二匹の狐は化ける技には未熟であった。
才能が無いのかもしれない。
ただ、人の言葉だけは自在に操れた。
背の高い方が「ちん平」、低い方が「まん作」。
まん作が新免無二斎の鞍の前に跳び乗った。
馬も馴れているので騒がない。チラリと見るだけ。
「あの関所から徳川領だ」
「で、どうだった」
「役人は五十人位で、実際に表に出てるのは二十人ほど。
出入りする者に取り立てて厳しいとは思えない。
見るからに怪しい者は引き止めて、厳しく荷改め等の詮議をしてるが、
普通の者には声を掛けるだけだ。
我等が通るのに何の問題もないだろう」
「そうか、ご苦労さん」
「ただ、どうも妙な雰囲気だ」
「妙とは」
「控えの者達が軍装なのだ」
「ほう、それは・・・」
ちん平が下から口を差し挟んだ。
「剣呑な気配はないから大丈夫だろう」
並んでる吉岡藤次も口を差し挟む。
「何かあった方が面白いやないか」
一行は木戸の手前で下馬し、無二斎と藤次の二人を先頭に関所に入った。
豊臣家の真田で押し通すので、主人の幸村だけは騎乗したままだ。
目立ちたくない宇喜多秀家やその正室の豪姫に異論はない。
無二斎が木戸の張り番に豊臣の通行手形を示した。
「我等は豊臣家の真田幸村と家中の者達、通ります」
木戸の張り番は通行手形と騎乗の幸村を一瞥すると顔色を変えた。
通行の邪魔にならない空き地を指し示し、「あそこでお待ちを」と。
そして本人は番所内に駆け込んだ。
無二斎は素早く場の空気を読み取る。
他の役人達に怪しい動きはない。
好奇の目を向けてくるが、殺気も邪気も感じ取れない。
みんなを促し、空き地に移動した。
総勢三十人余の平服の騎馬の一行は、この時勢では珍しくはない。
それでも通行人達の怪訝な視線を浴びる。
笠を被っていても豪姫、秀家、慶次郎、幸村等からは、
本人達の知らぬ間に人を惹き付ける気が放射されるのだ。
番所から数人が転び出てくるように、こちらに駆けて来た。
上役らしいのが、ただ一人騎乗している幸村に会釈した。
「真田幸村様で御座いますか」
幸村は笠を指で押し上げ、顔を見せた。
「いかにも」
「黒猫殿がこの先でお待ちです」
「黒猫・・・」
幸村だけでなく他の者達も驚いた。
徳川の関所で「黒猫殿」と聞かされるとは。
「ご存じですよね」
「名は」
「たしか、ヤマト。
皆様をこの先の湯治場に案内するようにとの事です」
「ヤマトの正体を知っているのか」
「魔物で御座いましょう」
「知っているのか」
無二斎は幸村の戸惑いを見抜いた。
徳川とヤマトの繋がりを不審に思っているらしい。
彼は疑問があると立ち止まり、ジッと考える。
豪姫と秀家の身の安全を任されているから当然と言えば当然だが。
慶次郎が笠を外し、話しに割り込む。
「その黒猫は湯治場で何をしているのだ」
役人は慶次郎の威風に圧倒されたのか、顔色が変わる。
「はっ、温泉がお気に入りのようです」
慶次郎が無邪気な顔をした。
「猫の癖に湯に入ってるのか」
役人も慶次郎に釣られた。
「猫の癖にですか・・・ハッハッハ。
露天風呂に飛び込むのを遠くから見た者がいます。湯に入るは確かでしょう。
それとあとは酒ですか。他の魔物の方々と宴会です」
「他の魔物とは」
「狐や狸達です。赤い狐とか、緑の狸が居り申した」
ヤマトは露天風呂の日当たりの良い岩の上で寝ていた。
気持ちよさそうに鼾をかいている。
替わって「金色の涙」が稼働。いつでも何にでも対処できる態勢だ。
座敷の方は飲み疲れか、静かになっていた。
倒れるように寝ているのだろう。あれだけ騒げば当然の事。
夜行性の魔物達だから暗くなれば自然に目を覚ます筈だ。
ヤマトの隣に若菜と白拍子が腰掛け、笑顔でお喋りをしていた。
鞍馬の話は終わり、天狗族の話しに移っていた。
若菜は久し振りの女同士の話しに興が乗っているようだ。
まあ無理もないだろう。
ヤマトが聞き耳を立てた。
こちらに近付いて来る蹄の音。混じって人の話声も。
騎馬の一隊らしい。およそ二・三十っ騎か。
遅れて若菜と白拍子も気付いた。
顔を見合わせ、同時にヤマトに視線を向けた。
ヤマトが片目を開けた。
「どうやら待ち人来たるだね。慶次郎の声がする」
白拍子が尋ねた。
「例の『鬼斬り』とやらを持った一行かい」
その辺りの事情は若菜に鞍馬の話と一緒に説明させておいた。
「そうだよ。供の者達の気苦労を理解したかな」
「少しはね」
「会ってくれるかい」
白拍子は不思議そうにヤマトを見た。
「魔物なのに妙に優しいんだね」
「魔物だって色んなのがいるよ。
それに、優しいのはオイラだけじゃない。座敷で酔い潰れてる連中だってそうさ」
白拍子は若菜を指し示した。
「この娘は」
ヤマトは当然のように答えた。
「若菜は魔物とは違うよ」
「すると何だい」
「佳い娘だよ」
若菜は破顔。喜び一杯の顔でヤマトを抱き上げた。
頬摺りする。
「やっぱりヤマトには分かるのね」
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ブログを書いてから五百日を越えましたが、
今もって文章作りに四苦八苦です。
