鏡花水月紀。

日々の言の葉、よしなしごと。

四万六千日。

2007-08-21 | 月と旧暦と。


こどもの頃、不思議に思っていた張り紙がありました。
それは墨書で黒々と「四万六千日」と書かれてあるもの。
いったい何が四万六千日なのだろう?と謎でした。

長じてそれは、7月9日の観音の功徳日(縁日)を知らせるためのもので、
この日にお参りすると四万六千日、
お参りしたことになるということを知りました。

金沢では旧暦の7月9日に東山の長谷山観音院で行われ、今日がその日。
仕事帰り、家とは逆方向のバスに乗り向かいました。

観音院は金沢の地名のおこりになった芋掘藤五郎ゆかりのお寺。
観音の信仰に厚い藤五郎夫妻が、
奈良の長谷観音の同木で行基菩薩に十一面観音を彫ってもらい、
同当を創建したとされています。
前田家の産土神(うぶすな)としても信仰されています。



バスを降り浅野川を渡って交番脇の露地の突き当たりを目指して、
ずんずん進んでいくと旧観音町。
観音院のある卯辰山からは、御詠歌が響き、
道端では焼きトウモロコシを焼くいい匂いがします。
すきっ腹に応えますが、ここは我慢、我慢。
さらに途中には生後3ヶ月ほどの可愛い盛りの子猫たちがたむろ。
遊びたい気持ちをぐっと押さえて、それも我慢、我慢っっ!

せっかく四万六千日に行ったなら、
「とうきび」を求めなくては意味がありません。
もう時計は6時をとうに過ぎているので、
まだ間に合うかしらと先を急ぎます。

目の前にようやく観音坂が見えてきました。
坂の中腹から眺める金沢の町並みは、
黒瓦が並んで美しいのです。
しばしここで休憩し、残りの階段を上りきり、
五色の幡がはためく本殿に到着。



本殿正面のテントではお目当ての「とうきび」が販売され、
お参りを後回しにして向かうと、くたびれた風情のとうきびが、
3本だけコロン、コロンと並んでいました。
「もうあとこれだけです~、どれにしますか?」とおじさん。
「えぇ、そうなんですか。良かった~、途中小走りしてきましたよ」と私。
この「とうきび」は、家の玄関に吊り下げ、魔を払います。
篭目や碁盤の目、麻の葉文と同様、
とうきびの細かな粒々が魔物の目くらましになるのではと思います。

念願のとうきびを買え、すっかり安心し、ようやく本殿へお参り(苦笑)。
西国三十三霊場のお砂踏みや護摩焚きをお願いしてきました。
ついで堂内におまつりしてある何体もの仏像をも拝むつもりでいたのですが、
伊万里の古い良い香炉に目がいったり、
仏像にいたっては「これは江戸だけど、作りがいい」「彫りが甘い」と値踏み。
職業病というには……、罪深きこと。

観音坂を下りる頃には、すっかり町は夕暮れに包まれて。
浅野川の川面には花街の明かりが揺れていました。

帰宅してさっそく、とうきびを下げました。
1年の無事を守ってもらいます。