俺は座敷童子の隠れ場所を探した。
闇に溶け込んだか、駆け込んだかは知らないが、とにかく、
それらしい場所に視線を巡らせた。
満月を見上げている三人に気取られてはならない。
慎重に室内を見渡した。
廊下から差し込む明かりのせいで、灯りの点いてない室内は大方が暗がり。
濃い暗がりもあるが、隠れられそうな深さはない。
固まっていた用心棒の一人が言う。
「赤い月は何かの兆しか」
「何回か見た事があるが、ここまで赤いのは初めてだ」と相棒。
俺の乏しい知識でも月が赤く見えるのは珍しいことではない。
気象状況の影響であったり、大気層で屈折したりして、赤味を帯びて見えたりとか、
あるいは青白く見えたりした。
ただ今回のは違う、と思わされた。
小動物達の反応が異常すぎて気にかかるのだ。
それに座敷童子の恐がりよう。
何が原因なのか。
何としても座敷童子から聞き出したい。
介添え女が誰にともなく言う。
「不吉な色でありんすね」
「鼠だけでなく鳥や犬までが騒いでいる。天地異変の前触れか」
「となると大きな地震か、津波、大噴火」
三人が、
「ああでもない、こうでもない」と喋っているところへ下女の一人が顔を覗かせた。
顔ぶれを確かめると、ズカズカと入って来て話しに加わった。
「私は皆さんより長生きしてるので、月が赤くなるのは何度か目にしてます。
でもここまで犬や鳥達が騒ぐのは初めてです。
みんな何かから逃げだそうとしています。
それで思い出しました。
昔、聞いた噂です。
それは二十年ほど前のことです。
北の方、東北のさる藩でも、このような騒ぎがあったそうです。
月が赤く染まると、家々の犬猫、鼠達が逃げだした。
周りの山々の獣達、鳥達も逃げだした。
まるで何かを恐れるかのように逃げだしたそうです。
不吉な兆しと頭で分かっていても、逃げなかったのは人間達だけ。
お武家、町の者達、村の者達」三人を見回して、
「その夜、多くの人間が殺されたそうです」と言う。
用心棒の一人が顔色を変え、急いて聞く。
「何があった。どうして殺された」
「話しを端折りすぎだ。分かるように説明しろ」相棒の声が荒い。
みんなの関心を惹いて満足なのか下女が、
「何があったのか知る者達は全員が殺されました」と口を開いた。
彼女が耳にした噂はこうだ。
藩の真ん中を南北に街道が通っていた。
街道沿いには幾つもの町や村があった。
その一つ村が、その夜のうちに全滅したのだ。
村の者が一人残らず、老人から幼児まで見境なく殺されていた。
全員が喉元を喰い破られるか、身体を引き裂かれるかしていた。
このことから犯人が人でないことは確かだった。
狂った奴の仕業だとしても大変な腕力、顎の力を必要とした。
狼のような牙、熊のような剛力。
そんな人間が存在する分けがない。
かと言って山の狼、熊でもなかった。
というのも実は、その狼や熊もが喰い破られるか、
引き裂かれるかしていたのが見つかったのだ。
村の外れで犯人と遭遇したようで、
何十頭もの狼や熊が山のように積み重なっていた。
そうと知った藩は藩士全員を動員し、国境を閉じ、付近の山狩りを行った。
鉄砲を持つマタギだけでなく山師までも動員した。
藩の面子もあり何十日もかけた。
しかし犯人発見には至らなかった。
見つかったのは狼や熊、鹿、猪の死骸のみ。
いずれも喰い破かれるか、引き裂かれるかしていた。
結局、犯人に繋がる足跡すら見つけられなかった。
語り終えた下女が口を噤み、三人を見遣る。
聞いていた三人は互いに顔を見合わせるだけ。
脇で聞いていた俺も困惑した。
この話は、ただの噂なのか、それとも事実なのか。
沈黙が室内を支配した。
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触れる必要はありません。
ただの飾りです。
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濃い暗がりもあるが、隠れられそうな深さはない。
固まっていた用心棒の一人が言う。
「赤い月は何かの兆しか」
「何回か見た事があるが、ここまで赤いのは初めてだ」と相棒。
俺の乏しい知識でも月が赤く見えるのは珍しいことではない。
気象状況の影響であったり、大気層で屈折したりして、赤味を帯びて見えたりとか、
あるいは青白く見えたりした。
ただ今回のは違う、と思わされた。
小動物達の反応が異常すぎて気にかかるのだ。
それに座敷童子の恐がりよう。
何が原因なのか。
何としても座敷童子から聞き出したい。
介添え女が誰にともなく言う。
「不吉な色でありんすね」
「鼠だけでなく鳥や犬までが騒いでいる。天地異変の前触れか」
「となると大きな地震か、津波、大噴火」
三人が、
「ああでもない、こうでもない」と喋っているところへ下女の一人が顔を覗かせた。
顔ぶれを確かめると、ズカズカと入って来て話しに加わった。
「私は皆さんより長生きしてるので、月が赤くなるのは何度か目にしてます。
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それは二十年ほど前のことです。
北の方、東北のさる藩でも、このような騒ぎがあったそうです。
月が赤く染まると、家々の犬猫、鼠達が逃げだした。
周りの山々の獣達、鳥達も逃げだした。
まるで何かを恐れるかのように逃げだしたそうです。
不吉な兆しと頭で分かっていても、逃げなかったのは人間達だけ。
お武家、町の者達、村の者達」三人を見回して、
「その夜、多くの人間が殺されたそうです」と言う。
用心棒の一人が顔色を変え、急いて聞く。
「何があった。どうして殺された」
「話しを端折りすぎだ。分かるように説明しろ」相棒の声が荒い。
みんなの関心を惹いて満足なのか下女が、
「何があったのか知る者達は全員が殺されました」と口を開いた。
彼女が耳にした噂はこうだ。
藩の真ん中を南北に街道が通っていた。
街道沿いには幾つもの町や村があった。
その一つ村が、その夜のうちに全滅したのだ。
村の者が一人残らず、老人から幼児まで見境なく殺されていた。
全員が喉元を喰い破られるか、身体を引き裂かれるかしていた。
このことから犯人が人でないことは確かだった。
狂った奴の仕業だとしても大変な腕力、顎の力を必要とした。
狼のような牙、熊のような剛力。
そんな人間が存在する分けがない。
かと言って山の狼、熊でもなかった。
というのも実は、その狼や熊もが喰い破られるか、
引き裂かれるかしていたのが見つかったのだ。
村の外れで犯人と遭遇したようで、
何十頭もの狼や熊が山のように積み重なっていた。
そうと知った藩は藩士全員を動員し、国境を閉じ、付近の山狩りを行った。
鉄砲を持つマタギだけでなく山師までも動員した。
藩の面子もあり何十日もかけた。
しかし犯人発見には至らなかった。
見つかったのは狼や熊、鹿、猪の死骸のみ。
いずれも喰い破かれるか、引き裂かれるかしていた。
結局、犯人に繋がる足跡すら見つけられなかった。
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