怒り顔で向かって来る男はどう見ても三十代。
粗末なズホンとジャケット。
腰のベルトには短剣を下げ、大股で歩を進めてきた。
醸し出す威圧感はただごとではない。
人を殺すのには慣れているソレだ。
時代背景から察するに、戦場慣れ。
俺の鼓動が速まった。
怯えではない。
双子の怪物の時は心底から恐怖を味わったが、それとは明らかに違う。
今を敢えて表現するなら、ワクワク。
強い相手を迎え撃つことへの、ワクワク。
着替えを手伝ってくれるという金髪娘が素速く動いた。
長い金髪を振り乱し、俺と男の間に入った。
両腕を広げて、「おやめなさい」と男に言う。
それを上回る速さで動く者がいた。
隣の小さな身体がダッシュした。
座敷童子。
男が前に踏み出した足に組み付いた。
男の足が止まった。
表情が怒りから困惑に変わった。
眉間に皺寄せて金髪娘と座敷童子を交互に見遣った。
興が削がれた。
男に助け船を出した。
「喧嘩ならいつでも買う。
その前に着替えさせてくれないか。
これでは俺も妹も風邪をひく。
・・・。
ついでに腹も減ってるから、何か食わせてくれると助かるのだが」
金髪娘が男に言う。
「スグル殿、失礼ですよ。
お二方は客人です。
召喚祈祷には失敗したようですが、間違えて呼び寄せたのは我等。
お二方には何の咎もありません。
・・・。
着替え終えたら食事にします。
皆の者もお腹がすいたでしょう。
大広間に用意させなさい。頼みましたよ」
スグルと呼ばれた男は、渋々といった態度で一礼すると引き下がり、
地下室から重い足取りで出て行った。
金髪娘が振り返って俺に言う。
「うちの者が失礼しました。
悪気はないのです。許してやって下さい」
「気にするな。
それよりお前はこの国の姫様なのか」
「はい、アリスと申します」
アリス姫。
ここは不思議の国なのか、いや、どう考えても違うだろう。
アリス姫は俺から視線を外さない。
期待する目色。
俺の名乗りを待っている気配がした。
ここで小一郎は拙い。
この場には相応しくない。
アリスがア行なので、次はカ行、と思った。
「俺はカルメン。妹はキャロル」口を衝いて出た。
実に有り触れた名前。
カルメンにキャロル。
アリスに負けず劣らずだ。
座敷童子が、「妹、キャロル、妹、キャロル」呟き、俺に頷いた。
アリスも満足そうな顔。
「カルメン様にキャロル様ね」
愛らしい表情で俺とキャロルを見遣った。
このアリス姫、身長は周りの女達よりは高く、俺よりは低い。
年の頃は十代の後半。
高貴な身分にしては、くだけていた。
自分は礼儀正しいのだが、他人にはそれを求めなかった。
「私のことは姫ではなく、アリスと呼んでね。
分かりましたか、カルメン、キャロル」と言う分けだ。
アリスの指示で女子供が俺とキャロルの着替えを手伝ってくれた。
キャロルには年相応の衣服があった。
アリスが子供時代に身に着けていた物だ。
「もう妹が生まれることもないでしょうから、キャロルに着て貰いましょう」
問題が一つあった。
キャロルの訛りが誰にも理解されないのだ。
するとアリスが身振り手振りで意を伝えた。
それで問題が解決した。
キャロルが首を縦か横に振って答えたのだ。
そうなると楽しいのか、キャロルは首を振りながら訛り言葉を連発した。
これに子供達も加わった。
騒ぎながら大袈裟な身振り手振りでキャロルと会話した。
一つ問題が解消したと思ったら新たな問題が発生した。
俺。
アマゾネス体型なので似合う物がなかった。
それにスカートやブラジャーの問題も。
とても身に着ける気になれなかった。
悩んだ末、アリスに頼み込み、男物を持って来てもらった。
彼女が持って来たのは兄の衣服だった。
「礼服ではなく、普段着だから気にしないで」
真新しいズボンにシャツ、ジャケット。
着替え終えるとアリスに階上に案内された。
地上三階、地下一階。
城は切り出された石材と焼き上げられた煉瓦で建てられていた。
どうやって運び込んだのかは知らないが、
目を剥きたくなるような大きな岩も見受けられた。
一階の回廊を行く際、直射日光があたる箇所があった。
俺は思わずキャロルを振り返った。
座敷童子は陽射しに弱い。
ところがキャロルは平然としたもの。
俺の不安を察したのか、ニコリと笑みをくれ、普通に陽射しの下に入った。
何も起こらなかった。
キャロルの足取りは平然としたもの。
これも新しく得た身体の影響なのだろうか。
杞憂に終わり、ホッとしていたら意外な物を目にした。
フルーツ。
庭一面に色とりどりの実が生っていた。
イチゴ、リンゴ、ミカン、ブドウ、カキ、モモ、ナシ、マンゴー、スイカ、パイナップル。
品種名を知らぬフルースも散見された。
よく考えてみたら季節がバラバラ。
おかしい、ここは欧州のはず。
城はまさに中世欧州そのもの。
地下室にいた者達も白人種。
けれどだ、地域からすると、有り得ないフルーツが多い。
熱帯亜熱帯でしか生育しないものも混じっていた。
それに、今さらだが、日本語が通じた。
召喚祈祷も存在した。
ここは本当に中世欧州か。
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触れる必要はありません。
