アリスが俺をジッと見た。
「何があったのか、ちゃんと説明してくれるんでしょうね」
「もちろん。隠し事は一切しない」
「いいでしょう」
アリスはキャロルを抱いたまま女官二人に耳打ち。
その二人が後宮へ足早に戻るのを見送ると俺を振り向いた。
「付いて来て」
俺達も後宮へ戻った。
アリスに奥へ奥へと案内された。
右に、左に曲り、左、そして右、まるで迷路。
部屋に戻るのではなさそう。
けれどアリスは何も説明しない。
歩かされた先は行き止まり。
小さなドアがあった。
見るからに厚いドアと分かった。
「開けて」とアリス。
開けた途端、空気が変わった。
熱。
この熱気は風呂か。
さらにドアがあった。
それを開けると、白い湯気が俺を押し包んだ。
広い浴場が目に飛び込んで来た。
キャロルを下ろしてアリスが言う。
「温泉が湧くの。
さあ、一緒に入りましょう」
キャロルが歓声を上げた。
手早く脱ぐと温泉の温度も確かめず、ポンと飛び込んだ。
首に掛けた銀の身分票が揺れた。
注意する暇がなかった。
競争意識に駆られた分けではないだろうが、アリスも手早く脱いだ。
どうやら彼女は着痩せするタイプらしい。
豊満な肉体を露わにした。
俺とは違って筋肉が付いていないので、美しい。
思わずマジマジ観察してしまった。
そんな俺の視線にアリスは気付かない。
キャロルを追うように温泉と飛び込んだ。
胸の谷間で金の身分票が燦めいた。
俺は脱いで、その上に巾着袋を置き、
身分票を首に掛けたまま、洗い場でかけ湯した。
自分を、女体を指先でしっかり確かめた。
隅々まで洗い流して実感した。本当に女なんだと。
ふと芽生えた大事な疑問・・・。
俺は処女の身体を得たのだろうか、それとも使用済みなんだろうか。
キャロルの笑い声が天井に響いた。
サーベルを振り回す天真爛漫な正真正銘処女の笑い。
アリスがキャロルを逃さぬように抱いて、弄ぶように洗っていた。
血の痕跡を完全に消し去るつもりなんだろう。
俺は自分に苦笑いをくれ、温泉に入った。
本来の俺は四十手前。
童貞でもないのに、処女かどうかを気にするとは何とも情けない。
奥の壁に猿のような彫刻が施され、その口から温泉が垂れ流されていた。
透明で、手で触れるとちょっと痛い熱さだが、入浴するには丁度良い。
近くで沈むように全身を温泉に浸した。
目を閉じて、気を抜いた。
気付くと傍にアリスがいた。
彼女は俺を真似て同じ入浴体勢をしていた。
視線を走らせると、キャロルは離れたところを、我が儘一杯、力泳していた。
こちらに来る気配ない。
俺はアリスの脇腹を指先で突っついた。
彼女は眠りを妨げられたかのような表情で俺を振り返った。
可愛い。
俺は欲望に負けた。
両手で彼女を抱き上げ、自分の上に乗せた。
俺が男だったら彼女は怒り狂うだろう。
ところが今の俺は女。
彼女の表情に乱れは一切ない。
アリスは嬉しそうに俺の首に両手を回し、頬擦りして囁いた。
「説明してくれるの」
俺はドギマギしたが、勘違いはしない。
「その前に、キャロルを洗ってくれて有り難う」
「どういたしまして。
さあ、説明して」
隠すことが無いので順序立てて、女官長の訪れから説明した。
彼女に案内されて後宮から出ると、家来を引き連れたスグルが待っていて、
身分票と硬貨で一杯の巾着袋が差し出された。
アリスの手が俺の身分票に伸びた。
「どうりで。
キャロルも掛けていたわね」細い指先で弄り回し、
「私に内緒で二人を連れ出そうと企んだのね」先を察した怒り混じりの言葉。
力尽くで連れ出そうとしたスグルの家来をキャロルと二人して倒した。
相手方が素手だったので、当然俺達も素手だったのだが、
丁度そこに衛兵の一団が通りがかり、こちらの騒ぎを目撃した。
どう勘違いしたのか分からないが、血を流す事態に発展した。
釈明を求められることもなく、一団の半数が槍の穂先を並べて寄せて来た。
俺は槍を相手に素手で挑む馬鹿ではない。
キャロルにも指示してサーベルで相手した。
結果、手足が散乱した。
聞いたアリスは黙り込んだ。
暫しの沈黙の後、「貴女もだけど、キャロルもサーベルで戦ったのね」不審そうに問う。
「戦った。
素手でもサーベルでも見事に戦った。
どちらかと言うと、悔しいけどキャロル方が腕が立った。
ああいうのを神憑り、とでも言うのかな」
アリスが俺の目を覗き込む。
「貴女は、少しだけど分かる気もする。
でもキャロルは信じられないわ。
細くて小さな女の子よ」
「だから神憑り。
みんなが見ていた。
そうだスグル殿に確かめれば良い」
またもやアリスは黙った。
上目遣いで考え込む。
そうしているうちに、彼女に変化が起こった。
肌を合わせているのでアリスの心拍数が跳ね上がって行くのが分かった。
彼女は怖がっているのではなかった。
反対に喜んでいる様子。
俺の首に回された両手に力が込められた。
ぐぐっと俺を引き寄せ、額と額を合わせた。
鼻先と鼻先がくっついた。
触れんばかりの唇から、問いが発せられた。
「貴女達は何者なの。
本当にただの人間なの、違うでしょう」
彼女の考えは手に取るように分かった。
魔物召喚を失敗と断じたが、俺達の戦い振りを聞いて、その判断に迷いが生じた。
微かな希望が芽生えた。
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「付いて来て」
俺達も後宮へ戻った。
アリスに奥へ奥へと案内された。
右に、左に曲り、左、そして右、まるで迷路。
部屋に戻るのではなさそう。
けれどアリスは何も説明しない。
歩かされた先は行き止まり。
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開けた途端、空気が変わった。
熱。
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キャロルを追うように温泉と飛び込んだ。
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身分票を首に掛けたまま、洗い場でかけ湯した。
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俺は処女の身体を得たのだろうか、それとも使用済みなんだろうか。
キャロルの笑い声が天井に響いた。
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アリスがキャロルを逃さぬように抱いて、弄ぶように洗っていた。
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本来の俺は四十手前。
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奥の壁に猿のような彫刻が施され、その口から温泉が垂れ流されていた。
透明で、手で触れるとちょっと痛い熱さだが、入浴するには丁度良い。
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目を閉じて、気を抜いた。
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彼女は俺を真似て同じ入浴体勢をしていた。
視線を走らせると、キャロルは離れたところを、我が儘一杯、力泳していた。
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俺はアリスの脇腹を指先で突っついた。
彼女は眠りを妨げられたかのような表情で俺を振り返った。
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俺は欲望に負けた。
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俺が男だったら彼女は怒り狂うだろう。
ところが今の俺は女。
彼女の表情に乱れは一切ない。
アリスは嬉しそうに俺の首に両手を回し、頬擦りして囁いた。
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力尽くで連れ出そうとしたスグルの家来をキャロルと二人して倒した。
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ああいうのを神憑り、とでも言うのかな」
アリスが俺の目を覗き込む。
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