金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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なりすまし。(118)

2017-01-14 08:11:09 | Weblog
 アリスに地図を見上げながら尋ねられた。
「貴女の国は」
 俺は正直には答えなかった。
現代の文明文化は彼女には難しすぎる。
かえって混乱を招くだけ。
 人は鉄の箱に乗り、地上地下を走り、空を飛び、海に潜れるようになった。
果ては月にも足跡を印した。
年月かけて進歩した彼等が好きな言葉は自由、平等、平和。
なのに地球を何度も何度も破壊出来る爆弾を無数に所持していた。
理解の外だろう。
なかでも、オンラインゲームに触れるのは、以ての外。
何もかもが俺の説明能力を遙かに超えていた。
 嘘が親切な場合がある。
それが今だ。
俺はこの国の文化に近い江戸時代を語った。
士農工商の身分があった時代。
彼女は嬉しそうに目を輝かせ、時折、質問を織り交ぜてくれた。
 俺は話の切れ目をみつけて尋ねた。
「モンスターの島に人を遣ったことは」
「ないわね。
我が国はモンスター撃退で手一杯なの。
他国もないみたい。
冒険者や商人が入った、という話しも聞かないわ」
 モンスターの島もオンラインゲームから生まれた物ではないか、と思った。
一夜にして出現した、ということが不自然すぎた。
フルーツランドのように出現したのであれば、納得のしようがあった。
閉鎖されたゲームが解き放たれて、ここに具現化したのであろう。
具現化の切っ掛けは分からないが、そう考えれば辻褄が合う。
 問題はモンスターの能力だ。
モンスターゲームは無数にあった。
事情により閉鎖されたゲーム、放置されたゲームも無数にあった。
モンスターの種類ともなると、それ以上。
その全てを俺が知っている分けではない。
どんな能力のモンスターが越境して来たのか、想像すらつかない。
俺は彼女の力になれないと思った。
 俺の顔色を読んだのだろう。
アリスが俺の手をグッと握り締めた。
「越境して来るモンスターと戦って、もう六年目よ。
ここまで耐えられた。
これから先もズッと耐えられるわ」
 説得力のない言葉は俺に向けてではない。
アリスが自分自身に言い聞かせていた。
 突然、笑い声が起こった。
そちらを振り返ると、
大広間の片隅で子供達が折り重なっていた。
子犬達のように仲良く寝入っていた。
大人達が、「あらあら」と笑いながら子供達の寝顔を覗き込む。
キャロルもその中にいた。
俺は歩み寄り、無邪気な寝顔のキャロルを抱き上げた。
年相応に軽い。
これを切っ掛けに食事会が終わった。
 アリスが皆に、
「カルメンとキャロルの二人は暫く私が預かります。
こちらの都合で召喚に巻き込まれて気の毒です。
二人の身の振り方が決まるまで私の傍に置きます」宣言した。
 スグルとタツヤが猛反対するが、彼女は聞き入れない。
「これは決定事項です、翻ることはありません。
それに二人はおなご、何の問題もないでしょう」
 彼女は先頭に立って俺達姉妹を案内した。
一階に下りて回廊を渡り、隣の塔に入った。
塔自体が後宮になっていた。
 中に入ると女官達の出迎えを受けた。
大広間で見たメイド達と違い、彼女達は官位が与えられていた。
 塔内部は王、王妃、側室、子供それぞれの身分で区画割りされていた。
アリスの部屋は広く、客人二人を泊めるのに何の問題もなかった。
ベッドも広かった。
「寝相が良ければ三人並んで眠れるわね」とアリス。
 大の大人三人でも余裕がありそうだった。
そのベッドの中央にキャロルを下ろしたが、女児は一向に目を覚まさない。
無意識にシーツを引き上げ、枕を抱いた。
 室内の調度品から歴史が感じられた。
箪笥、書棚だけでなく椅子までも重厚感があった。
代々受け継がれてきた物を大切に扱っているのだろう。
 女官が中央の丸テーブルにお茶を置くと、軽く一礼して引き下がった。
お茶は二人分。
アリスが椅子に腰掛け、お茶に手を伸ばした。
俺も勧められた。
一口飲んだが、苦い。
日本茶でも紅茶でもなかった。
カップの中を見るに、柿の葉のような気がした。
でも嫌な苦さではない。
飲み干した。
 アリスが俺を見た。
「話の続きをしましよう」飲みかけのお茶を下ろした。
 大広間で中断した生け贄の話し。
「言いにくいのなら、無理しなくても構わないが」
「聞いて欲しいの。
他人だから喋りやすいの」
「わかった。聞こう」両手を卓上に置いた。
 アリスは視線を俺に据え、「私は私を差し出すわ」はっきり言い、
「喜んで生け贄になるの」続けた。
 俺は言葉がない。
視線を受け止めるので手一杯。
 アリスが左手を俺の右手の甲に掌を重ねて来た。
微かな震えが伝わって来た。
「なんて馬鹿な事をと思うでしょうね。
でも本気よ。
・・・。
私は小さな頃からお姫様お姫様として育てられた。
でもね、それは初潮を迎えるまでの話しで、
初潮を迎えてからは世間一般の想像とは全く違うのよ。
真綿にくるむように大切に大切にではなくて、いずれ嫁ぐから、
その嫁ぎ先で如何にして振る舞うか、微に入り細にわたる教育を受けたの。
国の外交の一つの駒として他所の王家へ嫁ぎ、如何にして故国に貢献するのか。
女官達が教えてくれるのは、どうすれば男を籠絡できるか、
どうすれば後宮を支配出来るか。
密かに故国と連絡を取る事態が生じた際の暗号の組み方もね。
・・・。
私は私個人ではいられないの。
平時はただの駒。
戦時は人質。
国の操り人形でしかないの。
私は、姫とはそんなものだと思っていた。
そういう生き方しか出来ないと思っていた。
例えば、民は身を粉にして働いて税を払う。
騎士は刀槍を持って戦場を駆ける。
彼等と同じ様に、私は国の操り人形になる。
それが当たり前だと信じていた。
・・・。
馬鹿げてるでしょう。
そんな時にモンスターの島が出現したの。
それからよ、色々あって疑問を持つようになった」
 アリスの右手が伸びて来た。
甲を上にして俺の前に置かれた。
俺の左手が自然に動いた。
何の考えもなしに掌を彼女の手に重ねた。
 アリスの口元がほころぶ。
彼女は無駄口はきかない。
一拍置くと話しを再開した。




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