ショパン:夜想曲第1番 変ロ短調 op.9-1
第2番 変ホ長調 op.9-2
第3番 ロ長調 op.9-3
第5番 嬰ヘ長調 op.15-2
第8番 変ニ長調 op.27-2
第9番 ロ長調 op.32-1
第13番 ハ短調 op.48-1
第20番 嬰ハ短調 遺作
ピアノ:遠藤郁子
LP:日本コロムビア OS‐7028‐ND
録音:1968年6月10日~12日、日本コロムビア第1スタジオ
これは、わが国を代表するピアニストの一人である遠藤郁子(1944年生まれ)が、最初に録音した記念すべきLPレコードである。遠藤は、1965年ワルシャワの第7回「ショパン国際ピアノコンクール」に出場し、入賞は逃したものの、ポーランドの音楽評論家たちによる特別銀賞を受賞した。同年東京芸大を中退して、チェルニー=ステファンスカに師事。1970年に再び同コンクールに挑戦したが第8位、奨励賞受賞に終わった。しかし、これは個性豊かな遠藤の演奏が、コンクールという枠に納まりきれなかったためでもあり、遠藤郁子のピアニストとして正当な評価とは到底言えない結果であった。このLPレコードは、この2つの「ショパン国際ピアノコンクール」の間に録音されたもの。演奏は繊細で、揺れ動くようにショパンのピアノ曲の本質を掴み、美しい音色に加え、自然なテンポルバート、それに鋭い感受性を持った名演を聴かせてくれる。このLPレコードを聴き終えたリスナーは、きっと本物のショパンに接した感激に浸ることができよう。遠藤郁子は、1962年「日本音楽コンクール」ピアノ部門第2位。東京藝術大学で学び、1年生の時、安宅賞受賞。1965年以来、日本とポーランドを中心に、世界各国で演奏活動を続けた。1974年からはパリに在住。1980年日本ショパン協会賞。自らがんとの長い闘病生活を経て、再度ピアニストとして復活を果たした。2冊のエッセイ集「いのちの声」(海竜社)と「いのちの響き」(同)は、苦しみを負った人びとから、現在に至るまで静かに長く読みつがれている書籍となっている。彼女の演奏やCDが、不幸を背負った人々に、生きる力をもたらしたことから“奇跡のピアニスト”あるいは“癒しのピアニスト”と呼ばれるようになる。NPO法人「まずるか北海道」を母体にボランティア活動も、1987年以来精力的に続けている。1997年にはこれらの功績により松本市長より表彰を受けた。2014年には、デビュー50周年を記念して遠藤郁子ピアノ・リサイタル「北海道~パリ~そしてポーランド」を開催。これまで「ショパン国際ピアノコンクール」(ワルシャワ)、「ヴィアンナ・ダ・モッタ国際コンクール」(ポルトガル)などの審査員を務めた。また、アルド・チッコリー二の後継者として、伝統ある「オフリッド・サマー・フェスティヴァル(オフリッド・ユーゴスラヴィア)」の講師を5年間勤めたのに加え、東京芸術大学講師などを歴任。このLPレコードでの遠藤郁子の演奏は、全体が温もりのあるまろやかな雰囲気に包まれ、同時に深い情念の籠ったショパンの夜想曲像を鮮やかに描き出すことに見事成功している。(LPC)