金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(テニス元年)21

2023-06-25 08:39:44 | Weblog
 俺はようやく深夜労働から解放された。
穏やかに過ごせる日々がやってきた。
普通にお子様伯爵生活を送れる。
ほっと一息、二息。

 街中では様々な噂が流れた。
俺がお邪魔した貴族二家と商家三家に関する噂だ。
的を射たのもあったが、多くは悪意に満ちていた。
それだけ敵が多いという事なのだろう。
 学校でも、それで持ち切り。
うちのクラスも例外ではなかった。
平民で構成されていても、商家の子女もいれば、
文武官の道を目指す者もいて、無関心ではいられないのだ。

 執事長・ダンカンが入手した情報によると、
治癒魔法使い達に治療されていたラファエル松永公爵だが、
今もって昏睡から覚めぬそうで、このままでは引退間近。
当主交代するしかない、と身内からそんな声が漏れているそうだ。
「奇異な事に、大勢の騎士や衛士が目を痛めたそうです。
屋敷内で何が起こったのでしょうかね」とはダンカン。
知らんがな、言える訳なかろう。
沈黙こそは金貨。

 逮捕されたペミョンは、近いうちに司法の場で裁かれるそうだ。
また、ペミョン・デサリ金融と彼を含めた関係者の資産が、
根こそぎ奉行所に接収された。
これは判決後に備えた処置で、接収した資産で被害者に弁済し、
余剰金は国庫に入れるとか。
「半分近くが国庫に入るそうです。
こちらも何が起きたのか分かりませんが、
最終的には国が儲かって終わりです」とはダンカン。
そうなんだよな。
無為無策の国が濡れ手に粟とは、ビックリだよ。

 ミゲル長井伯爵に至っては悲惨なもの。
奉行所から長井伯爵家に戻されるや、
家族重臣一同から地下牢に押し込められた。
そして同じく家族重臣一同から宮廷に、
伯爵は心身が病んでいるので引退させます、との申し立てが行われた。
結果、嫡男が跡を継いだ。
「噂が消えた頃合いにミゲルと妾は領地に送られ、
長期療養に入るそうです」とはダンカン。
 これには助かった。
転移のテの字も出ていない。
たぶん、ミゲルと妾も分かっていなかったのが功を奏したのだろう。

「街の噂ですが、セサル商会とラウル商会の仲が険悪になったそうです」
 俺は知らぬ顔でダンカンに尋ねた。
「だとすると安売り合戦」
「ええ、互いに相手側の得意分野の商品を投げ売りし始めたそうです」
 ほんまかいな、そうかいな。
ジュエリー効果だ。
セサル商会旗艦店の店員が何も疑わずに、
ホセ・ラウル商会長のジュエリーを売ったのだろう。
そしてそれをホセ側が掴んだ。
俺は喜色を隠した。
「どちらも裏部隊を抱えていたね」
「はい、傭兵団とか冒険者クランの形で抱えています」
「それらの動きは」
「国都では動かしていませんが、郊外で互いのキャラバンを襲撃し、
荷を奪わせております」
 売られた事を知ったホセの怒り心頭振りが分かった。
対して、ルベン・セサル商会側も大したもの。
売られた喧嘩は買う主義のようで、富を得る信条の一端が垣間見えた。
これでは商人ではなく、まるで山賊ではないか。

 俺は貴族二家と商会三家への同情を禁じ得ない。
でも、切っ掛けは彼等が仕出かしたこと。
深くは同情しない。
心の内で、あっかんべーした。
「引き続き情報収集を、でも警戒レベルは下げて。
たぶん、余裕がないから、うちから手を退く筈だ。
もし、再び手出しする様な事態になったら、こちらも手を打つ。
その手の業者に依頼して潰す」
 ダンカンに指示し直した。
その手の業者とは、一体誰だろうね。
さあ、・・・誰、俺か。
聞いたダンカンの目が怪しく光った。
「私の方もその手の業者を見つけました。
仰って頂ければ、私の方で手配します。
伯爵様は為さいませんように」
 鬱憤が溜まっていたらしい。
深く同情するよダンカン。

 ただ一つ、気懸かりは松永侯爵家で出逢ったエボニー柳生だ。
最悪の出遭いであったが、彼女の目は大丈夫なのだろうか。
そして彼女が使役していたアピス、お肉にされたのだろうか。
気にかかるが、ダイカンには頼めない。
どうしよう。

 一連の騒ぎが収まった頃合いを見透かしていた訳でもないだろうが、
関東より朗報が飛び込んで来た。
ゴーレム部隊を押し立てて進軍していた織田伯爵家軍が、
伊豆を解放したと。
三河、遠江、駿河、甲斐、相模に続いて六つ目だ。
巷では、「ゴーレム=織田伯爵家」という認識で、
レオン織田伯爵の評判がうなぎ上り。
今にも天井を突き破りそう。
 同時に関東遠征軍についても流れて来た。
越後を解放した後、上野に進軍したと。
この吉報で総大将・ヒュー細川侯爵の評価が上がった。
それまでの、「お坊ちゃま」呼びからから脱した。
こちらは大将軍様に大出世。

 呼応して周囲の状況が激変した。
まず、隣接する東北代官所が王宮側に付くと明言した。
準備が整い次第派兵するという。
関東でも同様の動き。
日和見していた寄親伯爵や、
身内を賊軍側に押さえられていた寄親伯爵が、
関東代官所側を非難し、王宮側として参戦するという。
甚だ白々しいが、王宮側は喜んで全てを受け入れた。

 勝ち馬に乗りたいのは誰しも思うこと。
思慮のある者なら行動に移さないが、浅慮な者は違う。
それを公然と成すから驚きだ。
蚊帳の外にいた貴族達が、王妃様への忠誠の証として、
義勇兵旅団を結成し派兵した。
各家より五百、計六千、集めも集めたり。
 これには王宮雀だけでなく、国都雀も呆れた。
非難囂々。
「死肉に群がるハイエナか」
「死肉をかっさらう禿鷹だろう」

 これは他人事ではなかった。
俺の佐藤伯爵家でも問題になった。
急に家臣が膨れ上がったので、諸々の事情を知らぬ家臣から、
関東への派兵が意見具申されたのだ。
それも少ない数ではなかった。
ダンカンが疲れた顔で俺に零した。
「公然と口に出来ないので、一人一人を呼んで言い含めました」
 当家からレオン織田伯爵家への支援だ。
俺は陰徳主義なので、誇る事は良しとしない。
それに、これ以上の出世は望まない。
望まない。
でも、まだ十一才。
上があるだろうな。
「ご苦労様、それでうちの家風を理解してくれたかな」
 ダンカンが首を傾げた。
「たぶん」


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