言うだけ言うと宋典は一人頷いた。
自分で自分に満足しているのが分かった。
みんなに喋ったので、胸のモヤモヤが晴れたに違いない。
「喋り過ぎたかな」そうは思っていない顔色。
壺を持って立ち上がった。
ゆっくり、みんなを見回した。
「そろそろ帰るわ」酒だけは手放さず、すっきりした顔で部屋から出て行く。
何美雨は宦官を黙って見送り、卓に片肘ついて一頻り考えた。
宦官の言いたい事だけは分かった。
帝が毒殺されようが失敗に終わろうが、何皇后とその皇子の運命は定まっていて、
どんなに手を尽くそうが逃れられない。
たとえ毒殺の黒幕を捕らえようが運命は一時的に停止するだけで、
時が過ぎれば再び動き出すのは必定。
何進大将軍も当然ながら巻き込まれて家運が傾く、ということ。
何美雨は何一族の運命には興味がなかった。
大切なのは己だけ。
禍が自分に及ばないように手を打たねばならない。
それも妙手を。
心配そうに覗く黄小芳に命じた。
「何家の家宰と内密に会う手筈を整えて頂戴。
人目につきたくないので、街中で会いたいわね」
黄小芳は詳しく聞かずに了承した。
三日後にそれが実現した。
後宮の四人乗り馬車で外郭へ出た。
警護の女武者二騎の先導で街中を進む。
とある屋敷の前で馬車が止まった。
門構えが小さいので馬車での乗り入れは出来ない。
黄小芳が先に下りた。
「ここですよ」
何美雨と侍女二人が下りて屋敷を見回した。
黄小芳から事前に、「老後の為に買い取り、親戚に留守を預けている」と聞いていた。
三人は感心した。
下働きで、これだけの屋敷を買い取るとは、たいしたもの。
忠勤だけで銭は貯まらない。
時として、あくどさも必要とする。
だが敢えて三人は問わない。
どんな汚れ仕事をしていたのか知っているので、「然もありなん」と合点した。
馬車が止まる音が聞こえたのだろう。
中から中年女がコロコロと転がるように飛び出して来た。
「叔母様、お待ちしてました」
丸々と太っていて愛嬌があり、黄小芳の身内にはとても見えない。
黄小芳が問う。
「先様は」
「すでに到着なさってます。
離れに案内し、お茶を出して置きました」
「先様は一人」
「はい。連れはいません」
馬車と女武者二騎を表に残し、主従四人は中年女の案内で屋敷に入った。
表から見るよりも奥行きがあった。
庭も広い。
「どれだけ貯めれば・・・」
「私達には無理よね」と劉春燕、劉茉莉の二人。
何美雨一人で離れへ向かった。
庭先の池の側に、こぢんまり建てられていた。
足音で分かったのだろう。
入ると何家の家宰、楊徳が低頭して迎えた。
「お招きにより参上いたしました」堅苦しい。
「だいぶ待たせたようね」
「いいえ、お気遣いなく」
「みんなに変わりはない」
「ええ。
それよりもお嬢様、そろそろ戻られてはどうですか」
「無理よ。
それに後宮の暮らしにも慣れたし・・・」
黄小芳がお茶を運んで来た。
何美雨の前に熱いのをソッと置く。
それから楊徳を見て軽く頷き、お茶を入れ替えた。
用事を済ませると、何も言わずに退室した。
何美雨は宋典から聞いた話しを、後宮の、王宮の空気として伝えた。
次第に楊徳の顔色が失われて行く。
聞き終えた頃には、悄然と項垂れていた。
何美雨は気の毒そうに楊徳を見た。
「ねえ、楊徳。
何家を見限って逃げるなら今よ」
聞いた楊徳は唖然とし、何美雨を見上げた。
そして表情を一変させた。
「何を仰有いますか。
この楊徳、最後まで何家に踏み留まります」
何美雨は挑むような目色で楊徳を見た。
「それなら一つ、手立てがあるのよ。
貴男なら才覚もあるし、見知りの者も多いでしょう。
貴男なら何とかなるかも知れないわ」
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「喋り過ぎたかな」そうは思っていない顔色。
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何美雨は宦官を黙って見送り、卓に片肘ついて一頻り考えた。
宦官の言いたい事だけは分かった。
帝が毒殺されようが失敗に終わろうが、何皇后とその皇子の運命は定まっていて、
どんなに手を尽くそうが逃れられない。
たとえ毒殺の黒幕を捕らえようが運命は一時的に停止するだけで、
時が過ぎれば再び動き出すのは必定。
何進大将軍も当然ながら巻き込まれて家運が傾く、ということ。
何美雨は何一族の運命には興味がなかった。
大切なのは己だけ。
禍が自分に及ばないように手を打たねばならない。
それも妙手を。
心配そうに覗く黄小芳に命じた。
「何家の家宰と内密に会う手筈を整えて頂戴。
人目につきたくないので、街中で会いたいわね」
黄小芳は詳しく聞かずに了承した。
三日後にそれが実現した。
後宮の四人乗り馬車で外郭へ出た。
警護の女武者二騎の先導で街中を進む。
とある屋敷の前で馬車が止まった。
門構えが小さいので馬車での乗り入れは出来ない。
黄小芳が先に下りた。
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黄小芳から事前に、「老後の為に買い取り、親戚に留守を預けている」と聞いていた。
三人は感心した。
下働きで、これだけの屋敷を買い取るとは、たいしたもの。
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どんな汚れ仕事をしていたのか知っているので、「然もありなん」と合点した。
馬車が止まる音が聞こえたのだろう。
中から中年女がコロコロと転がるように飛び出して来た。
「叔母様、お待ちしてました」
丸々と太っていて愛嬌があり、黄小芳の身内にはとても見えない。
黄小芳が問う。
「先様は」
「すでに到着なさってます。
離れに案内し、お茶を出して置きました」
「先様は一人」
「はい。連れはいません」
馬車と女武者二騎を表に残し、主従四人は中年女の案内で屋敷に入った。
表から見るよりも奥行きがあった。
庭も広い。
「どれだけ貯めれば・・・」
「私達には無理よね」と劉春燕、劉茉莉の二人。
何美雨一人で離れへ向かった。
庭先の池の側に、こぢんまり建てられていた。
足音で分かったのだろう。
入ると何家の家宰、楊徳が低頭して迎えた。
「お招きにより参上いたしました」堅苦しい。
「だいぶ待たせたようね」
「いいえ、お気遣いなく」
「みんなに変わりはない」
「ええ。
それよりもお嬢様、そろそろ戻られてはどうですか」
「無理よ。
それに後宮の暮らしにも慣れたし・・・」
黄小芳がお茶を運んで来た。
何美雨の前に熱いのをソッと置く。
それから楊徳を見て軽く頷き、お茶を入れ替えた。
用事を済ませると、何も言わずに退室した。
何美雨は宋典から聞いた話しを、後宮の、王宮の空気として伝えた。
次第に楊徳の顔色が失われて行く。
聞き終えた頃には、悄然と項垂れていた。
何美雨は気の毒そうに楊徳を見た。
「ねえ、楊徳。
何家を見限って逃げるなら今よ」
聞いた楊徳は唖然とし、何美雨を見上げた。
そして表情を一変させた。
「何を仰有いますか。
この楊徳、最後まで何家に踏み留まります」
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