「、」の打ち場所や、段落の付け方に試行錯誤の毎日です。
終了するまでには上手くなりたいものです。
才能が無いのかもしれない。
ただ、人の言葉だけは自在に操れた。
背の高い方が「ちん平」、低い方が「まん作」。
まん作が新免無二斎の鞍の前に跳び乗った。
馬も馴れているので騒がない。チラリと見るだけ。
「あの関所から徳川領だ」
「で、どうだった」
「役人は五十人位で、実際に表に出てるのは二十人ほど。
出入りする者に取り立てて厳しいとは思えない。
見るからに怪しい者は引き止めて、厳しく荷改め等の詮議をしてるが、
普通の者には声を掛けるだけだ。
我等が通るのに何の問題もないだろう」
「そうか、ご苦労さん」
「ただ、どうも妙な雰囲気だ」
「妙とは」
「控えの者達が軍装なのだ」
「ほう、それは・・・」
ちん平が下から口を差し挟んだ。
「剣呑な気配はないから大丈夫だろう」
並んでる吉岡藤次も口を差し挟む。
「何かあった方が面白いやないか」
一行は木戸の手前で下馬し、無二斎と藤次の二人を先頭に関所に入った。
豊臣家の真田で押し通すので、主人の幸村だけは騎乗したままだ。
目立ちたくない宇喜多秀家やその正室の豪姫に異論はない。
無二斎が木戸の張り番に豊臣の通行手形を示した。
「我等は豊臣家の真田幸村と家中の者達、通ります」
木戸の張り番は通行手形と騎乗の幸村を一瞥すると顔色を変えた。
通行の邪魔にならない空き地を指し示し、「あそこでお待ちを」と。
そして本人は番所内に駆け込んだ。
無二斎は素早く場の空気を読み取る。
他の役人達に怪しい動きはない。
好奇の目を向けてくるが、殺気も邪気も感じ取れない。
みんなを促し、空き地に移動した。
総勢三十人余の平服の騎馬の一行は、この時勢では珍しくはない。
それでも通行人達の怪訝な視線を浴びる。
笠を被っていても豪姫、秀家、慶次郎、幸村等からは、
本人達の知らぬ間に人を惹き付ける気が放射されるのだ。
番所から数人が転び出てくるように、こちらに駆けて来た。
上役らしいのが、ただ一人騎乗している幸村に会釈した。
「真田幸村様で御座いますか」
幸村は笠を指で押し上げ、顔を見せた。
「いかにも」
「黒猫殿がこの先でお待ちです」
「黒猫・・・」
幸村だけでなく他の者達も驚いた。
徳川の関所で「黒猫殿」と聞かされるとは。
「ご存じですよね」
「名は」
「たしか、ヤマト。
皆様をこの先の湯治場に案内するようにとの事です」
「ヤマトの正体を知っているのか」
「魔物で御座いましょう」
「知っているのか」
無二斎は幸村の戸惑いを見抜いた。
徳川とヤマトの繋がりを不審に思っているらしい。
彼は疑問があると立ち止まり、ジッと考える。
豪姫と秀家の身の安全を任されているから当然と言えば当然だが。
慶次郎が笠を外し、話しに割り込む。
「その黒猫は湯治場で何をしているのだ」
役人は慶次郎の威風に圧倒されたのか、顔色が変わる。
「はっ、温泉がお気に入りのようです」
慶次郎が無邪気な顔をした。
「猫の癖に湯に入ってるのか」
役人も慶次郎に釣られた。
「猫の癖にですか・・・ハッハッハ。
露天風呂に飛び込むのを遠くから見た者がいます。湯に入るは確かでしょう。
それとあとは酒ですか。他の魔物の方々と宴会です」
「他の魔物とは」
「狐や狸達です。赤い狐とか、緑の狸が居り申した」
ヤマトは露天風呂の日当たりの良い岩の上で寝ていた。
気持ちよさそうに鼾をかいている。
替わって「金色の涙」が稼働。いつでも何にでも対処できる態勢だ。
座敷の方は飲み疲れか、静かになっていた。
倒れるように寝ているのだろう。あれだけ騒げば当然の事。
夜行性の魔物達だから暗くなれば自然に目を覚ます筈だ。
ヤマトの隣に若菜と白拍子が腰掛け、笑顔でお喋りをしていた。
鞍馬の話は終わり、天狗族の話しに移っていた。
若菜は久し振りの女同士の話しに興が乗っているようだ。
まあ無理もないだろう。
ヤマトが聞き耳を立てた。
こちらに近付いて来る蹄の音。混じって人の話声も。
騎馬の一隊らしい。およそ二・三十っ騎か。
遅れて若菜と白拍子も気付いた。
顔を見合わせ、同時にヤマトに視線を向けた。
ヤマトが片目を開けた。
「どうやら待ち人来たるだね。慶次郎の声がする」
白拍子が尋ねた。
「例の『鬼斬り』とやらを持った一行かい」
その辺りの事情は若菜に鞍馬の話と一緒に説明させておいた。
「そうだよ。供の者達の気苦労を理解したかな」
「少しはね」
「会ってくれるかい」
白拍子は不思議そうにヤマトを見た。
「魔物なのに妙に優しいんだね」
「魔物だって色んなのがいるよ。
それに、優しいのはオイラだけじゃない。座敷で酔い潰れてる連中だってそうさ」
白拍子は若菜を指し示した。
「この娘は」
ヤマトは当然のように答えた。
「若菜は魔物とは違うよ」
「すると何だい」
「佳い娘だよ」
若菜は破顔。喜び一杯の顔でヤマトを抱き上げた。
頬摺りする。
「やっぱりヤマトには分かるのね」
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