サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 09403「俺たちに明日はないッス 」★★★★★★☆☆☆☆

2009年10月09日 | 座布団シネマ:あ行

女の子とセックスのことしか頭にない男子高校生を中心に、思春期の恋と性をつづる苦く切ない青春コメディー。毎日を何となく過ごす6人の高校生が、楽しいことばかりではない恋愛を経験する。『神童』のさそうあきら原作漫画を、『さくらん』のタナダユキ監督が映画化。柄本時生や安藤サクラなどフレッシュさと実力を兼ね備えた若手俳優陣が、登場人物たちの純粋さとやるせなさを絶妙な演技でみせる。[もっと詳しく]

南沙織「17歳」。いきなり40年前に時間が巻き戻されてしまう。

挿入歌の南沙織「17歳」を聞いたとき、いきなりおじさんの時間は40年ほど巻き返されたのである(笑)。
1971年の秋、鮮烈なデヴュー、その年のレコード大賞新人賞を受賞した。
沖縄育ちの南沙織は1954年生まれ。僕より1歳下だ。
アイドル第1号といってもいい。
ブロマイド(当時はそんなものを僕たちはノートに差し挟んでいたんだ!)の売り上げもダントツの1位。
たぶん同じ年頃の半分ぐらいの男の子たちは、あんな妹がいたらなあ、と思ったはずだ。
当時で言えば、小柳ルミ子、天地真理のデヴューの頃で、3人娘などとも呼ばれたりした。
78年に上智大学に入学を期に引退。それはいい。
翌年、篠原紀信と結婚し、僕らを深く傷つけ、僕らの幸福な妄想の時間に終止符が打たれたのだ(笑)。
吉田拓郎も大ファンで、彼女の愛称シンシアにちなんで曲をつくったりしたものなぁ。



誰もいない海
二人の愛を確かめたくて
あなたの腕をすりぬけてみたの
走る水辺のまぶしさ
息もできないくらい
早く強くつかまえに来て
好きなんだもの
私は今生きている

有馬美恵子作詞 筒美京平作曲

平成に入り、この曲は森高千里がカバーし、そしてこの作品でもテーマソングとして銀杏BOYSが歌っているが、ともにベスト10入りしたのである。



漫画家のさそうあきらの作品は、すべて読破している。
映画化されたのは『神童』(07年)『コドモのコドモ』(08年)そして本作である。
昨年のアカデミー賞で話題になった『おくりびと』は、映画が封切られるまえに、同様のシナリオでさそうあきらが漫画化してコミック誌で連載もされている。
さそうあきらの『俺たちに明日はないッス』は、哀愁とペーソスに満ちた連作のような短編集として出版されているが、そこから「高校生のどうしようもない性春」を扱った「ロマンス」「揺れてます」「教えてください」の3篇を下敷きにして、山下敦弘監督とコンビを組みながら、『神童』の脚本も担当した向井康介がシナリオを担当し、『赤い文化住宅の初子』(07年)、『百万円と苦虫女』(08年)で話題を呼んだ美人女性監督のタナダユキがメガホンをとることになった。



比留間(柄本時生)は、病弱で優等生の友野(三輪子)が担当教師の吉田(田口トモロヲ)と交際しているのを知り、「オレにも抱かせろよ」と迫る。わざわざバスに乗り、海辺に向かうが、肝心なときにモノが勃たない。
峯(遠藤雄哉)は、生理の知識もないちづ(安藤サクラ)に強引に迫られ、関係を結ぶことになる。
安藤こと安パイ(草野イニ)は、巨乳で悩んでいると言う秋恵(水崎綾女)に気に入られるが、彼女が「お相撲さん萌え」であることを知り、傷つく。
比留間も峯も安パイも、咥えタバコに麻雀三昧、どうにもいけてない高校生だ。
頭の中は性の妄想で膨らんでおり、突っ張ってはいるが、いざとなるとびびりまくる童貞君である。
三者三様、女の子とつきあうことになるが、なにがなんだか混乱しっぱなし。
結局のところ、女の子たちに主導権をとられることになる。



「俺たちに明日はないッス」というタイトルはもちろんアーサーペン監督の名作『俺たちに明日はない』のパロディである。
1930年代、テキサス州でけちな車泥棒をやっていたボビーがウェイトレスのクラウドを巻き込んで、派手な強盗をゲームのように繰り返すようになる。最後は87発の銃弾を浴びせられ、壮絶で儚い死を迎えることになるお話だが、ウォーレン・ビューティー、フェイ・ダナウェイ、ジーン・ハックマンの見事なからみで、アメリカンニューシネマの代表作のひとつとなった。
タイトルは似ているが、比留間たち3人は、アウトローにもなりきれない情けない男子3人組である。
けれど、この3人の「いけてなさ」には、すごくリアリティがある。
結局のところ、その世代の男の子たちの頭の中を占めているのは、「性」への妄想やコンプレックスや憧憬がほとんどだといってもいいからだ。
どれだけ、格好をつけたり、粋がったりしてみても、馬鹿げた妄想が頭から離れることはない。
17歳、南沙織はポエムのように歌って見せたが、たいていの男の子たちにしてみれば、銀杏BOYSが絶叫するように、やけっぱちで「♪私は今生きている」と怒鳴るしかないような悶々とした情けないお年頃なのだ。



