担当授業のこととか,なんかそういった話題。

主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

ほとんど積分しないで積分の値を求める。

2011-10-15 00:11:25 | mathematics
雑誌『理系への数学』に連載中の,名古屋大学・谷村省吾氏の連載「21世紀の量子論入門」は,タイトルにしてからが魅力的で,第1回から注目してきたが,2011年9月号の第17回と10月号の第18回では,量の大きさを計って数値化するという「計量」の理論が取り扱われている。

連載記事の本文自体も勉強になるが,それと同じくらいいろいろな情報が「参考文献」のリストに詰まっている。
その「参考文献」に掲載されている文献のほとんどは僕がこれまで知らなかった論文や本なのだが,第17回の参考文献に挙げられている中西襄氏の次元解析に関するエッセイ(『数学・物理通信』1巻5号「次元解析と数学者」)に述べられている3つの話題のうち,素粒子の専門家にはおなじみだという「Feynman の恒等式」

1/(AB)=∫10dx/{xA+(1-x)B}2

について,思うことがあったので述べてみたい。

この等式が正の数 A,B に対して成り立つことは,右辺の積分を実際に実行すれば,高校レベルの計算で容易に示せる。

ところが,この記事で紹介されている1次分数変換を利用すると,右辺の積分を具体的に計算しなくても左辺の式が得られてしまう。

その理由を述べよう。

上の等式の右辺を F(A,B) と書くことにすると,1次分数変換

x=by/{a+(b-a)y}

を用いて置換すると,

1-x=a(1-y)/{a+(b-a)y}, dx=abdy/{a+(b-a)y}2

などとなるから,

F(aA,bB)=∫10dx/{axA+b(1-x)B}2=F(A,B)/(ab)

を得る。

したがって F(A,B)=abF(aA,bB) であるが,ここで a,b の値を a=1/A,b=1/B に選ぶと F(A,B)=F(1,1)/(AB) となる。
ところが,F(1,1)=∫10dx/{x+(1-x)}2=1 なので,F(A,B)=1/(AB) であることが示された。

この議論のミソは,もちろん,この積分と非常に相性のよい1次分数変換をあらかじめ知っていることである。
そのようなうまい1次分数変換をどのようにして見出したのか,僕の興味はむしろそちらにあるのだが,その由来は今のところ皆目見当もつかない。

それはそれとして,せっかくこのような強力な道具がわかっているならば,それをこの積分の値を求めるのに使えないか,と思いついたので確かめてみた次第である。
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