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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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なりすまし。(120)

2017-01-19 21:12:39 | Weblog
 書棚は陽射しを避けて、片隅の暗がりに置かれていた。
どのような書物があるのか分からないが、期待した。
なにしろ書物は情報の宝庫。
読んでおいて損はない。
ただ問題は文字。
言葉同様に文字も日本語であることを願った。
 歩み寄ると背表紙の文字が目に飛び込んで来た。
漢字混じり。
アリスの趣味の現れなのか、多岐にわたる本が並べられていた。
 願ってもない本があった。
「歴史」を手に取った。
上質の紙に綺麗に印刷されていた。
手にして気付いた。
厚いのだ。
五百ページを越えていた。
オープンから三十年にも満たないゲームのはず。
なのにこの厚さ。
 不審に思いながら本を開いた。
目次を捲ると内容が十五章に及んでいた。
「開拓時代」に始まり、「八カ国時代」まで。
年表を求めて指を巻末に走らせた。
年表の最終年度は千六百五十三年。
奥付の出版年月日は千六百五十五年。
今が何年かは分からないが、出版事情を想像するに千六百六十年前後であろう。
 具現化して千六百六十年は経ている、と理解するしかない。
その間に国や身分制度等が確立していた。
比べて文明文化の進歩は微々たるもの。
衛兵の装備する刀槍、鎧兜がそれを立証していた。
もしかしてゲームの世界観が影響しているのかも知れない。
 声が聞こえた。
「あいったーん、こごはどさ。どんだだして」
 キャロルがベッドで半身を起こし、寝惚け眼で左右を見回した。
はしゃいでいた時とは打って変わり、大いに戸惑っていた。
自分の身の上に何が降りかかったのか、目覚めて、ようやく気付いたらしい。
 詳しく説明すれば余計に混乱すると思い、俺は適当に言った。
「俺達は神隠しにあったようだ」
 彼女は疑わない。
「神隠しのの、神隠しのの。そうのの」目を白黒。
 俺はベッドから彼女を抱き上げた。
髪を撫で回し、頬擦りし、生身である事を確認して下ろした。
「前のように暗闇に溶け込めると思うか」
 彼女は自分の胸や尻を撫で回した。
「おろー、おら生身の身体さ手こさ入れたみたいだ、いがべ。
・・・。
暗闇さ入るのは出来なねがも知れね。
夜さのたきや試してみる」
 様子から、生身の身体になって喜んでいる、と窺えた。
俺は不思議に思って尋ねた。
「座敷童子でなくなったのかも知れないのに、嬉しいのか」
 彼女が顔を上げた。
「当然だし。
生身だば、いづか死ねる。
長生きする必要がね。
みんのど同じしうさ笑って、泣いて、困って、きもやぐ。
年取ってめおどす。こしたきや嬉しいことはね」心底から喜んでいた。
 分からなくもなかった。
長生きのし過ぎで、座敷童子に倦いていたのだろう。
理由は違うが死ぬ事を切望する二人が俺の周りにいた。
キャロルとアリス。
これは何かの悪戯だろうか。
それとも配剤なのだろうか。
 ノックされ、先ほどの女官長が入って来た。
「カルメン殿、お客様です。
おー、キャロル殿も目覚められましたか。
丁度良かった。
お二人揃ってお会いくださいませ」
「お客様です、と言われても、こちらに知り合いはいないが」
「城のお偉い方です。
お二人に渡したい物があるそうです」
 訝しいが断るのも大人げない。
女官長の案内で後宮を出た。
後宮は王と王子以外の男は原則、立ち入りを禁止されているので、
隣の西塔での面会になる、と説明された。
そちらへ向かう途中、物陰から数人が飛び出して来た。
俺達を取り囲む。
八人。
衛兵とは違う衣服を着ていた。
胸には揃いの紋様。
日本の歴史で見た家紋に似ていなくもない。
彼等が所持する武器は腰の太刀のみ。
 一人が進み出た。
スグル。
俺に微笑む。
「待っていたぞ」
 女官長は慌てず騒がず。
何ごともないかのように、俺達から離れて包囲の外に出た。
そして第三者であるかのように振り返った。
冷たい視線。
スグルの側であるらしい。




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