大化の改新は専横する蘇我入鹿が中大兄皇子と中臣鎌足によって暗殺されるという事件。中大兄皇子はすぐに即位せず、叔父で皇族中の長老である、軽皇子(かるのみこ)が孝徳天皇に即位。弟は大海人皇子、後の天武天皇。
大化の改新以前には蘇我入鹿によって聖徳太子の御子である山背大兄王(やましろのおおえのみこ)が暗殺された。聖徳太子とは大化の改新に近い時代の人物だったのか。
まだ読み始めたところだが、木下昌輝や天野純希などの、戦闘シーンが多かったり多少強い表現のある小説を読んでいるところからすると、さらっとした雰囲気で安心できそうだ。ただ飛鳥時代という馴染みのない時代設定や人物の読み方が難しい。
額田王は神の声を聞く巫女であり、その声を歌にする。つまり人の声を聞くのではない。ある夜に大海人皇子は額田王を見つけ声をかけようとするが、他者の殺気を感じ、できないでいた。それは誰かはわからない。後の場面では額田王から見た場面がある。姿を見せない2人の人物がつけてきている。そしてその1人が大海人皇子ではないかという気はしている。過去に何度か仲介の人物を通じてお誘いがあったが、全て返事はしなかった。と言うのも自分は神の声を聞くのであって、人の声を聞くのではないからだ。
遣唐使の話。第二回のようで史実通り、2艘で出発するが1艘は遭難する。鎌足は直ぐに次の遣唐使を計画する。通常人員を指名して出発まで1年以上間を置くのだが、そうしているうちに辞退するものが出るため、次回は派遣人員を発表してから速やかに出発することにする。
3回遣唐使までの間に都を難波津から大和へ移すという話が持ち上がる。天皇は残るといい、政治の中枢は大和へ移ることになる。
孝徳天皇は崩御。中大兄皇子は即位せず、母である斉明天皇が即位、斉明天皇は前の皇極天皇であり、重祚(ちょうそ、二度即位)する。孝徳天皇の皇子の有間皇子は17歳ながら歌がうまい。額田は興味を持つ。有間皇子は悲しいときにしか歌が作れないという。
有間皇子は中大兄皇子や鎌足から目をつけられる。それを避けるために心の病を装う。しかし、蘇我赤兄の密告により捕えられる。額田が最後に目にしたときには、目に狂気は宿っていなかった。討たれたあと2首の歌を知り、額田は美しい歌と感じた。これを詠むため討たれたのではないか。
豊璋(ほうしょう)は百済の王。預かっていたわけだが返せと言われる。
額田女王の姉の鏡女王は小さい館を賜った。それは中大兄の寵を受けない立場に立ったことを意味するのだ。
百済は存亡の危機に貧している。日本に助けを求めてきた。中大兄皇子は手助けするか判断に迫られる。
建設中の屋敷に額田は迎えられる。中大兄皇子は現れるが用事ですぐにいなくなり、何のためにこの屋敷に留め置かれるのかわからない。そとは雪。一人で湯を浴びせられ、何も発しない四人の侍女に見つめられながら未完成の、突貫でしつらえられた部屋で過ごす。夜中に中大兄皇子が雪にまみれて訪れる。この場面は叙情的。
斉明天皇一行は百済救出のため筑紫へ船で向かう。その際立ちよったのが熟田津。湯の出るところだが作者は道後温泉とは記していない。そこから出向する際に額田がよんだ歌が残っている。これは額田自身であったり、斉明天皇がうたった、または斉明天皇の心を額田がうたったとも言われている。しかしここでは中大兄皇子の心を額田がうたったとしている。
半島出兵の準備の最中、老女帝は崩じる。出兵を望まない民衆の中では暗い雰囲気が漂う。
中大兄皇子、大海人皇子の関係者が集まり観月の宴。そこに、額田と大海人皇子娘である十市皇女の参加。年に数回しか顔を合わせることがない。久々に面と向かった十市皇女は額田の顔を見るなり、あっと言って逃げるように去る。
豊璋は百済の再興を図るが、何を思ったか一番の貢献者である福信を謀反の疑いで処罰してしまう。そこから全てが狂いはじめる。
