる。第1番はブラームス中期の重要な作品と評価されることも多く、一見地味な曲想に見えて実は、交響曲を連想させるようなスケールの大きさが垣間見れ、青年作曲家ブラームスの意欲が溢れ出ている佳作。実際、シェーンベルクによってオーケストラ版に編曲され、演奏会でも時々取り上げられている。実際「この曲の第1楽章は、ベートーヴェンの第9交響曲の第1楽章以後に書かれたもっとも独創的で感銘を与える悲劇的な作品」(ドナルド・フランシス・トヴェイ)と高い評価も受けている。最初の公開演奏は、1861年にハンブルグでクララ・シューマンのピアノで行われた。一方、第3番は、この曲を作曲中に、ブラームスの師でもあるシューマンの投身自殺という悲劇に直面し、そのためか暗い思いが曲全体を覆う。それを聴くリスナーも居たたまれなくなるような悲痛さに直面して、うろたえてしまうほど。でも、そこには、ある意味、人生の真の姿が投影されており、全曲を聴き終えた満足感は、計り知れないものがあるのも事実だ。ウィーン生まれの名ピアニト、イエルク・デムス(1928年―2019年)とバリリ四重奏団員の演奏は、そんなブラームスの曲を、重厚さと同時にロマンの色濃く演奏しており、ブラームスの心情を一つ一つ解き放ってくれるかのような名演奏を披露してくれる。(LPC)

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