高校公民Blog

高校の公民科(現代社会・政治経済・倫理)教育に関連したBlogです

この春の読書 1 高度成長モデルから消費社会モデルへ

2007-03-11 20:46:10 | 経済分野の授業

2月末から3月初めまで、学期末、学年末の成績処理で忙殺されました。さらに、3月の初旬は入試業務も加わります。まだ、落ち着いて何かを読んだり書いたりできませんが、4月の新学期がはじまるまでの一ヶ月余の間の読書について書いてみたいと思います。

高度成長時代とは何だったのか?

 学校は、実は、この問いの時制を改めないといけないことになります。学校は、実は、いまだに

「高度成長時代とは何なのか?」

という現在形で進行しているからです。高度成長という時代がどのような夢や希望を与え、どのような絶望を与えてきたのか、それを形式化することは意味があります。もちろん、私たちの授業の目的は希望です。希望をどのようにして提示するか、このタイトルはもちろん、私が、なかなか現実的に授業として形式化できない「経済分野」の授業の研修テーマなのです。私はこの数年岩井克人に注目してきました。

会社はこれからどうなるのか資本主義から市民主義へ

岩井克人『会社はこれからどうなるのか』(平凡社)
岩井克人『資本主義から市民主義へ』(新書館)

をテキストにして、岩井が描く、日本の経済社会のポストモダン化を丹念に形式化したいと考えています。かんたんにいうと、岩井は、高度成長からポストモダンへと日本の経済構造は変換しつつあるとみています。もちろん、変換できないから、経済は行き詰まり、変換できないから、「失われた十年」を日本社会は経験したわけです。
 学校的にいえば、学校は、いまだ高度成長モデルでやっています。だから、安部晋三でなくても、教育は構造転換を迫られているのです。もちろん、なお、学校は「失われた」を続けています。私は、経済の授業を組み立てるために今回の読書を試みます。それも、別段エリートになるわけでもない青年期の生徒の視野から広がる世界に、経済という形式をどのように挿入するのか、というのが問題の所在です。概念は、それを受け取る当事者が、道具として使用できなければ意味がありません。心の地図に経済の概念が食い込まねば意味がないのです。これは、きわめて難解な問いです。チャート式だの、シグマベストだの、というレベルの問題ではないことは言うまでもないですね。

経済の授業が難解なわけ

 経済の授業が難解なのは、おそらく、生徒の中心的行為として経済行為をあげると、「成績にまつわる進路」というところへとつながるからです。

「何でこの高校へと来たのか?」
「何で学校の勉強は意味がないのか?」
「何で学校で勉強したい気持ちにならないのか?」

生徒は学校と家の往復を反復しているだけです。その家と学校との往復の中で、経済行為に絡む根拠を見いだすことはきわめて難解です。したがって、いわゆる進学校の生徒たちはここの点について言えば恵まれた状況にあるといえます。
 学校を道具として使い、結果を「プラス」として感得できること、これがきわめて抽象的な普通高校の普通科目の動機付けとしてどうしても必要になるからです。

熊沢誠・玄田有史・本田由紀

 
このポストモダン化のなかで高度成長システムが併存しているという状況は労働状況に、複雑な陰を投げかけています。労働経済や労働問題の研究家たちは十分それを定式化できていませんね。
 しかし、ほぼ常識に属することからいえば、きわめて正社員化しにくい状況が生まれつつあることは事実です。40代以上の人たちを正社員のラストラインだとすれば、大手でさえ、30代以前の正社員化はほとんど進んでいません。そして、この30代への仕事量の集中は想像を絶します。学校を見ても、20代の正規雇用がどれだけありますか?私たちは何が民間で起こり、労働状況がどのように転換しつつあるのかをつかまなければいけません。そのときに、ポストモダンを貫くグローバリズムという潮流を見ずにはこの世界を描くことはできないでしょう。

若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて

熊沢誠『若者が働くとき』(ミネルヴァ書房)
玄田有史『ジョブクリエイション』(東洋経済新報社)『働く過剰』(NTT出版)
本田由紀『若者と仕事

 熊沢誠は、労働問題の大家です。私は30年近くのつきあいを著作を通してさせていただいています。私は熊沢をとおして、労働組合とは何かを理論として学んできました。私は実はユニオニストなんです(笑)。玄田は「ニート」という言葉を流行らした若手の研究者です。本田は教育という角度から経済社会を見つめている若手の研究者です。新書で『「ニート」って言うな!』という共著があります。
 さて、上記の熊沢の著書ですが、私は未読で今回初めて読むのですが、本田と玄田については再読なので、議論をさらに整理したいと考えています。富士通の成果主義を問題にした城繁幸の『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書)もできたら読みたいと考えています。
 さて、このエントリイは教員向けに、あるいは教員になろうとしている人に向けて書いているわけですが、一体、経済の問題について、あなたはどのように生徒と語り、何をメッセージとして発せられるか、考えていただきたいと思います。


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