授業が終わって自室に戻ると、アリスが飛び付いて来た。
『行くわよ』
『お仲間は』
『これまでの疲れが一気に出たみたいで寝込んでるわ』
『大丈夫そう』
『心配ないわ。何日か休めば疲れもとれるでしょう』
『それは良かった』
『優しいのね。
そうやって私の心配もしてくれる』
『アリスはいつも元気だろう』
『いつも元気ねえ・・・、なんかむかつく』俺の頭を叩いた。
東区画の貴族街に着いた。
目的の伯爵家は中心部付近にあった。
昨日の子爵邸に比べて敷地が広い。
表から見える建物の数も規模も大きい。
探知君と鑑定君を連携させて外壁沿いの道を歩いた。
3D表示すると、使用人の数まで段違いに多いではないか。
流石は伯爵様だ。
事前に調べていたアリスが言う。
『奥の別館の二階に囚われているわ』
『そうか。
それにしても別館を中心にして妙に人が多いな』
アリスが驚いて、飛んで偵察して来た。
『大勢の兵士が物陰に隠れて別館を囲んでいるわ。
別館が見える建物の屋根にも弓兵が潜んでいて、
手ぐすね引いて待ち構えているみたい』
『趣味が妖精と言う狭い世界だから、
昨日の子爵邸の一件を知ったんじゃないか』
『面白くなってきたわね。フッフッフ』不敵に笑う。
散策で時間を潰し、夕暮れと同時に動いた。
光体を纏って光学迷彩スキルを始動。
身体強化スキルと風魔法を連携。
敷地の外壁を跳び越えた。
ゆっくり着地。
外で働く使用人も多いが、潜んでいる兵士も多い。
幸い誰にも気付かれてはいない。
別館脇に小走りし、屋根に跳び上がった。
ここに兵士は置かれていないが、他の屋根からの視線を感じた。
妖精の微量な魔波を感知しながら、その真上に移動した。
妖精が囚われた部屋にも人が詰めていた。
五人、兵士だろう。
左右の部屋にも、それぞれ五人。
建物の内も外も兵士、兵士。
伯爵様は厳重に守りを固めていた。
俺達は手を引くつもりはない。
アリスと大雑把に打ち合わせた。
問題が発生したらアドリブ。
これで十分だろう。
ここを見張っている兵士達も光学迷彩までは把握していないだろう。
屋根と天井に闇魔法、ダークボールをそっと放った。
静かだけど威力のある闇弾。
物音一つ立てずに穴を空けた。
アリスが光学迷彩から飛び出し、空いた穴から部屋に急降下した。
低ランクの者に姿が見えない利点を活かした。
得意の風弾だと破裂音で他の連中に気付かれるから、
妖精魔法を身に纏っての力技で制圧する、と豪語していた。
俺が間を置いて部屋に降り立つと終わっていた。
武装していた五人は一人残らず気絶させられていた。
なにしろ彼等は胴体部分は鎧で守っていたが、
甘く見ていたのか兜は被っていなかった。
そこを突かれ、殴る蹴るされたのだろう。
広い部屋だった。
ここも分厚い絨毯が敷き詰められていた。
机とか椅子、書棚はないが、代わりに壁を保管棚が埋めていた。
子爵邸では余裕がなかったので、書棚は覗かなかったが、今日は違う。
チラ見して確認する余裕があった。
伯爵様の趣味は妖精だけでなく、棚に逸品の類も集めていた。
部屋の片側に鉄格子で組まれた大きな鳥籠が置かれていた。
子爵邸にあった物と同じであった。
止まり木に止まっていた二対四枚羽根の妖精が、
室内の様子に気付いたようだ。
鉄格子に取り付き、成り行きを窺っていた。
鑑定すると彼女はDランクであった。
俺は光学迷彩を解き、鳥籠に歩み寄った。
探知君と鑑定君を連携起動した。
鳥籠と妖精の首輪に魔法を阻害する術式が施されていた。
昨夕の子爵邸と同じ物だった。
ここもクラーク老人なのだろう。
かなり稼いだに違いない。
術式洗浄スキルを起動した。
鳥籠をポン、首輪をポンと解いた。
