王女の居室が広いと言えど、五十を数える兵は乱入出来ない。
剣や槍の間合いもあり、結界を囲むのは十数名。
廊下や階段に控えている者達と交替しながら、
結界を壊そうと躍起になっていた。
剣で何度も斬り付けた。
槍で力いっぱい突いて、柄でも殴った。
それでもビクともせぬ結界。
数少ない攻撃魔法の使い手達が動員された。
火、水、風、土の属性でもって破壊を試みた。
爆風で室内が二次被害を出すが、結界には罅を入れただけ。
それも直ぐに自動修復された。
俺は弓を片手に連中を眺めた。
謀反人にしては暗さがない。
心からこれが正しいと信じているのだろう。
何て連中だ。
まるで邪教の信徒だ。
幼女を殺める、それのどこに正しさがあるのか。
信じて疑わぬにしても程がある。
俺の隣に女性騎士が来た。
「子爵様、あっ、今日からは伯爵様ですよね。
佐藤伯爵様、ポーションありがとうございました。
お陰で同僚達も助かりました」
「治って良かった。
もう少しだから頑張ろう」
「助けが間に合いますか」
「間に合う。
下が騒がしい。
あれは味方が突入したのだろう」
鑑定と探知で知ったとは言わない。
余計な事は言わない、それが吉。
もう一人、女性騎士が寄って来た。
「余ったポーションは如何します」
「それは君達にあげる。
お仲間の治療に使うと良い」
「ありがとうございます。
仲間に使わせて頂きます。
ところで、これらは何処でお買い求めですか。
凄く品質が宜しいのですが」
「僕は露店とか屋台を冷やかして回るのが好きなんだ。
そこで見つけた」
巧い言い訳。
これなら突っ込まれないだろう。
俺は鑑定と探知で下の様子を見た。
突入の陣頭指揮はカトリーヌ明石少佐だ。
手練れを率いて謀反人達を駆逐し、階段を駆け上がって来た。
その速度から怒りが充分に窺い知れるというもの。
しかし、彼女が率いている連中が凄い。
スキル持ちの騎士ばかり。
これでもかと言わんばかりに、物理系・魔法系を取り揃えていた。
詳細に鑑定したら、王妃様の子飼いと分った。
それを知って俺は安心した。
ただ、疑問が。
ここは後宮、男子は不可なんだけど。
女子が半分いるから大丈夫なのか。
まあ、惚けるのはここまで。
俺は結界の中の皆に告げた。
「味方が階段を駆け上がって来ます。
もう少しです。
慌てずに待ちましょう」
女性騎士が反撃を提案した。
「伯爵様は結界に干渉できましたね。
でしたら、私共が飛び出すのも可能ですよね。
隙を見て反撃しませんか」
槍が得意なのだろう。
その柄を掴む手が強張っていた。
ここが死に場所と覚悟しているようだ。
「それには賛成できない。
敵が下に注意が逸れた所を狙うのは戦術としては正しいかも知れない。
でも、それが下の味方に伝わっていない。
下手すると同士討ちを招く。
・・・。
生き残った君達は、今回の件を正しく上に伝えるべきだ。
誰が味方で、誰が敵に回ったのかを。
・・・。
それに君達は充分に戦った。
その証がイヴ様だ。
心が壊れていない。
これは君達のお手柄だ、違うかい」
そのイヴ様が歩み寄って来た。
槍を持つ女性騎士の空いた手を、小さな手で掴む。
「だめ、ここにいて」
それに動揺する女性騎士。
反論出来ぬらしい。
それを見て同僚が言う。
「イヴ様を守り切るのが私達の役目。
ここで仲間を待ちましょう」
侍女達もが味方した。
「そうですよ」
「最後まで守り切るのが役目でしょう」
廊下側が騒がしくなって来た。
こうなると室内の謀反人側も状況に気付く。
幾人かが心配そうに背後に視線をくれた。
