近衛の制服の一団が案内されて来た。
隣の侍従が俺に教えてくれた。
「元帥と副官、そして護衛の者達ですね」
真ん中の恰幅の良い男の肩章襟章がそれを物語っていた。
元帥の鋭い視線がこちらに向けられた。
何かを探る様子。
それは俺で止まった。
どうやら俺を見知っている様子。
俺は知らないけど。
副官が前に出た。
肩章は少佐。
「君が佐藤伯爵だね。
聞かせてくれるか。
表で縛られているのは、うちの長官なんだろう」
「ええ、そうですね」
「あの様な仕置きの理由は」
「謹慎の沙汰を聞き入れてもらえず・・・。
結果、あのような処理に相成りました。
まあ、ダイエットにはなる筈です」
元帥も長官同様に恰幅が良い。
割腹ダイエットにでもするか。
が、そこまでは口にしない。
少佐は納得できぬ色。
ところが後ろの元帥は違った。
噴き出してしまった。
人目がなけれは腹を抱えて笑ったかも知れない。
一頻り笑ってから俺に尋ねた。
「儂も謹慎かな」
「ええ、そうですね。
誰が敵で、誰が味方か分からぬ状況です。
そこでお偉い方には静養して頂こう、そう考えています。
これはお互いの為です」
「確かに、それが最も手っ取り早い。
近衛はそれで良いかも知れんな。
ところで、国軍や奉行所はどうする」
秘密裏に事を運ぶには、まず、全容を知る関係者を絞る。
情報統制を徹底して優先する。
今回の作戦区域は王宮区画と限られていた。
狭い範囲なので、近衛高官と一部関係者の抱き込みだけで済む。
費用対効果からすると、最低の費用で最大の効果を得られる。
コスパが良い。
成功すればだが・・・。
「国軍と奉行所は外郭が担当なので、管領は声掛けしていない筈です」
試し見るような目色の元帥。
「ほう、自信たっぷりだな、もし違っていたら」
俺は無表情で言い切った。
「ごめんなさい、そう謝ります」
元帥は鼻で笑った。
「ふっ、子供だからそれで許されるか」
元帥は俺の隣の侍従を見た。
そして彼に言う。
「分かった。
だが、謹慎は断る。
儂は王妃様の呼び出しがあるまでは有給休暇だ。
後は任せて良いか」
侍従が深く頷いた。
「万事お任せを」
元帥が一団を連れて引き揚げて行く。
それを侍従が見送りに出た。
俺にとっては、やれやれだ。
別の侍従が俺に囁いた。
「元帥だけあって巧妙ですな」
「えっ、そうなんだ・・・」
「ええ、そうですよ。
管領との間に密約があったのか、なかったのか、
当の管領が姿を消したので確かめようが有りません。
おそらく永遠に分からないでしょう。
それを元帥は逆手に取って戦術的撤退をしたんでしょうな」
なるほど、王妃様の呼び出しを持つ姿勢をアピール。
呼び出しを受けたら、忠臣の顔をして御前に跪く 。
「ああ・・・、なるほど」
「ご心配なく。
こちらはその逆手を利用させて貰います。
元帥代理も含め、要所をこちらで固めます」
俺は、大人の汚い作法を一つ学んだ。
ダンタルニャン、一つお利口になっちゃった・・・なっ。
それはそれとして、この後、国軍や奉行所の長官や元帥も現れた。
まるで近衛の元帥が無事に帰ったのを見たかのように・・・。
意外とそうなのかも知れない。
それが高官諸氏の処世術なのだろう。
批判するつもりはない。
王宮権力の仕組みを理解していれば、それも仕方ない。
俺は彼等の相手をした。
そこで感嘆させられた。
彼等は子供の言葉を真摯に受け取り、唯々諾々と従うのからだ。
委細の説明を求めるものの、反論や拒否はない。
おそらく近衛元帥の周辺からレクチャーを受けたのだろう。
