俺にとってスグルの登場も女官長の豹変も、どうでもよかった。
二人とも最初から期待していた人物ではなかったので、ほんと、どうでもよかった。
ちょっとだけ驚きはしたが、跡の残らぬ掠り傷のようなもの。
鼓動に変化なし。
冷静に周囲を見回した。
特異点を見つけた。
彼等と衛兵の差異に気付いた。
太刀の仕様が違っていた。
腰から下げるサーベルであることは同じなのだが、
よく観察すると小さな部分が違っていた。
衛兵に限らず、これまで見掛けた者達は柄が短く、片手剣であった。
ところがスグル達のサーベルは柄の部分が長かった。
両手での使用も考量しているのだろう。
キャロルが俺の袖口を引いた。
耳を貸せという仕草。
俺が腰を屈めると、「おもへ」耳元に囁く。
目が爛々と輝いていた。
引き籠もりの座敷童子は完全に昔話。
今のキャロルは肝が据わっていた。
キャロルの意気込みは伝わったが、身体は女児。
大人相手ではキツイ。
ヘビー級とベビー級。
無謀。
地下室でスグルの足に組み付いた一件が脳裏を掠めた。
そこでキャロルに小声で注意した。
「勝手に飛び出すな。何かあったら俺の背中に隠れていろ、俺が守る」
キャロルは御不満らしい。
口を噤んで俺をジッと見た。
言い聞かせている場合ではない。
俺は視線をスグルに転じた。
「お城のお偉い方が、俺達二人に渡したい物があるそうだが」
スグルは苦笑いで済ましたが、他の者達が黙っていなかった。
「その口の利き方はなんだ」
「我が主人に無礼だ」
「子爵様に対して失礼であろう」口々に非難した。
始めてスグルが子爵だと知った。
様子から、彼等が子爵の家来だとも分かった。
スグルが彼等を黙らせ、一人に指示した。
「あれを」
其奴が進み出、俺とキャロルに小物を差し出した。
長円形の銀板で、両端に穴が空けられてチェーンがついていた。
これは所謂、認識票ではないか。
スグルが言う。
「身分票だ。
金板は王族で、銀板は貴族ないしは騎士、銅板は庶民と決められている。
二人は姫様の客人だから、例外で銀板を用意した。
板に刻まれた紋様が国章で、どの国の人間で、如何なる身分かが分かる。
これがあれば奴隷でもない限り、どこへでも行ける。
提示を求められた時に、直ぐに出せるように首に提げておいてくれ。
通常はシャツの下に隠して置いても良い。
銀板だからといって身分をひけらかす必要は、全くない」
やけに優しい。
言葉に甘え、俺とキャロルは身分票を首に提げた。
キャロルの機嫌が直った。
提げた身分票を胸元から取り出し、笑顔で見入っていた。
二人目が進み出、小袋を差し出した。
どう見ても巾着袋。
受け取ると意外に重かった。
またもスグルが言う。
「金貨、銀貨、銅貨、銅銭を入れて置いた。
他にも鐚銭があるが、小銭なので省いた。
これだけあれば一年は暮らせる。
銅銭が足りなくなれば必要に応じて両替すれば良い」
開けて確かめると、金貨と銅銭が多かった。
もしかすると超高額貨幣と日常使用する貨幣を重点的に入れて置いた、
ということなのだろうか。
だとすると気が利いていた。
見直さざるを得なかった。
ただ、気懸かりな点が一つ。
俺はそれを口にした。
「有り難いが、俺達に返済する能力は今のところない。無職だからな」
巾着袋を返そうとすると、スグルが受け取りを拒否した。
「心配は無用。ワシ個人の持ち出しではない。
公金からの支出だ。特例で返済の義務はない」
身分票だけでなく金銭までも特例になると、下心を疑ってしまう。
それが表情に表れたのだろう。
スグルが表情を緩めた。
両腕を左右に大きく開け、得意げに言う。
「そういう分けで、さっそく城から退出してもらう。
城下に宿の予約を入れて置いた。
気が済むまで滞在してくれ」
追い出そうという企みが下地にあったと知り、俺は呆れた。
巾着袋を懐にしまい、告げた。
「これは有り難く頂く。
でも城からの退出はお断りだ。
姫様に黙って出て行くのは失礼だろう」
スグルが、待ってましたとばかりに指を鳴らした。
途端に家来七人が行動を開始した。
俺とキャロルに詰め寄ってきた。
サーベルは抜かない。
血を流すことなく、腕尽くで連れ出そうという魂胆なんだろう。
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)


★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。
