金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(テニス元年)19

2023-06-11 10:20:28 | Weblog
 俺は、去り際のアリスに注意した。
『魔物・キャメンソルは死ぬほど臭い唾を吐くそうだけど、
それは知ってるよね』
 アリスが振り返った。
胸を張って答えた。
『当然じゃない』
 あ、これは知らない顔だ。
ハッピーが言う。
『パー、臭いの嫌いだっぺ』

 日にちを空けた。
その間に続報が入って来た。
ペミョン・デサリ金融だが、商会長のペミョンが逮捕された。
商会は機能停止状態で、噂では、解体されるのは必至とか。
 ラファエル松永侯爵の安否も分かった。
壊れた建物から投げ出されて重傷だそうだ。
現在も昏睡していて、回復の目処は立っておらず、
嫡男が当主代行を務めているとか。

 俺は四日目に、深夜労働を再開した。
今回はホセ・ラウル商会長。
国都の老舗・ラウル商会の会長だ。

 俺は、黒を基調とした悪党ファッションで、白いひょっとこ仮面。
【光学迷彩】【索敵】【転移】【転移】で目的地の上空に辿り着いた。
下に商会長の本宅。
流石は王宮御用達。
広い敷地のど真ん中に本館。
周囲には長屋五棟、倉庫三棟、厩舎一棟。
 敷地の警備にも怠りが無い。
立哨だけでなく、犬を連れた警備員も巡回していて、抜かりなし。
まるでお貴族様。

 俺は鑑定でホセを探した。
本館にいない。
不在なら、妾宅に移動せねばならないのだが。
念の為に他の建物を探した。
 見つけた。
真ん中の倉庫にいた。
執事に【携行灯】を持たせ、中を見回っていた。
大方、個人所有のお宝と推測できた。
 倉庫内には当人と執事だけ。
外には護衛が二名。
犬を連れた巡回もいるので、安心しているのだろう。

 鑑定の精度を高めてお宝を視た。
現金化し易いジュエリーが多いと思っていたが違った。
ダンジョン産の魔道具が多い。
術式が施された逸品が揃っていた。
魔剣、魔槍、魔弓、魔杖、魔盾等々。
よくこれだけ買い集めたものだ。
が、使わぬでは宝の持ち腐れ、とは思うものの、一概には言い切れない。
収集して、一人で愛でるのがコレクター。
その心理の一端は理解できる。

 悪戯心が湧いた。
俺は奴の入っている倉庫を3D表示化した。
ホセと執事の居場所を特定し、視線が及ばぬ一角に転移した。
光学迷彩を保持しているので、見つかるおそれはない。
それでも慎重に歩いた。
目的の物を見つけた。
ジュエリーの類だ。
数こそ少ないが、これも逸品揃い。
 厳重に守られた倉庫に入れてある安心感からか、
棚に無造作に置かれていた。
それらにはタグが付けられ、価格と謂れが記されていた。
個人所有だというのに、なんとも無粋な。
でもまあ、お陰で仕事が捗る。
俺ではなく、先様がだ。

 ジュエリーの類全てを虚空へ抛り込み終えたので、次の細工を。
倉庫の片隅に移動した。
入り口とは反対側なので誰もいない。
巡回も近くにはいない。
 土魔法を起動した。
勘の鋭い奴は魔力の波動に気付くので、ここは抑え気味に。
ソッと、でもジックリと、人が這い出られる程の穴を開けた。
Good Job~。
穴から外に出た。
はあ、良い空気だ。

 とっ、中から声が聞こえた。
ホセだ。
「空気が動いてないか」
「換気扇からではないですか」
「いや、これは・・・。
ワシは左回りで調べる、お前は右回りだ」
「はっ、直ちに」

 俺は小細工した。
土魔法を起動し、穴の手前の雑草の成長を早めた。
それも全力で。
音こそ立てないが、ニョキニョキ、ニョキニョキと伸びて行く。
ついでに太くもなった。

「旦那様、穴が開いております」
「何だと」
 足音が凄まじい物になった。
ドタバタ、ドタバタ、ドンガラガッタ。
「何だ、この穴は」
「誰かが侵入したのかと」

 声が届いたのだろう。
入り口に控えていた護衛二名が、外回りで走って来た。
雑草を見つけるや、踏み潰し、現れた穴に愕然とした。
「旦那様、これは」
「見たまんまだ。
誰かがここから侵入したようだ。
警備してる者達を集めろ。
ワシは何が盗まれたのか、中を調べる」

 俺は犬の気配を感じた。
【光学迷彩】は消臭対策が施してあるとはいえ、
用心して倉庫の屋根に転移した。
所謂、高みの見物だ。

 続々と夜番の警備員達が集まって来た。
犬も同伴だ。
その全員が穴を見て、声を無くした。
そんな彼等に執事が詰問した。
「どうして誰もこの穴に気付かなかったのですか」
 誰も何も言い返せない。
すると一人が犬を連れて、前に進み出た。
「ちょっと待って下さい。
犬に臭いを嗅がせます」
 ドーベルマン二頭を穴の方へ連れて行く。
「部外者の臭いを探させます」
 
 俺は屋根から下を覗き見た。
ドーベルマン二頭がクンクンと穴の周囲を嗅ぎ回っていた。
が、芳しくない。
全く反応しないのだ。
執事が尋ねた。
「これはどういう訳だ」
「賊が屋敷の内情に通じてて、犬の鼻の対策を講じていたのでしょう」
「それは厄介だな」

 ホセが出て来た。
表情は怒りに染まっていた。
「どうしてなんだ。
何人も雇っているのに、どうして賊の侵入を防げない。
この役立たず共が。
脳無しか、金だけ喰う虫か、使えん奴等ばかりだな」
 執事が宥めた。
「旦那様、今知りたいのは被害の状況です。
何が盗まれたのですか」
「ジュエリーがごっそりだ。
持ち出し易さと、換金し易さだな。
抜け目がない盗人だ」
「でしたら故買屋に手を回しましょう。
私の伝手で、それらに詳しい者達を走らせます」


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