直感が疼いた。
俺は反射的に反対側を見た。
男が馬に乗ったまま上ってきた坂道だ。
ずっと先の曲がり角から騎乗の者達が現れた。
続けてキャラバン隊。
先行しているのは護衛の冒険者十騎。
幌馬車六両。
後衛の冒険者十騎。
それで全てが氷解した。
お宝隊が何の危機感も抱かずに坂を上ってきた。
この坂道は襲撃に適したロケーションだ。
街道の片側が崖なら、襲撃の際に何両かを崖下にロストしてしまう。
ところが、ここは両側が森。
失う心配が全くない。
両側の森に伏兵も考えられるが、
冒険者に気配察知スキル持ちがいることを懸念し、
離れた場所に待機させたのだろう。
その開拓地を見た。
緑の点滅が広がり、周辺の茶色の点滅に近付いて行く。
獣だとばかり思っていたが、違っていたらしい。
二つの点滅が一体化した。
「全員、騎乗しました。三十四騎です」脳内モニターに文字。
こちら側の上り下りの起伏は緩やかだ。
道筋もほとんど一直線に近い。
偽装された開拓地から騎馬の群が飛び出して来た。
脳内モニターでズームアップ。
全員が武装していた。
俺がいる坂道の上を目指していた。
逆落としするつもりなのだろう。
途中にいた旅人や行商人も事態の推移に気付いた。
彼等の邪魔にならぬように左右に避けた。
俺が魔法を行使すれば、連中は短時間で一掃できる。
でも、それは出来ない。
昼間の俺は、顔を晒してる俺は魔法が使えない幼年学校の生徒。
ここで力を披露すれば、面倒事に巻き込まれるだけ。
俺はキャラバン隊を振り向いた。
冒険者に通じる合図をした。
片手で指笛を吹き、もう片手で「急ぎ集まれ」と。
先頭が気付いた。
でも、こちらを子供と見たのだろう。
無視された。
見ず知らずの子供だから、当然こうなるのも仕方ない。
はぁ、無力感。
こうなっては俺に出来る事はない。
一人で阻止できる数ではない。
有利な高所を捨てることにした。
坂道を下った。
先頭の冒険者達と擦れ違う際、一騎に咎められた。
「子供だから見逃すが、悪戯でも次はないぞ」
「お母ちゃんに言い付けるぞ。はっはっは」もう一騎が笑う。
緊張感が欠片もない。
こういう手合いだから斥候も出していないのだろう。
「おじさん、向こうから武装した騎馬隊が来るよ。
それでも笑ってられる」嫌味を言った。
俺の言葉に彼等は戸惑った。
互いに顔を見合わせた。
「坊主、どういう事だ」別の一騎が言葉を荒げた。
背中に複数の蹄の音が急接近して来た。
途端、冒険者達の表情が一変した。
一斉に視線を坂の上に向けた。
彼等の表情から坂の上に現れたのが分かった。
「お宝は目の前だ、行け」
「押し潰せ、潰せ、潰せ」
坂の上から怒号が飛んで来た。
俺は振り返る気も起きない。
すでに高所を取られた時点で勝負は付いていた。
冒険者達の奮闘に期待し、その間に逃げるだけ。
その肝心の冒険者達は言葉を失っていた。
果たして役に立つのか、どうか。
俺は馬を進めた。
馭者席の男達は不安顔、チラチラ俺に視線を送って来た。
何か言葉をかけて欲しいのだろうか。
生憎、人生経験豊富な彼等にかける言葉は持ち合わせていない。
言えるとすれば問い掛け、荷物を選ぶのか、命を選ぶのか。
無駄な抵抗をしなければ見逃してくれる筈だ。
と、下にも騎馬の群が現れた。
「十五騎です」脳内モニターに文字。
挟み撃ちされた。
袋の鼠。
チューチュー、たこかいな。
でも。ちょつだけ希望が。
後衛の冒険者達は即座に対応したのだ。
隊列を維持して迎撃した。
俺は手詰まりになった。
どうする、俺。
坂道を駆け下って、そのまま敵中を駆け抜けるか。
いや、この馬には耐えきれない。
下り坂の途中で潰れてしまう。
街道の前後を見遣った。
丁度、ここは中間点。
双方が弓の射程内。
となれば一つしかない。
後衛は奮戦しているし戦力も互角に近い。
最大の問題は前衛の冒険者達。
予想通り、押し込まれていた。
