これまで何度か線形代数の掃き出し法や行列式について初等的な考察を述べてきた。
掃き出し法とは何かと聞かれたら,究極的には次のように答えられると思う。
次の二つの行基本変形と呼ばれる操作のみを用いて未知数を一つずつ消去することで連立方程式を解く方法である:
行基本変形二か条
一,ある行に他の行を加えてよい。
二,ある行を何倍かしてよい。
これら二つの操作は行列の行ベクトル間での加法とスカラー乗法であり,ベクトルに対して定義される最も基本的な演算である。
これらの操作を繰り返して得られる行ベクトルは,とどのつまり,もとの行列の行ベクトルたちの1次結合である。そこで,いくつかのベクトルたちが張るベクトル空間という概念が重要になってくるわけである。方程式がいくつ解をもつのかは行列の階数から読み取ることができるが,それはすなわち行ベクトルたちが生成するベクトル空間の次元に他ならない。
このように連立1次方程式の解法とベクトルの組の1次独立性,1次従属性という概念が結びつき,線形代数の理論が深化を遂げていくわけである。
ところで,ここで取り上げたかったのは,この行基本変形とよく似ているが,それに比べて拡張された超基本変形,否,応用変形ないしは発展変形を通じて行列式が定義されることであった。
あまり考えがまとまっていないが,拡張基本変形は次の三つである:
一,ある行に他の行を加えてよい。
二,ある行を何倍かしてよい。
三,ある行が二つのベクトルの和に分解されるとき,行列をそれらをその行の成分として持つ二つの行列の和に分解してよい。
第一条と第二条はさきほどと全く同じであるが,新たに付け加わった第三条は,連立方程式を解く操作とは全く異質な操作である。
これらの操作によって行列式の値がどう変化するかといえば,
第一条を適用しても行列式の値は変わらない,
第二条を適用すると行列式の値も同じ倍される,
第三条を適用すると元の行列式の値は分解して得られた二つの行列式の値の和になる
のである。
これらの拡張基本変形三か条を主要な柱として,
・成分の転置操作によって行列式の値は変わらない,
・行列のサイズによらず,単位行列の行列式の値は 1 である
という二つの性質を追加することによって,通常よく知られている行列式の成分を用いた表式が得られる。言い換えれば,これらの操作の組み合わせによって行列式の値が求められるのである。
と,ここまで書いていて,途中の変形の手順によらずにどの行列式についても最終的な行列式の値はただ一つに定まるという大事な点をどう証明すればよいかが自分にわかっていないことに気付いた。これは宿題として考えておくことにしよう。行列の階数がどの行列に対しても一意的に定まるということとほとんど同じことであると思われるが,そちらの証明もどうしたらよいのかよいアイデアがないため,僕にとってはなかなかの難問である。
それは今後の課題として,この稿の締めくくりに行列式の有名な,そして大事な性質を三か条から導いておくことにしよう。それは,二つの行を入れ替えると行列式の符号が変わるというものである。
第 i 行と第 j 行を入れ替える操作を考える。[a b]
まず第 i 行に第 j 行を加える。行列式の値は変わらない。[a+b b]
次に,新たな第 i 行を -1 倍する。行列式の値は 1/(-1) 倍,つまり -1 倍される。[-a-b b]
そうして得られた第 i 行を第 j 行に加える。行列式の値は変わらない。[-a-b -a]
第 j 行を -1 倍する。行列式の値は -1 倍され,符号は元に戻る。[-a-b a]
第 i 行に第 j 行を加える。行列式の値は変わらない。[-b a]
第 i 行を -1 倍する。行列式の値は再び符号が変わり,もとの行列式の値の符号と逆になる。[b a]
これで行の入れ替えは完了である。そして最終的に行列式の値がこうむった変更はというと,符号が逆になったというわけである。
掃き出し法とは何かと聞かれたら,究極的には次のように答えられると思う。
次の二つの行基本変形と呼ばれる操作のみを用いて未知数を一つずつ消去することで連立方程式を解く方法である:
行基本変形二か条
一,ある行に他の行を加えてよい。
二,ある行を何倍かしてよい。
これら二つの操作は行列の行ベクトル間での加法とスカラー乗法であり,ベクトルに対して定義される最も基本的な演算である。
これらの操作を繰り返して得られる行ベクトルは,とどのつまり,もとの行列の行ベクトルたちの1次結合である。そこで,いくつかのベクトルたちが張るベクトル空間という概念が重要になってくるわけである。方程式がいくつ解をもつのかは行列の階数から読み取ることができるが,それはすなわち行ベクトルたちが生成するベクトル空間の次元に他ならない。
このように連立1次方程式の解法とベクトルの組の1次独立性,1次従属性という概念が結びつき,線形代数の理論が深化を遂げていくわけである。
ところで,ここで取り上げたかったのは,この行基本変形とよく似ているが,それに比べて拡張された超基本変形,否,応用変形ないしは発展変形を通じて行列式が定義されることであった。
あまり考えがまとまっていないが,拡張基本変形は次の三つである:
一,ある行に他の行を加えてよい。
二,ある行を何倍かしてよい。
三,ある行が二つのベクトルの和に分解されるとき,行列をそれらをその行の成分として持つ二つの行列の和に分解してよい。
第一条と第二条はさきほどと全く同じであるが,新たに付け加わった第三条は,連立方程式を解く操作とは全く異質な操作である。
これらの操作によって行列式の値がどう変化するかといえば,
第一条を適用しても行列式の値は変わらない,
第二条を適用すると行列式の値も同じ倍される,
第三条を適用すると元の行列式の値は分解して得られた二つの行列式の値の和になる
のである。
これらの拡張基本変形三か条を主要な柱として,
・成分の転置操作によって行列式の値は変わらない,
・行列のサイズによらず,単位行列の行列式の値は 1 である
という二つの性質を追加することによって,通常よく知られている行列式の成分を用いた表式が得られる。言い換えれば,これらの操作の組み合わせによって行列式の値が求められるのである。
と,ここまで書いていて,途中の変形の手順によらずにどの行列式についても最終的な行列式の値はただ一つに定まるという大事な点をどう証明すればよいかが自分にわかっていないことに気付いた。これは宿題として考えておくことにしよう。行列の階数がどの行列に対しても一意的に定まるということとほとんど同じことであると思われるが,そちらの証明もどうしたらよいのかよいアイデアがないため,僕にとってはなかなかの難問である。
それは今後の課題として,この稿の締めくくりに行列式の有名な,そして大事な性質を三か条から導いておくことにしよう。それは,二つの行を入れ替えると行列式の符号が変わるというものである。
第 i 行と第 j 行を入れ替える操作を考える。[a b]
まず第 i 行に第 j 行を加える。行列式の値は変わらない。[a+b b]
次に,新たな第 i 行を -1 倍する。行列式の値は 1/(-1) 倍,つまり -1 倍される。[-a-b b]
そうして得られた第 i 行を第 j 行に加える。行列式の値は変わらない。[-a-b -a]
第 j 行を -1 倍する。行列式の値は -1 倍され,符号は元に戻る。[-a-b a]
第 i 行に第 j 行を加える。行列式の値は変わらない。[-b a]
第 i 行を -1 倍する。行列式の値は再び符号が変わり,もとの行列式の値の符号と逆になる。[b a]
これで行の入れ替えは完了である。そして最終的に行列式の値がこうむった変更はというと,符号が逆になったというわけである。
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