goo blog サービス終了のお知らせ 

金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(伯爵)6

2022-11-06 10:05:15 | Weblog
 久しぶりに寝坊した。
昨日の疲れを実感した。
色々あった。
邪龍の落とし物探し、ギターを披露、株主会の説明、そして陞爵の予定。
一年を一日で済まし終えた感じたがした。
 半身を起こして伸びをした。
幸い、メイドが部屋に突入して来るよりも先に目覚めた。
何時もの様にベッドの上でストレッチ。
じっくり身体をほぐす。
特に関節辺りを丹念に行う。
身体がじんわり温まった。
 次は魔力の操作。
丹田を温め、錬成。
それを糸を伸ばす様にして、身体全体にゆっくり張り巡らせる。
これはこれで身体が温まる。
そして何時もの様に願いを込めた。
まず「無病息災」、そして「千吉万来」。

 暫くして気付いた。
微かに空気が揺れていた。
それで窓を見た。
完全に閉められていない。
深夜にアリスが戻って来たのだろう。
 天井を見回した。
左隅に見つけた。
大きな繭が垂れ下がっていた。
脳筋妖精アリスのベッド兼マイホームだ。
本来、妖精は食事をしないし、トイレも必要ない、睡眠もしない、
筈なのだがアリスは酒も肴もいける。
睡眠もする。
でもトイレはしない。
本人曰く、私の勝手でしょう、とのこと。
 レベルが上がったので繭の透明化が可能なのだが、それも本人曰く、
私の勝手でしょう、とのこと。
我儘のレベルは最高値にあった

 俺は念話でアリスを起こした。
『もしもし、アリスさん、朝だよ、あさー』
 なかなか起きないので雷魔法を起動した。
大袈裟な威力ではなく、マッサージ程度にした。
イメージはピリリ。
期待通りアリスが目を覚ました。
『ダン、何かした』
『なんにも。
寝起きが悪いんだろう』
『そうか、・・・そうかなあ』
『それより何かあったのかい』話しを逸らした。
 アリスは繭を収納すると、羽根を広げ、俺の頭の上に飛んで来た。
そして、ふわりと着陸。
俺の頭の上に。
『ありがとう、エビスを皆に与えてくれて』
 錬金スキルでコルビータイプの飛行体を九機造った。
それをアリスに預けた。
『皆の感想は』
『大喜びよ。
それで邪教襲撃が遅れるわ。
魔物相手のテスト飛行が終わってから襲撃に変更よ』

 幼年学校の教室でのんびり寛いでいたら、
教壇に一年から持ち上がりの担任・テリーが立ち、よからぬ事を言う。
「去年は一年生だったからお客様だったが、
二年になったのだから今年は違う。
君達が主役だ。
クラスの出し物を考えてくれ。
結果によっては端役になるかも知れんがな」
 もうじき学校祭だと言い、例年の出し物を説明してくれた。
演劇、剣劇、合唱、料理屋、喫茶店、お化け屋敷等々。
昨年の最優秀賞に輝いたのは、五年生の剣劇。
貴族の子弟クラスの一つが受けを狙い、
男児が女装、女児が男装して、歌唱入りの剣劇を披露した。
そのお陰かどうかは分からないが、全員が上の学校に合格した。

 テリーの言葉でクラスが沸いた。
このクラスは俺を除いた全員が平民で占められていた。
しかも、一芸入試で合格した者が多い。
学校に入るには身分と成績に左右される。
そんな現実があるから、皆が最優秀賞を夢見るのだろう。
一芸入試の次は最優秀賞だ、最優秀賞を取って上の学校へ行こう。
浮付いた空気がクラスに広がった。
駄目だ、この連中。
俺は立ち上がって彼等彼女等を見回した。
クラス委員として現実を突き付けた。
「使う予算は限られてる。
ただし、抜け道がある。
寄付だ、幾らでも受けられる」

 一瞬でクラスが寒冷化した。
どうやら全員が現実に気付いたらしい。
昨年度の最優秀賞に輝いたクラスには評定衆の嫡男がいた。
噂では彼目当てで寄付が殺到したという。
公表されてないが、概算が噂として流布していた。
学校から支給される予算の十倍近い金額。
出し物で使用された装束や大道具小道具を考えると、納得だ。
誰かがポツリと漏らした。
「だから派手で豪華だったのね」
「そういえば街の劇団の振付師を雇っていたという噂もあったわね」

 テリーが皆を優しい視線で見回した。
「無理はするな。
身の丈に合わせれば見学に来た親御さんも納得される」
 俺はそんなテリーに確認した。
「場所は自分達の教室と決まっているのですか」
「そんな事はないが、何か考えているのか」
「皆がその気なら五年の出し物に向けて仕上げて行こうかと」
「ほほう、最終学年に向けて練度を上げて行く、そう理解して良いのか」
「はい、予算が望めないのなら、練度で」
 テリーが破顔した。
「はっはは、面白いな。
それで最終的には何をやるんだ」
「出し物は秘密ですが、大講堂を四年連続で予約したいですね。
可能ですか」
 テリーが返事に詰まった。
暫し考え、俺を見返した。
「ここには今、侯爵家や伯爵家の子弟が在学している。
それらが希望すれば難しい事になる。
それでも良いのか」
 侯爵家や伯爵家の子弟か、それとも俺か。
学校当局が誰を優遇するかかが試される、
俺はこれでも現役の子爵家当主。
常識的には負けはない、筈だ。
「はい、教員室で確認をお願いします」

 休憩時間にキャロル達仲間に囲まれた。
「何をやる気なの」
「今から考える」
「考えなしなの」
「場所が一番だから、それを優先したんだよ」
 クラスの皆が耳を欹てているのが丸分り。
そこで声を大きくした。
「まあ、とにかくだ、皆が揃って上の学校に進める様に頑張ろう」
 俺自身は頑張っても仕様がない。
陞爵は確約されている。
これ以上、何を求めるのか。
俺の置かれた状況を知っているモニカに突っ込まれた。
「頑張ろうと言われてもねえ」
「まずは、そうだね、舞台度胸だね。
人前で演技しても、とちらない様にしようか」
 今度はマーリンに突っ込まれた。
「舞台は決まりなのか、それでどんな演目なの」
「演目もこれから」

 決めるという事は難しい。
でも、安易に大講堂と決めた事に後悔はない。
大切なのは場所。
とにかく人を集めなければ最優秀賞は望めない。
演目はこれからでも間に合う。
四年後なのだ、たぶん間に合う。
まずは彼等彼女等に舞台度胸を付けさせよう。
 それから比べると、否、比べるのは烏滸がましい が、
王妃・ベティ様は大したものだ。
王を殺された上に、西に反乱軍二つ、東に一つ、
それらを抱えられてもなお、毅然としておられる。
内政で手一杯の筈なのに大したものだ。
人の上に立つ才をお持ちであられるのだろう。


コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。