メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング
指揮:アンタール・ドラティ
管弦楽:ロンドン交響楽団
発売:1980年
LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐261(6570 305)
往年の名ヴァイオリニストのヘンリック・シェリング(1918年―1988年)が、名指揮者アンタールドラティ(1908年―1988年)指揮ロンドン交響楽団の伴奏を得て、ヴァイオリン協奏曲の二大名曲であるメンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を収録したのが、このLPレコードである。中庸を得た演奏、そして実に美しいヘンリック・シェリングのヴァイオリンの音色が聴くことができ、聴き応えがのある演奏がたっぷりと収録された録音だ。アンタールドラティ指揮ロンドン交響楽団の伴奏は、奥深く、堂々とした演奏であり、この二大名曲を聴くのに誠に相応しいものに仕上がっている。ヘンリック・シェリングは、ポーランド出身であるが、後にメキシコに帰化し、音楽教育にも力を注いだヴァイオリニスト。ベルリンに留学し、カール・フレッシュにヴァイオリンを師事。ブラームスの協奏曲を演奏して、1933年にソリストとしてデビューを果たす。第二次世界大戦後は、メキシコの大学で音楽教育に携わり、1946年には市民権を取得。その後、米国での演奏活動が切っ掛けで、世界的ヴァイオリニストとして注目を浴びることとなる。その演奏スタイルは、あくまで知的で中庸を得たもので、その上、ヴァイオリンの音色が美しいという特徴を持ち、たちまちのうちに世界中のリスナーの心を奪った。このLPレコードのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の演奏においては、これらのヘンリック・シェリングの演奏の特徴が如何なく発揮され、流麗とでも言ったらいいほどの美しさに溢れた、最高のコンチェルト演奏をたっぷりと聴かせてくれる。一方、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、リスナーによっては「もう少し土臭さがあったら」と思う人もいよう。しかし、このLPレコードでのヘンリック・シェリングの演奏は、敢えて妙な演出はせずに、純粋な音楽として、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲に真摯に向き合った結果だと言える演奏内容となっている。ここでも伴奏のアンタール・ドラティの指揮の素晴らしさが一際光る。アンタル・ドラティは、ハンガリー出身。フランツ・リスト音楽院で作曲とピアノを学ぶ。1924年ハンガリー国立歌劇場で指揮者としてデビューを果たす。アメリカでのオーケストラ指揮者としてのデビューは1937年。その後、1940年にアメリカに移住し、1947年には帰化。BBC交響楽団首席指揮者、ミネソタ管弦楽団首席指揮者、ロイヤル・フィル首席指揮者、デトロイト交響楽団音楽監督などを歴任した。(LPC)