この状況から無難に抜け出すつもりらしい。
まあ、それで良いか。
俺も早く普通の日常に戻りたい。
イヴ様付きの侍女が顔を出した。
「そろそろお昼ですよ」
そんな時間か。
難儀な諸氏がこちらのテーブルに回されて来るので、
すっかり脳味噌が疲弊してしまった。
俺は背伸びしながら返事した。
「はい、参ります」
背後に控えていたうちの者達も同様らしい。
大きく欠伸する者もいた。
「あっ・・・」
メイド、ジューンの声が上がった。
庭木から飛び立った大きな鳥を見掛けてのこと。
濡れたような黒い羽根。
育ちの良い魔鴉。
健康優良児なのかな。
魔鴉は俺を一瞥して、大空に駆け上がった。
それから魔波が感じ取れた。
うちの妖精の一人だ。
アリスとハッピーの執拗な要求に負け、条件付きで許可した。
妖精魔法の透明化でも魔導師には見破られる公算大。
そこで、スキル【変身】を条件とした。
形ある物ならば見過ごすとの思惑からだ。
もし疑われたら、高々度へ逃れるだけのこと。
人であれば追っては来れない。
たぶん、間違ってない、よね。
黒猫が前を横切った。
俺を横目で見て、「にゃ~ん」と。
笑われてる気がした。
魔波はハッピー。
王宮には普通に、野良猫や鴉が営巣していた。
それに魔猫や魔鴉が紛れていても不思議ではない。
危険性が皆無なので誰も気にしない。
警備の近衛も気にしない。
とっ、お尻から背中にかけて軽く温い感触。
それは、ポテポテポテ。
何かが俺の身体を駆け上がって来た。
それが俺の肩で止まった。
「にゃ~ん」
白い子猫。
紛れもなくアリスだ。
『何してんだよ』
「にゃ~ん」
『ほんとに何してんだよ』
「にゃにゃ~ん」
猫である事を強調していた。
隣の侍従が俺に教えてくれた。
「元帥と副官、そして護衛の者達ですね」
真ん中の恰幅の良い男の肩章襟章がそれを物語っていた。
元帥の鋭い視線がこちらに向けられた。
何かを探る様子。
それは俺で止まった。
どうやら俺を見知っている様子。
俺は知らないけど。
副官が前に出た。
肩章は少佐。
「君が佐藤伯爵だね。
聞かせてくれるか。
表で縛られているのは、うちの長官なんだろう」
「ええ、そうですね」
「あの様な仕置きの理由は」
「謹慎の沙汰を聞き入れてもらえず・・・。
結果、あのような処理に相成りました。
まあ、ダイエットにはなる筈です」
元帥も長官同様に恰幅が良い。
割腹ダイエットにでもするか。
が、そこまでは口にしない。
少佐は納得できぬ色。
ところが後ろの元帥は違った。
噴き出してしまった。
人目がなけれは腹を抱えて笑ったかも知れない。
一頻り笑ってから俺に尋ねた。
「儂も謹慎かな」
「ええ、そうですね。
誰が敵で、誰が味方か分からぬ状況です。
そこでお偉い方には静養して頂こう、そう考えています。
これはお互いの為です」
「確かに、それが最も手っ取り早い。
近衛はそれで良いかも知れんな。
ところで、国軍や奉行所はどうする」
秘密裏に事を運ぶには、まず、全容を知る関係者を絞る。
情報統制を徹底して優先する。
今回の作戦区域は王宮区画と限られていた。
狭い範囲なので、近衛高官と一部関係者の抱き込みだけで済む。
費用対効果からすると、最低の費用で最大の効果を得られる。
コスパが良い。
成功すればだが・・・。
「国軍と奉行所は外郭が担当なので、管領は声掛けしていない筈です」
試し見るような目色の元帥。
「ほう、自信たっぷりだな、もし違っていたら」
俺は無表情で言い切った。
「ごめんなさい、そう謝ります」