待っていたアリスがウィンドカッターで鉄格子を切り裂き、穴を空けた。
アリスが連れ出した妖精に光魔法、ライトクリーンとライトリフレッシュ。
アリスが妖精と話し合う。
長々と話し合った末、決まった。
『暴れ回るわよ』簡潔に報告・・・、それとも説明・・・、した。
『それじゃ、俺も』
『これには妖精のプライドがかかっているの。
二人で遣るから、ダンはここで待ってて』
『分かった。危なくなったら呼んで』
妖精二人は廊下に飛び出すと、左右の部屋に殴り込んだ。
隠す必要がなくなったので、派手な妖精魔法の破裂音が鳴り響いた。
制圧するや、壁を破壊して外の獲物を狩りに行く。
俺は手持ち無沙汰になった。
気絶させられてる五人が起きる度に蹴り付け、
再び夢の国に送るのだが、それには直ぐに飽きてきた。
そこで目に付いたのが壁を埋めてる保管棚。
伯爵が買い集めた逸品が所狭しと並べられていた。
どの程度の目利きかは知らないが、鑑定君で調べるのも野暮なので、
自分の目で確かめる事にした。
美術品に工芸品、武器、防具、貴金属等々・・・。
流石は侯爵様だ。
でも・・・、分からない、分からない。
どれも値打ち物に思えるのだが、俺の美意識がずれているのか、
真価が分からない。
そこにアリスと妖精が戻って来た。
『早いな』俺は呆れた。
『木偶の坊ばかりよ。
私達を見つけられないんだから、当然じゃない』
妖精を見る事ができる高ランクの者がいなかったらしい。
『それで、伯爵は』
『いなかった。
家来に任せて自分は他所に隠れているんでしょうよ』
『どうする』
『困ったわね、どうしよう』
そこで思い出した。
盗賊が所有していた物は討伐した者が全て得られる、と言う一般常識。
小さな頃に村を襲った盗賊団も、討伐されて全て村に没収された。
ここの伯爵も盗賊と同類の者。
奪っても許されるだろう。
『めぼしい物を代わりに頂くか』棚を指し示した。
アリスは棚を見回し、妖精に声を掛けた。
二言三言で終わった。
『そうしようか。
私は酒蔵を探して浚ってくる』妖精を従えて飛び出した。
幸い俺の虚空君には空きスペースが沢山ある。
鑑定君を頼りに、めぼしい物を収納して行く。
絵画十二点、彫刻八点、壺二十二点、宝飾品三十三点。
ミスリル含有の長剣六振り、短剣三振り。
アダマンタイト含有の盾五枚、鎧二領。
術式が施されたマント三枚。
術式が施された指輪六点。
最後に古書十七冊。
これらを取り出し易いように種類別に分けてスペースに収納した。
ホクホク顔でアリスと妖精が戻って来た。
『収穫があったようだね』
『そっちもね、棚の半分が消えてるじゃない』
二人を体光で覆い、光学迷彩スキルを再起動した。
身体強化スキルと風魔法の連携で屋根まで跳び上がった。
辺りを見回すと酷い有様だった。
兵士達があちこちに倒れているだけではない。
ほとんどの建物に大小様々な穴が空けられていた。
これでは修理するより建て直しだろう。
遠目にこちらに向かって来る国軍の騎兵隊の一団を見つけた。
不穏な妖精魔法の連発に気付いたのだろう。
少し遅れた徒士の一団は奉行所の者達か。
俺は屋根から屋根へ移動し、現場を後にした。
それを追って来る者は一人もいない。
外壁の近くで分かれる際にアリスに要求された。
『ねぇダン、抱えてる魔卵を私に頂戴』
『えぇー、その内に売る予定なんだけど』
『けち臭いことを言わないで、私に寄こしなさい』
『どうするんだ』
『ダンジョンで使うのよ、分かった。早く渡しなさい』
ダンジョンで何に使うのか分からない。
説明が下手な上に、こうなるとアリスは面倒臭い。
要求が通るまで引かないのだ。
売らずにコツコツ溜めた魔卵は二十六個。
一つ残らず取られた。
『行くわよ』
『お仲間は』
