「植草一秀の『知られざる真実』」
2015/06/03
シロアリ退治なくして消費税再増税なし
第1160号
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日本政策投資銀行の社長に柳正憲副社長が昇格することが政府の閣議で了解さ
れた。
前身の日本開発銀行の時代も含めて、生え抜きの行員がトップになるのは初め
てのことになる。
日本政策投資銀行は旧大蔵省、現在の財務省にとって最重要の天下り機関のひ
とつである。
財務省の天下り先には序列があった。
東西正横綱が日銀総裁と東証理事長だった。
その次に重要な「御三家」が
開銀(現在の日本政策投資銀行)
輸銀(現在の国際協力銀行)
国民金融公庫(現在の日本政策金融公庫の前身の一部)
である。
また、民間企業では、
JT(従来の日本専売公社)
横浜銀行
西日本シティ銀行
などが、最重要天下り機関として位置付けられてきた。
これらの機関を頂点として、巨大な天下りピラミッドが構築されてきた。
官僚は民間企業よりも低い給与で働いているのだから、退官後に天下りで生涯
所得の挽回を図るのは当たり前だとの意識が持たれてきた。
その天下りの構造は、ほとんど改革されていない。
旧開銀、現在の日本政策投資銀行には優れた人材が数多く、大卒で入行してい
る。
したがって、この機関の幹部を生え抜き職員=プロパー職員が務めるのは当然
のことなのだ。
ところが、財務省は、政投銀が所管の金融機関であることを理由に、永きにわ
たって、政投銀(開銀)を実効支配し続けてきた。
今回社長に就任する柳氏の前任にあたる橋本徹氏は、旧富士銀行出身で、民間
からの起用であるが、実は副社長に財務省出身者が天下りしており,実体とし
ては、財務省出身の副社長がこの銀行を支配してきたわけだ。
今回、社長に生え抜きの職員が就任するが、これまで同様に、経営の実権が財
務省出身の副社長に握られないのか、監視が必要である。
「天下り」の問題は、2009年に「消費税増税」の問題と絡めて大きな問題
に浮上した。
私は1990年代の後半から、「天下り根絶」を提唱し続けてきた。
20年来の主張である。
橋本龍太郎政権が、この声に対応して、政府関係機関の統廃合に取り組んだ
が、抜本的なメスを入れるまでには至らなかった。
それでも、官僚利権の問題に焦点が当てられるようになったことは、大きな前
進ではあった。
小泉政権は政府系金融機関の統廃合に取り組み、一定の前進を示したが、官僚
天下りの根絶には手が届かなった。
それでも、これまでは財務省の指定席とされてきた政府系金融機関のトップポ
ストに民間人が起用されるような変化が生じたのである。
政府系金融機関のトップに民間人が起用されるようになった。
しかし、外から来た民間人が政府系金融機関を完全掌握することは至難の業で
ある。
財務省はナンバー2ポストを死守して、実体として政府系金融機関の支配を確
保してきたのである。
いわゆる実効支配である。
今回は、生え抜き職員が初めて政投銀トップに就任することになる。
これはこれで、意味のあることだが、これで問題が解決するわけではない。
2009年8月30日の総選挙に際して、野田佳彦氏は
「シロアリを退治しないで消費税を上げるのはおかしい」
と、声を張り上げて訴えた。
2009年8月15日の野田佳彦氏による大阪街頭での演説は、
「野田佳彦のシロアリ演説」
として有名になった。
2012年初に本ブログで紹介して広まった演説である。
http://www.youtube.com/watch?v=y-oG4PEPeGo
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2013/11/post-f909.html
「改革」を断行すると宣言したのは野田佳彦氏だけではない。
岡田克也氏も同じだ。
いま改めて、「シロアリ」と「消費税増税」の問題を徹底的に掘り下げる必要
がある。
財務省は政投銀社長ポストを狙っていた。
ところが、今回は生え抜き職員が社長に起用された。
その裏側から透けて見えるのは、2017年4月の消費税率10%実現に向け
ての「パフォーマンス」である。
政投銀社長に生え抜き職員が起用されるのは歓迎すべきことだが、より重要な
ことは、これで溜飲を下げてはならないということだ。
「めくらまし」に惑わされてはならない。
現在の税制改正の方向は、明確に
「弱肉強食推進」
である。
消費税を大増税して、法人税減税を推進する。
「資本栄えて民亡ぶ」
方向に経済政策、税制改革の方向を定めている。
他方、政府の財政赤字が問題であるとしながら、財政支出の無駄を切る詰める
ことは一切しない。
財務省が切ろうとする政府支出は
1.社会保障支出
