表に騎馬の一行が止まるのに合せてヤマト達も外に出た。
若菜がヤマトを胸に抱き、白拍子が後に続いた。
騎馬の者達の視線が若菜とヤマトを通り越して白拍子に向かう。
その大きさ、美しさに驚いているようだ。
誰も何も発しない。
ヤマトは若菜と顔を見合わせて苦笑い。
「鼻の下を伸ばしてるよ」
「本当、男って馬鹿よね」
関所から案内してきた者が得意そうにみんなを見回した。
自分達の白拍子にみんなが見とれている事を確認すると、満足そうに頷いた。
そして余裕の表情で、誰にともなく、「それでは」と元来た道を引き返した。
暫くして最初に動いたのは小柄な侍。下馬するや笠を取った。
若侍に扮した豪姫だ。白拍子から目を離さず、ヤマトに問う。
「これが白拍子なのね」
「そうだよ、名前は於雪」
後ろから白拍子がヤマトに問う。
「すると、その女が豪姫かい」
「そう、我が儘な豪姫だよ」
間に若菜とヤマトを挟んで二人は対峙した。睨み合う。
宇喜多秀家も遅れじと下馬をした。
笠を取りながら、豪姫の傍に急ぐ。
新免無二斎と吉岡藤次が秀家の後に続いた。
秀家は豪姫の脇に立ち、白拍子を見上げた。
無二斎と藤次は二人の背後で白拍子に睨みを利かせた。
真田幸村と肩を並べてこちらに歩いて来る武士は、どうやら父親の真田昌幸。
顔も背格好もよく似ていた。
前田慶次郎が前に出て来た。
「ヤマト、これはどういう事だ」
「ごらんの通りだよ。これで豪姫も満足してくれるだろう」
「しかし、ずいぶん様変わりしたな。翼はどうした」
「飛ばない時は消えるそうだよ」
慶次郎はマジマジと白拍子を見詰めた。
「便利だな。それにしても、・・・雰囲気が別人だ」
「忘れたのかい、あの時の事。
白拍子は三つの魔物を吸収して実体化したんだよ。
人で言えば赤ん坊として生れたばかり。
で、今は小娘かな」
白拍子が不満を漏らした。
「今は立派な女よ。魔物だけど」
ヤマトは、「だそうだ」と苦笑い。
慶次郎がフフンとばかりに頷いた。
「となると、お豪の旅もここまでだな」
聞えた筈なのに豪姫は何も言わない。
ただ、ジッと白拍子を見詰め続けていた。
秀家が代わって答えた。
「そうですね。ここで終わりです。それもこれもヤマト殿のお陰」
ヤマトは秀家に頷き、豪姫に問う。
「豪姫、どうする」
豪姫は、「どうしたものか・・・」と曖昧な言葉。
幸村が割って入り、白拍子をキッと睨む。
「それがしの家来が虫けらの如く斬り殺されているのだが」
それに白拍子が敏感に反応した。
「その方は、あの時の騎馬武者の主人なのね」
「如何にも」
白拍子は表情を引き締めた。
「それではどうするの」
幸村はすぐに刀を抜けるように、鯉口を切る。
「家来の無念を晴らす」
脇の昌幸が驚いて、片手で制す。
「待て、血迷うな」
ヤマトが言葉を重ねた。
「お主の仕事は豪姫を無事に連れ戻す事だよ」
幸村はいつもの温厚さをかなぐり捨てた。
「目の前に家来を斬り殺した者がいるというのに、
このまま黙って引き下がれるか」
幸村の言葉を聞いた供の家臣十一人が駆け付けた。
いずれも鞍馬の麓で白拍子と遭遇した面々だ。
憎々しげに白拍子を睨め付けた。
その先頭に立っているのが中山才蔵。
いつでも斬り込めるように身構えながら、白拍子に問う。
「それがしの屋敷に行ったのか」
白拍子の表情が緩む。
「行ってきたわよ。みんな良い人ばかり。とりわけお幸は可愛いわね」
才蔵は疑惑の目。
「お前は一体何者なのだ」
「ごらんの通り、魔物よ」
豪姫が幸村の正面に向き直った。
「気持は分かるけど、今はお止めなさい」
おもわず幸村は一歩下がった。
不満げな表情で口を開いた。
「姫様、そこをお退き下さい」
「なりません」
昌幸が豪姫の側に立つ。
豪姫の右に秀家。左に昌幸。
三人が横一線に並んで幸村の前進を阻む。
ヤマトが白拍子に言う。
「於雪、お前は代官の客人なんだから、勝手に喧嘩沙汰はいけないよ。
何かあれば代官が責任を取って腹を切る事になる。分かるかい」
その言葉に、白拍子よりも幸村が激しく反応した。
「代官、・・・すると、八王子の代官の客人なのか」
「そうだよ」
幸村は刀に添えた手を離した。
徳川の代官の客人に刃を向けるわけにはいかない。
グッと奥歯を噛み締めた。
★
ブログ村ランキング。
★
FC2ブログランキング。
★
台風が来た。
みんな、気をつけて。
若菜がヤマトを胸に抱き、白拍子が後に続いた。
