幼年学校の学校祭が始まった。
学校周辺は早朝から送迎の馬車で溢れかえっていた。
それを見越してか、近辺の者達は臨時駐車場を開設した。
「さあ、安いよ安い」
「うちはもっと安いよ」
金額は言わない。
どうやら、ぼったくりらしい。
これも例年の恒例行事、・・・の一つなのだろう。
俺は徒歩圏内なので問題はない。
否、・・・あった。
そもそも伯爵様が歩いて登校とか有り得ない、そう家臣達に注意された。
でも今朝も歩いて登校した。
今日は特別なので随員はやや多め。
まず執事・ダンカン、正式にはダンカン長岡男爵。
従者のスチュワート。
メイド長のバーバラ。
メイドのドリスとジューン。
それに兵士が四名。
俺が校門を潜ると兵士四名は帰路に付いた。
ダンカン達は門衛に招待状を見せると、父兄の控室を教えられた。
「ダンタルニャン様、それではここでお別れですね」
「ああ、楽しんで」
教室にはほぼ全員がいた。
教壇には担任の姿。
一年からの持ち上がりの獣人・テリーが吼えていた。
「勝ち負けではないが、勝つぞう」
ノリの良い連中が応えた。
「「「オー」」」
テリーが俺の入室に気付いた。
「ダンタルニャン卿、根回しをして置いた」
例年通り、今年も一年十組は平民が集められていると聞いた。
そこに、先輩を応援する様にと、声を掛けたのだろう。
その手口、教師としてどうなんだろう。
クラスメート達も入れ込んでいた。
時間前にも関わらず、借り切りの大講堂へ向かおうと吼えた。
すでに前日、設営を終えていたのだが、心が逸るらしい。
仲間のキャロルに耳打ちされた。
「ダン、皆に調子を合わせてね」
落ち着いているのは俺くらい。
はあ、だってねえ、前世今世合わせた年齢がねえ、比較的高め。
落ち着きもするさあ。
でも、キャロルの言い分も分かる。
俺が全面的に悪い。
雰囲気を壊さぬ様に振舞おう。
クラス委員として号令した。
「大講堂へ移動しよう。
そこで体を温めよう」
大講堂の控室で男女別に着替えた。
色とりどりのジャージの上下に靴下、室内シューズ。
オプションで肘当て、膝当て、手袋、タオル。
下請けの用品工房が考えに考えて辿り着いたのが、これだった。
初めてにしては、なかなかいい。
これを土台に更に改良して欲しいもの。
俺は吟味したラケットとボールを持って控室を出た。
すると、講堂内を女児達がボールの様に跳ね回っていた。
壁打ちに興じる者、コートで打つ者、様々。
「打つわよ」
「優しくね」
余程、お気に召したようだ。
担任・テリーが俺の傍に歩み寄って来た。
「ダンタルニャン卿、試合してくれんか。
今やっておかないと、その暇がなくなる」
教師としてクラス全体を見なければならないのは分かる。
でも、俺でなくても良いだろう。
それが顔に出たのか、テリーに言われた。
それも小さな声で。
「下手と遣ると、それが移る」
室内コートは二つあった。
そのうちの一つが丁度空いた。
生徒が入るより先にテリーが走った、占拠した。
その行為、教師としてどうなんだろう。
「ダンタルニャン卿」
呼ばれた。
頷いて反対側に入った。
途端、合図代わり、ど真ん中にサーブされた。
獣人らしく力任せ。
俺は考えて対応した。
正面に打ち返すのではなく、流す様にコートの隅を狙った。
流石は教師、見抜いていた。
軽快に移動していた。
そして、待ち構え、狙い澄まして、スドン。
可愛くない大人だ。
俺は目の前で大きく跳ねたボールを追った。
素の身体能力でギリギリか。
身体を捻って打ち返した。
柔の俺に対してテリーは剛。
試合は一進一退。
前世のテニスと違い、こちらの試合は先に二セット取った方が勝利。
セットは一点一点の積み重ねで、先に九点とった方の勝利。
デュースはなし。
シンプルにした。
一セット目は九対八でテリー。
コートチェンジして、二セット目は九対七で俺。
再びコートチェンジ、今五対五、接戦、熱戦。
獣人の大人相手に俺は頑張っていた。
でも試合中の魔法や身体強化は禁止なので、非常にきつい。
今にも足が引き攣りそう。
そう、テリーに意識的に前後左右に走らされていた。
