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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(テニス元年)1

2023-02-05 09:37:23 | Weblog
 幼年学校の学校祭が始まった。
学校周辺は早朝から送迎の馬車で溢れかえっていた。
それを見越してか、近辺の者達は臨時駐車場を開設した。
「さあ、安いよ安い」
「うちはもっと安いよ」
 金額は言わない。
どうやら、ぼったくりらしい。
これも例年の恒例行事、・・・の一つなのだろう。
 俺は徒歩圏内なので問題はない。
否、・・・あった。
そもそも伯爵様が歩いて登校とか有り得ない、そう家臣達に注意された。
でも今朝も歩いて登校した。

 今日は特別なので随員はやや多め。
まず執事・ダンカン、正式にはダンカン長岡男爵。
従者のスチュワート。
メイド長のバーバラ。
メイドのドリスとジューン。
それに兵士が四名。
 俺が校門を潜ると兵士四名は帰路に付いた。
ダンカン達は門衛に招待状を見せると、父兄の控室を教えられた。
「ダンタルニャン様、それではここでお別れですね」
「ああ、楽しんで」

 教室にはほぼ全員がいた。
教壇には担任の姿。
一年からの持ち上がりの獣人・テリーが吼えていた。
「勝ち負けではないが、勝つぞう」
 ノリの良い連中が応えた。
「「「オー」」」
 テリーが俺の入室に気付いた。
「ダンタルニャン卿、根回しをして置いた」
 例年通り、今年も一年十組は平民が集められていると聞いた。
そこに、先輩を応援する様にと、声を掛けたのだろう。
その手口、教師としてどうなんだろう。

 クラスメート達も入れ込んでいた。
時間前にも関わらず、借り切りの大講堂へ向かおうと吼えた。
すでに前日、設営を終えていたのだが、心が逸るらしい。
仲間のキャロルに耳打ちされた。
「ダン、皆に調子を合わせてね」
 落ち着いているのは俺くらい。
はあ、だってねえ、前世今世合わせた年齢がねえ、比較的高め。
落ち着きもするさあ。
でも、キャロルの言い分も分かる。
俺が全面的に悪い。
雰囲気を壊さぬ様に振舞おう。
クラス委員として号令した。
「大講堂へ移動しよう。
そこで体を温めよう」

 大講堂の控室で男女別に着替えた。
色とりどりのジャージの上下に靴下、室内シューズ。
オプションで肘当て、膝当て、手袋、タオル。
下請けの用品工房が考えに考えて辿り着いたのが、これだった。
初めてにしては、なかなかいい。
これを土台に更に改良して欲しいもの。
 俺は吟味したラケットとボールを持って控室を出た。
すると、講堂内を女児達がボールの様に跳ね回っていた。
壁打ちに興じる者、コートで打つ者、様々。
「打つわよ」
「優しくね」
 余程、お気に召したようだ。

 担任・テリーが俺の傍に歩み寄って来た。
「ダンタルニャン卿、試合してくれんか。
今やっておかないと、その暇がなくなる」
 教師としてクラス全体を見なければならないのは分かる。
でも、俺でなくても良いだろう。
それが顔に出たのか、テリーに言われた。
それも小さな声で。
「下手と遣ると、それが移る」

 室内コートは二つあった。
そのうちの一つが丁度空いた。
生徒が入るより先にテリーが走った、占拠した。
その行為、教師としてどうなんだろう。
「ダンタルニャン卿」
 呼ばれた。
頷いて反対側に入った。
途端、合図代わり、ど真ん中にサーブされた。
獣人らしく力任せ。
俺は考えて対応した。
正面に打ち返すのではなく、流す様にコートの隅を狙った。
 流石は教師、見抜いていた。
軽快に移動していた。
そして、待ち構え、狙い澄まして、スドン。
可愛くない大人だ。
俺は目の前で大きく跳ねたボールを追った。
素の身体能力でギリギリか。
身体を捻って打ち返した。

 柔の俺に対してテリーは剛。
試合は一進一退。
前世のテニスと違い、こちらの試合は先に二セット取った方が勝利。
セットは一点一点の積み重ねで、先に九点とった方の勝利。
デュースはなし。
シンプルにした。
 一セット目は九対八でテリー。
コートチェンジして、二セット目は九対七で俺。
再びコートチェンジ、今五対五、接戦、熱戦。
獣人の大人相手に俺は頑張っていた。
でも試合中の魔法や身体強化は禁止なので、非常にきつい。
今にも足が引き攣りそう。
そう、テリーに意識的に前後左右に走らされていた。
なんて大人げない。

 気付くとクラスの皆が俺達の試合を観戦していた。
それにテリーも気付いた様で、遣り難そうな表情。
どう見ても、余裕のある教師対ヘロヘロの生徒。
どうするテリー。
このまま進めるか、中止するか。
 俺はこれを一つの壁だと捉えた。
中途半端にするより、試合を成立させたいと思った。
気合を込めて意思表示した。
「よし、打つぞ」
 俺は手のボールを高々と宙に抛った。
グリップを軽く握った。
肘の角度を意識した。
小指にのみ力を込めた。
相手はテリーではなく、落ちて来るボール。
そのボールから目を離さない。
まだ完成していないスライスサーブに挑んだ。

 テリーの目前でボールが逃げる様に切れて行く。
必死でラケットを伸ばすテリー。
届かない。
無念そうに見送った。
「六対五」

 観戦の外野が喧しい。
「曲がったな」
「曲がった、切れた」
「魔法かしら」
「魔力は感じなかったな」
 丁度折よく暇な教師が来合わせていた。
「私も魔力は感じなかった。
あれはまぐれか、何かだろう」

 テリーが俺に怒鳴った。
「まぐれでなければ、今のをもう一つ」
 目を輝かせていた。
だったら応えよう。
ボールを上に抛って、スライスサーブ。
 それは切れずに、コートで跳ねて真後ろに飛んだ。
テリーは興味なさそうに見送った。
スライスには失敗したが点数は加算された。
「七対五」
 俺は息を整えた。
相手ではなく、ボールに集中した。
ボールを上に抛った。
肘の角度、グリップの握り、そして力加減。
思い切りラケットを降り抜く。

 スライスした。
横っ飛びしながら手を伸ばすテリー。
ラケットの先が僅かに触れた。
が、逃した。
でも流石は獣人。
対応して来た。
「八対五」

 テリーが嬉しそうに言う。
「今のだ、もう一つ来い」
 俺は正しい感触を掴んだ、たぶん。
同じ様にサーブした。
グッド、ハラショー。
 ところがテリーがより以上に、す早く対応した。
スライスを確実に捉えた。
打ち返すが、勢い余って転ぶ。


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