俺の選択肢は限られていた。
鑑定を起動し、危ないスキル持ちはいないか、調べた。
低レベルばかり。
それで俺に喧嘩を売ってくるとは。
貴族は、子爵二名に男爵三名。
俺は比較的元気そうな子爵の前に立った。
演技を起動し、ジッと見下ろした。
児童が大人を見下ろす図。
嫌なものだが、心底は隠した。
「談合とは何だ」
「義勇兵旅団についての問い合わせだ」
噂では一ㇳ月前に関東へ派遣したはず。
「俺に聞いても仕様がないだろう。
知りたいなら国軍に尋ねろ」
「それが連絡が付かない」
意味が分からない。
どうして俺に、・・・。
訳が分からないので俺は全員に尋ねた。
「分かる様に話せ。
でなければ、美濃へ送って取り調べる。
・・・。
爪なら二十枚、指なら二十本。
焼き鏝がご希望ならそれも良し。
意味が分かるよな」
俺には美濃地方に限ってだが、
寄親伯爵なので司法警察権を与えられていた。
国都は所轄外だが、襲われたのは俺。
美濃へ連行すれば問題はない、ない筈だ。
耳にした五名全員が身体を強張らせた。
真っ先に男爵の一人が身を乗り出した。
「そんなつもりではなかった、信じてくれ」
「道を塞いで、武装した者達を俺の方へ向かわせた。
誰が見ても貴族襲撃の現行犯だ。
違うか、違わないだろう」
五名のみか執事達までもが勝手に釈明し始めた。
どれもが手前勝手な言い分、この期に及んで実に見苦しい。
一つも心に響かない。
激したのか、口数の少なかった男爵が立ち上がろうとした。
それを陰供の一人が蹴り倒した。
「勝手に立ち上がるな」
騒ぎを聞き付けたのか、奉行所の一隊が駆け付けて来た。
同心二名、捕り手六名、小者二名。
先任らしき同心が俺に軽く会釈した。
「これは如何なる騒ぎでしょうか」
俺を見知ってる口振り。
「それは某から」
陰供の頭が俺と同心の間に入った。
俺と相手方を指し示しながら、手短に経緯を説明した。
へえ、意外と口が巧いではないか。
簡潔だが、要領を得て、漏れがない。
納得したのか、同心が困った顔をした。
後ろで聞いていたもう一人の同心が俺に尋ねた。
「某共が襲撃犯に質問しても宜しいでしょうか」
丁寧な物言い。
上から目線で拒否できるが、俺は鬼ではない。
寛大な心で頷いた。
同心二名が襲撃犯側に歩み寄り、聞き取りを開始した。
その二名を助け船と見たのか、貴族と執事がにじり寄った。
ところが、同心二名に同情心はなさそう。
時折、「某共では美濃へ送られるのを止める手立てはない」と脅し、
襲撃に至る動機を聞き出す。
なんて悪質な。
これでは俺が悪党ではないか。
「連中は義勇兵旅団を木曽大樹海から送り出したそうなのです。
ところが、その旅団からいっこうに、その後の連絡がない。
それで美濃の寄親伯爵様である貴方様に、何かお知りでないか、
お尋ねしようと、今回の仕儀になったそうです」
同心が先方の言い分を聞き出した。
本当にご苦労様。
襲撃犯側は期待を込めた視線をこちらに向けていた。
ほんとう、何を期待してるんだか。
俺は常識を教える義理はない。
が、取り敢えず無表情で連中を見回した。
「義勇兵旅団は当家の許可を得て、美濃に入ったのか。
俺の手元にその書類は届いていない。
美濃からも何の報告もない」
何事にも段取りがあった。
他人様の領地を軍勢で通過する際は、そこの寄親伯爵の許可が必要。
許可したら、伯爵はその旨を寄子貴族衆に通知する。
そして肝心なのは、許可なく他人様の領地を通過する軍勢は、
謀叛の疑いがあるので、その場にて討伐しても構わない。
おかしい、おかしい。
軍勢が許可なく通過したのなら、
美濃を任せているカールから連絡の一つや二つ。
それが一つもない。
子爵の一人が声を張り上げた。
「美濃は通っていない。
尾張から三河大湿原沿いに入ったのだ。
織田伯爵軍が通過したと言われる獣道を使った。
だから佐藤伯爵の許可は必要ない」
織田伯爵軍は当家の支援を受けて三河に入った。
しかし、その行軍経路は軍事機密指定を受けているので、
一般には知られていない。
表向きには、木曽の大樹海を通過した事になっていた。
理解した。
つまり義勇兵旅団の関係者が生半可な情報を元に、尾張側から入って、
三河大湿原沿いに木曽大樹海を抜け様としたのだろう。
でも結局は、その木曽大樹海も美濃の所轄なんだけどね。
俺は思わせぶりに溜息を付いた。
