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サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 07269「檸檬のころ」★★★★★★☆☆☆☆

2007年12月15日 | 座布団シネマ:や・ら・わ行

新鋭女流作家の豊島ミホによる同名ロングセラー小説を原作に、高校生たちの揺れ動く多感な心情を描いた青春ドラマ。監督と脚本は、本作が初の長編映画となる岩田ユキ。『僕は妹に恋をする』の榮倉奈々と『カナリア』の谷村美月を主演に迎え、共演は映画やテレビでの活躍がめざましい柄本佑と石田法嗣という、今最も輝く10代の才能が集結。今回が映画初出演となるギターデュオ「平川地一丁目」の林直次郎が、劇中歌と主題歌を手がけているのも見どころ。[もっと詳しく]

微温的な退屈な日常の中で、だけど世界は煌いていた。


高校時代というのは、思春期のまっさかりの季節である。
自分という観念を持て余し、それと同じぐらい「性」的な身体を持て余している。
ある意味で、なにもかもが面白くない。ことあるごとに、理由もなく反抗したくなる。
日常は退屈だ。だから、非日常を強く求めることになるが、そんなに都合よく、なにもかもを忘れて夢中になれるものがあるわけではない。
空元気を装ったり、落ち込んで鬱々としたり・・・。
友情などという甘い関係を信じたくなったり、すべてを拒絶して小さな孤独を体験したくもなる。
早く大人になりたいと焦ってみたり、逆に死の観念を弄んだりする。



それぞれの人にそれぞれの高校時代があったのだろうが、少なくとも僕にとってはそんな季節であった。
これが小学生時代なら、もっと無邪気に世界をとらえ、夢中になるものがいつも存在して、自分では気づかないうちに「黄金時代」にふれていたのだ、ということになる。
中学生時代というのは、前思春期にあたり、自分の身体の変貌が、化け物のように思えたり、不安定な心身のバランスが、さまざまなストレスになって襲い掛かることになる。
何者にでもなれるという根拠のない確信と、何者にもなれないというこれまた根拠のない弱気と、結局のところ自分という存在がまだ薄明にただよっているような根拠しか持てない時期だ。
これも、少なくとも、僕にとってはということだが、あながち少数派とも思えない。

「檸檬のころ」という原作は、豊島ミホという新進の女性作家が22歳の時に書いた小説に拠っている。
豊島ミホは何処にでもありそうな地方都市の高校3年生の時期を、回想しながら物語を紡いでいる。
「冴えない時間」「ダサイ・退屈・不満だらけな日常」が、しかし、「すべてが煌いていた」大切な時間であった、と語っている。この作品でも、普通の高校生が、進路に迷いながら、うまくいかない日常のなかで小さいドラマの起伏に、感情をさらわれるさまが、描かれている。
通学電車、片思い、告白、仲間、恋・・・こうやって書き連ねているのも恥ずかしくなってくるが、たしかにそうした狭い生活圏の淡い出来事が、ほとんどの高校生たちのリアルでもあったのだ。



秋元加代子(榮倉奈々)は優等生で東京の大学に進もうとしている。中学時代からの友人である西巧(石田法嗣)からは思いを寄せられているが、西と同じ野球部の佐々木富蔵(柄本佑)の率直な告白を了承して、交際している。しかし、佐々木は成績も悪く家も貧しく、東京の大学に一緒に行けそうにない。
一方、加代子と同級の白田恵(谷村美月)は、音楽ライターに憧れており、ろくすっぽ勉強には身が入らない。話せる友もいないようで、いつもイヤホンをつけて音楽を聴きながらリズムをとっている。同じように、いつも音楽を聴いている辻本一也(林直次郎)に興味を持っているが、生物室の掃除を契機に、辻本が軽音楽部に入っており最後の文化祭での演奏を練習しているということで、急速に親しくなり、恋心を抱くようになる。

どこのクラスにでもあっただろう、可愛い青春模様である。
たいした事件が発生するわけではない。
結局、西と佐々木の二人から思いを寄せられた加代子は、東京にひとりで旅立つことになる。
恵は辻本に彼女がいるのを知り落ち込むが、そこから辻本に頼まれていた歌詞を仕上げ、文化祭で辻本はその歌詞を歌い、喝采を浴びる。
それぞれの登場人物たちの、少しほろ苦い微温的な成長物語であるというだけだ。
けれど、僕たちは、そんな退屈そうな恋愛ごっこを、とてもほほえましく、それなりにメランコリックに眺めていることに気づく。
こういう抒情もたしかにあったし、結局のところ、どんなに自分たちは苦悩していると思い込んでいたとしても、それは青春の一点景に過ぎないのだ、と現在の位置からなら思うことが出来る。



「檸檬のころ」の思春期の淡い世界が、注意深く排除している世界がある。
ひとつは「いじめ」の世界であり、もうひとつは直接的な「性」の世界である。
「いじめ」や「性」の世界を突き詰めていけば、主人公たちはもっと屈折しながら、思春期特有の病理の世界に入っていくはずだ。
世界が病んでいること自体を、傷つきやすい思春期の自意識は、自分の心身に過剰に引き受け、組み込むことになる。

