金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)118

2009-04-14 21:00:10 | Weblog
 ヤマトは夕方に見た物を思い出した。
空間の歪みから放出された「透明の塊」だ。
あれはアッという間に東国の方向に落ちて行った。
位置と距離から武蔵辺りと見当をつけた。
もし、あれが人に憑依すれば・・・。
 慶次郎・白拍子の手を経た鬼斬りは、並み居る武将達を無視し、
豪姫を新しい持ち主に選んだ。
その豪姫が武蔵へ下りたがっていた。
本人の意思なのか、それとも鬼斬りに影響されているのか。
 そして白拍子は、すでに武蔵へ到着している筈。
 まるで「透明の塊」の出現を予期し、豪姫・白拍子が武蔵へ赴くかのようだ。
果たして三者の動きは連動しているのであろうか。
 「金色の涙」が鬼斬りを解析した。
鍛えられた金属部分に怪しげな気は感じられない。
ただ、柄の部分に小さな空間があり、何かが潜んでいた。
あるいは、封じられているのかもしれない。
「透明の塊」に近い物で、意思を持っている気配がある。
「鬼斬りに潜む物」は「透明の塊」とは違い、陽の気配が濃い。
 「金色の涙」は接触を試みるが、全く無視された。
言葉が違うのか、敢えて無視しているのか。
 ヤマトは豪姫に視線を向け、冷たい口調で答えた。
「武蔵へ行けば死ぬ。それでも良いのか」
 豪姫は胸を張った。
「女といえど、武家の娘。死を恐がってはいないわ」
 みんなは押し黙ってヤマトと豪姫を見比べた。
 ヤマトは悲しそうに表情を崩した。
「死ぬのは豪姫じゃない」
「・・・」
 不思議そうな顔の豪姫に、ヤマトは続けた。
「まず秀家と慶次郎が姫の盾になる。これに無二斎や幸村も加わるだろう。
陰供の忍者達もだ。みんなが豪姫の盾となって死ぬ。最後に残るのが豪姫だ」
 豪姫の顔から色が消えた。
「白拍子と争いになると考えているのか」
「否、たぶんないだろう。でも万が一の場合を考えるのが人の上に立つ者の仕事」
 豪姫は口を閉じた。
自分に危機が迫った時の事を考えているのだろう。
思い当たる事でもあるのか、目を伏せ、唇を噛み締めた。
 会話の途切れをねらい、藤次が嘴を差し挟んだ。
「ヤマト殿、拙者は盾の人数に入らんのですか」
「お主は豪姫とも宇喜多家とも、縁もゆかりもなき者」
 藤次は、「確かにそうどすなあ」と呟き、天井を見上げた。
それからゆっくりと顔を下げ、ヤマトを見た。
「道中、私は姫の鬼斬りを担いでおりましてん。槍持ちや弓持ちと同んなじや。
それは、家来っちゅうことやおへんか」
 藤次の惚けた物言いに、無二斎が大きく頷いた。
 豪姫は表情を強張らせ、藤次に尋ねた。
「見ず知らずの私の盾になるというのか」
 藤次は正座して豪姫を正面から見据え、頭を下げた。
「姫、ご懸念無用どす。手前が盾となったからには、一人も死なせません」
 豪姫の身体が小刻みに震え始めた。
落ち着かせようと伸ばされた秀家の手を掴み、刺々しい声でヤマトに尋ねた。
「私の行動は無謀なのか」
「無謀だが、みんなは姫の為なら喜んで死ぬだろう。誰一人、姫を恨まない」
「恨まない・・・酷い言い方ね」
「正直者だから」
 豪姫はヤマトと視線を絡ませた。
「何を隠している。やはり・・・、白拍子と争いになるのか」
「さっきも言ったように白拍子とは争わない。
しかし、どうしても武蔵に向かうのなら、盾は多ければ多いほど良い」
 慶次郎が目を怒らせ、口を開いた。
「ヤマト、何やら奥歯に物が挟まったような物言いだが」
 怒りの対象が豪姫からヤマトに代わっていた。
何かを隠しているのではないか、と疑っていた。
 ヤマトは、「オイラ、猫だから」と笑顔を作った。
「約束通り、豪姫の足止めはした。後は慶次郎の仕事だよ」
 慶次郎の答えを待たず、佐助と若菜に、「行くよ」と声をかけた。
 ヤマトが廊下に飛び出すや、佐助と若菜が後を追った。
一匹と二人は足音一つ立てずに、姿を消した。




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