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地球儀俯瞰しても視野狭窄では重要判断を誤る

2015年04月03日 10時53分50秒 | 政治経済、社会・哲学、ビジネス、

                  

「植草一秀の『知られざる真実』」

                             2015/04/01

 地球儀俯瞰しても視野狭窄では重要判断を誤る

           第1114号

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AIIB(アジアインフラ投資銀行)が中国主導で設立される。

これまでのアジア地域における国際開発金融機関としてはアジア開発銀行があ
り、いわゆるIMF・世銀体制の国際金融体制の枠組みのなかで、日本が中心
的な役割を担ってきた。

これに対して、中国が新たに、アジア地域を軸とする国際開発金融機関を設立
し、中核的な役割を担おうとしている。

英国、ドイツ、フランス、オーストラリアなどが相次いでAIIBへの参加を
表明し、AIIBが巨大な国際機関として発足することが確実になった。

日本は、アジア開発銀行(AIB)を主導する立場から、AIIBへの参加に
消極的な発言を繰り返しているが劣勢は明白である。

遅ればせながら、AIIB発足後に参加を申し入れる事態に追い込まれる可能
性が高い。

米国はAIIBの透明性確保を要請しているが、米国のアジア戦略の中心に
は、中国との連携が置かれており、時機を見て、米国もAIIBに参画する可
能性が高い。

米国の支配下にある日本は、米国を頼りに、AIIBを牽制する発言を繰り返
してきたが、主要国が揃ってAIIBへの参加を決定し、頼りにしてきた米国
でさえ、中国との連携に前向きな姿勢を示しているため、アジアにおける孤児
に陥る気配が濃厚である。

根幹にある問題は、安倍政権がアジア友好ではなく、アジア敵対の基本方針を
示していることにある。

日本だけがアジア敵対の方針に執着すれば、日本だけがアジアだけでなく、世
界から取り残される状況に追い込まれることは必定である。

安倍政権の視野狭窄の外交姿勢を是正しなければ、日本国民が大きな損失を受
けることになるだろう。



昨年10月に上梓した

拙著『日本の奈落』(ビジネス社)

http://goo.gl/48NaoQ

において、私はAIIB(アジアインフラ投資銀行)の重要性をすでに指摘し
ている。

AIIBについて既述した箇所を以下に転載する。


「安倍首相は、中国を敵視し、中国包囲網を形成する方針を掲げてきたが、完
全なる空回りに終わっている。

韓国は日本との協調関係構築を拒んでいる。

安倍首相はインドに対する思い入れを強め、インドに対する巨大な経済支援を
約束しているが、そのインド自身は、日本だけではなく、中国との友好関係も
重視している。


安倍政権は、ロシアとの協力関係を強化し、日ロ友好関係をアピールすること
によって、中国包囲網を形成しようとしたが、ウクライナ問題に対する日本の
経済措置発動の影響もあり、ロシアは逆に中国に急接近する対応を示してい
る。

インドも日本よりはむしろ中国との関係強化を強めており、欧米と日本によっ
て構成されているG7の枠組みに代わる、いわゆる新興経済発展国グループで
あるBRICS諸国、すなわちブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ
の再連携が再び強調され始めている。


これまでの世界経済を支配してきたのは日本を含む欧米とIMF・世銀体制で
あったが、これに対抗してBRICS諸国は7月にブラジルで開いた首脳会議
でBRICS開発銀行と新しい外貨準備基金を創設する方針を決めた。

BRICS版のIMF・世銀体制を構築しようというわけだ。


中期的に考えれば、世界の成長の主軸は、欧米からこの新興国に転換する。

中国、インド、ブラジルの潜在力は極めて高く、ロシアは巨大な地下資源を有
する大国である。

日本の国家戦略としては、東京大学の安富歩教授が指摘しているように、3つ
の点を留意する必要がある。



第1は経済成長の中軸が従来の製造業から非製造業に移行していることであ
る。とりわけITに関連した産業分野が急速に広がりを示している。

第2に日本経済の最大の脅威は人口減少である。人口減少の主因は、弱肉強食
推進政策にある。

弱肉強食推進の新自由主義経済政策を推進しながら、少子化対策を講じること
は根本的な矛盾を有している。

西を目指しながら東に進めと言っているに等しい。


そして第3に世界経済の構図が大きく転換しようとしていることだ。

世界経済の成長の中心が欧米からエマージング市場、新興国経済に明確に移行
していく。


この大局観を正確に捉えることなしに日本の経済政策戦略が構築されていると
ころに、根本的な欠陥がある。

安倍政権が推進する成長戦略とは、単純な弱肉強食推進政策であり、それは米
国を中心とするグローバルな強欲資本の利益を増大させることだけを目的とす
るものである。

しかしながら、グローバルな強欲資本の利益拡大を追求する政策の内容が、弱
肉強食推進政策である以上、日本においては大多数の一般国民がより下流に押
し流され、そのことが消費の構造的な停滞と、少子化の加速をもたらすことに
なる。


