金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)168

2009-10-04 10:10:49 | Weblog
 二匹の狐は化ける技には未熟であった。
才能が無いのかもしれない。
ただ、人の言葉だけは自在に操れた。
背の高い方が「ちん平」、低い方が「まん作」。
 まん作が新免無二斎の鞍の前に跳び乗った。
馬も馴れているので騒がない。チラリと見るだけ。
「あの関所から徳川領だ」
「で、どうだった」
「役人は五十人位で、実際に表に出てるのは二十人ほど。
出入りする者に取り立てて厳しいとは思えない。
見るからに怪しい者は引き止めて、厳しく荷改め等の詮議をしてるが、
普通の者には声を掛けるだけだ。
我等が通るのに何の問題もないだろう」
「そうか、ご苦労さん」
「ただ、どうも妙な雰囲気だ」
「妙とは」
「控えの者達が軍装なのだ」
「ほう、それは・・・」
 ちん平が下から口を差し挟んだ。
「剣呑な気配はないから大丈夫だろう」
 並んでる吉岡藤次も口を差し挟む。
「何かあった方が面白いやないか」
 一行は木戸の手前で下馬し、無二斎と藤次の二人を先頭に関所に入った。
豊臣家の真田で押し通すので、主人の幸村だけは騎乗したままだ。
目立ちたくない宇喜多秀家やその正室の豪姫に異論はない。
 無二斎が木戸の張り番に豊臣の通行手形を示した。
「我等は豊臣家の真田幸村と家中の者達、通ります」
 木戸の張り番は通行手形と騎乗の幸村を一瞥すると顔色を変えた。
通行の邪魔にならない空き地を指し示し、「あそこでお待ちを」と。
そして本人は番所内に駆け込んだ。
 無二斎は素早く場の空気を読み取る。
他の役人達に怪しい動きはない。
好奇の目を向けてくるが、殺気も邪気も感じ取れない。
 みんなを促し、空き地に移動した。
総勢三十人余の平服の騎馬の一行は、この時勢では珍しくはない。
それでも通行人達の怪訝な視線を浴びる。
笠を被っていても豪姫、秀家、慶次郎、幸村等からは、
本人達の知らぬ間に人を惹き付ける気が放射されるのだ。
 番所から数人が転び出てくるように、こちらに駆けて来た。
上役らしいのが、ただ一人騎乗している幸村に会釈した。
「真田幸村様で御座いますか」
 幸村は笠を指で押し上げ、顔を見せた。
「いかにも」
「黒猫殿がこの先でお待ちです」
「黒猫・・・」
 幸村だけでなく他の者達も驚いた。
徳川の関所で「黒猫殿」と聞かされるとは。
「ご存じですよね」
「名は」
「たしか、ヤマト。
皆様をこの先の湯治場に案内するようにとの事です」
「ヤマトの正体を知っているのか」
「魔物で御座いましょう」
「知っているのか」
 無二斎は幸村の戸惑いを見抜いた。
徳川とヤマトの繋がりを不審に思っているらしい。
彼は疑問があると立ち止まり、ジッと考える。
豪姫と秀家の身の安全を任されているから当然と言えば当然だが。
 慶次郎が笠を外し、話しに割り込む。
「その黒猫は湯治場で何をしているのだ」
 役人は慶次郎の威風に圧倒されたのか、顔色が変わる。
「はっ、温泉がお気に入りのようです」
 慶次郎が無邪気な顔をした。
「猫の癖に湯に入ってるのか」
 役人も慶次郎に釣られた。
「猫の癖にですか・・・ハッハッハ。
露天風呂に飛び込むのを遠くから見た者がいます。湯に入るは確かでしょう。
それとあとは酒ですか。他の魔物の方々と宴会です」
「他の魔物とは」
「狐や狸達です。赤い狐とか、緑の狸が居り申した」

 ヤマトは露天風呂の日当たりの良い岩の上で寝ていた。
気持ちよさそうに鼾をかいている。
替わって「金色の涙」が稼働。いつでも何にでも対処できる態勢だ。
 座敷の方は飲み疲れか、静かになっていた。
倒れるように寝ているのだろう。あれだけ騒げば当然の事。
夜行性の魔物達だから暗くなれば自然に目を覚ます筈だ。
 ヤマトの隣に若菜と白拍子が腰掛け、笑顔でお喋りをしていた。
鞍馬の話は終わり、天狗族の話しに移っていた。
若菜は久し振りの女同士の話しに興が乗っているようだ。
まあ無理もないだろう。
 ヤマトが聞き耳を立てた。
こちらに近付いて来る蹄の音。混じって人の話声も。
騎馬の一隊らしい。およそ二・三十っ騎か。
 遅れて若菜と白拍子も気付いた。
顔を見合わせ、同時にヤマトに視線を向けた。
 ヤマトが片目を開けた。
「どうやら待ち人来たるだね。慶次郎の声がする」
 白拍子が尋ねた。
「例の『鬼斬り』とやらを持った一行かい」
 その辺りの事情は若菜に鞍馬の話と一緒に説明させておいた。
「そうだよ。供の者達の気苦労を理解したかな」
「少しはね」
「会ってくれるかい」
 白拍子は不思議そうにヤマトを見た。
「魔物なのに妙に優しいんだね」
「魔物だって色んなのがいるよ。
それに、優しいのはオイラだけじゃない。座敷で酔い潰れてる連中だってそうさ」
 白拍子は若菜を指し示した。
「この娘は」
 ヤマトは当然のように答えた。
「若菜は魔物とは違うよ」
「すると何だい」
「佳い娘だよ」
 若菜は破顔。喜び一杯の顔でヤマトを抱き上げた。
頬摺りする。
「やっぱりヤマトには分かるのね」




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ブログを書いてから五百日を越えましたが、
今もって文章作りに四苦八苦です。
「、」の打ち場所や、段落の付け方に試行錯誤の毎日です。
終了するまでには上手くなりたいものです。


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