顔を怒りの色に染めた野上邦男が片足を踏み出した。
慌てた息子の裕也と夫人の綾子が血相を変えて立ち上がり、
左右から押し留めようとした。
それくらいで止められるものではなかった。
二人を引き摺りそうな勢いの邦男。
近くにいた刑事二人が息子と夫人に加勢した。
正面から身体を張って阻止線を築いた。
大の大人二人の力でようやく邦男の足を止めた。
「退いてくれ」と悔しがる邦男、地団駄を踏む。
周到に辻斬りを返り討ちしようと図った老人であったが、
野上の怒りまでは計算していなかったらしい。
言葉のみならず、顔色までも失う。
なにしろ小野田精密にとってノガミは大事な大事な取引先。
原材料はノガミ経由で輸入し、完成した製品はノガミ経由で輸出する。
今回の件が商取引に影響したら、小野田精密は計り知れないダメージを受ける。
加藤はもっけの幸いとばかりに老人を攻めた。
「貴方は『風神の剣』を大分の寺から盗むのに一役買ったのですか」
大分の件は捜査本部内だけの話しで、外部には一切漏らしていない。
マスコミは無論、新宿署の他部門の者達すら知らない。
それを行き成り直球勝負でぶつけた。
言葉が老人の頭に染み渡るのに時間を要した。
惚けたような白い顔が余計に白くなった。
まるで死人。
答えを得られなくとも自白したも同然。
ようようの事で老人が口を開いた。
蚊の鳴くような声。
「何のことやら。・・・。
盗みとは、疑うにもほどがある」
「盗みに関与していないと。でも事情を知っていたのですよね。
もしかすると、『善意の第三者』で切り抜けるつもりとか」
「・・・」
「『善意の第三者』の要件を満たすには二年の経過が必要ですが、
ご存じですよね」
不意に老人が、「ぎゃー」と絶叫を上げ、両手で頭を抱え持つ格好になった。
そして、横倒しとなって転げ回る。
言い逃れできないと判断しての仮病かと思いきや、心底から痛がっていた。
加藤は庭先に目を向け、救急隊員の姿を探した。
片腕を落とされた二人の応急手当をしていた筈だ。
だが見えない。
担架で運んでしまったらしい。
隣でメモ取りをしていた池辺が携帯を取りだし、
冷静に救急車の手配を始めた。
篠沢警部にとって小野田老人が救急車で搬送された事は痛いが、
必要な事は粗方聞きだした。
加藤が老人を怒らせたお蔭で、その様子から言外に察する事もあった。
本音を言えば、倒れようが心臓が止まろうが、どうでもいい。
おまけではあるが、辻斬りを返り討ちにしようとして、
野上邸近くに車で待機していた桐生会の者達を、武器不法所持で逮捕できた。
本筋ではないが、これで桐生会を家宅捜索出来る。
点数にすると満点に近いのではないだろうか。
不満なのは辻斬りに逃走された事だけだ。
もっともその責は板橋署にそれとなく押し付けてやった。
なにしろ野上家での一件が、正式に「辻斬り」合同捜査本部扱いとなったのは
この夕方から。
夕方以前のマイナスは全て板橋署に回しても問題はない。
至極当然の事。
「取り敢えずは順風満帆かな」と含み笑い。
新宿署に置かれた捜査本部の一角を簡易間仕切りし、
そこには篠沢専用のスペースが設けられていた。
人気が消えた深夜、篠沢はデスクについた。
PC端末のスイッチを入れ、認証を済ませてメール・チェック。
班の捜査員達から報告が上がっていた。
目新しい報告はない。
ただ一つだけ、「ほう」と思ったのがあった。
救急車で運ばれた小野田老人について行った刑事から、
「脳溢血による昏睡が続いています」と。
気の毒には思わない。
昏睡が死ぬまで続けば、二度と事情聴取される事もないだろう。
そうなると個人の名誉を守れるし、会社、遺族にも迷惑がかからない。
曙橋分室資料班が監修をしている裏データーに接続した。
頼んでおいた分析が終了したのだろう。
新しいファイルが置いてあった。
失踪した住職、水谷武国。
第一の被害者、西木正夫。
第二の被害者、北尾茂。
三人の携帯電話の、この二年間の位置情報だ。
携帯は常に位置情報を五分置きに発信している。
そしてそれは位置情報契約とは無関係に通信会社のサーバーに記録される。
携帯電話の五分刻みの足跡がだ。
それをシステムの裏口から侵入し、入手に成功したらしい。
曙橋分室資料班は膨大で複雑なデーターから必要な情報だけを取りだし、
きちんと整理分析していた。
それによると、
寺から、間違いなく『風神の剣』だろうが、盗まれたと思える頃に、
西木と北尾の二人が寺を数度訪れていた事が記録として残っていた。
北尾と水谷の足跡が同時間同地点で交差していたのは、
『風神の剣』の商談と判断していいだろう。
それが三度あった。
その後で、周辺に居ただけの西木が、深夜の寺内に足跡を残していた。
おそらく北尾が水谷に商談を断られたので、
最後の手段として西木が寺に侵入し、『風神の剣』を盗んだのであろう。
一方の住職、水谷は盗難が発覚した後、上京していた。
都内のホテルを足場に移動していたのだが、ほどなくして、
行くはずのない房総沖での足跡を最後に、消息を絶っていた。
「殺されて沈められた」としか理解出来ない。
表には出せないファイルだが、事件の流れが分かる。
気になるのは、長い事消息不明であった『風神の剣』の隠し場所を、
どうやって北尾、西木の二人が突き止めたのか。
★
「O111」のユッケに続いて、今度は山形の団子店での「O157」。
幸い山形は死亡者が出ていません。
よかったですね。
季節柄、食中毒は避けられないようで・・・。
私もありました。
都内だと昼食を摂る場所が少ないので、店が満杯という時は、
道路で出張販売をしている弁当を買う事があります。
ある日、遅く買った弁当が痛んでいたようで、その夜、吐き続けました。
