于吉は言葉に詰まった。
何皇后に意表を突かれた。
まさしく鬼手。
事情が事情なので知る者は少ない。
事情を知る者は、けっして口にしない。
「帝、劉家の奥深いところの問題」と理解しているからだ。
外に漏れでもしたら一大事。
相手次第では、逆賊として罪に問われかねない。
生憎、この何皇后は事情を知らぬ。
知らぬからこそ平気で口に出来る。
事情を知れば真っ青となり、腰を抜かすに違いない。
しかし、どう考えても納得が行かない。
こうまで何皇后の頭が回る分けがない。
利口な分けがない。
誰の、何者の入れ知恵なのか。
「何とか言いなさいよ」と何皇后にせっつかれた。
下手な言い訳は通用しない。
「怒って誤魔化す」という手もあるが、それだけは、したくない。
動揺を抑え、無理して柔和な表情を浮かべた。
「はて、さて、話の筋が分からぬ」と、しらを切った。平穏に収めたい。
何皇后が鋭利な視線を送って来た。
「しらばっくれるつもり」と雑な言いよう。出自が分かるというもの。
于吉は、「皇后様は太平道とは親しいのでしょうね」と返した。
帝や心ある官吏達が太平道を警戒しているのは周知の事実。
なのに皇后が太平道と親しくしていては具合が悪い。
「わらわは太平道とは何の関係もありません」と即座に否定した。
于吉は片頬を歪めた。
「ワシが太平道に襲われたかどうかは、太平道のみが知ること」
何皇后の表情が和らぐ。
「太平道に襲われたというのは狂言で、宮殿に入るために一芝居打ったと認めるのね」
「認めた分けじゃない。太平道の教祖様の言い分を直に聞かせて貰わなくては」
何皇后の目色が厳しくなった。
「年寄りのくせに図太いわね。いい加減に認めなさい。
そして何の為に宮殿に入って来たのか、それも話しなさい」
取り巻き達も再び勢いづいた。
一人、二人と身を乗り出して来た。
「皇后様の下問には素直に答えろ」と。
何皇后は何としても于吉の弱みを握りたいのだろう。
必死であった。
よくよく考えてみれば、帝や宮殿に関する事と分かるのに、
于吉の落としどころと勘違いしていた。
己が身が可愛いのか、あるいは子の身を守ろうと足掻いているのか、それとも両方か。
于吉はこれ以上の我慢は不要と判断した。
たとえ于吉が口を閉じていても、何皇后や取り巻き達の口は塞げない。
命をかけて、あちこちを内密に尋ねて回るのは必至。
全体像を知る者は僅かだろう。
知る彼等は、けっして口にはしない。
だが真相に近付く欠片は、あちこちに散らばっていた。
官吏、宦官、木簡、竹簡。
王宮での噂の足は速い。
良きにつけ悪しきにつけ、一夜で瞬く間に広がる。
関心を持つ者が増えれば、そのうちの誰かが欠片を掻き集め、
真相を垣間見るかも知れない。
そして憶測が憶測を呼び、それを真相の全体像と勘違いするかも知れない。
于吉は、みんなを見回した。
「ようく考えてみなさい。
ワシは仙人と評判だが、一方で悪評もある。
そのワシが後宮にこうも簡単に入れるのは何故か。
帝一人の力とお思いかな。
帝一人の我が儘で宦官や官吏が容易く動くとお思いかな。
ワシの隠れ信者に、それだけの力があるとお思いかな」
みんなの頭に染み入るのに時間は要さない。
何皇后を中心にして小声で話し合う。
明らかに、みんなの顔色が変化を始めた。
それぞれが懸念の色。
何皇后に意表を突かれた。
まさしく鬼手。
事情が事情なので知る者は少ない。
事情を知る者は、けっして口にしない。
「帝、劉家の奥深いところの問題」と理解しているからだ。
外に漏れでもしたら一大事。
相手次第では、逆賊として罪に問われかねない。
生憎、この何皇后は事情を知らぬ。
知らぬからこそ平気で口に出来る。
事情を知れば真っ青となり、腰を抜かすに違いない。
しかし、どう考えても納得が行かない。
こうまで何皇后の頭が回る分けがない。
利口な分けがない。
誰の、何者の入れ知恵なのか。
「何とか言いなさいよ」と何皇后にせっつかれた。
下手な言い訳は通用しない。
「怒って誤魔化す」という手もあるが、それだけは、したくない。
動揺を抑え、無理して柔和な表情を浮かべた。
「はて、さて、話の筋が分からぬ」と、しらを切った。平穏に収めたい。
何皇后が鋭利な視線を送って来た。
「しらばっくれるつもり」と雑な言いよう。出自が分かるというもの。
于吉は、「皇后様は太平道とは親しいのでしょうね」と返した。
帝や心ある官吏達が太平道を警戒しているのは周知の事実。
なのに皇后が太平道と親しくしていては具合が悪い。
「わらわは太平道とは何の関係もありません」と即座に否定した。
于吉は片頬を歪めた。
「ワシが太平道に襲われたかどうかは、太平道のみが知ること」
何皇后の表情が和らぐ。
「太平道に襲われたというのは狂言で、宮殿に入るために一芝居打ったと認めるのね」
「認めた分けじゃない。太平道の教祖様の言い分を直に聞かせて貰わなくては」
何皇后の目色が厳しくなった。
「年寄りのくせに図太いわね。いい加減に認めなさい。
そして何の為に宮殿に入って来たのか、それも話しなさい」
取り巻き達も再び勢いづいた。
一人、二人と身を乗り出して来た。
「皇后様の下問には素直に答えろ」と。
何皇后は何としても于吉の弱みを握りたいのだろう。
必死であった。
よくよく考えてみれば、帝や宮殿に関する事と分かるのに、
于吉の落としどころと勘違いしていた。
己が身が可愛いのか、あるいは子の身を守ろうと足掻いているのか、それとも両方か。
于吉はこれ以上の我慢は不要と判断した。
たとえ于吉が口を閉じていても、何皇后や取り巻き達の口は塞げない。
命をかけて、あちこちを内密に尋ねて回るのは必至。
全体像を知る者は僅かだろう。
知る彼等は、けっして口にはしない。
だが真相に近付く欠片は、あちこちに散らばっていた。
官吏、宦官、木簡、竹簡。
王宮での噂の足は速い。
良きにつけ悪しきにつけ、一夜で瞬く間に広がる。
関心を持つ者が増えれば、そのうちの誰かが欠片を掻き集め、
真相を垣間見るかも知れない。
そして憶測が憶測を呼び、それを真相の全体像と勘違いするかも知れない。
于吉は、みんなを見回した。
「ようく考えてみなさい。
ワシは仙人と評判だが、一方で悪評もある。
そのワシが後宮にこうも簡単に入れるのは何故か。
帝一人の力とお思いかな。
帝一人の我が儘で宦官や官吏が容易く動くとお思いかな。
ワシの隠れ信者に、それだけの力があるとお思いかな」
みんなの頭に染み入るのに時間は要さない。
何皇后を中心にして小声で話し合う。
明らかに、みんなの顔色が変化を始めた。
それぞれが懸念の色。
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