6月25日、金沢湯涌江戸村にて「茅葺き技術継承にむけた公開講座」が、
金沢湯涌江戸村にて金沢市とNPO法人石川県茅葺き文化研究会との合同で行われました。
12時ごろ、理事長の坂本さんとこの日のパネラーのお一人上野弥智代さんと合流。
会場の野本家に入り、音響、プロジェクターなどの会場準備を補助しました。
この日は朝から激しい雨が続いていましたが、1時過ぎにはすっきりと晴れわたり、
野本家の背後に広がる棚田も雨上がりの陽光にきらめいていました。
おおよその準備を終えたころ、
金沢工大教授の中森勉さん、森林総合研究所の奥敬一さん、茅葺屋の塩澤実さんらも到着。
フォーラムでファシリテーターを務めてくださる中森さんを中心に打ち合わせの後、
会がスタートしました。
○茅葺屋 塩澤実さんの講座「茅葺き屋根のおもしろさ」
人類はススキやヨシ、小麦、笹、海草など身近な自然素材で屋根を葺いてきたこと。
屋根材である草木を通して人と自然は環をなして繋がっている。
秋の七草も茅場の植物であった。
茅場も人の手により整備され初めて屋根材として良いススキが育つ。
(淀川河川敷では刈ったあと火入れをする、笹刈りの笹場)
西欧諸国では茅葺き屋根の家は資産価値があり、銀行が融資もしてくれる。
縄文の住まいを道具の歴史もふまえて土葺きや笹葺きで再現した。
豊富な事例を写真で紹介いただきながらお話していただきました。
塩澤さんの実体験に基づくお話は、
アイヌ民族のユーカラにも似て何度でも聞いていたいと思え(CD化してくれないかな?)、
これからの先の暮らしを想うとき、
私なぞはなぜか心の奥底が暖かくなり希望というものを抱けるのです。
(たぶん聖子さんもそうだよねぇ)
○森林総合研究所関西支所・主任研究員 奥敬一さんの講座「「森林景観の魅力をまもる」
京都府宮津市上世屋地区で、台風被害で半壊した家の材料を調査した結果、
近隣の雑木林から採れた木を使っていた。
特に小屋組みなど普段人の目にふれないところは、
栗、松のほかにはコシアブラ、シデなど、実に多彩。
一帯は全国でも珍しい笹葺き屋根の家がある地帯。材料の笹を刈ることで、
薪炭林として活用してきた木々が育ち、その木を切ると笹が育ちと交互に森の生態が動く。
奥さんは民家に身近な木々を用いられていることを「民家は里山の雑木林」と表現されていました。
人が里山の木々を活用することで森の様相が動きいきいきした森林になり、
人が再び恩恵をうける。
里山と人の関わり方を家が教えてくれていました。
この日、パネラーとして参加依頼をしていた
立命館大学経済学部の丹後村おこし開発プロジェクトチームの方が欠席になったため、
塩澤さん、奥さんの双方からその活動をご紹介いただきました。
建築学部でもない経済学部の学生たちが、笹葺き屋根の文化に携わり里山の再興をめざしていく経緯。
これはとても興味深く、農山村の継承者不足に関して新たな図式を見る思い。
里山の暮らしの叡智もふくめた伝統を体験を通してまなび、
単なる技術継承にとどまらない方向性の活動にわくわく。
農業、漁業、里山里海、茅葺き民家。
石川の各地にあるそんな点がこのように繋がって、
奥行きのある面に育てばと想いました。
講座のあとのフォーラム 「茅葺き技術継承のために今どんな情報発信が必要か」では、
一般社団法人日本茅葺き文化協会理事の上野さんも参加。
3月11日におきた震災の復興計画のなか、
茨城で建築中の仮設住宅に断熱材として茅や籾殻が使われている報告がされました。
また全国の茅葺きに関する諸団体の取りまとめとして発足した同協会に、
「茅葺き職人になるにはどうしたらよいのか」という問い合わせも増えてきたと聞きました。
塩澤さんも「職人の数については実はあまり心配していない」とのこと。
確かに石川県では現役の職人さんは2~3人になっており芳しい状況ではありませんが、
昨年参加した茅葺きフォーラムには20代~30代の若い職人さんの姿も多く、全国的みると問題なさそう。
新聞記事にも後継者不足で他府県から職人さんに来てもらっていることを問題提起していましたが、
私個人として屋根葺きの技術があり、その土地の屋根文化を正しく理解して葺いていただける方であれば、他府県の職人さんでもなんら問題ないと思っています。
とはいえ、地元にそういう確かな仕事ができる人材が育つにこしたことはありません。
さて今回の受講者なのですが、とても残念なことに10名たらず。
私はてっきり先般5月に塩澤さんのWS「カヤマル」に参加した金沢工大の中森教室の学生も
参加するものだと思っていましたがあれ?いない。
立命館の方らと出会うことで、新しいムーヴメントが生まれることを期待もしていたのですが。
開催決定から告知までの時間の短さもさることながら茅葺き文化への関心が低く、
蓋を開けてみれば研究会スタッフの勉強会の様相。
せっかくの趣旨もぼやけてしまい、講演者の皆さまにも申し訳なく、
7月はもっと関係各所に働きかけしっかり募集をしないといけないのでは?と思いました。
次回7月30・31日は輪島市三井にて。
詳細はまた近々にご案内します。