俺は、去り際のアリスに注意した。
『魔物・キャメンソルは死ぬほど臭い唾を吐くそうだけど、
それは知ってるよね』
アリスが振り返った。
胸を張って答えた。
『当然じゃない』
あ、これは知らない顔だ。
ハッピーが言う。
『パー、臭いの嫌いだっぺ』
日にちを空けた。
その間に続報が入って来た。
ペミョン・デサリ金融だが、商会長のペミョンが逮捕された。
商会は機能停止状態で、噂では、解体されるのは必至とか。
ラファエル松永侯爵の安否も分かった。
壊れた建物から投げ出されて重傷だそうだ。
現在も昏睡していて、回復の目処は立っておらず、
嫡男が当主代行を務めているとか。
俺は四日目に、深夜労働を再開した。
今回はホセ・ラウル商会長。
国都の老舗・ラウル商会の会長だ。
俺は、黒を基調とした悪党ファッションで、白いひょっとこ仮面。
【光学迷彩】【索敵】【転移】【転移】で目的地の上空に辿り着いた。
下に商会長の本宅。
流石は王宮御用達。
広い敷地のど真ん中に本館。
周囲には長屋五棟、倉庫三棟、厩舎一棟。
敷地の警備にも怠りが無い。
立哨だけでなく、犬を連れた警備員も巡回していて、抜かりなし。
まるでお貴族様。
俺は鑑定でホセを探した。
本館にいない。
不在なら、妾宅に移動せねばならないのだが。
念の為に他の建物を探した。
見つけた。
真ん中の倉庫にいた。
執事に【携行灯】を持たせ、中を見回っていた。
大方、個人所有のお宝と推測できた。
倉庫内には当人と執事だけ。
外には護衛が二名。
犬を連れた巡回もいるので、安心しているのだろう。
鑑定の精度を高めてお宝を視た。
現金化し易いジュエリーが多いと思っていたが違った。
ダンジョン産の魔道具が多い。
術式が施された逸品が揃っていた。
魔剣、魔槍、魔弓、魔杖、魔盾等々。
よくこれだけ買い集めたものだ。
が、使わぬでは宝の持ち腐れ、とは思うものの、一概には言い切れない。
収集して、一人で愛でるのがコレクター。
その心理の一端は理解できる。
悪戯心が湧いた。
俺は奴の入っている倉庫を3D表示化した。
ホセと執事の居場所を特定し、視線が及ばぬ一角に転移した。
光学迷彩を保持しているので、見つかるおそれはない。
それでも慎重に歩いた。
目的の物を見つけた。
ジュエリーの類だ。
数こそ少ないが、これも逸品揃い。
厳重に守られた倉庫に入れてある安心感からか、
棚に無造作に置かれていた。
それらにはタグが付けられ、価格と謂れが記されていた。
個人所有だというのに、なんとも無粋な。
でもまあ、お陰で仕事が捗る。
俺ではなく、先様がだ。
ジュエリーの類全てを虚空へ抛り込み終えたので、次の細工を。
倉庫の片隅に移動した。
入り口とは反対側なので誰もいない。
巡回も近くにはいない。
土魔法を起動した。
勘の鋭い奴は魔力の波動に気付くので、ここは抑え気味に。
ソッと、でもジックリと、人が這い出られる程の穴を開けた。
Good Job~。
穴から外に出た。
はあ、良い空気だ。
とっ、中から声が聞こえた。
ホセだ。
「空気が動いてないか」
「換気扇からではないですか」
「いや、これは・・・。
ワシは左回りで調べる、お前は右回りだ」
「はっ、直ちに」
俺は小細工した。
土魔法を起動し、穴の手前の雑草の成長を早めた。
それも全力で。
音こそ立てないが、ニョキニョキ、ニョキニョキと伸びて行く。
ついでに太くもなった。
「旦那様、穴が開いております」
「何だと」
足音が凄まじい物になった。
ドタバタ、ドタバタ、ドンガラガッタ。
「何だ、この穴は」