面白さで言えば安パイ役のでぶっちょ草野イニ。劇団ロリータ男爵の個性派役者で年齢は27歳になってるが、オツムも気も弱いのだが、純真なところがある安パイをユーモラスに演じている。
親父さんの柄本明はあまりに芸達者すぎてちょっとその演技が暑苦しく思えるときがあるが、息子である柄本佑、柄本時生はふたりとも親父さんに似てイケメンではないが、最近の映画ではどちらもとても存在感をみせている。
出演作品は多いが、兄貴の柄本佑はデヴュー作の黒木監督『美しい夏キリシマ』(03年)、SABU監督『疾走』(05年)、若松監督『十七歳の風景』の青春の鬱屈を発散できないまま危なく抱え込んでいるような少年の演技が忘れ難い。
弟の時生は、最近では廣木監督『きみの友だち』(08年)、古厩監督『奈緒子』(08年)などでも、印象深い演技をしていた。
この兄弟は、ちょっと遠めで見ると僕の息子にそっくりなところがあって、なんだかスクリーンを見ながら、不思議な気になってしまう。
そうだよな、息子もあんな感じで自転車をこいでいたときがあったんだろうな(十七歳の風景)、ズボンのポケットに手をつっこんでうざいなあと不機嫌になったりしてたんだろうな(俺たちに明日はないッス)などと、勝手にあるあぶなっかしい季節の息子と重ね合わせて見てしまったりする自分にふとたじろいだりしてしまう・・・。



ということは、たぶん、もう40年も前の「17歳」の自分自身を、なんだかちょっと恥ずかしく不思議な気持ちで、振り返っているということと同じことなのかもしれない。
なんだかな。くすぐったくなったり、懐かしくなったり、情けなくなったり・・・。まあ、そんなもんだ。

kimion20002000の関連レヴュー

神童
おくりびと
赤い文化住宅の初子
百万円と苦虫女
疾走
きみの友だち
奈緒子




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6 コメント

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Unknown (keyakiya)
2009-10-10 08:35:19
南沙織をぶつけてきた所にタナダユキの何並みならぬものを感じました。女の子たちはそれなり生きて行けそうだったけど、男の子たちは、あれからがたいへんだなぁとの想い。男の生き方と女の生き方は違いますから。ある時、何処かで一時シンクロするだけですが。

若い俳優さんたちの今後の活躍を祈ります!
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keyakiyaさん (kimion20002000)
2009-10-10 09:09:31
こんにちは。

もう、出来の悪い男の子たちは、情けないものですね。
でも、どこにも持っていけそうもないような「衝動」を持て余していたりするところは、切なくて好きですね。
この子達は、ヤンキーにはなれないし、もちろん優等生にもなれないけど、なんとかわけのわかんないこういう時期を、やり過してほしいな、と。
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こんにちは♪ (ひきばっち)
2009-10-10 18:49:22
TB有難うございましたm(__)m。

この作品は、大好きなんですよ!!
あまりにも比留間君の気持ちが解りすぎて、観ていて切なくなるほどでした(T_T)/。

自分は'66年生まれですが、17才の頃考えていたことは、比留間君たちと変わりません。
昨日の事のように感じられます・・・。

あの、やり場の無い衝動と、ただひたすらな思いのことを、“青春”と呼べるようになったのは、ずいぶんと後になってからでした・・・。

P.S.貴方のブログを、ブックマークさせていただきました。宜しくお願いいたしますm(__)m。                      ひきばっち。


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ひきばっちさん (kimion20002000)
2009-10-12 01:56:32
こんにちは。

なんだか、酷評されている向きもある作品ですけどね。僕は、僕はこのひりひりするような感覚は、貴重なものだと思いました。
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弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2009-11-09 09:03:51
「百万円と苦虫女」でもヒロインが「11PM」のテーマ曲を口ずさんでいたような気がします。
タナダユキさんの、そうした70年代辺りの曲の使い方が面白い。年齢は全く分らないのですが。

最近ちょっと変わってきましたが、群馬の普通高校は男女別学なんです。
中学では当然女性と一緒に過ごしていたわけですが、ぐっと微妙な年齢の時に女性から離されるのはどうなんでしょうかね。
まして、遠距離の田舎道に自転車を漕いで学校に通っていた僕なんかに同時代の女生徒を観ることすら余りなかったなあ。
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オカピーさん (kimion20002000)
2009-11-09 11:29:51
こんにちは。
関東近郊の公立で、結構、男女別学が多いみたいですね。
僕たちは、私学女子高以外は、男女別学はなかったですね。
工業高校で、事実上、ほとんどが男子というところはありましたけど。

微妙な時期というのは、逆に男女同学のほうがいいと思いますけどね。
とくに全寮制の別学みたいなところは、同性への幻想が捩れてくるでしょうね。それはそれで、ひとつの経験で、悪いこととは思いませんが・・・。
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