二人とも最初から期待していた人物ではなかったので、ほんと、どうでもよかった。
ちょっとだけ驚きはしたが、跡の残らぬ掠り傷のようなもの。
鼓動に変化なし。
冷静に周囲を見回した。
特異点を見つけた。
彼等と衛兵の差異に気付いた。
太刀の仕様が違っていた。
腰から下げるサーベルであることは同じなのだが、
よく観察すると小さな部分が違っていた。
衛兵に限らず、これまで見掛けた者達は柄が短く、片手剣であった。
ところがスグル達のサーベルは柄の部分が長かった。
両手での使用も考量しているのだろう。
キャロルが俺の袖口を引いた。
耳を貸せという仕草。
俺が腰を屈めると、「おもへ」耳元に囁く。
目が爛々と輝いていた。
引き籠もりの座敷童子は完全に昔話。
今のキャロルは肝が据わっていた。
キャロルの意気込みは伝わったが、身体は女児。
大人相手ではキツイ。
ヘビー級とベビー級。
無謀。
地下室でスグルの足に組み付いた一件が脳裏を掠めた。
そこでキャロルに小声で注意した。
「勝手に飛び出すな。何かあったら俺の背中に隠れていろ、俺が守る」
キャロルは御不満らしい。
口を噤んで俺をジッと見た。
言い聞かせている場合ではない。
俺は視線をスグルに転じた。
「お城のお偉い方が、俺達二人に渡したい物があるそうだが」
スグルは苦笑いで済ましたが、他の者達が黙っていなかった。
「その口の利き方はなんだ」
「我が主人に無礼だ」
「子爵様に対して失礼であろう」口々に非難した。
始めてスグルが子爵だと知った。
様子から、彼等が子爵の家来だとも分かった。
スグルが彼等を黙らせ、一人に指示した。
「あれを」
其奴が進み出、俺とキャロルに小物を差し出した。
長円形の銀板で、両端に穴が空けられてチェーンがついていた。
これは所謂、認識票ではないか。
スグルが言う。
「身分票だ。
金板は王族で、銀板は貴族ないしは騎士、銅板は庶民と決められている。
二人は姫様の客人だから、例外で銀板を用意した。
板に刻まれた紋様が国章で、どの国の人間で、如何なる身分かが分かる。
これがあれば奴隷でもない限り、どこへでも行ける。
提示を求められた時に、直ぐに出せるように首に提げておいてくれ。
通常はシャツの下に隠して置いても良い。
銀板だからといって身分をひけらかす必要は、全くない」
やけに優しい。
言葉に甘え、俺とキャロルは身分票を首に提げた。
キャロルの機嫌が直った。
提げた身分票を胸元から取り出し、笑顔で見入っていた。
二人目が進み出、小袋を差し出した。
どう見ても巾着袋。
受け取ると意外に重かった。
またもスグルが言う。
「金貨、銀貨、銅貨、銅銭を入れて置いた。
他にも鐚銭があるが、小銭なので省いた。
これだけあれば一年は暮らせる。
銅銭が足りなくなれば必要に応じて両替すれば良い」
開けて確かめると、金貨と銅銭が多かった。
もしかすると超高額貨幣と日常使用する貨幣を重点的に入れて置いた、
ということなのだろうか。
だとすると気が利いていた。
見直さざるを得なかった。
ただ、気懸かりな点が一つ。
俺はそれを口にした。
「有り難いが、俺達に返済する能力は今のところない。無職だからな」
巾着袋を返そうとすると、スグルが受け取りを拒否した。
「心配は無用。ワシ個人の持ち出しではない。
公金からの支出だ。特例で返済の義務はない」
身分票だけでなく金銭までも特例になると、下心を疑ってしまう。
それが表情に表れたのだろう。
スグルが表情を緩めた。
両腕を左右に大きく開け、得意げに言う。
「そういう分けで、さっそく城から退出してもらう。
城下に宿の予約を入れて置いた。
気が済むまで滞在してくれ」
追い出そうという企みが下地にあったと知り、俺は呆れた。
巾着袋を懐にしまい、告げた。
「これは有り難く頂く。
でも城からの退出はお断りだ。
姫様に黙って出て行くのは失礼だろう」
スグルが、待ってましたとばかりに指を鳴らした。
途端に家来七人が行動を開始した。
俺とキャロルに詰め寄ってきた。
サーベルは抜かない。
血を流すことなく、腕尽くで連れ出そうという魂胆なんだろう。
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)


★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。