ただの飾りです。

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粗末なズホンとジャケット。
腰のベルトには短剣を下げ、大股で歩を進めてきた。
醸し出す威圧感はただごとではない。
人を殺すのには慣れているソレだ。
時代背景から察するに、戦場慣れ。
俺の鼓動が速まった。
怯えではない。
双子の怪物の時は心底から恐怖を味わったが、それとは明らかに違う。
今を敢えて表現するなら、ワクワク。
強い相手を迎え撃つことへの、ワクワク。
着替えを手伝ってくれるという金髪娘が素速く動いた。
長い金髪を振り乱し、俺と男の間に入った。
両腕を広げて、「おやめなさい」と男に言う。
それを上回る速さで動く者がいた。
隣の小さな身体がダッシュした。
座敷童子。
男が前に踏み出した足に組み付いた。
男の足が止まった。
表情が怒りから困惑に変わった。
眉間に皺寄せて金髪娘と座敷童子を交互に見遣った。
興が削がれた。
男に助け船を出した。
「喧嘩ならいつでも買う。
その前に着替えさせてくれないか。
これでは俺も妹も風邪をひく。
・・・。
ついでに腹も減ってるから、何か食わせてくれると助かるのだが」
金髪娘が男に言う。
「スグル殿、失礼ですよ。
お二方は客人です。
召喚祈祷には失敗したようですが、間違えて呼び寄せたのは我等。
お二方には何の咎もありません。
・・・。
着替え終えたら食事にします。
皆の者もお腹がすいたでしょう。
大広間に用意させなさい。頼みましたよ」
スグルと呼ばれた男は、渋々といった態度で一礼すると引き下がり、
地下室から重い足取りで出て行った。
金髪娘が振り返って俺に言う。
「うちの者が失礼しました。
悪気はないのです。許してやって下さい」
「気にするな。
それよりお前はこの国の姫様なのか」
「はい、アリスと申します」
アリス姫。
ここは不思議の国なのか、いや、どう考えても違うだろう。
アリス姫は俺から視線を外さない。
期待する目色。
俺の名乗りを待っている気配がした。
ここで小一郎は拙い。
この場には相応しくない。
アリスがア行なので、次はカ行、と思った。
「俺はカルメン。妹はキャロル」口を衝いて出た。
実に有り触れた名前。
カルメンにキャロル。
アリスに負けず劣らずだ。
座敷童子が、「妹、キャロル、妹、キャロル」呟き、俺に頷いた。
アリスも満足そうな顔。
「カルメン様にキャロル様ね」
愛らしい表情で俺とキャロルを見遣った。
このアリス姫、身長は周りの女達よりは高く、俺よりは低い。
年の頃は十代の後半。
高貴な身分にしては、くだけていた。
自分は礼儀正しいのだが、他人にはそれを求めなかった。
「私のことは姫ではなく、アリスと呼んでね。
分かりましたか、カルメン、キャロル」と言う分けだ。
アリスの指示で女子供が俺とキャロルの着替えを手伝ってくれた。
キャロルには年相応の衣服があった。
アリスが子供時代に身に着けていた物だ。
「もう妹が生まれることもないでしょうから、キャロルに着て貰いましょう」
問題が一つあった。
キャロルの訛りが誰にも理解されないのだ。
するとアリスが身振り手振りで意を伝えた。
それで問題が解決した。
キャロルが首を縦か横に振って答えたのだ。
そうなると楽しいのか、キャロルは首を振りながら訛り言葉を連発した。
これに子供達も加わった。
騒ぎながら大袈裟な身振り手振りでキャロルと会話した。
一つ問題が解消したと思ったら新たな問題が発生した。
俺。
アマゾネス体型なので似合う物がなかった。
それにスカートやブラジャーの問題も。
とても身に着ける気になれなかった。
悩んだ末、アリスに頼み込み、男物を持って来てもらった。
彼女が持って来たのは兄の衣服だった。
「礼服ではなく、普段着だから気にしないで」
真新しいズボンにシャツ、ジャケット。
着替え終えるとアリスに階上に案内された。
地上三階、地下一階。
城は切り出された石材と焼き上げられた煉瓦で建てられていた。
どうやって運び込んだのかは知らないが、
目を剥きたくなるような大きな岩も見受けられた。
一階の回廊を行く際、直射日光があたる箇所があった。
俺は思わずキャロルを振り返った。
座敷童子は陽射しに弱い。
ところがキャロルは平然としたもの。
俺の不安を察したのか、ニコリと笑みをくれ、普通に陽射しの下に入った。
何も起こらなかった。
キャロルの足取りは平然としたもの。
これも新しく得た身体の影響なのだろうか。
杞憂に終わり、ホッとしていたら意外な物を目にした。
フルーツ。
庭一面に色とりどりの実が生っていた。
イチゴ、リンゴ、ミカン、ブドウ、カキ、モモ、ナシ、マンゴー、スイカ、パイナップル。
品種名を知らぬフルースも散見された。
よく考えてみたら季節がバラバラ。
おかしい、ここは欧州のはず。
城はまさに中世欧州そのもの。
地下室にいた者達も白人種。
けれどだ、地域からすると、有り得ないフルーツが多い。
熱帯亜熱帯でしか生育しないものも混じっていた。
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