ヤマトは夕方に見た物を思い出した。
空間の歪みから放出された「透明の塊」だ。
あれはアッという間に東国の方向に落ちて行った。
位置と距離から武蔵辺りと見当をつけた。
もし、あれが人に憑依すれば・・・。
慶次郎・白拍子の手を経た鬼斬りは、並み居る武将達を無視し、
豪姫を新しい持ち主に選んだ。
その豪姫が武蔵へ下りたがっていた。
本人の意思なのか、それとも鬼斬りに影響されているのか。
そして白拍子は、すでに武蔵へ到着している筈。
まるで「透明の塊」の出現を予期し、豪姫・白拍子が武蔵へ赴くかのようだ。
果たして三者の動きは連動しているのであろうか。
「金色の涙」が鬼斬りを解析した。
鍛えられた金属部分に怪しげな気は感じられない。
ただ、柄の部分に小さな空間があり、何かが潜んでいた。
あるいは、封じられているのかもしれない。
「透明の塊」に近い物で、意思を持っている気配がある。
「鬼斬りに潜む物」は「透明の塊」とは違い、陽の気配が濃い。
「金色の涙」は接触を試みるが、全く無視された。
言葉が違うのか、敢えて無視しているのか。
ヤマトは豪姫に視線を向け、冷たい口調で答えた。
「武蔵へ行けば死ぬ。それでも良いのか」
豪姫は胸を張った。
「女といえど、武家の娘。死を恐がってはいないわ」
みんなは押し黙ってヤマトと豪姫を見比べた。
ヤマトは悲しそうに表情を崩した。
「死ぬのは豪姫じゃない」
「・・・」
不思議そうな顔の豪姫に、ヤマトは続けた。
「まず秀家と慶次郎が姫の盾になる。これに無二斎や幸村も加わるだろう。
陰供の忍者達もだ。みんなが豪姫の盾となって死ぬ。最後に残るのが豪姫だ」
豪姫の顔から色が消えた。
「白拍子と争いになると考えているのか」
「否、たぶんないだろう。でも万が一の場合を考えるのが人の上に立つ者の仕事」
豪姫は口を閉じた。
自分に危機が迫った時の事を考えているのだろう。
思い当たる事でもあるのか、目を伏せ、唇を噛み締めた。
会話の途切れをねらい、藤次が嘴を差し挟んだ。
「ヤマト殿、拙者は盾の人数に入らんのですか」
「お主は豪姫とも宇喜多家とも、縁もゆかりもなき者」
藤次は、「確かにそうどすなあ」と呟き、天井を見上げた。
それからゆっくりと顔を下げ、ヤマトを見た。
「道中、私は姫の鬼斬りを担いでおりましてん。槍持ちや弓持ちと同んなじや。
それは、家来っちゅうことやおへんか」
藤次の惚けた物言いに、無二斎が大きく頷いた。
豪姫は表情を強張らせ、藤次に尋ねた。
「見ず知らずの私の盾になるというのか」
藤次は正座して豪姫を正面から見据え、頭を下げた。
「姫、ご懸念無用どす。手前が盾となったからには、一人も死なせません」
豪姫の身体が小刻みに震え始めた。
落ち着かせようと伸ばされた秀家の手を掴み、刺々しい声でヤマトに尋ねた。
「私の行動は無謀なのか」
「無謀だが、みんなは姫の為なら喜んで死ぬだろう。誰一人、姫を恨まない」
「恨まない・・・酷い言い方ね」
「正直者だから」
豪姫はヤマトと視線を絡ませた。
「何を隠している。やはり・・・、白拍子と争いになるのか」
「さっきも言ったように白拍子とは争わない。
しかし、どうしても武蔵に向かうのなら、盾は多ければ多いほど良い」
慶次郎が目を怒らせ、口を開いた。
「ヤマト、何やら奥歯に物が挟まったような物言いだが」
怒りの対象が豪姫からヤマトに代わっていた。
何かを隠しているのではないか、と疑っていた。
ヤマトは、「オイラ、猫だから」と笑顔を作った。
「約束通り、豪姫の足止めはした。後は慶次郎の仕事だよ」
慶次郎の答えを待たず、佐助と若菜に、「行くよ」と声をかけた。
ヤマトが廊下に飛び出すや、佐助と若菜が後を追った。
一匹と二人は足音一つ立てずに、姿を消した。
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空間の歪みから放出された「透明の塊」だ。