『これまでの疲れが一気に出たみたいで寝込んでるわ』
『大丈夫そう』
『心配ないわ。何日か休めば疲れもとれるでしょう』
『それは良かった』
『優しいのね。
そうやって私の心配もしてくれる』
『アリスはいつも元気だろう』
『いつも元気ねえ・・・、なんかむかつく』俺の頭を叩いた。
東区画の貴族街に着いた。
目的の伯爵家は中心部付近にあった。
昨日の子爵邸に比べて敷地が広い。
表から見える建物の数も規模も大きい。
探知君と鑑定君を連携させて外壁沿いの道を歩いた。
3D表示すると、使用人の数まで段違いに多いではないか。
流石は伯爵様だ。
事前に調べていたアリスが言う。
『奥の別館の二階に囚われているわ』
『そうか。
それにしても別館を中心にして妙に人が多いな』
アリスが驚いて、飛んで偵察して来た。
『大勢の兵士が物陰に隠れて別館を囲んでいるわ。
別館が見える建物の屋根にも弓兵が潜んでいて、
手ぐすね引いて待ち構えているみたい』
『趣味が妖精と言う狭い世界だから、
昨日の子爵邸の一件を知ったんじゃないか』
『面白くなってきたわね。フッフッフ』不敵に笑う。
散策で時間を潰し、夕暮れと同時に動いた。
光体を纏って光学迷彩スキルを始動。
身体強化スキルと風魔法を連携。
敷地の外壁を跳び越えた。
ゆっくり着地。
外で働く使用人も多いが、潜んでいる兵士も多い。
幸い誰にも気付かれてはいない。
別館脇に小走りし、屋根に跳び上がった。
ここに兵士は置かれていないが、他の屋根からの視線を感じた。
妖精の微量な魔波を感知しながら、その真上に移動した。
妖精が囚われた部屋にも人が詰めていた。
五人、兵士だろう。
左右の部屋にも、それぞれ五人。
建物の内も外も兵士、兵士。
伯爵様は厳重に守りを固めていた。
俺達は手を引くつもりはない。
アリスと大雑把に打ち合わせた。
問題が発生したらアドリブ。
これで十分だろう。
ここを見張っている兵士達も光学迷彩までは把握していないだろう。
屋根と天井に闇魔法、ダークボールをそっと放った。
静かだけど威力のある闇弾。
物音一つ立てずに穴を空けた。
アリスが光学迷彩から飛び出し、空いた穴から部屋に急降下した。
低ランクの者に姿が見えない利点を活かした。
得意の風弾だと破裂音で他の連中に気付かれるから、
妖精魔法を身に纏っての力技で制圧する、と豪語していた。
俺が間を置いて部屋に降り立つと終わっていた。
武装していた五人は一人残らず気絶させられていた。
なにしろ彼等は胴体部分は鎧で守っていたが、
甘く見ていたのか兜は被っていなかった。
そこを突かれ、殴る蹴るされたのだろう。
広い部屋だった。
ここも分厚い絨毯が敷き詰められていた。
机とか椅子、書棚はないが、代わりに壁を保管棚が埋めていた。
子爵邸では余裕がなかったので、書棚は覗かなかったが、今日は違う。
チラ見して確認する余裕があった。
伯爵様の趣味は妖精だけでなく、棚に逸品の類も集めていた。
部屋の片側に鉄格子で組まれた大きな鳥籠が置かれていた。
子爵邸にあった物と同じであった。
止まり木に止まっていた二対四枚羽根の妖精が、
室内の様子に気付いたようだ。
鉄格子に取り付き、成り行きを窺っていた。
鑑定すると彼女はDランクであった。
俺は光学迷彩を解き、鳥籠に歩み寄った。
探知君と鑑定君を連携起動した。
鳥籠と妖精の首輪に魔法を阻害する術式が施されていた。
昨夕の子爵邸と同じ物だった。
ここもクラーク老人なのだろう。
かなり稼いだに違いない。
術式洗浄スキルを起動した。
鳥籠をポン、首輪をポンと解いた。
待っていたアリスがウィンドカッターで鉄格子を切り裂き、穴を空けた。
アリスが連れ出した妖精に光魔法、ライトクリーンとライトリフレッシュ。
