金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(アリス)85

2018-12-16 07:16:13 | Weblog
 俺は単刀直入に尋ねた。
「名付けによって起きる事は知ってたみたいだね」
 アリスの金色の瞳が泳ぐ。
「えっ・・・、ああ・・・、まあね。
でも事実だと確認できて嬉しいわ」
「種別変更してもかい」
「問題ないわ。
人族の繁殖力はゴキブリ並み、とは言わないけど、
色欲に溺れながら繁殖もする、その点においては立派よ。
欠点は私達妖精に比べて短命なこと。
病や怪我に弱いから長くても百年、普通は五十年ほど。
その間を我慢すれば、どうってことないのよ。
短い間だけど仲良くしましょう」真顔で言う。
 脳筋妖精の本音が分かった。
「ダンタルニャンの眷属妖精、だそうだよ、理解してるの」
 開き直ったのか、彼女の表情に変化はない。
「平気、平気、何の問題もないわ。
眷属妖精でも、妖精である事に変わりないもの。
要するにダンが親で、私は子、と言うだけのこと。
子は親を殺せない。親も子を殺せない。
そういう縛りに守られた疑似家族よ。
年下のダンが親で、年上の私が子になるんだけど、
もしかして気にしてるのかしら」
 俺は少々のことなら目を瞑れる器の大きな児童。
小難しい問題は先送り。
「分かった、分かった。
そっちが納得してるなら僕は何も言うことはないよ。
それじゃあね。
生まれ故郷まで気を付けて帰るんだよ。
明るい今なら帰路は分かるだろう。
元気でね。
そうそう、こんどは酒で飲み潰されないようにね」
 アリスが住んでいたペリローズの森が、どこにあるのかは知らないが、
話しを打ち切ることにした。
これも一つの親切、と自分を納得させた。
あに図らんや、アリスは怪訝な表情をした。
「はぁー、・・・、なに言ってるの。
眷属妖精なのよ。離れられる分けがないでしょう。
疑似でも家族の括りなのよ。
普通なら一緒に暮らすでしょうよ」俺をジッと見詰めた。
「一緒に暮らす・・・の」俺は途方に暮れた。
 アリスは金髪を軽くかきあげた。
「そうか、ダンは知らなかったのよね。
そうよ、それが眷属よ、私には何の支障もないわ。
ダンは子供でも男の子でしょう。しっかりしなさい」
 キャパオーバーだ。
俺は自分の置かれた立場を説明した。
まだ親に養われていること。
今は学校の寮暮らで、人様の世話を焼くような身分ではないこと。
丁寧に噛み砕いて説明し、納得させようとした、のだが、
アリスには届かなかった。
鼻で笑われた。
「フフン、寮暮らしか、面白い。
私は妖精の寝床を持ってるから問題ないわ。
食事にしても、魔素があれば充分よ。
お酒の手持ちもあるしね」
 俺は慌てた。
「妖精だと分かれば、また捕まるかもしれないよ」
 アリスは得意気に指を一本立てた。
「忘れたの、私の新しいスキルを」その場でバク宙した。
 途端、鮮やかなハレーション。
眩しい。
ハレーションの後に残ったのは白い子猫。
アリスの面影は金色の瞳だけ。
羽根もないのに宙に留まったままで俺に言う。
「これよ。
・・・。
割といけるわね」
 二枚貝に閉じ込められていた子猫そのままの姿ではないか。
違いは獣化の術式が施された首輪がないだけ。
「その姿が気に入っているのかい」
「チョイスとしては有りよ。
私の愛らしい姿を少しも損なっていない、いいわね。
でも獣化の術者を許す気はないわ。
・・・。
けど獣化の影響で変身スキルを得たのも事実。
見つけたら少しは手加減してあげようかしら。
手足の指を一本ずつ切り離し、それから手足四本、舌、
最後に首の予定だったんだけど、舌と首だけにしてあげる」
 聞かされただけで寒気がしてきた。 
児童の耳にはNGだろう。
「分かった、・・・、寮に案内するよ」俺は諦めた。
「それが賢明よ。
私が年上だからお姉さん。遠慮なく頼ってちょうだい」
 俺は散らかった荷馬車の中を片付けることにした。
手間取って面倒臭いが、誰かが遣らなければならない事は確か。
だとしたら俺でしょう。
アリスに見せるために並べた品々を元の木箱に戻し、蓋をした。
全部の木箱に蓋をしても仕事は終わらなかった。
死んだ者達から剥ぎ取られた武具と、
ぶちまけられた財布の中身が床に残っていた。
見渡したところ、今の俺に必要な物はない。
アリスを促して外に出、荷馬車を収納庫に戻した。
 場所に相応しくない物が視界に映った。
鍛冶スキルを得る切っ掛けになった磁器製品だ。
床タイルとその上のテーブルと椅子。
隣には余った粘土を渦巻き状にした山。
改めて見て、初仕事にしては中々の出来、と我ながら感心した。
しかし、ここには相応しくない。
逆に興味を持たれてしまうかも知れない、と心配になってきた。
まずい・・・、俺に繋がるような物は残せない。
今の俺は表向き、魔法使いではないからだ。
 前世の犯罪捜査で指紋採取によって犯人が特定されたように、
こちらでは魔道具等の製品から残留している魔紋が採取され、
発動者個人も特定ができた。
魔紋の採取も特定も捜査する側の鑑定のレベルにもよるが、
その前に興味を持たれるような物を残すこと自体を避けねばならない。
そこで俺はそれらを消し去ることにした。
撫で回すように見ながらスキルの選別を始めた。
すると子猫の姿のアリスが、勘を働かせたのか、
「待って、これは私の物よ」と返事も聞かずにテーブルの上に飛び、
小さな柄杓とナイフ、フォークを取り上げ、収納した。
気に入ってくれたらしい。
それはそれで嬉しい。
「危ないから僕の視界から外れて」
「分かった」
 消し去るのに用いるスキルは同じ鍛冶にした。
同一スキルなら問題は生じないだろう。
鍛冶スキルを発動。
対象物を視界に収め、雲散霧消をイメージした。
それだけ。
一瞬で跡形もなく消え去った。
すべて魔素に変換され、拡散して行くのを鑑定君で捉えた。
 アリスが俺の目の前に飛んで来た。
「終わったみたいね。町に案内してよ」
「迷わずに付いて来るんだよ」
 俺は歩きながら魔法使いの杖と一緒にグレーのローブを収納し、
冒険者パーティ用のカーキ色のローブを取り出して着替えた。
「着替える意味が分からん」アリスが首を捻った。
子猫の仕草なので可愛い。
ただ、宙を飛んでいるので、他人には見せられない。
 しばらく行くと探知君が魔物の存在を捉えた。
大物はいないが、かなりの数が周辺で獲物を探し回っていた。
獣道の先にも少なくない数が出張っていた。
俺は身体強化を続けたまま、戦いを回避しながら突破することにした。
「アリス、急ぐから肩に乗って。
たとえ接近されても魔法攻撃は禁止だよ」
「ええっー」
 不満顔のアリスに、
「逃げるのではないよ、これは鍛錬の一つだよ」と言い聞かせた。
 白い子猫が肩に乗って、その長い尻尾を首に回した。
それを横目で確かめるや、ダッシュ。
大方が平地なので足場に問題はない。
軽く跳んで、大きく長く跳んで、右に躱して、左を擦り抜けて、
人通りの多い街道を目指した。




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