「誰かが侵入したのかと」
声が届いたのだろう。
入り口に控えていた護衛二名が、外回りで走って来た。
雑草を見つけるや、踏み潰し、現れた穴に愕然とした。
「旦那様、これは」
「見たまんまだ。
誰かがここから侵入したようだ。
警備してる者達を集めろ。
ワシは何が盗まれたのか、中を調べる」
俺は犬の気配を感じた。
【光学迷彩】は消臭対策が施してあるとはいえ、
用心して倉庫の屋根に転移した。
所謂、高みの見物だ。
続々と夜番の警備員達が集まって来た。
犬も同伴だ。
その全員が穴を見て、声を無くした。
そんな彼等に執事が詰問した。
「どうして誰もこの穴に気付かなかったのですか」
誰も何も言い返せない。
すると一人が犬を連れて、前に進み出た。
「ちょっと待って下さい。
犬に臭いを嗅がせます」
ドーベルマン二頭を穴の方へ連れて行く。
「部外者の臭いを探させます」
俺は屋根から下を覗き見た。
ドーベルマン二頭がクンクンと穴の周囲を嗅ぎ回っていた。
が、芳しくない。
全く反応しないのだ。
執事が尋ねた。
「これはどういう訳だ」
「賊が屋敷の内情に通じてて、犬の鼻の対策を講じていたのでしょう」
「それは厄介だな」
ホセが出て来た。
表情は怒りに染まっていた。
「どうしてなんだ。
何人も雇っているのに、どうして賊の侵入を防げない。
この役立たず共が。
脳無しか、金だけ喰う虫か、使えん奴等ばかりだな」
執事が宥めた。
「旦那様、今知りたいのは被害の状況です。
何が盗まれたのですか」
「ジュエリーがごっそりだ。
持ち出し易さと、換金し易さだな。
抜け目がない盗人だ」
「でしたら故買屋に手を回しましょう。
私の伝手で、それらに詳しい者達を走らせます」
『魔物・キャメンソルは死ぬほど臭い唾を吐くそうだけど、
それは知ってるよね』
アリスが振り返った。
胸を張って答えた。
『当然じゃない』
あ、これは知らない顔だ。
ハッピーが言う。
『パー、臭いの嫌いだっぺ』
日にちを空けた。
その間に続報が入って来た。
ペミョン・デサリ金融だが、商会長のペミョンが逮捕された。
商会は機能停止状態で、噂では、解体されるのは必至とか。
ラファエル松永侯爵の安否も分かった。
壊れた建物から投げ出されて重傷だそうだ。
現在も昏睡していて、回復の目処は立っておらず、
嫡男が当主代行を務めているとか。
俺は四日目に、深夜労働を再開した。
今回はホセ・ラウル商会長。
国都の老舗・ラウル商会の会長だ。
俺は、黒を基調とした悪党ファッションで、白いひょっとこ仮面。
【光学迷彩】【索敵】【転移】【転移】で目的地の上空に辿り着いた。
下に商会長の本宅。
流石は王宮御用達。
広い敷地のど真ん中に本館。
周囲には長屋五棟、倉庫三棟、厩舎一棟。
敷地の警備にも怠りが無い。
立哨だけでなく、犬を連れた警備員も巡回していて、抜かりなし。
まるでお貴族様。
俺は鑑定でホセを探した。
本館にいない。
不在なら、妾宅に移動せねばならないのだが。
念の為に他の建物を探した。
見つけた。
真ん中の倉庫にいた。
執事に【携行灯】を持たせ、中を見回っていた。
大方、個人所有のお宝と推測できた。
倉庫内には当人と執事だけ。
外には護衛が二名。
犬を連れた巡回もいるので、安心しているのだろう。
鑑定の精度を高めてお宝を視た。
現金化し易いジュエリーが多いと思っていたが違った。
ダンジョン産の魔道具が多い。
術式が施された逸品が揃っていた。
魔剣、魔槍、魔弓、魔杖、魔盾等々。
よくこれだけ買い集めたものだ。