廊下側から一人が顔を覗かせた。
「敵が階段を上がって来る。
まだ殺せないのか」
「無理だ。
防御結界が頑丈過ぎる。
こんな結界は聞いてないぞ」
激しい爆発音。
顔を覗かせていた兵が悲鳴を上げた。
途端、女性騎士の一人が口にした。
「伯爵様、イヴ様をお願いします。
さあ、私達は盾になるわよ」
大人達が結界の最前列に歩み寄った。
女性騎士と侍女が横に並んで壁を作った。
イヴ様に戦いの惨たらしさを見せたくないのだろう。
俺はイヴ様を後方へ連れて行った。
絵本や玩具が並べられた棚の前だ。
イヴ様が俺を見上げた。
「わたし、まほうがつかえるわよ。
それでみんなをまもりたい」
イヴ様は今、魔法使いの第一歩にあるはず。
「イヴ様、攻撃魔法の練習をしましたか」
「まだだけど」
「それでは危ないですよ。
味方にも被害を出します」
「そうなの」
「そうなんです」
棚の中央にはイライザとチョンボのフィギアが仲良く並んでいた。
今もってお気に入りの様子。
俺はその二つに施した術式を鑑定した。
安全に起動していて問題はない。
長期に渡って使えそうだ。
俺は棚から絵本を取り出した。
それをイヴ様に読み聞かせた。
当然、戦いの音に負けない様に声を大きくした。
こちらの意が伝わったのか、イヴ様は外に顔を向けない。
何て感心な子だ。
俺はイヴ様の頭を撫でたくなった。
女性騎士の声がした。
「伯爵様、戦いが終わりました」
俺は外に目を向けた。
結界を叩くカトリーヌ明石少佐がいた。
入れなくて困っている様子。
彼女の後方に手練れ達。
その手練れ達も、入れなくて思案に暮れていた。
イヴ様がカトリーヌの方へポテポテと駆けて行かれた。
「カトリーヌ、まってて」
が、手前で結界に邪魔された。
弾き返され、それ以上は進めない。
「ニャン、にゃんとかしてよ」
剣や槍の間合いもあり、結界を囲むのは十数名。
廊下や階段に控えている者達と交替しながら、
結界を壊そうと躍起になっていた。
剣で何度も斬り付けた。
槍で力いっぱい突いて、柄でも殴った。
それでもビクともせぬ結界。
数少ない攻撃魔法の使い手達が動員された。
火、水、風、土の属性でもって破壊を試みた。
爆風で室内が二次被害を出すが、結界には罅を入れただけ。
それも直ぐに自動修復された。
俺は弓を片手に連中を眺めた。
謀反人にしては暗さがない。
心からこれが正しいと信じているのだろう。
何て連中だ。
まるで邪教の信徒だ。
幼女を殺める、それのどこに正しさがあるのか。
信じて疑わぬにしても程がある。
俺の隣に女性騎士が来た。
「子爵様、あっ、今日からは伯爵様ですよね。
佐藤伯爵様、ポーションありがとうございました。
お陰で同僚達も助かりました」
「治って良かった。
もう少しだから頑張ろう」
「助けが間に合いますか」
「間に合う。
下が騒がしい。
あれは味方が突入したのだろう」
鑑定と探知で知ったとは言わない。
余計な事は言わない、それが吉。
もう一人、女性騎士が寄って来た。
「余ったポーションは如何します」
「それは君達にあげる。
お仲間の治療に使うと良い」
「ありがとうございます。
仲間に使わせて頂きます。
ところで、これらは何処でお買い求めですか。
凄く品質が宜しいのですが」
「僕は露店とか屋台を冷やかして回るのが好きなんだ。
そこで見つけた」
巧い言い訳。
これなら突っ込まれないだろう。
俺は鑑定と探知で下の様子を見た。
突入の陣頭指揮はカトリーヌ明石少佐だ。
手練れを率いて謀反人達を駆逐し、階段を駆け上がって来た。
その速度から怒りが充分に窺い知れるというもの。
