シューマン:ピアノソナタ第1番
幻想曲
ピアノ:マオリツィオ・ポリーニ
録音:1973年4月24日~29日、ドイツ、ミュンヘン、レジデンツ、ヘルクレス・ザール
LP:ポリドール SE 7401
このLPレコードは、今は既に巨匠の地位にあるポリーニの若き日(31歳)の録音である。驚くべきことに既にこの年で巨匠的演奏を行っていることだ。シューマンのピアノソナタ第1番と幻想曲の両方の演奏に言えることは、実に整然と組みたてられた演奏でありながら、内に秘めた情熱が背景にあり、単に演奏技術が優れているだけではないことが分る。この2曲は、いずれもピアニストの力量がはっきりと表れる曲である。ポリーニは、そんな曲を透明感溢れるタッチで、リスナーをシューマン独特のロマンの世界へと誘う。ポリーニは、僅か15歳で「ジュネーブ国際コンクール」第2位(1位なし)に入賞し、一躍国際的に名が知られる。そして、1960年の「ショパン国際ピアノコンクール」で優勝。その後一旦演奏活動から遠のくが、10年後の1970年から活動を再開。これはその再開後3年経ったときの録音だ。シューマン:ピアノソナタ第1番は、1832、3年頃に着想され、1835年に完成した。第1楽章:序奏付きソナタ楽章、第2楽章:アリア、第3楽章:スケルツォと間奏曲、第4楽章:フィナーレの4楽章構成。それまで小品に取り組んできたシューマンが、初めてソナタ形式の大作に挑んだ作品。初版は「フロレスタンとオイゼビウスによるピアノソナタ、クララに献呈」と題され、文学と音楽の融合を狙った曲。完成後、シューマン自身が「生命力に欠けている」と自己批判することとなった。しかし、現在では、ピアニストの有力なレパートリーの一つの曲となっている。一方、シューマン:幻想曲は、3楽章からなるソナタ風幻想曲で、「クライスレリアーナ」などと並び、シューマンのロマン主義志向が顕著に現れた作品。当初は「フロレスタンとオイゼビウスによる大ソナタ」と題され、各楽章にも表題がつけられていたが、最終的には外された。1835年、フランツ・リストらを中心としてボンにベートーヴェン記念像の建立が計画され、発起人に名を連ねたシューマンは、翌年から1838年にかけてこの曲を作曲した。この2曲をポリーニは、感情に溺れず、常に客観的に弾きこなす。このことが結果的に成功しているようだ。あまりにもシューマンのロマンの深みにはまり込むと、逆に印象がぼんやりとしがちだが、ポリーニのように冷静にシューマンの作品を演奏すると、シューマンの別の側面がくっきりと浮かび上がってくる。(LPC)