金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(帰省)125

2019-08-14 06:42:40 | Weblog
 直感が疼いた。
俺は反射的に反対側を見た。
男が馬に乗ったまま上ってきた坂道だ。
 ずっと先の曲がり角から騎乗の者達が現れた。
続けてキャラバン隊。
先行しているのは護衛の冒険者十騎。
幌馬車六両。
後衛の冒険者十騎。
 それで全てが氷解した。
お宝隊が何の危機感も抱かずに坂を上ってきた。
この坂道は襲撃に適したロケーションだ。
街道の片側が崖なら、襲撃の際に何両かを崖下にロストしてしまう。
ところが、ここは両側が森。
失う心配が全くない。
 両側の森に伏兵も考えられるが、
冒険者に気配察知スキル持ちがいることを懸念し、
離れた場所に待機させたのだろう。
 その開拓地を見た。
緑の点滅が広がり、周辺の茶色の点滅に近付いて行く。
獣だとばかり思っていたが、違っていたらしい。
二つの点滅が一体化した。
「全員、騎乗しました。三十四騎です」脳内モニターに文字。

 こちら側の上り下りの起伏は緩やかだ。
道筋もほとんど一直線に近い。
偽装された開拓地から騎馬の群が飛び出して来た。
脳内モニターでズームアップ。
全員が武装していた。
俺がいる坂道の上を目指していた。
逆落としするつもりなのだろう。
 途中にいた旅人や行商人も事態の推移に気付いた。
彼等の邪魔にならぬように左右に避けた。
 俺が魔法を行使すれば、連中は短時間で一掃できる。
でも、それは出来ない。
昼間の俺は、顔を晒してる俺は魔法が使えない幼年学校の生徒。
ここで力を披露すれば、面倒事に巻き込まれるだけ。

 俺はキャラバン隊を振り向いた。
冒険者に通じる合図をした。
片手で指笛を吹き、もう片手で「急ぎ集まれ」と。
 先頭が気付いた。
でも、こちらを子供と見たのだろう。
無視された。
見ず知らずの子供だから、当然こうなるのも仕方ない。
はぁ、無力感。
 こうなっては俺に出来る事はない。
一人で阻止できる数ではない。
有利な高所を捨てることにした。
坂道を下った。
 先頭の冒険者達と擦れ違う際、一騎に咎められた。
「子供だから見逃すが、悪戯でも次はないぞ」
「お母ちゃんに言い付けるぞ。はっはっは」もう一騎が笑う。
 緊張感が欠片もない。
こういう手合いだから斥候も出していないのだろう。
「おじさん、向こうから武装した騎馬隊が来るよ。
それでも笑ってられる」嫌味を言った。
 俺の言葉に彼等は戸惑った。
互いに顔を見合わせた。
「坊主、どういう事だ」別の一騎が言葉を荒げた。
 背中に複数の蹄の音が急接近して来た。
途端、冒険者達の表情が一変した。
一斉に視線を坂の上に向けた。
彼等の表情から坂の上に現れたのが分かった。 

「お宝は目の前だ、行け」
「押し潰せ、潰せ、潰せ」
 坂の上から怒号が飛んで来た。
俺は振り返る気も起きない。
すでに高所を取られた時点で勝負は付いていた。
冒険者達の奮闘に期待し、その間に逃げるだけ。
その肝心の冒険者達は言葉を失っていた。
果たして役に立つのか、どうか。
 俺は馬を進めた。
馭者席の男達は不安顔、チラチラ俺に視線を送って来た。
何か言葉をかけて欲しいのだろうか。
生憎、人生経験豊富な彼等にかける言葉は持ち合わせていない。
言えるとすれば問い掛け、荷物を選ぶのか、命を選ぶのか。
無駄な抵抗をしなければ見逃してくれる筈だ。
 と、下にも騎馬の群が現れた。
「十五騎です」脳内モニターに文字。
挟み撃ちされた。
袋の鼠。
チューチュー、たこかいな。
 でも。ちょつだけ希望が。
後衛の冒険者達は即座に対応したのだ。
隊列を維持して迎撃した。

 俺は手詰まりになった。
どうする、俺。
坂道を駆け下って、そのまま敵中を駆け抜けるか。
いや、この馬には耐えきれない。
下り坂の途中で潰れてしまう。
 街道の前後を見遣った。
丁度、ここは中間点。
双方が弓の射程内。
となれば一つしかない。
 後衛は奮戦しているし戦力も互角に近い。
最大の問題は前衛の冒険者達。
予想通り、押し込まれていた。
十騎も今や四騎。
それを盗賊団が弄んでいた。