そうした世界を描いた秀作はすぐにいくつか思い出される。
岩井俊二監督の「リリィ・シュシュのすべて」「花とアリス」、塩田明彦監督の「月光の囁き」「害虫」、園子温監督の「自殺クラブ」「紀子の食卓」、SABU監督の「疾走」などだ。ほとんどは、避けられないような悲劇に、収斂していくことになる作品群だ。

あるいはもう少し誇張表現やユーモアの脚色をとりいれれば、青春物語の笑いと涙が生み出されることになる。
矢口安靖監督の「スウィングガールズ」、井筒和幸監督の「岸和田青春物語」、中島哲也監督の「下妻物語」、山下敦弘監督の「リンダ・リンダ・リンダ」などだ。どの作品にも、青春特有の、もやもや感や絶望感、あるいは泣き笑いが凝縮されている。
けれど、「檸檬のころ」はそれらの世界に、拡張させればできるのに、その手前のもっと普通の日常だけを、禁欲的にといっていいほど、大人しく淡々と描いている。



田んぼと山に囲まれたこの町は、栃木県の県央部から県東部に舞台を置いている。ロケ地のテロップを見ながら、僕も仕事で訪れたあたりだと見当がついた。一見だけで失礼に当たるが、退屈そうな町だと思った。
撮影で使われた校舎は、廃校と統廃合による廃校が決定しているふたつの校舎を借りている。生徒たちの制服は、県立宇都宮商業高校の制服を借りたという。
これもまた、いまどき珍しい膝下20cmぐらいありそうなワンピースに黒のハイソックスという、超地味な制服である。
これみよがしなミニスカートの制服の女子高校生軍団に、うんざりともしている僕にとっては、逆に新鮮に映ったのだが、それにしても健康的な素足の露出ひとつない。
そのなかで、九頭身の美少女とされる榮倉奈々は上品な可憐さがあった。
また、谷村美月はキュートな少女役であり誰かに似ているなあ、と考えていたら、なんということはないアニメ版の「時をかける少女」の主人公の雰囲気そのままなのだ。
勝手に張り切って、勝手におどおどして、でも芯の強い可愛らしさと思い切りのよさがある。



同じような退屈な地方都市の高校にいた僕の学年にも、加代子や恵のような少女がたしかにいた。
同じように淡い恋が永遠に続くと思っていたのに、たぶん指切りもしたのに、進学とともに、いつのまにか彼女たちとは、疎遠になってしまった。
恵の歌詞のように。そうだったのだ。
退屈な日々の中で、だけど届かない気持を届けようとして、世界は十分に熱かったよ。
僕は、ちょっと苦笑しながら、あの退屈な日常の、もう二度と取り返すことの出来ない貴重な時間を、ため息とともに思い返し、感慨にふけるのだった。




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13 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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日本インターネット映画大賞募集中 (日本インターネット映画大賞)
2007-12-21 22:10:19
突然で申しわけありません。現在2007年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。投票にご参加いただくようよろしくお願いいたします。
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こんばんは。 (ジョー)
2007-12-21 22:21:26
TBありがとうございます。
なんといってもあの駅のぎこちない別れのシーンが思い浮かびます。近頃の日本映画には珍しく、じれったくも切ない名場面でした。拾い物の映画です。
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ジョーさん (kimion20002000)
2007-12-22 00:37:18
こんにちは。
はい、ぎごちなかったですね。
まあ、だけど、現実はすべて、ぎごちないものですよね。だから、共感をえる部分があるんでしょう。
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こんにちは♪ (ミチ)
2007-12-22 08:33:34
いつもお世話になっております。
「しゃべれどもしゃべれども」も「檸檬のころ」も原作がかなり好印象だったので、映画化にはちょっと否定的だったのですが、それでも原作の良い部分を掬い取っていい作品になっていたと思います。
青春モノには特に弱い年代になってしまいました。
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ミチさん (kimion20002000)
2007-12-22 10:49:55
こんにちは。

>青春モノには特に弱い年代

僕はますます、懐古じいさんに、なりつつありますなあ。

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前の海賊版撲滅キャンペーン (skywave)
2007-12-24 09:19:01
こんにちは、kimion20002000さん。コメントありがとうございます。
私も、陳腐で馬鹿げた映像で、後味の悪さに辟易していました。自腹で映画館に来ている観客より、訴えなきゃいけない人々が、他にたくさんいますよね。
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skywaveさん (kimion20002000)
2007-12-24 10:30:51
こんにちは。
公共広告機構なんかも、なんかあざとい公共CMが多いですよ。コンペ方式かどうか、誰が決定しているか、知りませんが、僕は、なんか「良心的」なあるいは「社会正義」を前提としたような、CMは好きではありません。
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こんにちは♪ (miyukichi)
2007-12-29 17:04:25
 TBどうもありがとうございました。

 原作のみで映画は観ていないのですが、
 高校時代を懐かしく思い返しました^^
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miyukichiさん (kimion20002000)
2007-12-29 18:45:07
こんにちは。
僕も、いろんなシーンを、思い浮かべました。
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こんばんわ。 (emi5)
2008-02-22 01:06:54
TBありがとうございます。
「リリィ・シュシュのすべて」は私もすごく好きな作品です。青春は楽しいことばかりでなく、辛い思い出と言うのも沢山残っているものですよね。

揚げ足を取るようで悪いんですが、
「時をかける少女」の主人公の声は仲りいさと言う方だったはずです。谷村さんは千昭き恋心を抱く後輩の声をやっていたと思います。
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