金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(テニス元年)23

2023-07-09 09:14:24 | Weblog
 俺の選択肢は限られていた。
鑑定を起動し、危ないスキル持ちはいないか、調べた。
低レベルばかり。
それで俺に喧嘩を売ってくるとは。
 貴族は、子爵二名に男爵三名。
俺は比較的元気そうな子爵の前に立った。
演技を起動し、ジッと見下ろした。
児童が大人を見下ろす図。
嫌なものだが、心底は隠した。
「談合とは何だ」
「義勇兵旅団についての問い合わせだ」
 噂では一ㇳ月前に関東へ派遣したはず。
「俺に聞いても仕様がないだろう。
知りたいなら国軍に尋ねろ」
「それが連絡が付かない」
 意味が分からない。
どうして俺に、・・・。

 訳が分からないので俺は全員に尋ねた。
「分かる様に話せ。
でなければ、美濃へ送って取り調べる。
・・・。
爪なら二十枚、指なら二十本。
焼き鏝がご希望ならそれも良し。
意味が分かるよな」
 俺には美濃地方に限ってだが、
寄親伯爵なので司法警察権を与えられていた。
国都は所轄外だが、襲われたのは俺。
美濃へ連行すれば問題はない、ない筈だ。
耳にした五名全員が身体を強張らせた。
真っ先に男爵の一人が身を乗り出した。
「そんなつもりではなかった、信じてくれ」
「道を塞いで、武装した者達を俺の方へ向かわせた。
誰が見ても貴族襲撃の現行犯だ。
違うか、違わないだろう」
 五名のみか執事達までもが勝手に釈明し始めた。
どれもが手前勝手な言い分、この期に及んで実に見苦しい。
一つも心に響かない。
激したのか、口数の少なかった男爵が立ち上がろうとした。
それを陰供の一人が蹴り倒した。
「勝手に立ち上がるな」

 騒ぎを聞き付けたのか、奉行所の一隊が駆け付けて来た。
同心二名、捕り手六名、小者二名。
先任らしき同心が俺に軽く会釈した。
「これは如何なる騒ぎでしょうか」
 俺を見知ってる口振り。
「それは某から」
 陰供の頭が俺と同心の間に入った。
俺と相手方を指し示しながら、手短に経緯を説明した。
へえ、意外と口が巧いではないか。
簡潔だが、要領を得て、漏れがない。
納得したのか、同心が困った顔をした。
後ろで聞いていたもう一人の同心が俺に尋ねた。
「某共が襲撃犯に質問しても宜しいでしょうか」
 丁寧な物言い。
上から目線で拒否できるが、俺は鬼ではない。
寛大な心で頷いた。

 同心二名が襲撃犯側に歩み寄り、聞き取りを開始した。
その二名を助け船と見たのか、貴族と執事がにじり寄った。
ところが、同心二名に同情心はなさそう。
時折、「某共では美濃へ送られるのを止める手立てはない」と脅し、
襲撃に至る動機を聞き出す。
なんて悪質な。
これでは俺が悪党ではないか。

「連中は義勇兵旅団を木曽大樹海から送り出したそうなのです。
ところが、その旅団からいっこうに、その後の連絡がない。
それで美濃の寄親伯爵様である貴方様に、何かお知りでないか、
お尋ねしようと、今回の仕儀になったそうです」
 同心が先方の言い分を聞き出した。
本当にご苦労様。
襲撃犯側は期待を込めた視線をこちらに向けていた。
ほんとう、何を期待してるんだか。
俺は常識を教える義理はない。
が、取り敢えず無表情で連中を見回した。
「義勇兵旅団は当家の許可を得て、美濃に入ったのか。
俺の手元にその書類は届いていない。
美濃からも何の報告もない」
 何事にも段取りがあった。
他人様の領地を軍勢で通過する際は、そこの寄親伯爵の許可が必要。
許可したら、伯爵はその旨を寄子貴族衆に通知する。
そして肝心なのは、許可なく他人様の領地を通過する軍勢は、
謀叛の疑いがあるので、その場にて討伐しても構わない。

 おかしい、おかしい。
軍勢が許可なく通過したのなら、
美濃を任せているカールから連絡の一つや二つ。
それが一つもない。
子爵の一人が声を張り上げた。
「美濃は通っていない。
尾張から三河大湿原沿いに入ったのだ。
織田伯爵軍が通過したと言われる獣道を使った。
だから佐藤伯爵の許可は必要ない」
 織田伯爵軍は当家の支援を受けて三河に入った。
しかし、その行軍経路は軍事機密指定を受けているので、
一般には知られていない。
表向きには、木曽の大樹海を通過した事になっていた。
理解した。
つまり義勇兵旅団の関係者が生半可な情報を元に、尾張側から入って、
三河大湿原沿いに木曽大樹海を抜け様としたのだろう。
でも結局は、その木曽大樹海も美濃の所轄なんだけどね。

 俺は思わせぶりに溜息を付いた。
「ふうー、呆れて物が言えないな。
お前達は考える頭を持ってないのか。
・・・。
まず一つ、木曽大樹海を所轄するのは美濃だ。
だから事前に許可を得る必要がある。
二つ、木曽の者達の目を掻い潜っても、
木曽大樹海の魔物の目は掻い潜れない。
ましてや六千を超えた軍勢だと聞いた。
数は大軍勢だが、魔物からしたら大量の餌だ。
餌、それを見逃す訳がないだろう。
・・・。
美濃からも木曽からも何の報告もない。
一兵も戻って来ていないようだ。
もしかすると、全軍が信濃に入ったものの、
国都への使番だけが途中で魔物の餌になっただけかも知れない」

 生徒の危機ということで、学校の先生や衛士達が駆け付けて来た。
真っ先に地理担当の先生が俺に声を掛けた。
「佐藤伯爵、よかった無事・・・だね」
「怪我はありません」
 先生が相手方を見た。
「あちらは大変みたいだね」

 奉行所からの増援もあった。
二十名近い捕り方。
率いていた与力が同心に尋ねた。
「説明せよ」
 同心が与力に歩み寄り、耳元に囁く。
次第に顔色が悪くなって行く。
聞き終えて一言漏らした。
「面倒事だな」

 勿論、うちの屋敷からも大勢が駆け付けた。
陰供の頭が、顔馴染みの街の者に金銭を与え、屋敷に走らせたのだ。
それが来るわ、来るわ。
ウィリアム佐々木が屋敷の騎士十騎と徒士五十余を率いていた。
執事長・ダンカン長岡は馬車で後ろに付いていた。
その馬車が到着すると、
中からバーパラやドリス、ジューンが飛び出して来た。

 うちの侍女長・バーバラが意外な脚力を見せつけた。
真っ先に俺の身体をまさぐった。
「お怪我はありませんか」 
 くすぐったい。
「ないよ、全くない」
 メイド長・ドリスが俺にポーションを差し出した。
「お飲みになりますか」
 ジューンからも同じ様に差し出された。

 後ろからキャロルが俺に言う。
「愛されてるわね、嫉妬しちゃう」
 シェリルが応じた。
「愛されてるのか、甘やかされてるのか」
 マーリンが止め。
「甘やかされてるの間違いよ」
 ボニーがボソッと言う。
「問題はこれをどう収めるかでしょう。
理由はどうあれ、襲撃には違いありませんからね」


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