自転車操業日記

自転車と組版ソフトについての備忘録。

本:心を操る寄生生物

2020-11-21 06:00:15 | 支持表明
心を操る寄生生物:感情から文化・社会まで キャスリン・マコーリフ 西田美緒子 インターシフト(発売:合同出版) 2017

おもしろかった! 買って放置しておいたのがもったいなかった……。
とくに後半,感染者バッシングなんてわけのわからない状況がなぜ起きるかの理解に役立つ。
進化心理学の先生方,ぜひぜひ,かみくだいた解説を。

コオロギを入水自殺させるハリガネムシという寄生生物の話を聞いたのは,もうずいぶん以前のことだ。この虫(昆虫じゃないけど)は,繁殖のために水に入る必要があるのだそうで,コオロギの行動を制御して水中に飛び込ませるのだという。どうやって?
この本を買ったのは,そんな生きものの話がいっぱい載っているだろう,と思ってのことだったのだけど,虫どころの話じゃなかった。
タイトルにある感情だとか文化だとか,人間にかかわる話題は添えもの程度,センセーショナルに見せる工夫,などではなかったのです。どっちかというと,人間にかかわる話がメイン。虫だとかは,わかりやすい実例のためのもの。前座だったよ。

ぜんぶで12章構成で,前半はほぼ,内部寄生する生物が寄主に驚くような影響を与えていることを示した研究の紹介。
コオロギとハリガネムシの話も出ている。なぜコオロギは水に飛び込むかもわかっているようだ。ハリガネムシはコオロギの神経伝達物質をつくり,明るい方へ移動させるのだという。森の中の明るい場所=植物の茂っていない水面。
鳥の体内に移動するために,カタツムリの触角を虫の幼虫のような形に変形させるやつ,湿った日陰を好むダンゴムシを目につきやすい明るい場所に出張させるやつ。マラリアの原虫は,移動手段である蚊の体内に入るために,宿主(人間!)の体臭を蚊の好みに合わせて変化させる。

それどころか,人間の気質に影響を与えるものまでいる。インフルエンザウイルスは,人を社交的にするという。たくさんの人に会えば,感染相手が増える。
おそろしいのは,いぬねこオーナーなら一度は聞いたことがあるだろうトキソプラズマ。感染すると,ドーパミンなどの神経伝達物質のバランスを変化させてしまうのだそうだ。それが,程度の差はあれ,統合失調症のような症状につながっていくという。そのほかにも,認知機能に影響を与え,学習障害につながる可能性のあるやつも見つかっているようだ。ただ,こいつらがなんでそういう影響を与えるのかは示されていない。別の宿主に乗り移りたいなら,いまたかっている宿主に悪い影響は与えない方がいいように思うけど。

逆に,宿主の行動を制御して生き延びやすくするやつもいる。ぬくぬくと暮らしていられるすみかをメンテナンスして長持ちさせるというのは理解しやすい。腸内細菌がその例として紹介されている。

宿主側も手をこまねいてたかられているだけではない。対抗手段にかかわる話が後半で紹介される。
いま,人に会わないこと,距離をとることが推奨されているけど,それがいちばんプリミティヴな感染予防方法。人間の進化の歴史の中で,感染症がもっとも強い淘汰圧だったことは想像に難くない。安全だったコミュニティが避けるものは何か? 未知の相手,病気の兆候を示す特徴を持った相手。人間は進化的に,そうした相手を嫌うという心理的な傾向づけをされてしまっているという。

ただ,人間の行動は進化的な傾向だけで制御されるわけじゃない。
自分がそういう傾向を持っているという知識は,あ,やだ,と思ったときに,なんで自分がそう感じるのか?と考える手がかりを与えてくれる。
そうすれば,只管に本能の奴隷にはならずに,反射的な行動を取らずにすむ。
女性が,PMSだとか更年期についての知識を持っていれば,つらい時期を多少は心穏やかに過ごすことができるように。

だから,今読めてよかったな,と思う。

あと,ずーっともっていた疑問が氷解。
こねこが草を食べたがるのが不思議だった。先代はマタタビの実よりも葉っぱが好きだったし,うっかり緑茶を残しておくと,湯のみに顔を突っ込んでなめたがった。青臭いものが好きだねーと思っていた。でも,大きくなるにつれてその頻度は低下した。いまいるコネコ(もうこねこっていう年齢ではないけど,行動がこねこ)も,197円で買ってくる鉢植えのねこ草を2週間で食べきる。細い芽のうちは何本もまとめて食いちぎり,二度伸びしてきたのもわしわしと食べる。ただ伸びてくると食べにくいのか,人の手を借りたがって催促に来る(かわいい!)。先代を越えて,草食ねこと呼んでいる。
獣医さんが書いた本に「チューインガムみたいなもので,個体の好み」とあったのを読んだ記憶があったけど,先代は年齢で変化したのが不思議だった。
じつはこれも,寄生生物対策らしい。草を食べるのは「腸内寄生虫を体外に押し出すため」で,からだが小さく,ちょっとしたエネルギーを寄生虫に奪われることが大きく影響する「子イヌと子ネコが最も頻繁に食べる」のだそうだ。納得!
参照した文献もきっちり載っているのでありがたい。全文はだめかもしれないけど,アブストラクトは読めるだろう。

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