が、使わぬでは宝の持ち腐れ、とは思うものの、一概には言い切れない。
収集して、一人で愛でるのがコレクター。
その心理の一端は理解できる。
悪戯心が湧いた。
俺は奴の入っている倉庫を3D表示化した。
ホセと執事の居場所を特定し、視線が及ばぬ一角に転移した。
光学迷彩を保持しているので、見つかるおそれはない。
それでも慎重に歩いた。
目的の物を見つけた。
ジュエリーの類だ。
数こそ少ないが、これも逸品揃い。
厳重に守られた倉庫に入れてある安心感からか、
棚に無造作に置かれていた。
それらにはタグが付けられ、価格と謂れが記されていた。
個人所有だというのに、なんとも無粋な。
でもまあ、お陰で仕事が捗る。
俺ではなく、先様がだ。
ジュエリーの類全てを虚空へ抛り込み終えたので、次の細工を。
倉庫の片隅に移動した。
入り口とは反対側なので誰もいない。
巡回も近くにはいない。
土魔法を起動した。
勘の鋭い奴は魔力の波動に気付くので、ここは抑え気味に。
ソッと、でもジックリと、人が這い出られる程の穴を開けた。
Good Job~。
穴から外に出た。
はあ、良い空気だ。
とっ、中から声が聞こえた。
ホセだ。
「空気が動いてないか」
「換気扇からではないですか」
「いや、これは・・・。
ワシは左回りで調べる、お前は右回りだ」
「はっ、直ちに」
俺は小細工した。
土魔法を起動し、穴の手前の雑草の成長を早めた。
それも全力で。
音こそ立てないが、ニョキニョキ、ニョキニョキと伸びて行く。
ついでに太くもなった。
「旦那様、穴が開いております」
「何だと」
足音が凄まじい物になった。
ドタバタ、ドタバタ、ドンガラガッタ。
「何だ、この穴は」
「誰かが侵入したのかと」
声が届いたのだろう。
入り口に控えていた護衛二名が、外回りで走って来た。
雑草を見つけるや、踏み潰し、現れた穴に愕然とした。
「旦那様、これは」
「見たまんまだ。
誰かがここから侵入したようだ。
警備してる者達を集めろ。
ワシは何が盗まれたのか、中を調べる」
俺は犬の気配を感じた。
【光学迷彩】は消臭対策が施してあるとはいえ、
用心して倉庫の屋根に転移した。
所謂、高みの見物だ。
続々と夜番の警備員達が集まって来た。
犬も同伴だ。
その全員が穴を見て、声を無くした。
そんな彼等に執事が詰問した。
「どうして誰もこの穴に気付かなかったのですか」
誰も何も言い返せない。
すると一人が犬を連れて、前に進み出た。
「ちょっと待って下さい。
犬に臭いを嗅がせます」
ドーベルマン二頭を穴の方へ連れて行く。
「部外者の臭いを探させます」
俺は屋根から下を覗き見た。
ドーベルマン二頭がクンクンと穴の周囲を嗅ぎ回っていた。
が、芳しくない。
全く反応しないのだ。
執事が尋ねた。
「これはどういう訳だ」
「賊が屋敷の内情に通じてて、犬の鼻の対策を講じていたのでしょう」
「それは厄介だな」
ホセが出て来た。
表情は怒りに染まっていた。
「どうしてなんだ。
何人も雇っているのに、どうして賊の侵入を防げない。
この役立たず共が。
脳無しか、金だけ喰う虫か、使えん奴等ばかりだな」
執事が宥めた。
「旦那様、今知りたいのは被害の状況です。
何が盗まれたのですか」
「ジュエリーがごっそりだ。
持ち出し易さと、換金し易さだな。
抜け目がない盗人だ」
「でしたら故買屋に手を回しましょう。
私の伝手で、それらに詳しい者達を走らせます」
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