四国遍路の旅記録  三巡目 第3回 その4

お船遊びの宮での感動     (平成22年3月22日)


浦ノ内湾の朝

今日は、この度の遍路の区切り日。
須崎まで歩き、14時過ぎの電車で四国を離れる予定です。
お参りする札所はありませんが、二つの神社に参ります。

横浪三里と言われる浦ノ内湾北岸の道を行きます。

7k歩くと、浦ノ内出見の花山神社(花山院廟)です。神社前には「ひだり へんろみち・・」と刻んだ天保10年の道標もあります。
この神社、本殿と拝殿を持つ正式な様式を備えているのですが、建物の周りは波板鉄板で覆われ、ちょっと哀れな状態なのです。
さて、へんろ道保存協力会編の「四国遍路ひとり歩き同行二人(解説遍)には「南路志」を引いて、花山天皇(10世紀、第65代天皇)の位牌を安置した所で、江戸時代までは寺(春日山阿弥陀寺)で、古くから番外霊場として多くの遍路が参詣した・・とあるのです。(「南路志」原文には、「花山院陵 寺門前ニ有、御室と云。院が土佐に来たという証はない。院の忌事の導師を勤めた僧が回向に為陵様のものをつくったのではないかなどと・・御位牌、花山院太法皇尊仁王六十五代御門・・また、位牌の厨子には元禄4年ある比丘の記入とあり、歌も添えられているとも)
江戸初期の真念「四国遍路道指南」は更に展開。「・・此所をいづミ(出見)といふ事、花山院離宮の御時、天気ただならずして都のそら御なつかしく、いくたびか門のほかへ出御なりしかバいづ見と名づく。・・御製、とさのうミに身ハうき草のゆられきてよるべなき身をあはれとも見よ・・つゐには此所にて崩じ給ふとなん。千光密寺に廟碑有。」
「四国遍礼名所図会」(1800)にもほぼ同様の記述。「・・此間に出見村といふ所に花山院廟陵、此所へ流されさせ給ふ御時、終に此所ニて崩じ給ふとなん、千光寺、此寺の境内ニ有・・」と。
花山天皇は第65代天皇で、在位2年足らずで退位、法皇となったと。「大鏡」では退位に関し藤原兼家父子の陰謀を伝えます。花山法皇は、西国三十三観音巡礼を始たともいわれますが、四国土佐との縁は、歴史的事実として確認されていないようです。
この地には、古くから花山院に関わる伝えがあったのかもしれませんが、あるいは、真念が南路志の記述(伝え)を誤って解釈し「道指南」の記事にした・・とも考えられないことはありません。いや、はや・・。
霊場の由緒というものが、いかにして形成されるのか・・微妙で危うい問題を含んでいるように思えます。
そういう背景のもとで、この花山神社にお参りするのは、ちょっと複雑な気持ち・・
でも、ここには既に多くの霊が宿っていると考えられなくもないのではないでしょうか。この神社を守ってきた人と、多くの参拝者の思いという・・。
                                 (以上「花山神社について」改記)




花山神社

現在の道は、浦ノ内トンネルを通りますが、神社のある春日から立目に通ずる山道の旧道があったと聞いています。
神社の横の道を直進すると、道は山の中に続いている気配。でも、草木に覆われています。

浦ノ内湾に沿って7k行き、湾の最奥、浦ノ内西分へ、宇佐からの横浪スカイラインを逆に歩き3.5kで浦ノ内東分へ、ここから湾岸沿いの道を1k、鳴無(おとなし)神社に参ります。
この神社、以前からどうしても参りたいと念願していました。
スカイラインから神社への道を分岐する所で、遍路に会います。
朝、青龍寺下の三陽荘を出て、スカイラインを歩いて来たといいます。
「逆打ちですか・・」と聞かれるので、「いやいや、この先の神社へ、物好きですから・・」と言い訳。

もう先ほどから、海辺に赤い鳥居が見えていました。
鳥居を潜り、小さな岬を回れば、そこには鳴無神社がありました。
期待に違わぬ清々しさと、目と心に融け込む色と形で・・。
奈良時代の創建とも、土佐一宮土佐神社の元宮とも伝えます。
現在の社殿は1663年の再建。切妻造、杮葺き、本殿、幣殿(へいでん)、拝殿の造り。いづれも国重文指定。
特に本殿の極彩色の紋様には、眺めれば心奪われる思いです。
古くよりこの神社の神事として始まり、浦ノ内湾いっぱいの賑やかな「お船遊び」は全国にも名高いものになったといいます。(このお船遊び、づっと簡略化された形でしょうが、今も8月の終りの夏祭りで再現されています)
平安時代の歌人藤原家隆が京の都より、お船遊びの様を想い浮かべ詠んだ歌が、拝殿横の石碑に刻まれています。