なんて大人げない。
気付くとクラスの皆が俺達の試合を観戦していた。
それにテリーも気付いた様で、遣り難そうな表情。
どう見ても、余裕のある教師対ヘロヘロの生徒。
どうするテリー。
このまま進めるか、中止するか。
俺はこれを一つの壁だと捉えた。
中途半端にするより、試合を成立させたいと思った。
気合を込めて意思表示した。
「よし、打つぞ」
俺は手のボールを高々と宙に抛った。
グリップを軽く握った。
肘の角度を意識した。
小指にのみ力を込めた。
相手はテリーではなく、落ちて来るボール。
そのボールから目を離さない。
まだ完成していないスライスサーブに挑んだ。
テリーの目前でボールが逃げる様に切れて行く。
必死でラケットを伸ばすテリー。
届かない。
無念そうに見送った。
「六対五」
観戦の外野が喧しい。
「曲がったな」
「曲がった、切れた」
「魔法かしら」
「魔力は感じなかったな」
丁度折よく暇な教師が来合わせていた。
「私も魔力は感じなかった。
あれはまぐれか、何かだろう」
テリーが俺に怒鳴った。
「まぐれでなければ、今のをもう一つ」
目を輝かせていた。
だったら応えよう。
ボールを上に抛って、スライスサーブ。
それは切れずに、コートで跳ねて真後ろに飛んだ。
テリーは興味なさそうに見送った。
スライスには失敗したが点数は加算された。
「七対五」
俺は息を整えた。
相手ではなく、ボールに集中した。
ボールを上に抛った。
肘の角度、グリップの握り、そして力加減。
思い切りラケットを降り抜く。
スライスした。
横っ飛びしながら手を伸ばすテリー。
ラケットの先が僅かに触れた。
が、逃した。
でも流石は獣人。
対応して来た。
「八対五」
テリーが嬉しそうに言う。
「今のだ、もう一つ来い」
俺は正しい感触を掴んだ、たぶん。
同じ様にサーブした。
グッド、ハラショー。
ところがテリーがより以上に、す早く対応した。
スライスを確実に捉えた。
打ち返すが、勢い余って転ぶ。
学校周辺は早朝から送迎の馬車で溢れかえっていた。
それを見越してか、近辺の者達は臨時駐車場を開設した。
「さあ、安いよ安い」
「うちはもっと安いよ」
金額は言わない。
どうやら、ぼったくりらしい。
これも例年の恒例行事、・・・の一つなのだろう。
俺は徒歩圏内なので問題はない。
否、・・・あった。
そもそも伯爵様が歩いて登校とか有り得ない、そう家臣達に注意された。
でも今朝も歩いて登校した。
今日は特別なので随員はやや多め。
まず執事・ダンカン、正式にはダンカン長岡男爵。
従者のスチュワート。
メイド長のバーバラ。
メイドのドリスとジューン。
それに兵士が四名。
俺が校門を潜ると兵士四名は帰路に付いた。
ダンカン達は門衛に招待状を見せると、父兄の控室を教えられた。
「ダンタルニャン様、それではここでお別れですね」
「ああ、楽しんで」
教室にはほぼ全員がいた。
教壇には担任の姿。
一年からの持ち上がりの獣人・テリーが吼えていた。
「勝ち負けではないが、勝つぞう」
ノリの良い連中が応えた。
「「「オー」」」
テリーが俺の入室に気付いた。
「ダンタルニャン卿、根回しをして置いた」
例年通り、今年も一年十組は平民が集められていると聞いた。
そこに、先輩を応援する様にと、声を掛けたのだろう。
その手口、教師としてどうなんだろう。
クラスメート達も入れ込んでいた。
時間前にも関わらず、借り切りの大講堂へ向かおうと吼えた。
すでに前日、設営を終えていたのだが、心が逸るらしい。
仲間のキャロルに耳打ちされた。
「ダン、皆に調子を合わせてね」
落ち着いているのは俺くらい。
はあ、だってねえ、前世今世合わせた年齢がねえ、比較的高め。
落ち着きもするさあ。
でも、キャロルの言い分も分かる。
俺が全面的に悪い。
雰囲気を壊さぬ様に振舞おう。
クラス委員として号令した。
「大講堂へ移動しよう。
そこで体を温めよう」
大講堂の控室で男女別に着替えた。
色とりどりのジャージの上下に靴下、室内シューズ。
オプションで肘当て、膝当て、手袋、タオル。