2.地方交付税
3.公共投資
の三つである。
しかし、3の公共投資については、与党の利権と対立する分野であるから、財
務省は「官僚利権」を守るために「公共事業利権」を容認している。
悪代官と御用商人が結託して、
「越後屋お前も悪じゃのう」
と盃を交わす関係になっている。
地方交付税は国と地方の縄張り争いで、省庁としては
財務省 対 総務省・警察庁
の対立図式で決着が図られる。
財務省も強いが、総務・警察も、旧内務省であって、強い力を有している。
だから、ここも簡単には圧縮されない分野である。
この結果として、歳出抑制の最大のターゲットとされているのが
社会保障支出
なのだ。
政府の支出は二つに分類できる。
利権になる支出
と
利権にならない支出
である。
透明な制度で、国民の権利として提供される政府支出が、一番利権になりにく
い。
制度で定められた支出を国民が受け取るのは「権利」であって、そのことに
よって、「支出」見合いの「キックバック」を国民に求めることはできないか
らだ。
「キックバック」というのは、「お金」のこともあれば、「選挙での協力」と
いうこともある。
つまり、「カネと票」になるのかが判断の基準になる。
「官僚の利権」となると、話はもう少し複雑になる。
政府支出の対象となるさまざまな機関が、天下りの受け入れ先になっている。
たとえば、地方の観光振興のためにパンフレットやさまざまな補助金の提供が
行われるとする。
このとき、このパンフレットを作成する機関が政府の外郭団体で、天下り受け
入れ先になっている。
観光産業に補助金を出す機関があれば、その機関が天下りの受け入れ先になっ
ている。
官僚機構は、このような政府支出だけを優遇するのである。
生活保護、医療費の公費負担、その他さまざまな社会保障支出は、
「国民の権利」
として政府支出が行われるために、官僚、政治屋、御用企業の利権になりにく
い分野なのである。
そこで、財務省が進める財政改革では、常に、社会保障支出だけが削減の標的
にされるのである。
逆に、官僚利権につながる支出には、指一本触れようとしないのだ。
具体的には、天下り機関が関与する政府支出は財政改革の対象とされない。
かつて、民主党政権時代に「事業仕分け」なるものが実施されたが、これも
「パフォーマンス」の一環でしかなかった。
財務省が仕切る「事業仕分け」は、財務省の利害に基づく作業であって、肝心
要の財務省の利権を切る作業はまったく行われなかったのである。
2009年7月14日に野田佳彦氏が衆院本会議で行った、麻生太郎政権不信
任決議案に対する賛成討論の内容を再掲する。
実は本メルマガのサンプルとして掲載している記事に、この内容を盛り込んだ
のだ。
本メルマガの出発点に位置する事項でもあるのだ。
http://foomii.com/00050
「私どもの調査によって、ことしの五月に、平成十九年度のお金の使い方でわ
かったことがあります。二万五千人の国家公務員OBが四千五百の法人に天下
りをし、その四千五百法人に十二兆一千億円の血税が流れていることがわかり
ました。その前の年には、十二兆六千億円の血税が流れていることがわかりま
した。消費税五%分のお金です。さきの首都決戦の東京都政の予算は、一般会
計、特別会計合わせて十二兆八千億円でございました。
これだけの税金に、一言で言えば、シロアリが群がっている構図があるんで
す。そのシロアリを退治して、働きアリの政治を実現しなければならないので
す。残念ながら、自民党・公明党政権には、この意欲が全くないと言わざるを
得ないわけであります。
わたりも同様であります。年金が消えたり消されたりする組織の社会保険庁の
長官、トップは、やめれば多額の退職金をもらいます。六千万、七千万かもし
れません。その後にはまた、特殊法人やあるいは独立行政法人が用意されて、
天下りすることができる。そこでまた高い給料、高い退職金がもらえる。また
一定期間行けば、また高い給料、高い退職金がもらえる。またその後も高い給
料、高い退職金がもらえる。六回渡り歩いて、退職金だけで三億円を超えた人
もおりました。
まさに、天下りをなくし、わたりをなくしていくという国民の声に全くこたえ
ない麻生政権は、不信任に値します。」
財務省は2017年4月の消費税率10%実現を勝ち取るために、今回、政投
銀社長ポストの奪還を見送った。
しかし、これで天下り問題が解決するわけではない。
基本的に何も変化は生じていない。
安倍政権が発足して以来、財務省は激しい勢いで天下りポストの奪還を進めて
きているのが実態である。
こんな小手先の弥縫策で、消費税大増税を許してはならない。
天下りの全面禁止を実現して、日本政治における「官僚支配」の構造を打破し
なければならないのである。