玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「当て逃げ動画事件」雑感

2007年06月28日 | 日々思うことなど
当て逃げ動画事件についてくだらないことをいくつか考えた。


まず「逃げ得」批判問題。
多くの正義感あふれる2ちゃんねらーが警察の怠慢と「加害車両所有者」の不誠実な態度に憤慨している。
「このままでは犯人の逃げ得になってしまう!」という怒りだ。
それは自然なことだが(加害車両所有者と勤務先へのストーキングはやりすぎ)、彼らが「逃げ得」への義憤をぶちまけている場所が2ちゃんねるであることが興味深い。

歌田明弘の『地球村の事件簿』: わかっているようでわからないひろゆきの謎
 昨年春、参加しているいくつかの集まりのひとつにひろゆきがやってきて、彼の話を聞いた。「争うのが嫌い」だそうで「負けるが勝ち」の方針のもと、裁判にはいっさい出廷せず、何の反論もしないので敗訴するが、賠償金もすべて払わないことにしていると言っていた。最初の裁判で400万円の支払い命令が出たが、払えなかったのがきっかけでそうなったとのことで、意図したものというより、少なくとも当初は払えなかった、ということのようだ。
 賠償金はもう何千万円にもなるが、裁判所が差し押さえをしようと思っても個人財産を持っていないのでできないのだという。収入は彼には直接入らず、彼が設立した会社に行く。ひろゆきはその会社からなんらかの形でお金を得ているのだろうが、そのルートがわからなければ差し押さえができないということらしく、少なくともこれまではほとんど差し押さえられなかった。徹底的に踏み倒す気になればできることを、ひろゆきは身をもって実証しているわけだ。

ひろゆきは自身の管理する2ちゃんねるで悪質な誹謗と中傷が横行するのを放置し、複数の原告に苦痛と損害をあたえている(裁判所認定)。だがひろゆきは判決を無視し賠償金を意図的に払わない。実にいい加減というかデタラメというかふざけてるというか、言語道断烏滸の沙汰である。
2ちゃんねるで誹謗中傷が横行し、それに十分に対処できないでいるかぎり、今後も訴訟は続くだろう。お金があるなら、弁護士などを雇って法的な対処をする「大人のやり方」もあるとは思うが、そうした方法をひろゆきはとりたくないようだ。そもそも彼は、学生時代、「交通違反のもみ消し方」というサイトを作り、警察官と議論して違反を免れる方法を伝授したりもしている。法律について勉強もしていて、彼の行動はきわめて意識的で、いわば「確信犯」である。

2ちゃんねるには今も「交通違反のもみ消し方」掲示板が存在する。

交通違反のもみ消し方@2ch掲示板

人の少ない過疎板であり、実際に「もみ消す」方法が書かれているわけでもない(らしい)が、「交通違反のもみ消し方」というタイトルは穏やかじゃない。ひろゆき流の洒落なのだろうが、正義感あふれる人が「法秩序と交通行政への侮辱」と捉えてもおかしくない。

ひろゆき自身のことはともかく(どうせ何を言っても蛙の面に小便だ)、2ちゃんねるの「正義の味方」たちがひろゆきについてどう思っているのか気になる。やっぱり法を無視した不誠実な態度に怒りまくっているのだろうか。「当て逃げ」の被害額は十数万なのに対して「2ちゃんねるにおける誹謗・中傷」の被害額は数千万だ。「正義の味方」たちのひろゆきへの怒りはやはり数百倍なのだろうか?
思考実験ついでに
 「今回の『当て逃げ』加害者側が『ひろゆきのほうがずっと悪質だ』と主張したらどうなるか」
 「ひろゆきが車で当て逃げしたらどうなるか」
 「ひろゆきが『ネット上の誹謗・中傷は当て逃げと同じ、どちらも逃げるが勝ち』と言ったらどうなるか」
なんてことも想像してみた。
どれも2ちゃんねるで祭りになりそうだが、「正義の味方」たちがどんな反応をするかはよくわからない。
なにしろ自分は「道義的責任がわからない」欠陥人間なので。

参考 ZAKZAK 2ちゃんねる逝ってヨシ? ~管理人雲隠れの真相~


マスコミとネットの鏡像反転問題。
今回の「当て逃げ動画」加害車両所有者叩きは「2ちゃんねる(ネット)発」だから、多くの2ちゃんねらーは「自分たちのやっていることは正しい」と思っている。
もしこれが「マスコミ発」、つまりテレビのワイドショーとか週刊誌が先に騒いでいたら、2ちゃんねるでは「ありふれた物損事故だろ」「なんでこんなことに大騒ぎしてるんだ」「他の事件を隠蔽する工作じゃないのか」という批判的意見が多数派になるような気がする。


運転の下手な人問題。
年に数回しか運転しないようなペーパードライバーの場合は「安全のために防衛運転・上手な運転を身に付けましょう」と言われても難しいだろう。もともと運動神経が鈍かったり(私のことだ)運転センスが乏しい人もいる。
そういった「運転に不自由な人」がハンドルを握るとき、若葉マークや紅葉マークのような「ペーパードライバーマーク」を付けると他の車への警告(近付くな、危険!)になる。
だが、これが「乱暴・身勝手な運転の免罪符」になってしまう可能性もある。


当て「逃げ」防止問題。
今回の当て逃げ程度の軽微な事件(社会的影響はネットで増幅されたけれど、怪我人も公共財の破損もない)で「確実に運転者を特定し処罰する」ためにはどうすればいいか。

「警察の捜査力を上げる」
多額の予算と人手が必要になる。それなら殺人や強盗事件の捜査に使ってくれ。
「ドライバー(加害者)のモラルを上げる」
言うは易く行なうは難し。子供に道徳を教え込むのだって難しい。ましてや大人が簡単に「いい子」になるはずがない。
「免許取得条件を厳しくし、運転能力が高く善良な人のみに与える」
反射神経テストや心理テストを用いることになるが、精度・信頼性に疑問がある。グレーゾーンの線引きも難しい。地方では運転ができないと仕事も買い物も困難であり、生活権の問題につながる。

やはり技術的な解決策が必要だ。

  1. すべての車・バイクにドライブレコーダーを装備
  2. 免許証をICカード化し、ドライブレコーダーのスロットに挿入しないとエンジンが始動できない
  3. 運転記録は封印された強固なブラックボックスに保存される

といったあたりか。
多額のコストが必要であり、プライバシー侵害を問題視する人も多いだろう。
私も反対だ。お金と政治的コストが低ければ検討してもいいけれど。