 俺は弓士スキルを十全に発揮しようと決めた。
まず身体強化スキルから。
そして収納スペースからM字型の複合弓を取り出した。
イメージで段取り。
矢の取り出しは、より効率的に自動装填。
矢を番えた状態で出現するようにした。
威力はEPから2を付加。
人間相手ならこれで充分だろう。
 前衛は全滅寸前だが、そこは最後まで頑張ってもらおう。
大人には大人なりの責任を果たして貰おう。
ちょっとだけでも盗賊団を引き付けてくれれば、儲けもの。
 盗賊団の肝を探した。
蛇を殺すには頭から。
それらしいのを見つけた。
後方から叱咤激励している奴だ。
 狙うのは命ではない。
彼等には何の恨みもない。
身動きを封じるだけで充分だろう。

 盗賊団の頭領らしいのが俺の気配に気付いた。
キッと振り返った。
視線が絡み合う。
俺は射た。
 頭領は勘働きなのか、動体視力なのか、簡単に矢を切り払った。
ニヤリと俺を見遣り、槍を構えた。
そして嬉しそうな顔で突っ込んで来た。
 自動装填なので矢を番える動作は必要としない。
現れた次矢を引き絞って射るだけ。
相手の力量を確認する意味合いで次矢は右胸、これは囮。
本命は三本目、太腿。
目にも留まらぬ連射。
自動装填だからこそ出来る技。
 頭領は次矢も切り払うが、そこまで。
直ぐに悲鳴を漏らした。
三本目が太腿に深々と突き刺さっていた。
あまりの痛みに耐えられぬのか、馬上に身を伏せた。
 それからは簡単なお仕事だった。
振り上げられた腕を、向けられた脇腹を、馬の側面の太腿を、
見える背中を。
ズームアップの助けを得て、射て、射て、射てまくった。
それもこれも冒険者達が盗賊団の目を引き付けてくれたお陰。
余裕、余裕。

 男は三人がかりで冒険者を弄び、余裕で倒した。
相前後して仲間達も一人を倒した。
これで前衛の冒険者全てを片付けた。
男達は自慢げな顔で味方を振り返った。
するとそこには目も当てられぬ惨状が広がっていた。
防具の革ごと射貫かれて馬上で苦しむ者、落馬して転がる者。
全員が負傷していた。
肝心の頭領も同じ有様。
当惑した。
言葉もない。
 男は自分を取り戻すと原因を探した。
それは直ぐに見つかった。
馬上から弓を射ている者がいた。
射手は今も男の周りの者を狙っていた。
 男は頭を働かせた。
距離は短い。
射手特有の手間を考えれば盗賊団が有利。
三人も犠牲にすれば射手を屠れる。
やられる前にやれとばかりに残った者達を叱咤激励し、突っ込ませた。
男は味方の後方に位置取りし、追走した。

 俺がただの弓士スキル持ちなら盗賊団が有利だろう。
でも俺は弓士スキルに加えて矢は自動装填。
手間いらず。
簡単なお仕事。
ちょっと引いて放つだけ。
手前から順番に片付けて行く。
結局、手元に辿り着いたのは乗り手をなくした馬のみ。
 反対側、後衛に目を転じた。
冒険者六騎対盗賊団七騎。
こちらは予想通り、冒険者側が健闘していた。
終局まで待ってもいいのだが、
冒険者側にこれ以上の被害を出す必要はないだろう。
俺は射線上にある五騎を狙い射て、負傷させ、戦闘不能にした。
射線上にいない二騎は冒険者達に任せた。
 俺は馬を進め現場から離脱する事にした。
これだけの大事件だ。
負傷者多数の上に死者も出ている。
簡単に済む案件ではない。
そうなれば領軍が駆け付けて取り調べが始まる。
関係者は犯罪者でなくも拘束に近い扱いを受け、
一件書類を書き上げるのに協力させられる。
それに付き合わされるのは面倒臭い。
 残った二騎を片付けたのだろう。
後衛の一騎が俺に話しかけてきた。
「助かったよ」
「いいえ、俺の進路の邪魔をしていたので片付けただけです。
それじゃこれで」
「えっ、盗賊団討伐の褒賞金を貰わないのか」
「いりません。先を急ぎますので」振り返らずに、馬を急がせた。


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