一晩中、嘔吐、嘔吐の世界・・・あっあぁー。
気付くと朝、喉を酷使したので声が出ませんでした。
なっ、情けない。
★
ランキングです。
クリックするだけ。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)

慌てた息子の裕也と夫人の綾子が血相を変えて立ち上がり、
左右から押し留めようとした。
それくらいで止められるものではなかった。
二人を引き摺りそうな勢いの邦男。
近くにいた刑事二人が息子と夫人に加勢した。
正面から身体を張って阻止線を築いた。
大の大人二人の力でようやく邦男の足を止めた。
「退いてくれ」と悔しがる邦男、地団駄を踏む。
周到に辻斬りを返り討ちしようと図った老人であったが、
野上の怒りまでは計算していなかったらしい。
言葉のみならず、顔色までも失う。
なにしろ小野田精密にとってノガミは大事な大事な取引先。
原材料はノガミ経由で輸入し、完成した製品はノガミ経由で輸出する。
今回の件が商取引に影響したら、小野田精密は計り知れないダメージを受ける。
加藤はもっけの幸いとばかりに老人を攻めた。
「貴方は『風神の剣』を大分の寺から盗むのに一役買ったのですか」
大分の件は捜査本部内だけの話しで、外部には一切漏らしていない。
マスコミは無論、新宿署の他部門の者達すら知らない。
それを行き成り直球勝負でぶつけた。
言葉が老人の頭に染み渡るのに時間を要した。
惚けたような白い顔が余計に白くなった。
まるで死人。
答えを得られなくとも自白したも同然。
ようようの事で老人が口を開いた。
蚊の鳴くような声。
「何のことやら。・・・。
盗みとは、疑うにもほどがある」
「盗みに関与していないと。でも事情を知っていたのですよね。
もしかすると、『善意の第三者』で切り抜けるつもりとか」
「・・・」
「『善意の第三者』の要件を満たすには二年の経過が必要ですが、
ご存じですよね」
不意に老人が、「ぎゃー」と絶叫を上げ、両手で頭を抱え持つ格好になった。
そして、横倒しとなって転げ回る。
言い逃れできないと判断しての仮病かと思いきや、心底から痛がっていた。
加藤は庭先に目を向け、救急隊員の姿を探した。
片腕を落とされた二人の応急手当をしていた筈だ。
だが見えない。
担架で運んでしまったらしい。
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篠沢警部にとって小野田老人が救急車で搬送された事は痛いが、
必要な事は粗方聞きだした。
加藤が老人を怒らせたお蔭で、その様子から言外に察する事もあった。
本音を言えば、倒れようが心臓が止まろうが、どうでもいい。
おまけではあるが、辻斬りを返り討ちにしようとして、
野上邸近くに車で待機していた桐生会の者達を、武器不法所持で逮捕できた。
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もっともその責は板橋署にそれとなく押し付けてやった。
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この夕方から。
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人気が消えた深夜、篠沢はデスクについた。
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頼んでおいた分析が終了したのだろう。
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失踪した住職、水谷武国。
第一の被害者、西木正夫。
第二の被害者、北尾茂。
三人の携帯電話の、この二年間の位置情報だ。
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携帯電話の五分刻みの足跡がだ。
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きちんと整理分析していた。
それによると、
寺から、間違いなく『風神の剣』だろうが、盗まれたと思える頃に、
西木と北尾の二人が寺を数度訪れていた事が記録として残っていた。
北尾と水谷の足跡が同時間同地点で交差していたのは、
『風神の剣』の商談と判断していいだろう。
それが三度あった。
その後で、周辺に居ただけの西木が、深夜の寺内に足跡を残していた。
おそらく北尾が水谷に商談を断られたので、
最後の手段として西木が寺に侵入し、『風神の剣』を盗んだのであろう。
一方の住職、水谷は盗難が発覚した後、上京していた。
都内のホテルを足場に移動していたのだが、ほどなくして、
行くはずのない房総沖での足跡を最後に、消息を絶っていた。
「殺されて沈められた」としか理解出来ない。
表には出せないファイルだが、事件の流れが分かる。
気になるのは、長い事消息不明であった『風神の剣』の隠し場所を、
どうやって北尾、西木の二人が突き止めたのか。
★
「O111」のユッケに続いて、今度は山形の団子店での「O157」。
幸い山形は死亡者が出ていません。
よかったですね。
季節柄、食中毒は避けられないようで・・・。
私もありました。
都内だと昼食を摂る場所が少ないので、店が満杯という時は、
道路で出張販売をしている弁当を買う事があります。
ある日、遅く買った弁当が痛んでいたようで、その夜、吐き続けました。
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