騎馬の者達の視線が若菜とヤマトを通り越して白拍子に向かう。
その大きさ、美しさに驚いているようだ。
誰も何も発しない。
ヤマトは若菜と顔を見合わせて苦笑い。
「鼻の下を伸ばしてるよ」
「本当、男って馬鹿よね」
関所から案内してきた者が得意そうにみんなを見回した。
自分達の白拍子にみんなが見とれている事を確認すると、満足そうに頷いた。
そして余裕の表情で、誰にともなく、「それでは」と元来た道を引き返した。
暫くして最初に動いたのは小柄な侍。下馬するや笠を取った。
若侍に扮した豪姫だ。白拍子から目を離さず、ヤマトに問う。
「これが白拍子なのね」
「そうだよ、名前は於雪」
後ろから白拍子がヤマトに問う。
「すると、その女が豪姫かい」
「そう、我が儘な豪姫だよ」
間に若菜とヤマトを挟んで二人は対峙した。睨み合う。
宇喜多秀家も遅れじと下馬をした。
笠を取りながら、豪姫の傍に急ぐ。
新免無二斎と吉岡藤次が秀家の後に続いた。
秀家は豪姫の脇に立ち、白拍子を見上げた。
無二斎と藤次は二人の背後で白拍子に睨みを利かせた。
真田幸村と肩を並べてこちらに歩いて来る武士は、どうやら父親の真田昌幸。
顔も背格好もよく似ていた。
前田慶次郎が前に出て来た。
「ヤマト、これはどういう事だ」
「ごらんの通りだよ。これで豪姫も満足してくれるだろう」
「しかし、ずいぶん様変わりしたな。翼はどうした」
「飛ばない時は消えるそうだよ」
慶次郎はマジマジと白拍子を見詰めた。
「便利だな。それにしても、・・・雰囲気が別人だ」
「忘れたのかい、あの時の事。
白拍子は三つの魔物を吸収して実体化したんだよ。
人で言えば赤ん坊として生れたばかり。
で、今は小娘かな」
白拍子が不満を漏らした。
「今は立派な女よ。魔物だけど」
ヤマトは、「だそうだ」と苦笑い。
慶次郎がフフンとばかりに頷いた。
「となると、お豪の旅もここまでだな」
聞えた筈なのに豪姫は何も言わない。
ただ、ジッと白拍子を見詰め続けていた。
秀家が代わって答えた。
「そうですね。ここで終わりです。それもこれもヤマト殿のお陰」
ヤマトは秀家に頷き、豪姫に問う。
「豪姫、どうする」
豪姫は、「どうしたものか・・・」と曖昧な言葉。
幸村が割って入り、白拍子をキッと睨む。
「それがしの家来が虫けらの如く斬り殺されているのだが」
それに白拍子が敏感に反応した。
「その方は、あの時の騎馬武者の主人なのね」
「如何にも」
白拍子は表情を引き締めた。
「それではどうするの」
幸村はすぐに刀を抜けるように、鯉口を切る。
「家来の無念を晴らす」
脇の昌幸が驚いて、片手で制す。
「待て、血迷うな」
ヤマトが言葉を重ねた。
「お主の仕事は豪姫を無事に連れ戻す事だよ」
幸村はいつもの温厚さをかなぐり捨てた。
「目の前に家来を斬り殺した者がいるというのに、
このまま黙って引き下がれるか」
幸村の言葉を聞いた供の家臣十一人が駆け付けた。
いずれも鞍馬の麓で白拍子と遭遇した面々だ。
憎々しげに白拍子を睨め付けた。
その先頭に立っているのが中山才蔵。
いつでも斬り込めるように身構えながら、白拍子に問う。
「それがしの屋敷に行ったのか」
白拍子の表情が緩む。
「行ってきたわよ。みんな良い人ばかり。とりわけお幸は可愛いわね」
才蔵は疑惑の目。
「お前は一体何者なのだ」
「ごらんの通り、魔物よ」
豪姫が幸村の正面に向き直った。
「気持は分かるけど、今はお止めなさい」
おもわず幸村は一歩下がった。
不満げな表情で口を開いた。
「姫様、そこをお退き下さい」
「なりません」
昌幸が豪姫の側に立つ。
豪姫の右に秀家。左に昌幸。
三人が横一線に並んで幸村の前進を阻む。
ヤマトが白拍子に言う。
「於雪、お前は代官の客人なんだから、勝手に喧嘩沙汰はいけないよ。
何かあれば代官が責任を取って腹を切る事になる。分かるかい」
その言葉に、白拍子よりも幸村が激しく反応した。
「代官、・・・すると、八王子の代官の客人なのか」
「そうだよ」
幸村は刀に添えた手を離した。
徳川の代官の客人に刃を向けるわけにはいかない。
グッと奥歯を噛み締めた。
★
ブログ村ランキング。
★
FC2ブログランキング。
★
台風が来た。
みんな、気をつけて。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます