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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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なりすまし。(54)

2016-03-13 08:07:29 | Weblog
 俺は座敷童子の隠れ場所を探した。
闇に溶け込んだか、駆け込んだかは知らないが、とにかく、
それらしい場所に視線を巡らせた。
満月を見上げている三人に気取られてはならない。
慎重に室内を見渡した。
廊下から差し込む明かりのせいで、灯りの点いてない室内は大方が暗がり。
濃い暗がりもあるが、隠れられそうな深さはない。
 固まっていた用心棒の一人が言う。
「赤い月は何かの兆しか」
「何回か見た事があるが、ここまで赤いのは初めてだ」と相棒。
 俺の乏しい知識でも月が赤く見えるのは珍しいことではない。
気象状況の影響であったり、大気層で屈折したりして、赤味を帯びて見えたりとか、
あるいは青白く見えたりした。
ただ今回のは違う、と思わされた。
小動物達の反応が異常すぎて気にかかるのだ。
それに座敷童子の恐がりよう。
何が原因なのか。
何としても座敷童子から聞き出したい。
 介添え女が誰にともなく言う。
「不吉な色でありんすね」
「鼠だけでなく鳥や犬までが騒いでいる。天地異変の前触れか」
「となると大きな地震か、津波、大噴火」
 三人が、
「ああでもない、こうでもない」と喋っているところへ下女の一人が顔を覗かせた。
顔ぶれを確かめると、ズカズカと入って来て話しに加わった。
「私は皆さんより長生きしてるので、月が赤くなるのは何度か目にしてます。
でもここまで犬や鳥達が騒ぐのは初めてです。
みんな何かから逃げだそうとしています。
それで思い出しました。
昔、聞いた噂です。
それは二十年ほど前のことです。
北の方、東北のさる藩でも、このような騒ぎがあったそうです。
月が赤く染まると、家々の犬猫、鼠達が逃げだした。
周りの山々の獣達、鳥達も逃げだした。
まるで何かを恐れるかのように逃げだしたそうです。
不吉な兆しと頭で分かっていても、逃げなかったのは人間達だけ。
お武家、町の者達、村の者達」三人を見回して、
「その夜、多くの人間が殺されたそうです」と言う。
 用心棒の一人が顔色を変え、急いて聞く。
「何があった。どうして殺された」
「話しを端折りすぎだ。分かるように説明しろ」相棒の声が荒い。
 みんなの関心を惹いて満足なのか下女が、
「何があったのか知る者達は全員が殺されました」と口を開いた。
 彼女が耳にした噂はこうだ。
藩の真ん中を南北に街道が通っていた。
街道沿いには幾つもの町や村があった。
その一つ村が、その夜のうちに全滅したのだ。
村の者が一人残らず、老人から幼児まで見境なく殺されていた。
全員が喉元を喰い破られるか、身体を引き裂かれるかしていた。
このことから犯人が人でないことは確かだった。
狂った奴の仕業だとしても大変な腕力、顎の力を必要とした。
狼のような牙、熊のような剛力。
そんな人間が存在する分けがない。
かと言って山の狼、熊でもなかった。
というのも実は、その狼や熊もが喰い破られるか、
引き裂かれるかしていたのが見つかったのだ。
村の外れで犯人と遭遇したようで、
何十頭もの狼や熊が山のように積み重なっていた。
そうと知った藩は藩士全員を動員し、国境を閉じ、付近の山狩りを行った。
鉄砲を持つマタギだけでなく山師までも動員した。
藩の面子もあり何十日もかけた。
しかし犯人発見には至らなかった。
見つかったのは狼や熊、鹿、猪の死骸のみ。
いずれも喰い破かれるか、引き裂かれるかしていた。
結局、犯人に繋がる足跡すら見つけられなかった。
 語り終えた下女が口を噤み、三人を見遣る。
聞いていた三人は互いに顔を見合わせるだけ。
脇で聞いていた俺も困惑した。
この話は、ただの噂なのか、それとも事実なのか。
沈黙が室内を支配した。




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