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懐古趣味。

2011-10-22 22:09:13 | mathematics
量の理論についてここ数ヵ月ずっと調査を続けているのだが,また新しい鉱脈を発見した。

雑誌「数学セミナー」1977年8月号から1978年1月号にかけて小島順先生が「量の計算を見直す」というテーマで連載されたことを,谷村省吾氏の雑誌「理系への数学」2011年9月号掲載の連載記事の参考文献リストで知った。

そこである大学の図書館でバックナンバーを調べたところ,件の連載記事を発見した。
それだけでなく,この連載は大変刺激的だったようで,田村二郎氏が小島順氏に送った私信が掲載された後,結局田村二郎氏も量と数の理論に関して連載し(その後「量と数の理論」という単行本も出版された),その後も数人の先生方が連載された。

この一連の連載は途中から「量の問題をめぐって」という題目でシリーズ化された。
僕が調べた範囲では,発端は1977年7月号の特集「線型代数を考える」で,その後

  • 小島順,量の計算を見直す(全6回),1977年8月号から1978年1月号;
  • 田村二郎「“量の計算”を見直す」を読んで―小島順氏へ,1977年11月号(シリーズ中の記事としてはカウントされていないが);
  • 銀林浩,発生的立場からも考えよう,1978年2月号;
  • 田村二郎,量と数の理論(全4回),1978年3月号から6月号;
  • 竹内啓,量概念の意味と役割(全5回),1978年8月号から12月号;
  • 南雲道夫,量と実数(全2回),1979年1月号から2月号;
  • 木下信男,経済学と「量」,1979年4月号

と発展した。

バックナンバーの目次をもう少し調べれば,他の関連記事も見つかるかもしれない。

発端の1977年7月号は見落としていたので,それも読みたいところであるが,どうやら小島順先生の1976年に出版された「線型代数 現代数学への序章3」(日本放送出版会協会)という問題作が話題の中心らしい。
この本に関する書評を齋藤正彦氏が1976年9月号に書いているが,書評には「論争を呼ぶ本」というタイトルが付けられている。
その書評がきっかけとなり,齋藤正彦氏は1977年7月号の線型代数の特集記事の一つとして,書評の内容を詳しくした「意味オンチ党宣言」という文章を書かれているが,それは2007年にちくま学芸文庫として出版された「数のコスモロジー」に再録されている(p.154)。

僕は小島順先生に直接教わったことはなかったが,僕の先輩が教わったことがあり,噂は聞いていた。
僕が学部生か大学院生だった頃,小島順先生の講演を聞く機会があったが,どんな話だったかもう思い出せない。
ただ,小島先生が「森毅には相手にされないでしょうけどね」というような冗談をおっしゃったのが強く印象に残っている。森毅氏の名前が出てきたのに驚いたのである。
後にして思えば,例えば Bourbaki 関連の著作の翻訳などで森氏と小島先生の間に接点があったとしても全く不思議ではなかったし,もっと深い付き合い(因縁?)があったようでもあるから,実のところ,小島先生の口から森毅氏の名前が飛び出してもなんら不思議はなかったのである。

こうして「量の問題をめぐって」というシリーズ連載を掘り当て,じっくり読もうとコピーをしてきたのだが,それは数時間前のことなので,まだ全然目を通していない。

ただ,南雲道夫氏の記事の冒頭に,1944年の日本語の原稿を下書きとして,1977年に Osaka Journal of Mathematics に "Quantities and real numbers" という論文を発表したとの旨が述べられているのが目に入り,強い興味を抱いた。
特に 1944年の原稿は「全国紙上数学談話会」に掲載されていると書かれており,この「全国紙上数学談話会」は数年前に大阪大学数学教室が web で公開していることを覚えていたので,さっそく読んでみようと調べてみた。


ところが,目次を調べたところ,1944年,すなわち昭和19年に刊行された号には載っていない!


もしや幻の論文か,と絶望的な気分で目次をさかのぼっていくと,昭和17年12月14日の日付がある第246号に1086番目の記事として掲載されているのを発見した。
(目次
http://www.math.sci.osaka-u.ac.jp/shijodanwakai/indexvol_192_vol2_015.pdf
の55ページにある題名をクリックすると本文に飛べる。
このように古くて入手しづらい重要な文献や Osaka Journal of Mathematics に簡単にアクセスできるシステムを構築して下さった大阪大学数学教室には本当に頭の下がる思いである。)

題して,「正ノ量ト實数トニ関スル一考察」。(「数」が旧字体で表せないのがもどかしい!)

雰囲気は,この方面の初期の基本文献の一つである1901年の Hölder の論文と良く似ている(なんて書くと専門家ぶってて偉そうに見えるかもしれないが,この論文を知ったのはつい一ヵ月ほど前だし,60ページ超もあるドイツ語の論文なので全く読んでいないから,「似ている」という程度の感想しかもてないのである)。

ざっと目を通したが,「証明ハ簡単ナノデ略ス」のオンパレードで,なかなか手応えのある練習問題に満ち溢れているようで,取り組み甲斐がありそうだ。

ともかく,1944年という年号は間違いで,正しくは1942年であった。

このブログ記事で本当に書きたかったのは,実はその情報だけである。

ちなみに,田村二郎氏の著書「量と数の理論」を web で検索したら,南雲氏の理論に言及しているサイトも見つかった。

なお,南雲氏が考えたような理論は,上に書いたように世界的には Hölder の理論に端を発して,応用的には measurement theory,数学においては ordered semigroup の理論という,それぞれ一大分野を形成している(ということがここ数ヵ月の文献リサーチで明らかになった)。

せっかくの日本発の理論があったのだから,なんとかそれを取り込んで発展させた形で世界に発信したい。
そんな大志を抱いてみようか,という気になってきた。

まずは小島理論や田村理論,ひいては遠山(数教協?)理論という和製「量の理論」を学ぶこととしよう。

実は小島先生の元ネタの一つではないかとひそかに見当をつけている,デュドネ(Bourbaki の一人)の「線形代数と初等幾何」(雨宮一郎訳;原著は1968年発行,訳書は1971年発行)も図書館から借りてある。
もちろん小島順先生の問題作「線型代数」も一緒に借りた。
とても全部は読めないだろうが,理論展開の雰囲気だけでも味わおうと思っている。
コメント
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