蒲田耕二の発言

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『アラジン』

2015-05-22 | ステージ
四季の豪華ケンラン路線用劇場「海」の出し物は、こけら落としの『マンマ・ミーア!』以来すべて観てきたが、昨日開幕した『アラジン』ぐらいカネの掛かったステージは、この劇場でも珍しいんじゃないか。

主人公が閉じ込められる宝の洞窟の凄さと来たら、あっけにとられて過呼吸に陥ったほどだ。金箔貼りの内壁を色とりどりのジュエリーがぎっしり埋め尽くしている。いや無論、本物ではなくガラスモンドなんだろうけど、それにしても少々のコストじゃ実現できまい。

「春」でロングランしている『ライオン・キング』のアカ抜けた美術ではないし、カネを掛ければなんでもいいってものでもないが、ここまでゼイタクに徹すると、ゼイタク自体がある種のディグニティをおび始める。ケチを付けようにも歯が立たない。

作品自体も多分、ディズニー・ミュージカルの中で出来のいい方に属する。アラン・メンケンの作風はいつもどおり、アメリカ大衆音楽の基本を踏まえ、そこに個性的な趣向を加えたものだ。

まず耳を捉えるのが、敵役の宰相とその子分がデュエットするタンゴ。出世作『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』でもメンケンはタンゴを効果的に使っていたが(映画版ではカット)、ここでもメリハリの立ったタンゴのビートが快適な流れを創り出す。むさい男同士のデュオにもかかわらず、メロディが無類にキュートだ。

事実上の主役、ジーニー(魔神)はキャブ・キャロウェイ風のスイングで登場し、ベニー・グッドマンに変わり、あげくにエンリケ・ホリンのチャチャチャへと発展する。大詰めには、フラメンコも隠し味に使われる。

スイングやラテンなどアメリカ人が過去の遺物と思い込んでいるスタイルから、こんな風に新鮮な味わいを引き出すところがメンケンの才気というものだろう。広範な市民に受け入れられる健全な保守性を保ちながら、惰性を避ける工夫を怠らない。それは、ディズニー・プロの社風そのものなのかも知れないが。

ともあれミュージカルは、オペラが大衆のあいだに降りてきたようなウェストエンド系よりも、大衆音楽の雑味が濃いブロードウェイ産の方がオレは好きです。

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