「ふうー、呆れて物が言えないな。
お前達は考える頭を持ってないのか。
・・・。
まず一つ、木曽大樹海を所轄するのは美濃だ。
だから事前に許可を得る必要がある。
二つ、木曽の者達の目を掻い潜っても、
木曽大樹海の魔物の目は掻い潜れない。
ましてや六千を超えた軍勢だと聞いた。
数は大軍勢だが、魔物からしたら大量の餌だ。
餌、それを見逃す訳がないだろう。
・・・。
美濃からも木曽からも何の報告もない。
一兵も戻って来ていないようだ。
もしかすると、全軍が信濃に入ったものの、
国都への使番だけが途中で魔物の餌になっただけかも知れない」
生徒の危機ということで、学校の先生や衛士達が駆け付けて来た。
真っ先に地理担当の先生が俺に声を掛けた。
「佐藤伯爵、よかった無事・・・だね」
「怪我はありません」
先生が相手方を見た。
「あちらは大変みたいだね」
奉行所からの増援もあった。
二十名近い捕り方。
率いていた与力が同心に尋ねた。
「説明せよ」
同心が与力に歩み寄り、耳元に囁く。
次第に顔色が悪くなって行く。
聞き終えて一言漏らした。
「面倒事だな」
勿論、うちの屋敷からも大勢が駆け付けた。
陰供の頭が、顔馴染みの街の者に金銭を与え、屋敷に走らせたのだ。
それが来るわ、来るわ。
ウィリアム佐々木が屋敷の騎士十騎と徒士五十余を率いていた。
執事長・ダンカン長岡は馬車で後ろに付いていた。
その馬車が到着すると、
中からバーパラやドリス、ジューンが飛び出して来た。
うちの侍女長・バーバラが意外な脚力を見せつけた。
真っ先に俺の身体をまさぐった。
「お怪我はありませんか」
くすぐったい。
「ないよ、全くない」
メイド長・ドリスが俺にポーションを差し出した。
「お飲みになりますか」
ジューンからも同じ様に差し出された。
後ろからキャロルが俺に言う。
「愛されてるわね、嫉妬しちゃう」
シェリルが応じた。
「愛されてるのか、甘やかされてるのか」
マーリンが止め。
「甘やかされてるの間違いよ」
ボニーがボソッと言う。
「問題はこれをどう収めるかでしょう。
理由はどうあれ、襲撃には違いありませんからね」
鑑定を起動し、危ないスキル持ちはいないか、調べた。
低レベルばかり。
それで俺に喧嘩を売ってくるとは。
貴族は、子爵二名に男爵三名。
俺は比較的元気そうな子爵の前に立った。
演技を起動し、ジッと見下ろした。
児童が大人を見下ろす図。
嫌なものだが、心底は隠した。
「談合とは何だ」
「義勇兵旅団についての問い合わせだ」
噂では一ㇳ月前に関東へ派遣したはず。
「俺に聞いても仕様がないだろう。
知りたいなら国軍に尋ねろ」
「それが連絡が付かない」
意味が分からない。
どうして俺に、・・・。
訳が分からないので俺は全員に尋ねた。
「分かる様に話せ。
でなければ、美濃へ送って取り調べる。
・・・。
爪なら二十枚、指なら二十本。
焼き鏝がご希望ならそれも良し。
意味が分かるよな」
俺には美濃地方に限ってだが、
寄親伯爵なので司法警察権を与えられていた。
国都は所轄外だが、襲われたのは俺。
美濃へ連行すれば問題はない、ない筈だ。
耳にした五名全員が身体を強張らせた。
真っ先に男爵の一人が身を乗り出した。
「そんなつもりではなかった、信じてくれ」
「道を塞いで、武装した者達を俺の方へ向かわせた。
誰が見ても貴族襲撃の現行犯だ。
違うか、違わないだろう」
五名のみか執事達までもが勝手に釈明し始めた。
どれもが手前勝手な言い分、この期に及んで実に見苦しい。
一つも心に響かない。
激したのか、口数の少なかった男爵が立ち上がろうとした。
それを陰供の一人が蹴り倒した。
「勝手に立ち上がるな」
騒ぎを聞き付けたのか、奉行所の一隊が駆け付けて来た。
同心二名、捕り手六名、小者二名。
先任らしき同心が俺に軽く会釈した。
「これは如何なる騒ぎでしょうか」
俺を見知ってる口振り。
「それは某から」
陰供の頭が俺と同心の間に入った。
俺と相手方を指し示しながら、手短に経緯を説明した。
へえ、意外と口が巧いではないか。
簡潔だが、要領を得て、漏れがない。
納得したのか、同心が困った顔をした。
後ろで聞いていたもう一人の同心が俺に尋ねた。
「某共が襲撃犯に質問しても宜しいでしょうか」
丁寧な物言い。
上から目線で拒否できるが、俺は鬼ではない。
寛大な心で頷いた。