十騎も今や四騎。
それを盗賊団が弄んでいた。
俺は弓士スキルを十全に発揮しようと決めた。
まず身体強化スキルから。
そして収納スペースからM字型の複合弓を取り出した。
イメージで段取り。
矢の取り出しは、より効率的に自動装填。
矢を番えた状態で出現するようにした。
威力はEPから2を付加。
人間相手ならこれで充分だろう。
前衛は全滅寸前だが、そこは最後まで頑張ってもらおう。
大人には大人なりの責任を果たして貰おう。
ちょっとだけでも盗賊団を引き付けてくれれば、儲けもの。
盗賊団の肝を探した。
蛇を殺すには頭から。
それらしいのを見つけた。
後方から叱咤激励している奴だ。
狙うのは命ではない。
彼等には何の恨みもない。
身動きを封じるだけで充分だろう。
盗賊団の頭領らしいのが俺の気配に気付いた。
キッと振り返った。
視線が絡み合う。
俺は射た。
頭領は勘働きなのか、動体視力なのか、簡単に矢を切り払った。
ニヤリと俺を見遣り、槍を構えた。
そして嬉しそうな顔で突っ込んで来た。
自動装填なので矢を番える動作は必要としない。
現れた次矢を引き絞って射るだけ。
相手の力量を確認する意味合いで次矢は右胸、これは囮。
本命は三本目、太腿。
目にも留まらぬ連射。
自動装填だからこそ出来る技。
頭領は次矢も切り払うが、そこまで。
直ぐに悲鳴を漏らした。
三本目が太腿に深々と突き刺さっていた。
あまりの痛みに耐えられぬのか、馬上に身を伏せた。
それからは簡単なお仕事だった。
振り上げられた腕を、向けられた脇腹を、馬の側面の太腿を、
見える背中を。
ズームアップの助けを得て、射て、射て、射てまくった。
それもこれも冒険者達が盗賊団の目を引き付けてくれたお陰。
余裕、余裕。
男は三人がかりで冒険者を弄び、余裕で倒した。
相前後して仲間達も一人を倒した。
これで前衛の冒険者全てを片付けた。
男達は自慢げな顔で味方を振り返った。
するとそこには目も当てられぬ惨状が広がっていた。
防具の革ごと射貫かれて馬上で苦しむ者、落馬して転がる者。
全員が負傷していた。
肝心の頭領も同じ有様。
当惑した。
言葉もない。
男は自分を取り戻すと原因を探した。
それは直ぐに見つかった。
馬上から弓を射ている者がいた。
射手は今も男の周りの者を狙っていた。
男は頭を働かせた。
距離は短い。
射手特有の手間を考えれば盗賊団が有利。
三人も犠牲にすれば射手を屠れる。
やられる前にやれとばかりに残った者達を叱咤激励し、突っ込ませた。
男は味方の後方に位置取りし、追走した。
俺がただの弓士スキル持ちなら盗賊団が有利だろう。
でも俺は弓士スキルに加えて矢は自動装填。
手間いらず。
簡単なお仕事。
ちょっと引いて放つだけ。
手前から順番に片付けて行く。
結局、手元に辿り着いたのは乗り手をなくした馬のみ。
反対側、後衛に目を転じた。
冒険者六騎対盗賊団七騎。
こちらは予想通り、冒険者側が健闘していた。
終局まで待ってもいいのだが、
冒険者側にこれ以上の被害を出す必要はないだろう。
俺は射線上にある五騎を狙い射て、負傷させ、戦闘不能にした。
射線上にいない二騎は冒険者達に任せた。
俺は馬を進め現場から離脱する事にした。
これだけの大事件だ。
負傷者多数の上に死者も出ている。
簡単に済む案件ではない。
そうなれば領軍が駆け付けて取り調べが始まる。
関係者は犯罪者でなくも拘束に近い扱いを受け、
一件書類を書き上げるのに協力させられる。
それに付き合わされるのは面倒臭い。
残った二騎を片付けたのだろう。
後衛の一騎が俺に話しかけてきた。
「助かったよ」
「いいえ、俺の進路の邪魔をしていたので片付けただけです。
それじゃこれで」
「えっ、盗賊団討伐の褒賞金を貰わないのか」
「いりません。先を急ぎますので」振り返らずに、馬を急がせた。
俺は反射的に反対側を見た。
