金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)170

2009-10-11 10:36:51 | Weblog
 その頃、佐助の姿は馬の上にあった。
右に、連れの一騎が並んでいた。
共に旅仕度の若侍姿。
 伏見の狐・ぴょん吉が上手に人に化けていた。
馬の操り方も上手い。労るように乗っていた。
 一人と一匹は、ヤマトの言う「天魔」を探す為、岩槻に向かっていた。
 途中、川越に来たところで、ぴょん吉が馬を止めた。
不審げに左右を見回した。
 佐助が馬を寄せた。
「どうした」
「妙な気配がする」
「天魔か」
「天魔は会った事がないから分からない。でも、この気配、・・・気になる」
 様子を見る為にと、向かいの森蔭に潜んだ。
 暫くすると戦仕度の一団が現れた。
騎乗の武士が三騎。付き従うのは槍を持った足軽十数人。
どうやら見回りらしい。
 一団は無駄口一つも叩かない。
不気味な程に歩調を合わせ、四方に目を配りながら、
佐助とぴょん吉の前を通り過ぎてゆく。
 普通の者なら見過ごすだろうが、佐助は違った。
連中は多少の差異こそあれど、まるで「良くできた人形」だ。
ぴょん吉を見ると、彼も同じ疑問を抱いたらしい。黙って頷いて返してきた。
 一団の背中が遠くなるのを待ってから、ぴょん吉が囁いた。
「連中が気になる」
「白拍子の話しでは代官を襲った魔物は川越に住んでいたな」
「ああ、その事もある」
「どうする」
「私が川越を調べてみよう。佐助は最初の予定通りに岩槻を頼む」
「一匹で大丈夫か」
 ぴょん吉は配下の狐達を湯治場に置いてきた。
それは、「東国の地理に不案内だからな」と言う理由からだ。
 おそらく本音は別のところ。
経験の浅い配下達を天魔と遭遇させたくないのだろう。
 ぴょん吉は真摯な目で見詰めた。
「危ないとみたら逃げるさ。まだ命は惜しい。
こちらを調べたら岩槻で合流する。
俺の方で探すから何の心配もいらないよ」
 佐助は後ろ髪を引かれながらも岩槻へ向かう。
途中、行き合う土地の農夫達に道を尋ねたので迷う事はなかった。
何本かの川も教えられた浅瀬を渡った。
 急に血の臭いが濃くなった。
出会った農夫に確かめると、「ここは岩槻だよ」。
去り際に、「戦を避けて行くんだよ」と心配してくれた。
 土地は豊かそうだが、空気が荒れていた。
戦塵が一帯に立ち込めていた。
 どこから誰が見ているか分からないので旅の者らしく振る舞う。
進むに従い血の臭いが益々濃くなる。
陣らしき気配を感じると遠回りして避けた。
幸い誰に見咎められる事もなかった。
 小高い山を見つけた。
手入れが行き届いているようで、人一人が上れる道が整備されていた。
これより先は騎乗したままでは無理。
再び元の所へ戻れるか分からないので、馬を乗り捨てた。
 誰か良き人に拾われる事を願っていたが、驚いた事に馬が後をついてきた。
佐助の背中を鼻先で押す。
 山の頂の木に登り、辺りを見回した。
城はすぐに見つけられた。
小ぶりだが堅固そうな城構えだ。
遠いので城壁の上の兵士が豆粒ほどにしか見えない。
そしてそこからは何の気配も届かない。
 城の外堀の手前には盾らしき物が多数散乱していた。
どうやら攻め手側が破れたらしい。
 その攻め手の布陣だが、城兵の出撃を警戒しているのか、
城を遠巻きにしていた。
なんだか怖々としている気配が感じ取れた。
 日も暮れそうなので、寝場所を探しに山から下りた。
街道から外れた所に小川があった。
狭いが河原もあった。
馬を休ませるには丁度良い所だ。
そこで下りて、馬を放った。
 最初は置き捨てを警戒した馬だが、佐助が草地に横になると安心したのか、
喜んで浅瀬に入った。
 その河原の外れに掘っ立て小屋を見つけた。
丈の高い草藪に埋もれそうになっていた。
いつ倒れるかしれないので、用心して中に入った。
かつては物置として使われていたらしい。
それらしき箱とか、破れた板や折れた棒だかが転がっていた。
 中は荒れていても身体を休められるだけの場所は残っていた。
床を軽く蹴る。腐れてはいない。
そこを選んで腰を落とした。
懐から小さな包みを取り出した。
 大きなお握りが一個入っていた。
若菜が、「落とすなよ」と持たせてくれたものだ。
固くなっているが竹の水筒で喉を潤しながら、少しずつ飲み込む。
塩味が良い具合に利いている。
 窓の外には夕焼け。
一気に疲れが出た。早いが仮眠する事にした。

 虫の音で目を覚ました。辺りは暗くなっていた。
星明かりが窓から差し込んでいた。
 外に出ると、気付いた馬が起き上がろうとした。
馬を宥める為に駆け寄り、片手で制した。
正面から見詰め、「きっと戻るから」と話しかけた。
幾度か語りかけると、理解したのか馬は安心したように再び横になった。
 佐助は河原から城へ向かった。
夜道でも苦労はしない。修行で夜目が利くのだ。
どこで巡回の兵に遭遇してもいいように道の端の陰を選びながら、
足音を立てず慎重かつ早く駆けた。
 どういう分けか巡回の兵に出会わない。
それは町筋に出ても同じ。
一人として巡回していない。
陣から人の気配はするが声も聞えない。
陣中を明るくして閉じ籠もっているらしい。
まるでお通夜のように沈んでいるではないか。




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