同心二名が襲撃犯側に歩み寄り、聞き取りを開始した。
その二名を助け船と見たのか、貴族と執事がにじり寄った。
ところが、同心二名に同情心はなさそう。
時折、「某共では美濃へ送られるのを止める手立てはない」と脅し、
襲撃に至る動機を聞き出す。
なんて悪質な。
これでは俺が悪党ではないか。
「連中は義勇兵旅団を木曽大樹海から送り出したそうなのです。
ところが、その旅団からいっこうに、その後の連絡がない。
それで美濃の寄親伯爵様である貴方様に、何かお知りでないか、
お尋ねしようと、今回の仕儀になったそうです」
同心が先方の言い分を聞き出した。
本当にご苦労様。
襲撃犯側は期待を込めた視線をこちらに向けていた。
ほんとう、何を期待してるんだか。
俺は常識を教える義理はない。
が、取り敢えず無表情で連中を見回した。
「義勇兵旅団は当家の許可を得て、美濃に入ったのか。
俺の手元にその書類は届いていない。
美濃からも何の報告もない」
何事にも段取りがあった。
他人様の領地を軍勢で通過する際は、そこの寄親伯爵の許可が必要。
許可したら、伯爵はその旨を寄子貴族衆に通知する。
そして肝心なのは、許可なく他人様の領地を通過する軍勢は、
謀叛の疑いがあるので、その場にて討伐しても構わない。
おかしい、おかしい。
軍勢が許可なく通過したのなら、
美濃を任せているカールから連絡の一つや二つ。
それが一つもない。
子爵の一人が声を張り上げた。
「美濃は通っていない。
尾張から三河大湿原沿いに入ったのだ。
織田伯爵軍が通過したと言われる獣道を使った。
だから佐藤伯爵の許可は必要ない」
織田伯爵軍は当家の支援を受けて三河に入った。
しかし、その行軍経路は軍事機密指定を受けているので、
一般には知られていない。
表向きには、木曽の大樹海を通過した事になっていた。
理解した。
つまり義勇兵旅団の関係者が生半可な情報を元に、尾張側から入って、
三河大湿原沿いに木曽大樹海を抜け様としたのだろう。
でも結局は、その木曽大樹海も美濃の所轄なんだけどね。
俺は思わせぶりに溜息を付いた。
「ふうー、呆れて物が言えないな。
お前達は考える頭を持ってないのか。
・・・。
まず一つ、木曽大樹海を所轄するのは美濃だ。
だから事前に許可を得る必要がある。
二つ、木曽の者達の目を掻い潜っても、
木曽大樹海の魔物の目は掻い潜れない。
ましてや六千を超えた軍勢だと聞いた。
数は大軍勢だが、魔物からしたら大量の餌だ。
餌、それを見逃す訳がないだろう。
・・・。
美濃からも木曽からも何の報告もない。
一兵も戻って来ていないようだ。
もしかすると、全軍が信濃に入ったものの、
国都への使番だけが途中で魔物の餌になっただけかも知れない」
生徒の危機ということで、学校の先生や衛士達が駆け付けて来た。
真っ先に地理担当の先生が俺に声を掛けた。
「佐藤伯爵、よかった無事・・・だね」
「怪我はありません」
先生が相手方を見た。
「あちらは大変みたいだね」
奉行所からの増援もあった。
二十名近い捕り方。
率いていた与力が同心に尋ねた。
「説明せよ」
同心が与力に歩み寄り、耳元に囁く。
次第に顔色が悪くなって行く。
聞き終えて一言漏らした。
「面倒事だな」
勿論、うちの屋敷からも大勢が駆け付けた。
陰供の頭が、顔馴染みの街の者に金銭を与え、屋敷に走らせたのだ。
それが来るわ、来るわ。
ウィリアム佐々木が屋敷の騎士十騎と徒士五十余を率いていた。
執事長・ダンカン長岡は馬車で後ろに付いていた。
その馬車が到着すると、
中からバーパラやドリス、ジューンが飛び出して来た。
うちの侍女長・バーバラが意外な脚力を見せつけた。
真っ先に俺の身体をまさぐった。
「お怪我はありませんか」
くすぐったい。
「ないよ、全くない」
メイド長・ドリスが俺にポーションを差し出した。
「お飲みになりますか」
ジューンからも同じ様に差し出された。
後ろからキャロルが俺に言う。
「愛されてるわね、嫉妬しちゃう」
シェリルが応じた。
「愛されてるのか、甘やかされてるのか」
マーリンが止め。
「甘やかされてるの間違いよ」
ボニーがボソッと言う。
「問題はこれをどう収めるかでしょう。
理由はどうあれ、襲撃には違いありませんからね」
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