ヤマトは黒い大蛇の口内に囚われていた。
光体の舌に搦め捕られ、閉じ込められていたのだ。
大蛇が網状に変化した舌で包み込み、押し潰そうと力を加えてくる。
ヤマトはそれに長く耐えていて、今ではどれだけ時間が経過したのか分からない。
逃げようにも相手が光体なので、爪で断ち切る事はおろか、
振り切る事も叶わない。
光体は黒い大蛇の脳内から発せられる波動が生み出したもの。
その舌が白銀の光に輝き、口内を照らしだしていた。
かなりの広さで、人なら数人は飲み込めそうだ。
幸いにも口内には空気が充満していた。
新鮮ではないが贅沢は言っていられない。
「金色の涙」は解析を終えていた。
大蛇が神池の奥底に横たわっているのは身動きする機能を失ったから。
その図体は驚く程の大きさであるが、今機能しているのは顎から上だけ。
脳内の一部だけが微かに熱を持っていた。
このままでは直に終焉を迎えるだろう。
そこに現れたのがヤマト。
大蛇にとっては、まさに最後の希望であった。
もっとも、ヤマトにとっては、いい迷惑でしかない。
ヤマトは大蛇の喉の奥を見た。
そこには暗い闇が広がっていた。
その闇を目掛けて最後の反撃を開始した。
ヤマトの一部である猫又の機能を利用する事にした。
歌を得意とする猫又は多種多様な声が出せた。
今回選んだのは高音。それも鋭く切り裂くような甲高い超高音。
同じ音階ではかえって疲れるので、「ヘイヘイホー」と木こり歌に混ぜながら、
要所に武器とする超高音を混ぜた。
「ヘイヘイホー」が大蛇の口内に響き渡り、喉の奥に吸い込まれてゆく。
すると、山彦のように木霊するではないか。
機能を失った大蛇の胴体が超高音に反応し、微かに揺れ始めた。
大蛇が動揺するのを感じ取った。
ヤマトの行為が理解出来ないのか、光体が曖昧な動作をした。
その瞬間、舌の締め付ける力が弱まった。
それをヤマトは待っていた。
歌うのを取り止め、躊躇う事なく口から砂金を吐き出した。
甲斐との国境の湯治場の温泉に含まれていた水溶性の金を飲み込み、
体内にて自然採取したものだ。
伝説の龍、金龍となりたい願望からの無理と承知の行為だったが、
それがこんな場面で役立つとは。
吐き出すと言っても、ただ吐き出しただけではない。
龍の息吹を利用した。
龍の息吹は風のようなもの。
頬を撫でるような穏やかな風もあれば、大地に根付く物全てを吹き飛ばす風も。
黒猫の肺活量では多寡が知れている。
全てを吹き飛ばす事は出来ない。
それでも「金色の涙」は龍の遺伝子を内蔵しているだけに、
それ相応の力は発揮した。
息吹が砂金に勢いを与えた。
バラバラとなった金の粒が回転して飛ぶ。
鋭い回転でもって風圧が生じ、それが光体に斬り込む。
ヤマトの爪で断ち切れない光体が風圧で大きな穴が開けられた。
それをヤマトは逃さない。
素早く光体の舌から脱出した。
ブヨブヨとした感触の本物の舌の上に着地した。
生温い。生きているようだが、動く気配はない。
生命の維持だけで精一杯なのであろう。
ヤマトは「ヘイヘイホー」を再開した。
さっきまでの「ヘイヘイホー」は囮であったが、今回は違う。
囮の歌に動揺する大蛇に、ある疑念が生じたのだ。
それを確かめる為の歌の再開であった。
今回は超高音のみならず、重低音も混ぜる事にした。
舌の上で四肢を踏ん張り、「ヘイヘイホー」と。
鋭く切り裂く超高音に、地響きでもするかのような重低音。
「ヘイヘイホー」が大蛇の体内で木霊し、幾重にもなって交差する。
至る所で共鳴と反発を繰り返す。
その所為か、予期せぬ振動が発生した。
大蛇の体内の内壁が痙攣したかのような振動を始めたのだ。
慌てて大蛇が光体を再稼働。
再びヤマトを捕らえようと、光体の舌を右に曲げて伸ばした。
網状に広げて襲う。
ヤマトは動じない。勝算があるからだ。
こうなれば、再び捕らえられようが、時間との戦い。
全身を拘束されぬように四肢を踏ん張る。
意外な事が起きた。
砂金が勢いを失い、落下しようとしていた。
そこに、「ヘイヘイホー」の共鳴が火を点けた。
一つの粒は小さな小さな塵芥のような物だが、数は多い。
風に吹き飛ばされた砂のように舞い散らばっていた。
口内の下半分が砂金の発する炎に包まれた。
砂金によって生じた炎は清浄であるため、ヤマトに害は為さない。