下請けの用品工房が考えに考えて辿り着いたのが、これだった。
初めてにしては、なかなかいい。
これを土台に更に改良して欲しいもの。
俺は吟味したラケットとボールを持って控室を出た。
すると、講堂内を女児達がボールの様に跳ね回っていた。
壁打ちに興じる者、コートで打つ者、様々。
「打つわよ」
「優しくね」
余程、お気に召したようだ。
担任・テリーが俺の傍に歩み寄って来た。
「ダンタルニャン卿、試合してくれんか。
今やっておかないと、その暇がなくなる」
教師としてクラス全体を見なければならないのは分かる。
でも、俺でなくても良いだろう。
それが顔に出たのか、テリーに言われた。
それも小さな声で。
「下手と遣ると、それが移る」
室内コートは二つあった。
そのうちの一つが丁度空いた。
生徒が入るより先にテリーが走った、占拠した。
その行為、教師としてどうなんだろう。
「ダンタルニャン卿」
呼ばれた。
頷いて反対側に入った。
途端、合図代わり、ど真ん中にサーブされた。
獣人らしく力任せ。
俺は考えて対応した。
正面に打ち返すのではなく、流す様にコートの隅を狙った。
流石は教師、見抜いていた。
軽快に移動していた。
そして、待ち構え、狙い澄まして、スドン。
可愛くない大人だ。
俺は目の前で大きく跳ねたボールを追った。
素の身体能力でギリギリか。
身体を捻って打ち返した。
柔の俺に対してテリーは剛。
試合は一進一退。
前世のテニスと違い、こちらの試合は先に二セット取った方が勝利。
セットは一点一点の積み重ねで、先に九点とった方の勝利。
デュースはなし。
シンプルにした。
一セット目は九対八でテリー。
コートチェンジして、二セット目は九対七で俺。
再びコートチェンジ、今五対五、接戦、熱戦。
獣人の大人相手に俺は頑張っていた。
でも試合中の魔法や身体強化は禁止なので、非常にきつい。
今にも足が引き攣りそう。
そう、テリーに意識的に前後左右に走らされていた。
なんて大人げない。
気付くとクラスの皆が俺達の試合を観戦していた。
それにテリーも気付いた様で、遣り難そうな表情。
どう見ても、余裕のある教師対ヘロヘロの生徒。
どうするテリー。
このまま進めるか、中止するか。
俺はこれを一つの壁だと捉えた。
中途半端にするより、試合を成立させたいと思った。
気合を込めて意思表示した。
「よし、打つぞ」
俺は手のボールを高々と宙に抛った。
グリップを軽く握った。
肘の角度を意識した。
小指にのみ力を込めた。
相手はテリーではなく、落ちて来るボール。
そのボールから目を離さない。
まだ完成していないスライスサーブに挑んだ。
テリーの目前でボールが逃げる様に切れて行く。
必死でラケットを伸ばすテリー。
届かない。
無念そうに見送った。
「六対五」
観戦の外野が喧しい。
「曲がったな」
「曲がった、切れた」
「魔法かしら」
「魔力は感じなかったな」
丁度折よく暇な教師が来合わせていた。
「私も魔力は感じなかった。
あれはまぐれか、何かだろう」
テリーが俺に怒鳴った。
「まぐれでなければ、今のをもう一つ」
目を輝かせていた。
だったら応えよう。
ボールを上に抛って、スライスサーブ。
それは切れずに、コートで跳ねて真後ろに飛んだ。
テリーは興味なさそうに見送った。
スライスには失敗したが点数は加算された。
「七対五」
俺は息を整えた。
相手ではなく、ボールに集中した。
ボールを上に抛った。
肘の角度、グリップの握り、そして力加減。
思い切りラケットを降り抜く。
スライスした。
横っ飛びしながら手を伸ばすテリー。
ラケットの先が僅かに触れた。
が、逃した。
でも流石は獣人。
対応して来た。
「八対五」
テリーが嬉しそうに言う。
「今のだ、もう一つ来い」
俺は正しい感触を掴んだ、たぶん。
同じ様にサーブした。
グッド、ハラショー。
ところがテリーがより以上に、す早く対応した。
スライスを確実に捉えた。
打ち返すが、勢い余って転ぶ。
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