アリスが妖精と話し合う。
長々と話し合った末、決まった。
『暴れ回るわよ』簡潔に報告・・・、それとも説明・・・、した。
『それじゃ、俺も』
『これには妖精のプライドがかかっているの。
二人で遣るから、ダンはここで待ってて』
『分かった。危なくなったら呼んで』
妖精二人は廊下に飛び出すと、左右の部屋に殴り込んだ。
隠す必要がなくなったので、派手な妖精魔法の破裂音が鳴り響いた。
制圧するや、壁を破壊して外の獲物を狩りに行く。
俺は手持ち無沙汰になった。
気絶させられてる五人が起きる度に蹴り付け、
再び夢の国に送るのだが、それには直ぐに飽きてきた。
そこで目に付いたのが壁を埋めてる保管棚。
伯爵が買い集めた逸品が所狭しと並べられていた。
どの程度の目利きかは知らないが、鑑定君で調べるのも野暮なので、
自分の目で確かめる事にした。
美術品に工芸品、武器、防具、貴金属等々・・・。
流石は侯爵様だ。
でも・・・、分からない、分からない。
どれも値打ち物に思えるのだが、俺の美意識がずれているのか、
真価が分からない。
そこにアリスと妖精が戻って来た。
『早いな』俺は呆れた。
『木偶の坊ばかりよ。
私達を見つけられないんだから、当然じゃない』
妖精を見る事ができる高ランクの者がいなかったらしい。
『それで、伯爵は』
『いなかった。
家来に任せて自分は他所に隠れているんでしょうよ』
『どうする』
『困ったわね、どうしよう』
そこで思い出した。
盗賊が所有していた物は討伐した者が全て得られる、と言う一般常識。
小さな頃に村を襲った盗賊団も、討伐されて全て村に没収された。
ここの伯爵も盗賊と同類の者。
奪っても許されるだろう。
『めぼしい物を代わりに頂くか』棚を指し示した。
アリスは棚を見回し、妖精に声を掛けた。
二言三言で終わった。
『そうしようか。
私は酒蔵を探して浚ってくる』妖精を従えて飛び出した。
幸い俺の虚空君には空きスペースが沢山ある。
鑑定君を頼りに、めぼしい物を収納して行く。
絵画十二点、彫刻八点、壺二十二点、宝飾品三十三点。
ミスリル含有の長剣六振り、短剣三振り。
アダマンタイト含有の盾五枚、鎧二領。
術式が施されたマント三枚。
術式が施された指輪六点。
最後に古書十七冊。
これらを取り出し易いように種類別に分けてスペースに収納した。
ホクホク顔でアリスと妖精が戻って来た。
『収穫があったようだね』
『そっちもね、棚の半分が消えてるじゃない』
二人を体光で覆い、光学迷彩スキルを再起動した。
身体強化スキルと風魔法の連携で屋根まで跳び上がった。
辺りを見回すと酷い有様だった。
兵士達があちこちに倒れているだけではない。
ほとんどの建物に大小様々な穴が空けられていた。
これでは修理するより建て直しだろう。
遠目にこちらに向かって来る国軍の騎兵隊の一団を見つけた。
不穏な妖精魔法の連発に気付いたのだろう。
少し遅れた徒士の一団は奉行所の者達か。
俺は屋根から屋根へ移動し、現場を後にした。
それを追って来る者は一人もいない。
外壁の近くで分かれる際にアリスに要求された。
『ねぇダン、抱えてる魔卵を私に頂戴』
『えぇー、その内に売る予定なんだけど』
『けち臭いことを言わないで、私に寄こしなさい』
『どうするんだ』
『ダンジョンで使うのよ、分かった。早く渡しなさい』
ダンジョンで何に使うのか分からない。
説明が下手な上に、こうなるとアリスは面倒臭い。
要求が通るまで引かないのだ。
売らずにコツコツ溜めた魔卵は二十六個。
一つ残らず取られた。
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