その延長上に生じることは、日本経済の衰退、そして消滅なのである。

欧米が欧米による世界経済支配を強化しようとすることに対し、BRICSな
どの新興国がこれに対峙する経済構造を構築する戦略を提示し始めている。


新興経済発展国の中核を担うのは中国であると見て間違いないだろう。

2014年11月に中国の北京郊外でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首
脳会議が開催される。

この開催に合わせて、中国は「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の創設
を打ち出す準備を進めている。

BRICS開発銀行ではなく、中国が名実ともにリードするアジアでの経済発
展を支援する資金供給の国際拠点を創設しようという試みである。


中国は4兆ドルに近い、世界最大の外貨準備保有国であり、この外貨準備資金
を活用して、中国を軸とする新世界秩序構築に踏み出す構えを示しているので
ある。


日本政府が、ただひたすら米国の命令に従うだけの、対米追従、対米隷属の経
済外交政策を展開し続けることは、中期的に見て、日本経済および日本の主権
者にとって最善の結果をもたらさない可能性が高い。

視野狭窄から離れて、世界情勢を俯瞰する、広い見地に立った国家戦略、経済
外交戦略を構築することが求められている。」

(ここまで転載部分)



重要なことは、米国がアジア戦略の中核に「米中関係」を置いていることだ。

本年2月13日付ブログ記事

「『崖っぷち国家日本の決断』が明かす不都合な真実」

http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2015/02/post-c543.html

メルマガ記事

「日本の針路を定めるための十分な論議が欠落」

に、ニューヨークタイムス東京支局長であるマーティン・ファクラー氏の指摘
を紹介した。

以下に、上記記事の記述を転載する。

「日本では中国は日本の敵、そして米国の敵。

日本が中国とことを構えるときには、米国が必ず日本の味方になると信じて疑
わない人が多い。

しかし、この点について、ファクラー氏は根本的な異議を唱える。

「日本側にはまだ冷戦時代のマインドセット(=固定観念)が残っている。

「中国は、冷戦時代、アメリカの敵だったロシア(ソビエト連邦)のような存
在になる」

「冷戦時代には日本はアメリカにとって不可欠な、絶対に必要な存在だった」

という感覚が残っているが、この両方ともが間違っている。」

というのだ。

ファクラー氏は断言する。

「中国は絶対、ソビエト連邦にはならない、

中国はアメリカのもっとも大事な経済的なパートナーである」

「ペンタゴンとか安全保障村の一部の人たちは中国を敵にしようとしているか
も知れないが、アメリカは歴史的に中国に対して、非常に好意というか、共感
のような感情を昔から持っている。」

と指摘する。

1930年代に日本が中国を侵略した際も、アメリカ国内では、中国への日本
の侵略は絶対に許さないという感情が高まったとファクラー氏は指摘するの
だ。」



ファクラー氏の指摘が米国の現実そのものであるとは言わないが、米国が中国
を敵対視しているという「先入観」は現実に適合していない。

ファクラー氏も指摘するように、いわゆる「日米安保村」、あるいは、「産軍
複合体村」の住人は、日中関係の悪化を推進し、米中戦争や日中戦争の脅威を
煽ろうとするが、こうした見方は、全体からすれば、極めて偏った見識である
と言わざるを得ない。

