★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇デムス&バリリ四重奏団のシューマン:ピアノ五重奏曲/ピアノ四重奏曲

2020-09-14 09:54:39 | 室内楽曲

シューマン:ピアノ五重奏曲/ピアノ四重奏曲

ピアノ:イエルク・デムス

弦楽四重奏:バリリ四重奏団

発売:1963年

LP:キングレコード MH 5026

 このLPレコードでピアノの演奏をしているイエルク・デムス(1928年―2019年)はオーストリア出身のピアニスト。若かりし頃、日本では、パウル・バドゥラ=スコダ(1927年―2019年)とフリードリヒ・グルダ(1930年―2000年)とともに“ウィーン三羽烏”と呼ばれていた。イエルク・デムスは、11歳でウィーン音楽学校に入学。1942年、在学中に楽友協会で演奏しデビューを果たす。イヴ・ナット、ギーゼキング、ケンプ、ミケランジェリ、エドウィン・フィッシャーなどのピアノの巨匠たちに師事。1956年の「ブゾーニ国際コンクール」で優勝し、一躍世界的な注目を浴びる。独奏者としての活動のほか、シュヴァルツコップやフィッシャー=ディースカウなどのピアノ伴奏、さらには室内楽奏者としても活躍した。特に、バッハやモーツァルト、ベートーヴェンなどドイツ・オーストリア系の作品の演奏には造詣が深かった。しばしば来日し演奏を行ったが、2011年春、東日本大震災後に多くの演奏家が来日を中止する中、中止せずコンサートを行ったことで話題を集めた。バリリ四重奏団は、メンバーの全員がウィーン・フィルの出身者で占められ、コンサートマスターを務めていたワルター・バリリの名から、バリリ四重奏団と呼称していた。当時、ドイツ・オーストリア系の作品の演奏では、右に出るものはないとも言われた著名なカルテットであった。この両者が共演したシューマン:ピアノ五重奏曲/ピアノ四重奏曲のこのLPレコードは、現在でも、これら2曲を代表する名演奏の録音の一つに数えられるほどの名盤となっている。それは、両者がドイツ・オーストリア系の作品を得意としており、とりわけシューマンの作品に関しては、他の追従を許さない境地にあったためである。A面のピアノ五重奏曲の演奏は、両者の間の息がぴたりと合い、軽快なテンポで演奏が進められる。しかし、決して軽薄にはならず、しかもいたずらに重々しくもならず、中庸を得た演奏なのである。その中庸な演奏も、深みのあるもので、背景には確信にも似た力強さが控えているのである。これは、ウィーンで身に着けた音楽を共通のバックボーンとしているからに他ならず、他の追随を許さない何かが秘められた演奏内容だ。B面のピアノ四重奏曲の演奏内容は、ほの暗く幽玄なシューマン特有のロマンの世界を、両者は巧みな表現で演奏する。もうこうなると、ウィーン情緒を前面に掲げ、シューマンの世界を余すところなく披瀝し尽くすといった感じだ。聴き終わって見ると、これら2曲を代表する録音だけはある、ということが強く印象付けられる。(LPC)

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