対して光体の舌は大打撃を受けた。
伸ばした舌が燃え落ちた。
同時に大蛇の胴体の内壁がひび割れ、一片が剥がれた。
重低音が内壁の弱い所を浮き上がらせ、超高音が切れ目を入れたのだ。
それが切っ掛けだった。内壁の崩壊が始まった。
次々と崩れ落ちる。
内壁に支えられていた外皮を水圧が襲う。
持ち堪えられる分けがない。
一瞬で決壊した。
砂金の炎が口内の内壁を、光体を焼き尽くし、頭部に及んでいた。
ついに声にならぬ悲鳴が届いた。
断末魔であろう。
胴体から侵入した水が、喉から口内にドッと押し寄せて来た。
あっと言う間に水圧が内部より大蛇を滅ぼした。
バラバラに解体し、周辺の汚泥を巻き上げ、混ぜて四散せしめた。
残されたのはヤマトのみ。
砂金の炎がヤマトを包み込み、急激に押し寄せる水圧から守っていた。
神池の奥底が穏やかになるのに時間はかからない。
水流が穏やかになり、透明度が増すのを待ってから浮上を開始した。
それでも警戒だけは怠らない。
何があっても対処出来るように周辺の気配を探る。
動くにつれて纏わり付く砂金の炎が小さくなってゆく。
そして、水面の手前で消えた。
と言うか、体内に取り込まれた・・・ような、不可思議な消え方。
周辺に怪しい気配はない。水中も陸上も。
水面から見上げれば、青空が見えた。
浅瀬に泳ぎ寄って神池から上がった。
辺りには何も無い。
鎮守の森も社も、全てが焼き払われたようだ。
残っていたのは焼け焦げた臭いだけ。
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台風の後始末が大変でした。
部屋に見たこともない大きなゴキブリが現れたのです。
どうやらゴキブリの勘で、「この部屋なら台風に耐えられる」と・・・。
いい迷惑です。
さっそくゴキブリ捕獲。
スーパーの買い物袋を手袋代りに、ゴキブリの捕獲に挑戦しました。
ゴキブリ汁を出したくないので、慎重に・・・。
壁にいるので楽勝かも・・・と。
・・・。
手を伸ばす度に擦り抜けられます。
何度も何度も・・・。
残念です。
光体の舌に搦め捕られ、閉じ込められていたのだ。
大蛇が網状に変化した舌で包み込み、押し潰そうと力を加えてくる。
ヤマトはそれに長く耐えていて、今ではどれだけ時間が経過したのか分からない。
逃げようにも相手が光体なので、爪で断ち切る事はおろか、
振り切る事も叶わない。
光体は黒い大蛇の脳内から発せられる波動が生み出したもの。
その舌が白銀の光に輝き、口内を照らしだしていた。
かなりの広さで、人なら数人は飲み込めそうだ。
幸いにも口内には空気が充満していた。
新鮮ではないが贅沢は言っていられない。
「金色の涙」は解析を終えていた。
大蛇が神池の奥底に横たわっているのは身動きする機能を失ったから。
その図体は驚く程の大きさであるが、今機能しているのは顎から上だけ。
脳内の一部だけが微かに熱を持っていた。
このままでは直に終焉を迎えるだろう。
そこに現れたのがヤマト。
大蛇にとっては、まさに最後の希望であった。
もっとも、ヤマトにとっては、いい迷惑でしかない。
ヤマトは大蛇の喉の奥を見た。
そこには暗い闇が広がっていた。
その闇を目掛けて最後の反撃を開始した。
ヤマトの一部である猫又の機能を利用する事にした。
歌を得意とする猫又は多種多様な声が出せた。
今回選んだのは高音。それも鋭く切り裂くような甲高い超高音。
同じ音階ではかえって疲れるので、「ヘイヘイホー」と木こり歌に混ぜながら、
要所に武器とする超高音を混ぜた。
「ヘイヘイホー」が大蛇の口内に響き渡り、喉の奥に吸い込まれてゆく。
すると、山彦のように木霊するではないか。
機能を失った大蛇の胴体が超高音に反応し、微かに揺れ始めた。
大蛇が動揺するのを感じ取った。
ヤマトの行為が理解出来ないのか、光体が曖昧な動作をした。
その瞬間、舌の締め付ける力が弱まった。
それをヤマトは待っていた。
歌うのを取り止め、躊躇う事なく口から砂金を吐き出した。
甲斐との国境の湯治場の温泉に含まれていた水溶性の金を飲み込み、
体内にて自然採取したものだ。
伝説の龍、金龍となりたい願望からの無理と承知の行為だったが、
それがこんな場面で役立つとは。
