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岡本喜八監督作品 今何処ベスト8(その2)

2010年04月15日 | ドラマ
続きです。

【岡本喜八監督作品 今何処ベスト8(その1)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/6e67003ada989815a793e29a496908f6

■第5位 「江分利満氏の優雅な生活」(1963年/モノクロ)
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■あらすじ:江分利満氏は、酒造メーカーのうだつの上がらないサラリーマン。戦中派、三十六歳。頭がはしっこく回るわけでもなく、だらしがない。それでいて営業部にいたりする。あまり役に立っていない。そのくせ酒癖が悪く、飲みに行くといつも周りの人間に絡み出し、切々と説教とも愚痴とも雑学ともつかぬものを語り出すのだった。酒場で知り合った出版社の編集が、その“語り癖”に目をつけ、是非、うちの雑誌に原稿を書いてくれないかと持ちかける。江分利氏は酔ったいきおいで依頼を快諾する。…次の日、酔いが冷めて自分が原稿の依頼を引き受けた事を知った江分利氏。………困った。俺は一体なにを書けばいいんだ?

■評:この後、江分利満氏の他愛もない独り言が延々と続くわけですが、これが何とも「面白い」w父親は起業と借金を繰り返して遂に破産して落ちぶれて、その借金は自分にものしかかっている。ようやく得た息子は喘息に苦しんでいる。それでも楽しくつらく生きている。
不幸にも負けず、清く正しく生きている……そんなお涙頂戴な話じゃない。不幸を嘆いて恨み、酒を飲んで管を巻き、周りに当り散らしたり、ぐっと堪えたり、そうやって気を晴らして、才能無く、だらしなく生きている。それが素晴らしいんじゃないかw

もしも、江分利が、発作の夏子と喘息の庄助を抱えて、もしも、この世を何とか過ごしたとしたら、これは大変な事じゃないか?壮挙じゃないか?才能のある人間が生きるのはなんでもないことなんだよ。宮本武蔵なんて、ちっとも偉くかないよ、アイツは強かったんだから!ほんとうに偉いのは一生懸命生きてる奴だよ、江分利みたいなヤツだよ!

こんな痛快なセリフを吐きながら、無二の、普通の人生を生きて行く物語です。どうも調べると興行的には相当失敗した映画だったみたいなんですが…。いやぁ、僕はこの作品、すごく力強いエンターテインメントだと思います。


■第6位 「斬る」(1968年/モノクロ)
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■あらすじ:天保年間のとある小藩に二人の男が流れ着く。一人は百姓に嫌気がさして武士になりたくて村を飛び出した男、田畑半次郎(高橋悦史)。もう一人は侍に嫌気がさしてやくざに身を落とした男、兵頭弥源太(仲代達矢)。半次郎はこの藩が侍を募っていると聞いてやって来たのだが、果たしてその直後、領民に圧制を強いていた城代家老が七人の青年武士たちによって斬り殺される。
しかし、それは新たな陰謀の幕開けに過ぎなかった。半次郎は城代家老へのなり代わりを画策する次席家老の鮎沢(神山繁)の集めた浪人隊に入り、源太は鮎沢によって秘密裏に始末されようとしている七人の若侍たちを守ろうと奔走しはじめる。

■評:岡本喜八版「用心棒」+「椿三十郎」といった感じの映画ですね。冒頭の雰囲気やそのごの展開など、かなりそのものという感じです。まあ、間違いなく岡本監督は“それ”を意識して作ったでしょう。それでいてラストの何とはなし(?)の明るさとか、端々の演出には岡本喜八監督らしさが出ています。いや、正直に言うと、僕は「用心棒」や「椿三十郎」より、こっちの方が好みだったりします(汗)

「戦国野郎」と同じように幾つかの勢力がそれぞれの思い思惑で行動し重厚なストーリーを編み成して行きます。また、ラストの対決で、拷問を受けてまともに刀を振ることも、歩くこともできない源太が、狭い茶室で藩内一の使い手と言われる家老の鮎沢を斬り殺すシーンは圧巻です。“決着のカッコ良さ”があります。


■第7位 「地獄の饗宴」(1961年/モノクロ)

■あらすじ:カメラを手に繁華街で外国人の売春屋を生業とする男、戸部(三橋達也)は、道端に落ちていたフィルムを拾い中身を現像してみるが、そこには戦時中に上官だった男、伊丹(田崎潤)が女と写っていた。この写真が金になると踏んだ戸部は伊丹の経営する会社に乗り込むが、伊丹は会社の金を持ち逃げして死んだ事になっていた。伊丹が生きている事を知った戸部は、伊丹の愛人・冴子と組んでさらなる大金を手に入れようと立ちまわるが…。

■評:何ていうか最もノーマルな岡本喜八の面白さを抜き出した映画に思えました。ウェルメイドという言葉がぴったりくる。先に暗黒街シリーズ三部作というか…ギャングものの連作の集大成的な完成度を持った作品です。悪党・戸部と、悪女・冴子の面従腹背さだかならぬ共闘劇のやりとりで、ぐいぐい物語を引っ張って行きます。
パターンとしては、小悪党(チンピラ)が大金を手に入れるために危険を冒して滅びの道を歩む……僕は「チンピラ・エレジーもの」って言うんですが、その類型に入ると思うんですが、世の中なめて甘い夢見ておっ死んでしまう「チンピラ・エレジー」と一線を画すのは、主人公が戦地を生き延びた男だからなんですよね。「俺は殺しはしねえ」って言うんですが、単なるカッコつけを超えた重い言葉です。それが作品に強い陰影を与えています。


■第8位 「近頃なぜかチャールストン」(1981年/モノクロ)
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■あらすじ:道端であった女を追いかけて婦女暴行未遂で留置所に入れられた小此木次郎(利重剛)はそこで、日本人を止めてヤマタイ国の国民となったという奇妙な老人たちと出会う。気になった次郎はヤマタイ国を探したが、そこは次郎の蒸発した父親が無償提供している家だった。そこがヤマタイ国の領土なのだ。不法入国で捕まった次郎は、やがてヤマタイ国の労働大臣に任命されるが…。

■評:ユーモアとペーソス溢れる反戦ものと言う評が一番しっくり来ます。しかし、不思議な作品なんです。たった一軒家の独立国の中で、老人たちが総理大臣やら外務大臣やら大蔵大臣やらを名乗っている。その突飛な、一種シュールな展開にまず引きつけられます。そして、その冗談に込められている老人たちの思いを次第に受け止めてゆく中で、何と言うか、この勝手気ままな、犯罪もものともしない、いい加減で、優しさに溢れた生き方が、案外悪くないかも……って思わされた時、その映画にどっぷりはまっている事に気付くんですねwそして、そんな喜劇でも「生と死」はやっぱり在るのだ…というラストは強く心に残ります。


こんな感じでしょうか…8つと決めていたので、選から漏れて心苦しいものもあるのですが…まあ、まあ、まあ。一つ言っておくと岡本監督を知る(?)という意味では「肉弾」(1968年)をオススメしておきます。豊橋の陸軍予備学校で終戦を迎えたという岡本監督の“肉声”に一番近い作品じゃないかと思っています。

では。そんな感じで。