男が馬に乗ったまま上ってきた坂道だ。
ずっと先の曲がり角から騎乗の者達が現れた。
続けてキャラバン隊。
先行しているのは護衛の冒険者十騎。
幌馬車六両。
後衛の冒険者十騎。
それで全てが氷解した。
お宝隊が何の危機感も抱かずに坂を上ってきた。
この坂道は襲撃に適したロケーションだ。
街道の片側が崖なら、襲撃の際に何両かを崖下にロストしてしまう。
ところが、ここは両側が森。
失う心配が全くない。
両側の森に伏兵も考えられるが、
冒険者に気配察知スキル持ちがいることを懸念し、
離れた場所に待機させたのだろう。
その開拓地を見た。
緑の点滅が広がり、周辺の茶色の点滅に近付いて行く。
獣だとばかり思っていたが、違っていたらしい。
二つの点滅が一体化した。
「全員、騎乗しました。三十四騎です」脳内モニターに文字。
こちら側の上り下りの起伏は緩やかだ。
道筋もほとんど一直線に近い。
偽装された開拓地から騎馬の群が飛び出して来た。
脳内モニターでズームアップ。
全員が武装していた。
俺がいる坂道の上を目指していた。
逆落としするつもりなのだろう。
途中にいた旅人や行商人も事態の推移に気付いた。
彼等の邪魔にならぬように左右に避けた。
俺が魔法を行使すれば、連中は短時間で一掃できる。
でも、それは出来ない。
昼間の俺は、顔を晒してる俺は魔法が使えない幼年学校の生徒。
ここで力を披露すれば、面倒事に巻き込まれるだけ。
俺はキャラバン隊を振り向いた。
冒険者に通じる合図をした。
片手で指笛を吹き、もう片手で「急ぎ集まれ」と。
先頭が気付いた。
でも、こちらを子供と見たのだろう。
無視された。
見ず知らずの子供だから、当然こうなるのも仕方ない。
はぁ、無力感。
こうなっては俺に出来る事はない。
一人で阻止できる数ではない。
有利な高所を捨てることにした。
坂道を下った。
先頭の冒険者達と擦れ違う際、一騎に咎められた。
「子供だから見逃すが、悪戯でも次はないぞ」
「お母ちゃんに言い付けるぞ。はっはっは」もう一騎が笑う。
緊張感が欠片もない。
こういう手合いだから斥候も出していないのだろう。
「おじさん、向こうから武装した騎馬隊が来るよ。
それでも笑ってられる」嫌味を言った。
俺の言葉に彼等は戸惑った。
互いに顔を見合わせた。
「坊主、どういう事だ」別の一騎が言葉を荒げた。
背中に複数の蹄の音が急接近して来た。
途端、冒険者達の表情が一変した。
一斉に視線を坂の上に向けた。
彼等の表情から坂の上に現れたのが分かった。
「お宝は目の前だ、行け」
「押し潰せ、潰せ、潰せ」
坂の上から怒号が飛んで来た。
俺は振り返る気も起きない。
すでに高所を取られた時点で勝負は付いていた。
冒険者達の奮闘に期待し、その間に逃げるだけ。
その肝心の冒険者達は言葉を失っていた。
果たして役に立つのか、どうか。
俺は馬を進めた。
馭者席の男達は不安顔、チラチラ俺に視線を送って来た。
何か言葉をかけて欲しいのだろうか。
生憎、人生経験豊富な彼等にかける言葉は持ち合わせていない。
言えるとすれば問い掛け、荷物を選ぶのか、命を選ぶのか。
無駄な抵抗をしなければ見逃してくれる筈だ。
と、下にも騎馬の群が現れた。
「十五騎です」脳内モニターに文字。
挟み撃ちされた。
袋の鼠。
チューチュー、たこかいな。
でも。ちょつだけ希望が。
後衛の冒険者達は即座に対応したのだ。
隊列を維持して迎撃した。
俺は手詰まりになった。
どうする、俺。
坂道を駆け下って、そのまま敵中を駆け抜けるか。
いや、この馬には耐えきれない。
下り坂の途中で潰れてしまう。
街道の前後を見遣った。
丁度、ここは中間点。
双方が弓の射程内。
となれば一つしかない。
後衛は奮戦しているし戦力も互角に近い。
最大の問題は前衛の冒険者達。
予想通り、押し込まれていた。
十騎も今や四騎。
それを盗賊団が弄んでいた。
