金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)3

2023-09-17 11:07:46 | Weblog
 キャメンソルの群れは傭兵団であるが、
途中で居合わせた魔物達にとっては脅威そのもの。
遭遇した弱者はたちどころに逃走を開始した。
追い立てられる様に先頭を切って走った。
弱者でない者達はその尻馬に乗った。
遊び感覚でキャメンソルの群れに加わった。
これは、傍目には魔物のスタンピードにしか見えない。

 河沿いに展開した国軍が膨れ上がる魔力の南下に気付いた。
魔物のスタンピード、・・・か。
直ちに偵察部隊が発せられた。
その中の魔法使いが探知スキルを駆使し、全体像把握に務めた。
程なく解明した。
「魔物のスタンピードです。
その中核はキャメンソル傭兵団です。
魔物を追い立てながら、こちらに向かって来ています」

 国軍の、北側の部隊が迎撃態勢に入った。
キャメンソル傭兵団対策として、前以って用意していた荷馬車五十輌を、
前面に広く並べ、次々に横倒しして防御陣を構築した。
そして、その後方に槍部隊、弓部隊、魔法部隊を置いた。
更には騎馬隊。
万全の態勢。
 弓の射程に入るや、スタンピードの群れに一斉射。
それを抜けて来た魔物には攻撃魔法。
荷馬車に辿り着いた魔物を槍衾がお出迎え。
キャメンソル傭兵団を見つけると騎馬隊が投入された。
迂回して傭兵団に突っ込む。

 キュメンソル傭兵団は、先頭を走る魔物の崩壊は予想の範囲内。
止まる気配はなし。
速度を緩めず、方向を変えもしないでただ真っ直ぐ突き進む。
それは傭兵団の先鋒が弓の射程に入ってもお構いなし。
 キャメンソルの背中には瘤が二つ。
一つは水魔法のタンク。
一つは風魔法のタンク。
タンクには魔力が溜められていた。
それは本来、キャメンソル自身が使用する物だが、
使役する立場の者もある程度であれば利用できた。
であるので傭兵団内では、風魔法で防御できぬ奴が悪い、との認識。

 傭兵団は、魔物や仲間の死体を踏み潰して遮二無二攻撃一辺倒。
真っ正直に敵本陣を目指した。
かと言って、彼等に自殺願望がある訳ではない。
島津軍と共に滅亡の道を歩む趣味もない。
傭兵団指揮官は、消耗を抑える為、的確に隊列の入れ替えを行った。
負傷者は後方へ下がらせて治療を受けさせた。
 それは国軍も同じ。
防御陣を維持する方向で、巧みに補充と入れ替えを行った。
そんな戦場に変化が訪れた。
西からであった。
早朝、南北からの朝駆けを受けた島津軍が、遂に逆襲に転じた。
敗走する国軍を追って来たのだ。

 高みの見物のアリスであったが、油断はなかった。
新たな魔力の塊の接近を感じ取った。
東と北の二つ。
『私が東に向かう。
ハッピーは北を頼むわよ』

 東へ飛んで直ぐに見つけた。
アピスの群れ、二百余。
牛の種から枝分かれした魔物の種だ。
こちらに騎乗していたのは国軍、全員が三好兵で編成されていた。
【潜伏】を装着している事から、彼等も伏兵であると判明した。
数は二百余と少ないが、それでも組織された魔物の群れ。
今の状況であるなら国軍の力になる事は確か。
 こちらもスタンピードを発生させていた。
先頭には魔物が百余。
その真後ろにアピスの隊列。
更に後ろに四百余の魔物を引き連れていた。

 ハッピーから連絡が入った。
『パー、霧島山地上空にワイバーンを見つけたっピー』
 日向地方との境に跨る山塊だ。
大樹海の一つでもあったので、境は定められていない。
『その数は』
『プー、上空に八頭ペー。
ホバリングしてる様子から、仲間が揃うのを待ってるのかも』
『こちらに来るかも知れないわね』
『ポー、まず間違いなく』
『了解、引き続き見張って頂戴』
『ポー、こちらも了解』

 アリスは引き返して仲間達に事情を説明し、取るべき方策を示した。
『ワイバーンが来る前に移動するわよ。
奴等の好む高度ではなく、その上よ』
『ワイバーンか、討伐したいわね』
『私も』
『私も、私もよ、アリス』
 アリスは一刀両断した。
『ワイバーン如き、私達の敵じゃないわ。
ただ、少し我慢してね。
全体の流れを見たいの』

 傭兵団はアピスのスタンピードに気付かない。
ただ真正面の突破に拘り、視野狭窄に陥っていた。
それが悪いと言う訳ではない。
効果が出始めていた。
今にも敵防御陣の一部を突き崩す勢い。
攻撃魔法を繰り出す者続出で、遂に一角に穴を開けた。
「あそこに飛び込め」
 小さな穴を押し広げ、後方の仲間達を呼び込む。

 キャメンソルのスタンピード群の後尾に、
アピスのスタンピード群が勢い良く喰い付いた。
魔物と魔物だが、種も雑多、スタンピードとしての群れも違った。
単純に敵認識した。
当然だが、誰何もなければ、遠慮会釈もなし。
一方がドッと当たれば、もう一方がやり返す。

 国軍本陣に傭兵団の穂先が届いた。
彼等の目的は敵指揮官の捕縛でも、本陣掃討でもない。
敵陣中央を突っ切ること。
混乱に陥らせる事が主目的であった。
序に敵指揮官を捕縛すれば、ボーナス、だがそれは無理な相談。
傭兵団の壊滅に繋がる道。
選択肢には入れない。
「団を二つに分ける。
後尾は負傷者を守って右方へ離脱、都城へ入れ。
我等はこのまま突っ切る。
手近の負傷者を真ん中に入れて突っ切り、山中に伏せる」

 国軍本陣が二つに切り裂かれた。
それを見て取った島津軍が鬨の声を上げながら渡河を開始した。
国軍本陣は混乱に陥ったが、他の部隊は違った。
個々に対処した。
多くが島津軍の迎撃に向かった。
本陣の立て直しに奔走し、その混乱に巻き込まれる事を嫌った。

 それら下々の争いはアリス達にとってどうでも良いこと。
彼女達の視線は、キャルンソル単体とアピス単体の争いに向けられた、
足の早いアピスが後尾に居たキャメンソルに襲い掛かったのだ。
魔物としての意地か、乗り手に攻撃魔法を放つ暇を与えなかった。
共に体躯は2tサイズ。
それがドドンと当たった。
 勢いに乗った低重心のアピス。
対して腰高のキャメンソルだが、闘争慣れしていた。
グッと腰を落として、受けて立った。
右肩と左肩、余りの衝撃に二頭の乗り手が振り落された。

 これからって時にハッピーから悪い知らせが届いた。
『ピー、ワイバーンが編成を終了。
大人二十四頭、子供七頭。
仕草からそちらへ向かう可能性大。
僕も急ぎ戻るっペー』


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