鬼火の話が出てくる。これはすごい。幻想的であるし、過去もそして現在も正体のわからないものだ。これを登場させる作者はすごい。
中大兄皇子は鬼火に苦しめられ夜を歩いている。それを額田は見つける、はじめなにも見えなかったが中大兄皇子と同じように鬼火が見えるようになる。苦しめられる2人。これは白村江の戦いが始まったのだと悟る。
白村江は敗戦となる。中大兄皇子が指揮を取っていたため民衆や豪族たちから信頼を失っている。鎌足は中大兄皇子もそう思っていたが、自分はそれを甘んじて受けつつ、今後は大海人皇子を全面に押し出すのがいいと言う。
それから近江への遷都。民衆はまたもや不安を感じはじめる。そうすると鬼火が現れはじめる。
以降も世の中に不安感が増すと鬼火が現れる。ここで言う鬼火とは墓のそばで現れる火の玉のことではないようだ、この時代同じ意味ではあるが、鬼火、ひいてはそれが火災の原因となる。恐らく、世の中に不安と言うより、中枢に不満をもった時、と言い換えられる。そして、不満をもった何者かがそのはけ口に放火をしているといえるのだ。
大海人皇子の館での宴席に額田は招かれる。娘である十市皇女に会えるとのこと。十市皇女は高市皇子と遊んでおり、一瞬まみえただけ。その席で、大海人皇子から十市皇女を大友皇子の妃とする話を聞かされる。大友皇子は天智天皇の皇子なのでいとこどうしになるのか。複雑だ。額田にどうすべきか意見を求めるが、そうすべきと答える。
数日後額田は投石に会う、投げたのは高市皇子であることがわかり、そこで高市皇子の十市皇女に対する気持ちを知る。
大化の改新から白村江の戦いなど歴史の大きな事件がバックにありつつ、これはやはり、中大兄皇子、大海人皇子という2人から愛され。さらに大海人皇子との皇女である高市皇子に対する母としての立場、そして中大兄皇子の皇子である大友皇子の妃とする。その気持ちを描いたものだ。額田の立場はなかなかないもので、また実際どう思っていたなど想像もできない。それを作者は物語としたのだ。もっとも、その時代の考え方は現在と全くことなっているに違いない。その意味では、現代的な男女の関係であったり、母と娘の関係に置き換えられてはいる。
天智天皇と大海人皇子の関係が不穏になる。天智天皇は後継に弟の大海人皇子ではなく、皇子の大友皇子にしようと考え始めているから。それから、大海人皇子が根に持って天智天皇に反発しているような状態や描写が続く。読者は不安になる。
天智天皇が病にかかる。そんな中、不和と思われる大海人皇子が天智天皇を訪れる。何かあるのでは?我々が思うのは、大海人皇子が天智天皇に何かするのではないかと思うのだが、物語では、大海人皇子が兄から何かされるのではと額田は心配しているのだった。しかし、出てきた大海人皇子から告げられたのは、額田と会うのはこれきりということ。つまり大海人皇子は出家するという。その許しを天智天皇にうかがいに来たところだったのだ。恐らくそれは認められるだろうとのこと。大海人皇子は額田に十市皇女のことを頼むと託される。額田がそうであったように(中大兄皇子と大海人皇子を愛したように)、その額田と自分の皇女である十市皇女が似た境遇で、二人(大友皇子、高市皇子)を愛することのないよう託す。
壬申の乱がクライマックス。この緊迫感。そして、緩やかに終息。最後は高市皇子が十市皇女に詠んだと思われる3首で結ぶ。
よく考えたら、高市皇子と十市皇女の父親は大海人皇子ではないか?姉弟?
中大兄皇子、大海人皇子という兄弟から愛された額田。そして自分の皇女である十市皇女(と、大友皇子、高市皇子の関係)今から思えば想像しがたい関係性。ではあるが作者によって額田の心情から、その関係性を表現したともいえる。
登場人物が登場人物だけに。文章が固いように思える。なかなか直接的な表現はできない。だが逆に奥ゆかしく格式のある文体ともいえる。
20230520読み始め
20231010読了