元帥は鼻で笑った。
「ふっ、子供だからそれで許されるか」
元帥は俺の隣の侍従を見た。
そして彼に言う。
「分かった。
だが、謹慎は断る。
儂は王妃様の呼び出しがあるまでは有給休暇だ。
後は任せて良いか」
侍従が深く頷いた。
「万事お任せを」
元帥が一団を連れて引き揚げて行く。
それを侍従が見送りに出た。
俺にとっては、やれやれだ。
別の侍従が俺に囁いた。
「元帥だけあって巧妙ですな」
「えっ、そうなんだ・・・」
「ええ、そうですよ。
管領との間に密約があったのか、なかったのか、
当の管領が姿を消したので確かめようが有りません。
おそらく永遠に分からないでしょう。
それを元帥は逆手に取って戦術的撤退をしたんでしょうな」
なるほど、王妃様の呼び出しを持つ姿勢をアピール。
呼び出しを受けたら、忠臣の顔をして御前に跪く 。
「ああ・・・、なるほど」
「ご心配なく。
こちらはその逆手を利用させて貰います。
元帥代理も含め、要所をこちらで固めます」
俺は、大人の汚い作法を一つ学んだ。
ダンタルニャン、一つお利口になっちゃった・・・なっ。
それはそれとして、この後、国軍や奉行所の長官や元帥も現れた。
まるで近衛の元帥が無事に帰ったのを見たかのように・・・。
意外とそうなのかも知れない。
それが高官諸氏の処世術なのだろう。
批判するつもりはない。
王宮権力の仕組みを理解していれば、それも仕方ない。
俺は彼等の相手をした。
そこで感嘆させられた。
彼等は子供の言葉を真摯に受け取り、唯々諾々と従うのからだ。
委細の説明を求めるものの、反論や拒否はない。
おそらく近衛元帥の周辺からレクチャーを受けたのだろう。
この状況から無難に抜け出すつもりらしい。
まあ、それで良いか。
俺も早く普通の日常に戻りたい。
イヴ様付きの侍女が顔を出した。
「そろそろお昼ですよ」
そんな時間か。
難儀な諸氏がこちらのテーブルに回されて来るので、
すっかり脳味噌が疲弊してしまった。
俺は背伸びしながら返事した。
「はい、参ります」
背後に控えていたうちの者達も同様らしい。
大きく欠伸する者もいた。
「あっ・・・」
メイド、ジューンの声が上がった。
庭木から飛び立った大きな鳥を見掛けてのこと。
濡れたような黒い羽根。
育ちの良い魔鴉。
健康優良児なのかな。
魔鴉は俺を一瞥して、大空に駆け上がった。
それから魔波が感じ取れた。
うちの妖精の一人だ。
アリスとハッピーの執拗な要求に負け、条件付きで許可した。
妖精魔法の透明化でも魔導師には見破られる公算大。
そこで、スキル【変身】を条件とした。
形ある物ならば見過ごすとの思惑からだ。
もし疑われたら、高々度へ逃れるだけのこと。
人であれば追っては来れない。
たぶん、間違ってない、よね。
黒猫が前を横切った。
俺を横目で見て、「にゃ~ん」と。
笑われてる気がした。
魔波はハッピー。
王宮には普通に、野良猫や鴉が営巣していた。
それに魔猫や魔鴉が紛れていても不思議ではない。
危険性が皆無なので誰も気にしない。
警備の近衛も気にしない。
とっ、お尻から背中にかけて軽く温い感触。
それは、ポテポテポテ。
何かが俺の身体を駆け上がって来た。
それが俺の肩で止まった。
「にゃ~ん」
白い子猫。
紛れもなくアリスだ。
『何してんだよ』
「にゃ~ん」
『ほんとに何してんだよ』
「にゃにゃ~ん」
猫である事を強調していた。
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