「土佐の海に御船浮べて遊ぶらし、都の空は雪解のどけき」


鳴無神社の鳥居


鳴無神社拝殿


鳴無神社本殿


鳴無神社本殿


鳴無神社本殿

真念「道指南」には、この鳴無神社についても記されています。
しかし、花山神社の項と同様やや疑わしい記述。
一条天皇(第66天皇)がこの地に滞在し詠んだ歌が記されています。
幡多(現在の四万十市)と縁の深い一条関白家との混同があるのかもしれません。

さて、神社でお参りしていると、境内の掃除に来ているらしいおばあさんから、みかんとアメのお接待を戴きました。
「ワシも車で3回も廻わちゅうよ・・高野山にも行っちゅう。ああ、広島から・・うちの孫も広島におったことがあったがやか・・」
遍路道を外れた所で、こんな心の籠ったお接待を受けるとは・・。
合掌してご健康をお祈りさせていただきました。

ここから須崎まで、まだ13、4kはあるでしょう。今日は朝からもう17、8kは歩いています。腰が痛くなって変な格好でゆっくり歩いていたら、50前の遍路が追いついてきて「だいじょうぶですか・・」 その先の須崎のへんろ小屋で休みます。
もう一人遍路が休んでいます。
「おーどこかでお会いしましたね・・」昨日宿から先の道を歩いているとき、道端に座って挨拶を交わした人。
「今日で打ち止め、須崎で乾杯だよ・・。明日富山に帰る・・」
「あー、いいですねー。私も打ち止めだけど、すぐ電車に乗りますよ・・」
須崎の観音寺の前まで、50前遍路さんと同行。
それから駅への道を間違え、巨木の積み込み作業中の埠頭でオロオロ。
間に合うか、ちょっと焦ったけれど、須崎駅には14時15分着(発車13分前)。
連休の最終日で満員の電車に乗り込んだのでした。

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コメント
 
 
 
花山院から立目への道 (decchi)
2010-04-17 11:07:40
 いつも掬水へんろ館からのリンクから拝見して
おります。

さて、今回ご紹介された花山院から立目へ抜けてい
た旧道について、次回の機会に歩いてみたいと思っ
ているのですが、お書きになっている様子から伺う
と完全に廃道となっているように見受けられます。
ご覧になった状況では歩くのは困難であるとお考え
でしょうか。よろしければご教示ください。
 
 
 
花山院から立目への道について (decchi)
2010-04-17 11:21:34
 いつも掬水へんろ館からのリンクで拝読しており
ます。

 今回「春日から立目に通ずる山道の旧道」につい
てご紹介いただきましたが、ここはより次の機会に
歩いてみたいと思っておりました。

 記事上には草木に覆われているとお書きですが、
ご覧になった状況では歩くことは困難とご判断さ
れたのでしょうか。

 よろしければお分かりの範囲でこの道について
ご教示くださると幸いです。
 
 
 
自転車親父さん (枯雑草)
2010-04-17 16:49:33
こんにちは。
どうもすいませんねー。こっちのブログ
までお付き合いいただいて・・。
遍路する人って、やっぱりちょっと変り者
が多いのかもしれませんね。もちろん私を
含めてですが・・。
 
 
 
decchiさん (枯雑草)
2010-04-17 17:03:58
こんにちは。
山道のベテランdecchiさんに対し、弱足の私では
参考にならないと思いますが・・。
入口の感じでは、道自体はしっかりしている様子
ですが、草木の繁茂が相当という感じ。前日の
土居山から高祖への道の話も参考。それに、その日
は家に帰らないといけなかったこともあり、無理を
しなかったというのが本音です。正直、個人的には
あまり通行意欲が起らない感じの道でもありました。
 
 
 
ありがとうございました。 (decchi)
2010-04-18 08:32:03
 最初の投稿時に画面に表示されなかったため、再
度投稿したため重複してしまい失礼いたしました。

 地形図上には記載されておらず地元の方に伺って
も、すでに廃道となって久しいとのことなので少々
不安があります。5月にはいるとさらに草が成長し
鎌を持っていかないと難しいかもしれませんね。

 ご回答ありがとうございました。
 
 
 
ピンピンシニアさん (枯雑草)
2010-04-19 13:15:59
こんにちは。
鳴無神社、こんな美しい神社滅多にある
ものじゃありません。私は湾をぐるっと
回っても見たくなりました。
昼食は、たまに宿のサービスでおにぎりを
持たせてくれることもありますが、私は
普段から食が細いので、パンを買い置き
しておいたり、食べなかったりです。
まあ、88ケ所回りに限れば、7、8割
はコンビニや食堂がある感じです。
 
 
 
MIKOさん (枯雑草)
2010-04-25 17:52:21
こんにちは。
御無沙汰しております。
「カイラス・・」のブログ、時々見せて
いただいています。すごいですね。海外
のトレッキングまでこなされて・・。
MIKOさんは、やはり、こういった
スケールのでかい所を旅される方が向いてる
ように思います。ご活躍をお祈りします。
 
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