吐き出すと言っても、ただ吐き出しただけではない。
龍の息吹を利用した。
龍の息吹は風のようなもの。
頬を撫でるような穏やかな風もあれば、大地に根付く物全てを吹き飛ばす風も。
黒猫の肺活量では多寡が知れている。
全てを吹き飛ばす事は出来ない。
それでも「金色の涙」は龍の遺伝子を内蔵しているだけに、
それ相応の力は発揮した。
息吹が砂金に勢いを与えた。
バラバラとなった金の粒が回転して飛ぶ。
鋭い回転でもって風圧が生じ、それが光体に斬り込む。
ヤマトの爪で断ち切れない光体が風圧で大きな穴が開けられた。
それをヤマトは逃さない。
素早く光体の舌から脱出した。
ブヨブヨとした感触の本物の舌の上に着地した。
生温い。生きているようだが、動く気配はない。
生命の維持だけで精一杯なのであろう。
ヤマトは「ヘイヘイホー」を再開した。
さっきまでの「ヘイヘイホー」は囮であったが、今回は違う。
囮の歌に動揺する大蛇に、ある疑念が生じたのだ。
それを確かめる為の歌の再開であった。
今回は超高音のみならず、重低音も混ぜる事にした。
舌の上で四肢を踏ん張り、「ヘイヘイホー」と。
鋭く切り裂く超高音に、地響きでもするかのような重低音。
「ヘイヘイホー」が大蛇の体内で木霊し、幾重にもなって交差する。
至る所で共鳴と反発を繰り返す。
その所為か、予期せぬ振動が発生した。
大蛇の体内の内壁が痙攣したかのような振動を始めたのだ。
慌てて大蛇が光体を再稼働。
再びヤマトを捕らえようと、光体の舌を右に曲げて伸ばした。
網状に広げて襲う。
ヤマトは動じない。勝算があるからだ。
こうなれば、再び捕らえられようが、時間との戦い。
全身を拘束されぬように四肢を踏ん張る。
意外な事が起きた。
砂金が勢いを失い、落下しようとしていた。
そこに、「ヘイヘイホー」の共鳴が火を点けた。
一つの粒は小さな小さな塵芥のような物だが、数は多い。
風に吹き飛ばされた砂のように舞い散らばっていた。
口内の下半分が砂金の発する炎に包まれた。
砂金によって生じた炎は清浄であるため、ヤマトに害は為さない。
対して光体の舌は大打撃を受けた。
伸ばした舌が燃え落ちた。
同時に大蛇の胴体の内壁がひび割れ、一片が剥がれた。
重低音が内壁の弱い所を浮き上がらせ、超高音が切れ目を入れたのだ。
それが切っ掛けだった。内壁の崩壊が始まった。
次々と崩れ落ちる。
内壁に支えられていた外皮を水圧が襲う。
持ち堪えられる分けがない。
一瞬で決壊した。
砂金の炎が口内の内壁を、光体を焼き尽くし、頭部に及んでいた。
ついに声にならぬ悲鳴が届いた。
断末魔であろう。
胴体から侵入した水が、喉から口内にドッと押し寄せて来た。
あっと言う間に水圧が内部より大蛇を滅ぼした。
バラバラに解体し、周辺の汚泥を巻き上げ、混ぜて四散せしめた。
残されたのはヤマトのみ。
砂金の炎がヤマトを包み込み、急激に押し寄せる水圧から守っていた。
神池の奥底が穏やかになるのに時間はかからない。
水流が穏やかになり、透明度が増すのを待ってから浮上を開始した。
それでも警戒だけは怠らない。
何があっても対処出来るように周辺の気配を探る。
動くにつれて纏わり付く砂金の炎が小さくなってゆく。
そして、水面の手前で消えた。
と言うか、体内に取り込まれた・・・ような、不可思議な消え方。
周辺に怪しい気配はない。水中も陸上も。
水面から見上げれば、青空が見えた。
浅瀬に泳ぎ寄って神池から上がった。
辺りには何も無い。
鎮守の森も社も、全てが焼き払われたようだ。
残っていたのは焼け焦げた臭いだけ。
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部屋に見たこともない大きなゴキブリが現れたのです。
どうやらゴキブリの勘で、「この部屋なら台風に耐えられる」と・・・。
いい迷惑です。
さっそくゴキブリ捕獲。
スーパーの買い物袋を手袋代りに、ゴキブリの捕獲に挑戦しました。
ゴキブリ汁を出したくないので、慎重に・・・。
壁にいるので楽勝かも・・・と。
・・・。
手を伸ばす度に擦り抜けられます。
何度も何度も・・・。
残念です。
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