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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(動乱)335

2014-05-08 21:14:24 | Weblog
 于吉は言葉に詰まった。
何皇后に意表を突かれた。
まさしく鬼手。
事情が事情なので知る者は少ない。
事情を知る者は、けっして口にしない。
「帝、劉家の奥深いところの問題」と理解しているからだ。
外に漏れでもしたら一大事。
相手次第では、逆賊として罪に問われかねない。
 生憎、この何皇后は事情を知らぬ。
知らぬからこそ平気で口に出来る。
事情を知れば真っ青となり、腰を抜かすに違いない。
しかし、どう考えても納得が行かない。
こうまで何皇后の頭が回る分けがない。
利口な分けがない。
誰の、何者の入れ知恵なのか。
「何とか言いなさいよ」と何皇后にせっつかれた。
 下手な言い訳は通用しない。
「怒って誤魔化す」という手もあるが、それだけは、したくない。
動揺を抑え、無理して柔和な表情を浮かべた。
「はて、さて、話の筋が分からぬ」と、しらを切った。平穏に収めたい。
 何皇后が鋭利な視線を送って来た。
「しらばっくれるつもり」と雑な言いよう。出自が分かるというもの。
 于吉は、「皇后様は太平道とは親しいのでしょうね」と返した。
 帝や心ある官吏達が太平道を警戒しているのは周知の事実。
なのに皇后が太平道と親しくしていては具合が悪い。
「わらわは太平道とは何の関係もありません」と即座に否定した。
 于吉は片頬を歪めた。
「ワシが太平道に襲われたかどうかは、太平道のみが知ること」
 何皇后の表情が和らぐ。
「太平道に襲われたというのは狂言で、宮殿に入るために一芝居打ったと認めるのね」
「認めた分けじゃない。太平道の教祖様の言い分を直に聞かせて貰わなくては」
 何皇后の目色が厳しくなった。
「年寄りのくせに図太いわね。いい加減に認めなさい。
そして何の為に宮殿に入って来たのか、それも話しなさい」
 取り巻き達も再び勢いづいた。
一人、二人と身を乗り出して来た。
「皇后様の下問には素直に答えろ」と。
 何皇后は何としても于吉の弱みを握りたいのだろう。
必死であった。
よくよく考えてみれば、帝や宮殿に関する事と分かるのに、
于吉の落としどころと勘違いしていた。
己が身が可愛いのか、あるいは子の身を守ろうと足掻いているのか、それとも両方か。
 于吉はこれ以上の我慢は不要と判断した。
たとえ于吉が口を閉じていても、何皇后や取り巻き達の口は塞げない。
命をかけて、あちこちを内密に尋ねて回るのは必至。
全体像を知る者は僅かだろう。
知る彼等は、けっして口にはしない。
だが真相に近付く欠片は、あちこちに散らばっていた。
官吏、宦官、木簡、竹簡。
王宮での噂の足は速い。
良きにつけ悪しきにつけ、一夜で瞬く間に広がる。
関心を持つ者が増えれば、そのうちの誰かが欠片を掻き集め、
真相を垣間見るかも知れない。
そして憶測が憶測を呼び、それを真相の全体像と勘違いするかも知れない。
 于吉は、みんなを見回した。
「ようく考えてみなさい。
ワシは仙人と評判だが、一方で悪評もある。
そのワシが後宮にこうも簡単に入れるのは何故か。
帝一人の力とお思いかな。
帝一人の我が儘で宦官や官吏が容易く動くとお思いかな。
ワシの隠れ信者に、それだけの力があるとお思いかな」
 みんなの頭に染み入るのに時間は要さない。
何皇后を中心にして小声で話し合う。
明らかに、みんなの顔色が変化を始めた。
それぞれが懸念の色。


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