俺は弓士スキルを十全に発揮しようと決めた。
まず身体強化スキルから。
そして収納スペースからM字型の複合弓を取り出した。
イメージで段取り。
矢の取り出しは、より効率的に自動装填。
矢を番えた状態で出現するようにした。
威力はEPから2を付加。
人間相手ならこれで充分だろう。
前衛は全滅寸前だが、そこは最後まで頑張ってもらおう。
大人には大人なりの責任を果たして貰おう。
ちょっとだけでも盗賊団を引き付けてくれれば、儲けもの。
盗賊団の肝を探した。
蛇を殺すには頭から。
それらしいのを見つけた。
後方から叱咤激励している奴だ。
狙うのは命ではない。
彼等には何の恨みもない。
身動きを封じるだけで充分だろう。
盗賊団の頭領らしいのが俺の気配に気付いた。
キッと振り返った。
視線が絡み合う。
俺は射た。
頭領は勘働きなのか、動体視力なのか、簡単に矢を切り払った。
ニヤリと俺を見遣り、槍を構えた。
そして嬉しそうな顔で突っ込んで来た。
自動装填なので矢を番える動作は必要としない。
現れた次矢を引き絞って射るだけ。
相手の力量を確認する意味合いで次矢は右胸、これは囮。
本命は三本目、太腿。
目にも留まらぬ連射。
自動装填だからこそ出来る技。
頭領は次矢も切り払うが、そこまで。
直ぐに悲鳴を漏らした。
三本目が太腿に深々と突き刺さっていた。
あまりの痛みに耐えられぬのか、馬上に身を伏せた。
それからは簡単なお仕事だった。
振り上げられた腕を、向けられた脇腹を、馬の側面の太腿を、
見える背中を。
ズームアップの助けを得て、射て、射て、射てまくった。
それもこれも冒険者達が盗賊団の目を引き付けてくれたお陰。
余裕、余裕。
男は三人がかりで冒険者を弄び、余裕で倒した。
相前後して仲間達も一人を倒した。
これで前衛の冒険者全てを片付けた。
男達は自慢げな顔で味方を振り返った。
するとそこには目も当てられぬ惨状が広がっていた。
防具の革ごと射貫かれて馬上で苦しむ者、落馬して転がる者。
全員が負傷していた。
肝心の頭領も同じ有様。
当惑した。
言葉もない。
男は自分を取り戻すと原因を探した。
それは直ぐに見つかった。
馬上から弓を射ている者がいた。
射手は今も男の周りの者を狙っていた。
男は頭を働かせた。
距離は短い。
射手特有の手間を考えれば盗賊団が有利。
三人も犠牲にすれば射手を屠れる。
やられる前にやれとばかりに残った者達を叱咤激励し、突っ込ませた。
男は味方の後方に位置取りし、追走した。
俺がただの弓士スキル持ちなら盗賊団が有利だろう。
でも俺は弓士スキルに加えて矢は自動装填。
手間いらず。
簡単なお仕事。
ちょっと引いて放つだけ。
手前から順番に片付けて行く。
結局、手元に辿り着いたのは乗り手をなくした馬のみ。
反対側、後衛に目を転じた。
冒険者六騎対盗賊団七騎。
こちらは予想通り、冒険者側が健闘していた。
終局まで待ってもいいのだが、
冒険者側にこれ以上の被害を出す必要はないだろう。
俺は射線上にある五騎を狙い射て、負傷させ、戦闘不能にした。
射線上にいない二騎は冒険者達に任せた。
俺は馬を進め現場から離脱する事にした。
これだけの大事件だ。
負傷者多数の上に死者も出ている。
簡単に済む案件ではない。
そうなれば領軍が駆け付けて取り調べが始まる。
関係者は犯罪者でなくも拘束に近い扱いを受け、
一件書類を書き上げるのに協力させられる。
それに付き合わされるのは面倒臭い。
残った二騎を片付けたのだろう。
後衛の一騎が俺に話しかけてきた。
「助かったよ」
「いいえ、俺の進路の邪魔をしていたので片付けただけです。
それじゃこれで」
「えっ、盗賊団討伐の褒賞金を貰わないのか」
「いりません。先を急ぎますので」振り返らずに、馬を急がせた。
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