あれはアッという間に東国の方向に落ちて行った。
位置と距離から武蔵辺りと見当をつけた。
もし、あれが人に憑依すれば・・・。
慶次郎・白拍子の手を経た鬼斬りは、並み居る武将達を無視し、
豪姫を新しい持ち主に選んだ。
その豪姫が武蔵へ下りたがっていた。
本人の意思なのか、それとも鬼斬りに影響されているのか。
そして白拍子は、すでに武蔵へ到着している筈。
まるで「透明の塊」の出現を予期し、豪姫・白拍子が武蔵へ赴くかのようだ。
果たして三者の動きは連動しているのであろうか。
「金色の涙」が鬼斬りを解析した。
鍛えられた金属部分に怪しげな気は感じられない。
ただ、柄の部分に小さな空間があり、何かが潜んでいた。
あるいは、封じられているのかもしれない。
「透明の塊」に近い物で、意思を持っている気配がある。
「鬼斬りに潜む物」は「透明の塊」とは違い、陽の気配が濃い。
「金色の涙」は接触を試みるが、全く無視された。
言葉が違うのか、敢えて無視しているのか。
ヤマトは豪姫に視線を向け、冷たい口調で答えた。
「武蔵へ行けば死ぬ。それでも良いのか」
豪姫は胸を張った。
「女といえど、武家の娘。死を恐がってはいないわ」
みんなは押し黙ってヤマトと豪姫を見比べた。
ヤマトは悲しそうに表情を崩した。
「死ぬのは豪姫じゃない」
「・・・」
不思議そうな顔の豪姫に、ヤマトは続けた。
「まず秀家と慶次郎が姫の盾になる。これに無二斎や幸村も加わるだろう。
陰供の忍者達もだ。みんなが豪姫の盾となって死ぬ。最後に残るのが豪姫だ」
豪姫の顔から色が消えた。
「白拍子と争いになると考えているのか」
「否、たぶんないだろう。でも万が一の場合を考えるのが人の上に立つ者の仕事」
豪姫は口を閉じた。
自分に危機が迫った時の事を考えているのだろう。
思い当たる事でもあるのか、目を伏せ、唇を噛み締めた。
会話の途切れをねらい、藤次が嘴を差し挟んだ。
「ヤマト殿、拙者は盾の人数に入らんのですか」
「お主は豪姫とも宇喜多家とも、縁もゆかりもなき者」
藤次は、「確かにそうどすなあ」と呟き、天井を見上げた。
それからゆっくりと顔を下げ、ヤマトを見た。
「道中、私は姫の鬼斬りを担いでおりましてん。槍持ちや弓持ちと同んなじや。
それは、家来っちゅうことやおへんか」
藤次の惚けた物言いに、無二斎が大きく頷いた。
豪姫は表情を強張らせ、藤次に尋ねた。
「見ず知らずの私の盾になるというのか」
藤次は正座して豪姫を正面から見据え、頭を下げた。
「姫、ご懸念無用どす。手前が盾となったからには、一人も死なせません」
豪姫の身体が小刻みに震え始めた。
落ち着かせようと伸ばされた秀家の手を掴み、刺々しい声でヤマトに尋ねた。
「私の行動は無謀なのか」
「無謀だが、みんなは姫の為なら喜んで死ぬだろう。誰一人、姫を恨まない」
「恨まない・・・酷い言い方ね」
「正直者だから」
豪姫はヤマトと視線を絡ませた。
「何を隠している。やはり・・・、白拍子と争いになるのか」
「さっきも言ったように白拍子とは争わない。
しかし、どうしても武蔵に向かうのなら、盾は多ければ多いほど良い」
慶次郎が目を怒らせ、口を開いた。
「ヤマト、何やら奥歯に物が挟まったような物言いだが」
怒りの対象が豪姫からヤマトに代わっていた。
何かを隠しているのではないか、と疑っていた。
ヤマトは、「オイラ、猫だから」と笑顔を作った。
「約束通り、豪姫の足止めはした。後は慶次郎の仕事だよ」
慶次郎の答えを待たず、佐助と若菜に、「行くよ」と声をかけた。
ヤマトが廊下に飛び出すや、佐助と若菜が後を追った。
一匹と二人は足音一つ立てずに、姿を消した。
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