to Heart

~その時がくるまでのひとりごと

迷子の警察音楽隊

2011-11-06 23:51:14 | the cinema (マ・ヤ行)

原題 THE BAND'S VISIT
製作年 2007年
製作国 イスラエル/フランス
上映時間 87分
脚本:監督 エラン・コリリン
出演 サッソン・ガーベイ/ロニ・エルカベッツ/サーレフ・バクリ/カリファ・ナトゥール

アラブの国エジプトの警察音楽隊が、平和交流のために招かれたイスラエルで迷子になり、図らずも一般家庭で一晩を過ごす中で、地元の人々とぎこちなくも心温まる交流を繰り広げる姿をユーモラスに描いたイスラエル製ヒューマン・コメディ
ちょっと昔の話。イスラエルに新しくできたアラブ文化センターでの演奏を依頼されたエジプトの警察音楽隊。さっそく揃いのスーツに身を包み、イスラエルの空港に降り立つ一行。しかし何かの手違いか、空港に出迎えの姿はなく、誇り高き団長トゥフィークは自力で目的地を目指すことに。ところがたどり着いた先は、目的地と似た名前の全く別の場所。そこは、ホテルなんて一軒もない辺境の町。途方に暮れた一行は、食堂の美しい女主人ディナの計らいで、3組に分かれ、食堂、ディナの家、そして常連客イツィクの家に分宿して一夜を過ごすことになるのだったが…。

「かつて小さなエジプトの警察音楽隊がイスラエルに舞い降りた。もう憶えている人は少ないかもしれない。それはたいしたことではないのだから...」

舞台は1990年代のイスラエル。自力で辿りつこうとしたのがいけなかった。
似た様な名前で、何度発音を繰り返されてもその違いが判らないエジプト人。
目的地とはまったく別の、砂漠の真中の忘れられたような小さい町だった――。

お腹も空き、宿もない。―
途方にくれる堅物団長は、仕方なくエジプトのお金で食事をさせて欲しいと食堂に申し入れる。
彼らの窮地を察した女主人は、すぱすぱと頭割りで団員達の宿泊場所を決めていく。

無謀ともいえる処置ながら、異国でなす術もない団員達だったけれど、
死んだように静まり返った砂漠の町で、
どこにでもある悩みを抱えて生きているイスラエルの人たちの夜に合流することになり・・

ディナの誘いを断れず、生真面目で堅物の団長は夜の町に出かけ、
暇をもてあました若い団員は、店の若い男の初デートに強引についていき、
その不器用な若者にスケート場で恋愛の手ほどきをする。。。なんとも可笑しく、可愛らしい。

常連客イツィクの家で夕飯をよばれた団員たちは、礼儀正しく過ごしていたが、
その民族の慣習の違いからイツィクの妻に誤解されたりと居心地が悪い。
イツィクは生まれたばかりの子供がいながら、もう1年も失業しているのだった。
いかし、彼は協奏曲のラストが仕上がらない団員に、自分のイメージをリクエストする・・。



ここにはパレスチナ問題も宗教も出てこない。
普通に誰かと恋をしたい若者がいて、それを手ほどきする旅人がいて・・・
退屈な毎日に情熱の向けばのない女が居て、それを受け止める旅人が居て――
言葉や文化をものともしない、ちょっと控え目な優しい触れ合いが描かれる。

乾いた砂漠の町に、くっきりと場違いな楽団員の制服姿が
この、静かでスローな作品の持つのどかさと可笑しさに妙にマッチしていました。

以前、「たそがれ」連呼で私的にはだめだった某作品が、多くの方には癒されると評価されていたのを
唐突に思い出しました。
すべての方にとは言えないけれど、
こういうのが「癒され作品」という感じなんですよね~。
ひたすら戸惑う迷子の音楽団員たちの静かな異国の、たった一晩の物語。
穏やかな夜に読む、大人の童話のような作品でした。