しかし、彼女が率いている連中が凄い。
スキル持ちの騎士ばかり。
これでもかと言わんばかりに、物理系・魔法系を取り揃えていた。
詳細に鑑定したら、王妃様の子飼いと分った。
それを知って俺は安心した。
ただ、疑問が。
ここは後宮、男子は不可なんだけど。
女子が半分いるから大丈夫なのか。
まあ、惚けるのはここまで。
俺は結界の中の皆に告げた。
「味方が階段を駆け上がって来ます。
もう少しです。
慌てずに待ちましょう」
女性騎士が反撃を提案した。
「伯爵様は結界に干渉できましたね。
でしたら、私共が飛び出すのも可能ですよね。
隙を見て反撃しませんか」
槍が得意なのだろう。
その柄を掴む手が強張っていた。
ここが死に場所と覚悟しているようだ。
「それには賛成できない。
敵が下に注意が逸れた所を狙うのは戦術としては正しいかも知れない。
でも、それが下の味方に伝わっていない。
下手すると同士討ちを招く。
・・・。
生き残った君達は、今回の件を正しく上に伝えるべきだ。
誰が味方で、誰が敵に回ったのかを。
・・・。
それに君達は充分に戦った。
その証がイヴ様だ。
心が壊れていない。
これは君達のお手柄だ、違うかい」
そのイヴ様が歩み寄って来た。
槍を持つ女性騎士の空いた手を、小さな手で掴む。
「だめ、ここにいて」
それに動揺する女性騎士。
反論出来ぬらしい。
それを見て同僚が言う。
「イヴ様を守り切るのが私達の役目。
ここで仲間を待ちましょう」
侍女達もが味方した。
「そうですよ」
「最後まで守り切るのが役目でしょう」
廊下側が騒がしくなって来た。
こうなると室内の謀反人側も状況に気付く。
幾人かが心配そうに背後に視線をくれた。
廊下側から一人が顔を覗かせた。
「敵が階段を上がって来る。
まだ殺せないのか」
「無理だ。
防御結界が頑丈過ぎる。
こんな結界は聞いてないぞ」
激しい爆発音。
顔を覗かせていた兵が悲鳴を上げた。
途端、女性騎士の一人が口にした。
「伯爵様、イヴ様をお願いします。
さあ、私達は盾になるわよ」
大人達が結界の最前列に歩み寄った。
女性騎士と侍女が横に並んで壁を作った。
イヴ様に戦いの惨たらしさを見せたくないのだろう。
俺はイヴ様を後方へ連れて行った。
絵本や玩具が並べられた棚の前だ。
イヴ様が俺を見上げた。
「わたし、まほうがつかえるわよ。
それでみんなをまもりたい」
イヴ様は今、魔法使いの第一歩にあるはず。
「イヴ様、攻撃魔法の練習をしましたか」
「まだだけど」
「それでは危ないですよ。
味方にも被害を出します」
「そうなの」
「そうなんです」
棚の中央にはイライザとチョンボのフィギアが仲良く並んでいた。
今もってお気に入りの様子。
俺はその二つに施した術式を鑑定した。
安全に起動していて問題はない。
長期に渡って使えそうだ。
俺は棚から絵本を取り出した。
それをイヴ様に読み聞かせた。
当然、戦いの音に負けない様に声を大きくした。
こちらの意が伝わったのか、イヴ様は外に顔を向けない。
何て感心な子だ。
俺はイヴ様の頭を撫でたくなった。
女性騎士の声がした。
「伯爵様、戦いが終わりました」
俺は外に目を向けた。
結界を叩くカトリーヌ明石少佐がいた。
入れなくて困っている様子。
彼女の後方に手練れ達。
その手練れ達も、入れなくて思案に暮れていた。
イヴ様がカトリーヌの方へポテポテと駆けて行かれた。
「カトリーヌ、まってて」
が、手前で結界に邪魔された。
弾き返され、それ以上は進めない。
「ニャン、にゃんとかしてよ」