書棚は陽射しを避けて、片隅の暗がりに置かれていた。
どのような書物があるのか分からないが、期待した。
なにしろ書物は情報の宝庫。
読んでおいて損はない。
ただ問題は文字。
言葉同様に文字も日本語であることを願った。
歩み寄ると背表紙の文字が目に飛び込んで来た。
漢字混じり。
アリスの趣味の現れなのか、多岐にわたる本が並べられていた。
願ってもない本があった。
「歴史」を手に取った。
上質の紙に綺麗に印刷されていた。
手にして気付いた。
厚いのだ。
五百ページを越えていた。
オープンから三十年にも満たないゲームのはず。
なのにこの厚さ。
不審に思いながら本を開いた。
目次を捲ると内容が十五章に及んでいた。
「開拓時代」に始まり、「八カ国時代」まで。
年表を求めて指を巻末に走らせた。
年表の最終年度は千六百五十三年。
奥付の出版年月日は千六百五十五年。
今が何年かは分からないが、出版事情を想像するに千六百六十年前後であろう。
具現化して千六百六十年は経ている、と理解するしかない。
その間に国や身分制度等が確立していた。
比べて文明文化の進歩は微々たるもの。
衛兵の装備する刀槍、鎧兜がそれを立証していた。
もしかしてゲームの世界観が影響しているのかも知れない。
声が聞こえた。
「あいったーん、こごはどさ。どんだだして」
キャロルがベッドで半身を起こし、寝惚け眼で左右を見回した。
はしゃいでいた時とは打って変わり、大いに戸惑っていた。
自分の身の上に何が降りかかったのか、目覚めて、ようやく気付いたらしい。
詳しく説明すれば余計に混乱すると思い、俺は適当に言った。
「俺達は神隠しにあったようだ」
彼女は疑わない。
「神隠しのの、神隠しのの。そうのの」目を白黒。
俺はベッドから彼女を抱き上げた。
髪を撫で回し、頬擦りし、生身である事を確認して下ろした。
「前のように暗闇に溶け込めると思うか」
彼女は自分の胸や尻を撫で回した。
「おろー、おら生身の身体さ手こさ入れたみたいだ、いがべ。
・・・。
暗闇さ入るのは出来なねがも知れね。
夜さのたきや試してみる」
様子から、生身の身体になって喜んでいる、と窺えた。
俺は不思議に思って尋ねた。
「座敷童子でなくなったのかも知れないのに、嬉しいのか」
彼女が顔を上げた。
「当然だし。
生身だば、いづか死ねる。
長生きする必要がね。
みんのど同じしうさ笑って、泣いて、困って、きもやぐ。
年取ってめおどす。こしたきや嬉しいことはね」心底から喜んでいた。
分からなくもなかった。
長生きのし過ぎで、座敷童子に倦いていたのだろう。
理由は違うが死ぬ事を切望する二人が俺の周りにいた。
キャロルとアリス。
これは何かの悪戯だろうか。
それとも配剤なのだろうか。
ノックされ、先ほどの女官長が入って来た。
「カルメン殿、お客様です。
おー、キャロル殿も目覚められましたか。
丁度良かった。
お二人揃ってお会いくださいませ」
「お客様です、と言われても、こちらに知り合いはいないが」
「城のお偉い方です。
お二人に渡したい物があるそうです」
訝しいが断るのも大人げない。
女官長の案内で後宮を出た。
後宮は王と王子以外の男は原則、立ち入りを禁止されているので、
隣の西塔での面会になる、と説明された。
そちらへ向かう途中、物陰から数人が飛び出して来た。
俺達を取り囲む。
八人。
衛兵とは違う衣服を着ていた。
胸には揃いの紋様。
日本の歴史で見た家紋に似ていなくもない。
彼等が所持する武器は腰の太刀のみ。
一人が進み出た。
スグル。
俺に微笑む。
「待っていたぞ」
女官長は慌てず騒がず。
何ごともないかのように、俺達から離れて包囲の外に出た。
そして第三者であるかのように振り返った。
冷たい視線。
スグルの側であるらしい。
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★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。
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「歴史」を手に取った。
上質の紙に綺麗に印刷されていた。
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奥付の出版年月日は千六百五十五年。
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衛兵の装備する刀槍、鎧兜がそれを立証していた。
もしかしてゲームの世界観が影響しているのかも知れない。
声が聞こえた。
「あいったーん、こごはどさ。どんだだして」
キャロルがベッドで半身を起こし、寝惚け眼で左右を見回した。
はしゃいでいた時とは打って変わり、大いに戸惑っていた。
自分の身の上に何が降りかかったのか、目覚めて、ようやく気付いたらしい。
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「俺達は神隠しにあったようだ」
彼女は疑わない。
「神隠しのの、神隠しのの。そうのの」目を白黒。
俺はベッドから彼女を抱き上げた。
髪を撫で回し、頬擦りし、生身である事を確認して下ろした。
「前のように暗闇に溶け込めると思うか」
彼女は自分の胸や尻を撫で回した。
「おろー、おら生身の身体さ手こさ入れたみたいだ、いがべ。
・・・。
暗闇さ入るのは出来なねがも知れね。
夜さのたきや試してみる」
様子から、生身の身体になって喜んでいる、と窺えた。
俺は不思議に思って尋ねた。
「座敷童子でなくなったのかも知れないのに、嬉しいのか」
彼女が顔を上げた。
「当然だし。
生身だば、いづか死ねる。
長生きする必要がね。
みんのど同じしうさ笑って、泣いて、困って、きもやぐ。
年取ってめおどす。こしたきや嬉しいことはね」心底から喜んでいた。
分からなくもなかった。
長生きのし過ぎで、座敷童子に倦いていたのだろう。
理由は違うが死ぬ事を切望する二人が俺の周りにいた。
キャロルとアリス。
これは何かの悪戯だろうか。
それとも配剤なのだろうか。
ノックされ、先ほどの女官長が入って来た。
「カルメン殿、お客様です。
おー、キャロル殿も目覚められましたか。
丁度良かった。
お二人揃ってお会いくださいませ」
「お客様です、と言われても、こちらに知り合いはいないが」
「城のお偉い方です。
お二人に渡したい物があるそうです」
訝しいが断るのも大人げない。
女官長の案内で後宮を出た。
後宮は王と王子以外の男は原則、立ち入りを禁止されているので、
隣の西塔での面会になる、と説明された。
そちらへ向かう途中、物陰から数人が飛び出して来た。
俺達を取り囲む。
八人。
衛兵とは違う衣服を着ていた。
胸には揃いの紋様。
日本の歴史で見た家紋に似ていなくもない。
彼等が所持する武器は腰の太刀のみ。
一人が進み出た。
スグル。
俺に微笑む。
「待っていたぞ」
女官長は慌てず騒がず。
何ごともないかのように、俺達から離れて包囲の外に出た。
そして第三者であるかのように振り返った。
冷たい視線。
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