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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)166

2009-09-27 10:42:46 | Weblog
 新たな黒備えの騎馬隊の出現に井伊は頭を悩ませた。
旗印に全く見覚えが無い。
騎馬隊は城とは別方向から現れた。敵の新手だとすれば厄介だ。
 井伊が対応を練っていると、意外な事に。
目の前の敵が、四列目と五列目がだが、騎馬隊に向かって陣を敷いた。
鶴翼の陣。
鶴が翼を広げた格好の陣形で、敵を懐奥深くに誘い込む。
そして両翼で包み込むように包囲して殲滅する。
よく用いられる守備陣だ。
 ただ数に劣るので、薄い鶴翼の陣にならざるを得ない。
個々の兵の力量で補うつもりなのだろう。
 どうやら騎馬隊は敵の仲間ではないらしい。
五百余騎の騎馬隊は逡巡することなく、魚鱗の陣形を敷いた。
正面突破を目的とした攻撃型の陣形で、前方が突出しているのが特徴だ。
陣を整えるやいなや、動き出した。
並足から少しずつ馬の速度を上げた。
 見守っていると騎馬隊が勢いをつけて敵の鶴翼の陣に突入した。
見事な一糸乱れぬ突入。一頭の遅れも無い。
 と、敵の鶴翼の陣が二つに割れた。
突入してきた騎馬隊を懐奥深くに迎え入れながらも、翼では包み込まない。
激突する寸前で中央が割れ、敵兵達が左右の翼に分かれた。
そして兵を吸収した両翼が別個に場から離脱した。
 これに井伊の目の前にいた一列目・二列目が続く。
アッサリと前線を放棄して追走した。
その素早さに味方は唖然とした。
背中へ斬り付ける事も追う事も出来ない。
 左はと見ると、駆け付けた二千余を蹴散らしていた三列目も同様だった。
一塊になって脇目も振らずに場から去った。
 井伊は急ぎ態勢を整え追撃しようとしたが手遅れ。
敵の逃げ足は速い。
五つの小集団が競うように城を目指していた。
 目標を失った黒備えの騎馬隊も追撃はしない。
井伊隊と衝突せぬように馬足を落とすので精一杯。何とか寸前で踏み度まる。
纏めているのは先頭を駆けていた大柄な武者。
 その武者が一騎で井伊に近づいて来た。
残された騎馬武者達の態度から、彼が統率者だと判断できた。
その大柄な武者は泰然としていた。
殺意も悪意も感じられない。親しげに接近してきた。
 統率者の兜の奥の目が笑っていた。
井伊は思い当たった。
結城秀康に違いない。
急いで下馬して迎えた。
 統率者が兜を外す。
無骨な顔に鋭い目。井伊を見てニッコリ笑うと愛嬌がある。
二十歳にもならぬ若者だが名は知られていた。
徳川家康の次男にして、豊臣秀吉の養子。
そして今は関東の名家・結城家の婿養子になっていた。
 徳川家康の次男だが徳川家中ではない。
今でも豊臣秀吉の養子として遇されていた。
 結城秀康の声はよく通る。
「直政、元気であったか」
「お陰様で」
「遠乗りのついでに寄ってみた。邪魔ではなかったか」
 下総国結城からの遠乗りにしては遠すぎる。
途中に利根川等の河川が幾つもあり、気楽には来れない。
おそらく、家中の誰かが知らせたのだろう。
秀康は恩着せがましい顔も言動もしない。
 井伊も敢て尋ねない。
「いいえ、助かりました」
「あの者達は何者なのだ」
「それが・・・、分かりかねて困っています」
「そうか。私達は近くに宿営する。何かあれば声を掛けてくれ」
 立ち去ろうとする秀康を呼び止め、黒地に黄金色の瓢箪の旗印を指さした。
「若、あの旗印は初めて目にするのですが」
「上方からだ」
 奇を衒うのが好きな秀吉からの贈り物なのだろう。
「道理で、立派です」
 二人は異様な雰囲気に気付いて左を見た。
八王子隊が手足を失い逃げ遅れた敵兵達を捕まえ、容赦なく切刻んでいた。
四肢を切離し、首を落とす。
その荒々しさを味方の兵達は固唾を飲んで見守っていた。
 井伊と秀康は顔を見合わせ、そこに駆け付けた。
「これはどうした事だ。惨たらしい」
 八王子隊を率いる田川定利が二人に気付いて会釈した。
「こやつらは人ではありません」
「人ではない・・・。たしかに動きは人離れしているが」
 田川は刀で足下の敵兵の手首を切り落とした。
「どうです。泣き喚かないでしょう」
 その兵はすでに片足・片手を失っていたが、目だけはランランと輝いていた。
声は一言も発せず、田川から視線を外さない。
最後まで反撃の機を窺っていそうな気配がする。
 秀康が興味深そうに問う。
「人でないとなると、その者等は何なのだ」
「おそらく魔物の類ではないでしょうか」
 秀康は、「ほう、魔物」と敵兵を凝視した。
 井伊にとっては敵が魔物とあれば全てが腑に落ちる。
「しかし・・・、魔物とは。どこから現れたのだ」
 田川が遠くを見るような目で言う。
「どこから・・・。
先だって八王子で代官が襲われました。
たった一人の襲撃でしたが、異常な強さで退治するのに手間が掛かりました。
腕の立つ者達が代官の身辺を守っているのですが、相手にならぬのです。
それでも何とか退治しました。
襲った者の四肢と首を切離してようやく動きが止まったのです。
ここの者達の様にです」
「するとその者も魔物」
「だと思います。その者の正体も知れています」
 周りの者達が一斉に田川を見る。
「誰だ」
「川越で土豪と代官方与力の屋敷が襲われた事をご存じですか」
「聞いている。川越から使者が来て、説明を受けた。
それで川越城の兵は探索に手一杯。ここに兵を寄越してはいない。
それが・・・」
「代官を襲ったのはその与力でした。顔見知りの者が確かめています」
 近くにいた武将が顔を顰めた。
「最初に現れた魔物の正体は川越で焼け死んだ筈の与力か」
 井伊は川越から来た使者を思い出した。
表情の乏しい男で、必要以外の言葉は喋らなかった。
使者にしては無愛想な男だった。




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