日本経済は2014年に消費税大増税不況に突入した。

この不況のどん底から這い上がるうえで、大きな力を付与したのは、訪日観光
客の日本での消費活動である。

中国人観光客が多数来日して、日本での消費を活発化させている。

この消費が日本経済を底支えしているのは事実である。

日中両国の経済活動における関係は深まっており、相互依存関係を強めてい
る。

安倍首相が中国を毛嫌いしていても、日本経済が中国によって支えられている
面を否定することはできない。

このことは、逆の側面でも言えることだ。

中国経済も日本経済によって支えられている部分がある。

相互依存関係を認識して、友好な関係を築くことを目指すべきである。



英国、ドイツ、フランスは、米国の牽制を無視してAIIBへの参加を表明し
た。

これからの世界経済における中国の重要性を否定し切れないからである。

中国は2010年に日本を抜いて、世界第2位の経済大国に浮上した。

それから、わずか5年間で、GDP規模は日本の2倍に達した。

かつて日本が国際社会で脚光を浴びた最大の理由が経済規模の拡大であったこ
とを踏まえれば、中国の国際社会でのプレゼンスの上昇はまさに順当なことな
のである。



昨年11月に北京でAPEC首脳会議が開催された際、日本では、中国の習近
平主席が苦虫を噛み潰したような表情で安倍晋三氏と握手を交わした写真だけ
が大きく取り上げられたが、国際社会の受け止め方はまったく異なるもので
あった。

中国の経済台頭を国際社会は客観的に適正に報じていたのである。

この時点から、AIIBの構想は極めて重要なトピックスであった。

日本のメディアは、これまでAIIBについての報道をほとんど行ってこな
かった。

そして、結果として、日本だけが取り残されるという事態が発生しているので
ある。

中国のすべてが正しいなどと言うつもりは毛頭ない。

しかし、日本は中国の隣国として、健全で友好的な日中関係の構築に尽力する
べきなのである。

村山談話で決着済みの日本の歴史認識を、わざわざ蒸し返して、日本の対アジ
ア関係を混乱に陥れる必要性は皆無である。

日本の主権者は、日本の独立自尊、平和で友好的な諸外国との外交関係を求め
ているのである。

米国には土下座外交を繰り返し、アジア諸国とは無用の摩擦を次々に引き起こ
す外交を、日本の主権者が求めていないことを、安倍首相は銘記するべきであ
る。


自衛隊は「軍隊」ではない

2015年04月03日 10時44分19秒 | 政治経済、社会・哲学、ビジネス、

                    

自衛隊は「軍隊」ではない

2015/3/31

 安倍首相が国会で自衛隊を「わが軍」と呼び、野党はそれを問題にしたが、政府与党は「問題ない」の一言で押し切ってしまった。

 しかし、わが国の最高法である憲法はわが国が軍隊を保持することを明白に禁じており、その故に自衛隊を根拠づける法令は警察の法体系になっている。だから、国の最高責任者が自衛隊を「軍」と呼んだことは、最高権力者の憲法認識が間違っていることに外ならず、由由しい問題である。

 まず、憲法9条は、1項で国際紛争を解決する手段(これは、国際法の用語で『侵略』目的を意味する)としての「戦争を放棄」している。だから、わが国は、侵略戦争はできないが、自国が侵略の対象にされた場合に自衛はできることになる。ところが、2項で「陸海空軍その他の戦力(つまり、どのような名称で呼ぼうが『軍隊』)は保持しない」と、わが国が軍隊を保有することは認められていない。さらに、それを徹底するために、「国の交戦権(他国との戦争する法的資格)は、それを認めない」と明記している。

 だから、わが国の自衛隊は、海外で、他国の軍隊のように行動する法的資格が与えられておらず、仮に自衛隊が海外で軍事活動を行えば、それは免責されず、自衛隊の行動は「海賊」か「山賊」(つまり組織犯罪)になってしまう。

 さらに憲法は、76条2項で(軍法会議などの)「特別裁判所は…設置…できない」と明記している。だから、わが国の自衛隊は、他国の軍隊のように職務執行としての破壊・殺人行為について原則として免責される法制度上の保護を受け得ない存在である。

 憲法上これだけの制約があるわが国で、警察予備隊(第二警察)として発足した自衛隊は、意味を持って、「軍隊」ではなく「自衛隊」という尊い名称を与えられたのである。

 それを、総理大臣が国会で「わが軍」と呼び、それを野党から批判されたら官房長官が「問題ありません」で済ませてしまう。今、日本の政治は、知性というよりも倫理性が弛緩しているようで、心配である。

 人間なら誰でも思い違いや言い間違いはある。だから、謝して訂正すれば済むことである。

 ところが、安倍内閣では、野党からの鋭い批判には、無視したり、論点をそらしたりする答弁が多すぎる。そして、ついに今回は、憲法無視発言の開き直りである。聞かされている国民はまるで愚民の扱いである。

(慶大名誉教授・弁護士)
 
※小林節一刀両断コラム3月31日より「転載」