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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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なりすまし。(119)

2017-01-15 08:05:12 | Weblog
「前線から、もたらされる多くは悲報ばかり。
どこそこで誰が戦死を遂げた。
次も、誰それが戦死を遂げた。
舞踏会で踊ったことがある貴族の名前もあれば、
見回り途中で私を笑わせてくれた近衛の名前もあった。
でも私には何も出来ない。
ここで温々お茶しているだけ。
スグル殿が七カ国を回って援軍を要請されたが、
難航しているという話しは聞いたでしょう。
その影響で前年から進められていた私の縁談も立ち消えよ。
決まりそうだったけど、今は口を濁されるばかりだそうよ。
どの国も容易には首を縦に振りそうもないわ。
尻込みよ。
八カ国の王家は長年に渡る政略結婚を重ね、血に濃淡はあっても縁戚にあるの。
なのに、どの国も当てに出来ない
一部からは不穏な噂も流れて来る始末。
我が国と国境を接している二カ国が、状況次第では侵攻して来ると。
・・・。
それで召喚祈祷を思い付いたという分け。
縁談の消えた今の私に出来るのは魔物の召喚だけ。
生け贄で国に貢献出来るなら本望よ」
 アリスの言葉は明瞭だが、とても本音とは思えない。
自暴自棄の色が垣間見えなくもない。
俺はストレートに尋ねた。
「縁談がなくなったから魔物を召喚するのか」
 アリスが片頬を歪めた。
「まさか。
縁談がなくなったのは嬉しいわ。
心底から喜んでいるわ。本当よ。
見知らぬ土地で見知らぬ男に抱かれる。
好きでもない、尊敬も出来ない、そんな男に抱かれる。
貴女も女でしょう。
そうなった自分を想像してごらんなさい。
喜んで受け入れられる。
・・・。
詰まらない人生が長く続くと思うと、それは地獄、塗炭の苦しみよ。
でも魔物の生け贄は違う。
私に新しい人生を切り開いてくれる。
私に死に時を与えてくれる。
何も自由がなかった私に死ぬ自由を与えてくれる。
だから心底から魔物召喚を望んでいるの」最後は無表情で言い切った。
 アリスの本音はどうあれ、今は死を願望していた。
国への貢献もあるだろうが、死に時を自分で選べる魅力にも囚われていた。
全ては諸般の事情が彼女を追い込んだ結果に違いない。
「一緒にいた子供達も道連れかい」
 アリスの手が強張った。
「違うわ。
私の我が儘。
私をいつまでも覚えていて欲しくて呼び寄せたの。
死んで直ぐに忘れられるのは悲しいでしょう。そう思わない」
「分かった、信じる。
それにしても、城の大人達がよく許したものだな」
「大人で知っているのはスグル殿とタツヤ殿の二人だけ。
スグル殿は武官が本職だから召喚には無縁よ。
タツヤ殿も神殿での祈祷が本職だから、魔物召喚は畑違い。
それが証拠に今回は失敗したでしょう。
二人とも召喚の言葉は知っていても、生け贄は直ぐには連想しない筈よ。
だから内緒で協力してくれたと思う」
 二人に力があるから内密に事が運んだ。
しかし、だからといって二人が生け贄のことを知らなかったとは思えない。
深窓の姫と違い,二人は人生経験が長い。
本職以外の事も少しは囓っていて当然。
詳しく知らなくても、耳にした事はあるはず。
疑問に思えば周りに尋ねもしただろう。
それとも・・・。
国の要職にある者の多くは清濁併せのむのが得意技。
その得意技で敢えて聞き質さなかったのだろうか。
 部屋がノックされた。
女官長が入って来た。
「宰相殿がお呼びです」言葉に抑揚がなかった。
 アリスは俺の手は優しく解き、立ち上がった。
「怒ってる様子」
「さあ、来たのは使いの者ですから」
「その使いの者に様子を聞いたのでしょう」
 女官長の表情は変わらない。
「大変なお怒りのようです」
「貴女には悪かったわね。
貴女を巻き込まぬように、貴女が休みの日にしたの」
「急な休みが貰えたので変だとは思いました。
でもまさか、その夜に魔物召喚をなさるとは思いもしませんでした」
「噂になってるのかしら」
「子供達が得意になって話しているそうですよ」
 アリスは苦笑い。
「そうよね、子供は子供よね」
 女官長が真顔で言う。
「次からは何ごとも私に相談して下さい。
私にも、それなりの力があるのですから」
 アリスはシラッとした顔で言う。
「今回は失敗したので、また改めてやります。
その手配をお願いするわ。
次はタツヤ殿ではなく、魔物召喚が出来る者を呼んで欲しいの。
その手配、お願い出来るかしら」
 途端に女官長の表情が一変した。
「なりません」強い口調で拒否し、
「姫様が魔物召喚したと分かれば、王様に私が怒られます」と続けた。
 アリスは予想していたらしい。
女官長を無視して、俺を振り返った。
「宰相殿に怒られてくるわ。
ここで温和しく待っていてね」
「後始末が色々大変だね。
俺の事は気にしないで。
書棚の本でも読んでるから、長く長々と怒られてくるといいよ」
 アリスはクスリと笑い、女官長を従えて部屋から出て行った。




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